FC2ブログ

目次一覧はこちら

小春十三の短篇_2_2

 当たりを引くも連勝ならず。結局の収支はカードの使用分を返すと、英世が六人になった程度。もっとも〇で無い限り再起は出来ると、彼女は明日の再戦を誓う。
 ただ、その前に栄子は初老の男性にお礼を兼ねて、缶コーヒーをわたすことにした。

「ありがとう」
「いえいえ、こちらこそ」

 男性は遠慮することなく缶を開けると、ごくりごくりと飲んでいく。彼女は自分で選んだものの、その苦さと熱さに少し飲んでやめる。

「出ませんね」
「なあに、焦らずいきますから」

 彼は運命の女神の寵愛を受け損ねたらしく、当たり目の一つ来ることなく、先ほどから一万円近く呑まれている。

「ついてませんね」
「ああ、ありがとう。いや、私も下手の横好きというか、あまり賭け事は強くなくてね」
「ぷ、あはは……」

 頭を描く仕草は妙に子供っぽく、そのギャップに栄子は噴出してしまう。

「笑わないで下さい」
「だって、おじさま、カワイインだもん」
「おじ様、可愛いですか……」

 年齢的に一回りどころか二回りしている相手に対し丁寧な語り口調の男性に、栄子は懐の窮乏も忘れて和んでしまう。
 同級生ともまだ見ぬ彼とも違う雰囲気に、少し妙な気持ちになれた。

「ありがとうございました。私はもう引き上げますけど、おじ様、この台だったら少しは出るかもしれませんよ?」

 栄子はまん丸の目を可愛らしくウインクさせると、そのまま席をあとにする。

 ……が、

 鞄からぽとりと何かがおちる。それは緑のカバーのされた手帳。表紙には彼女の通う女子高の校章が描かれている。
 男性はそれを拾い上げると、彼女の肩を少し強く掴んだ。

「待ちなさい……」

 少し怒ったような強い口調に、栄子は驚きを隠さない。

「おじ様?」
「学生の身分でこんなところに出入りしちゃいけないよ」

 先ほどまで和やかな雰囲気だった二人の空気が一変する。よく見ると、男性の腕には黄色い腕章がされており「地域健全」と書かれていた。
 彼は彼女の腕を掴むと、店員の前へと連れて行こうと引っ張る。

「おじ様……お願い、見逃して……」
「立場上、それもできないんだ」

 優しそうな外見にたいし、内面も真面目らしい男性は彼女を許すつもりがないらしい。
 もし学校、親に知られたら一大事と、栄子は必死になって打開策を考える。

 そして……。

「痛い……」

 思いついたのは仮病。
 栄子はおなかを押さえてうずくまる。

「どうかしたのかい?」
「今、生理なんです……、ちょっとトイレに行かせて……」
「そうか、それはしょうがない。この店のでいいかい?」
「はい……」

 男性にはわからない類の現象を利用し、彼女はひとまず時間を稼ぐ。

~~

 男女共用のトイレは意外と清潔で、きつい消臭剤の匂いだけが香っている。
 今日は「感謝出玉開放イベント」とあり、皆膀胱に無理を言わせているのか、一向に使われた形跡が無い。
 男性は扉の前で待つも、手持ち無沙汰でいるだけ。中の様子に聞き耳を立てるのも悪いと、外で待つと伝えたが、栄子に「待っていて」といわれたせいで、出るに出られない。

「あー、大丈夫かね?」
「はい、けど、ちょっと困ったことになりまして……」
「なんだい? 紙が無いのかい?」
「えっと、そうじゃなくって、おじ様じゃないと無理かな……」
「そうか、それは一体?」

 女性の生理に詳しくない男性は首をかしげるも、苦しそうな声に頷く。

「お願い、入ってきてください」
「おいおい、それは……」

 予想しない提案に男性は面食らうも、なにも排尿行為中というわけでもあるまいと、自分を落ち着かせる。

「はやく……」
「わかったよ……」

 男性はラクガキの目立つドアを開け、目を伏せたまま入る。

 しかし、正面には誰もいない。逃げられる場所などない。かといって隠れる場所は……ドアの後ろぐらい。

 ……バタン。

 背後でドアが閉まる音。
 騙されたと感じた男性が振り向くと、栄子が頬をぷっくりと膨らませて微笑みながら立っており、そして、いきなり胸に飛び込んできた。

続く

Trackback

Trackback URL
http://13koharu.blog73.fc2.com/tb.php/348-aa63c59f

Comment

Comment Form
公開設定

プロフィール

小春十三

Author:小春十三
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ

創作検索ぴあすねっとNAVI
dabundoumei
trt
オンライン小説/ネット小説検索・ランキング-HONなび  
リンク予定


二次元世界の調教師様のサイトです。



無料アクセス解析