FC2ブログ

目次一覧はこちら

小春十三の短篇_3_1

テストで出してっ!

 二月の頃に積もった雪も、春を迎える日差しに消えていく。
 石崎寛は通学途中、学生鞄を背負いながら英単語カードをめくっていた。
 彼の通う高校では連日学年末テストが予定されており、彼もまた眠気と闘いながら勉強に勤しんでいた。
 それというのもテストで赤点が多い場合、二週間程度ではあるが春休みがなくなり、最悪、留年の危機もある。
 もっとも、クラスでトップクラスをほこる寛には関係の無い話。彼の目指すのは学年でトップを取ることなのだから。

「おはよー、寛」

 校門をくぐったところで声をかけてきたのは、クラスメートの平井偲。

「ああ、おはよ、偲」

 肩口に届く髪を二つのお下げにしており、前髪はいつも三十分程度かけてカールさせているらしい。目鼻顔立ちがパッチリしており、遠目に見ても可愛らしい顔がわかる。

「今日のテストどうかな?」
「んー、やるしかないよね」
「ふうん、さすが天才君、いう事が違うよね」
「天才だなんて……」

 それはむしろ偲にこそふさわしい。彼女は常に彼の頭ひとつ抜き、学年の枠組みでは三つ抜くほどの好成績を納めるのだから。
 今度こそ彼女に勝ち、そして学年トップに躍り出ると躍起になる寛は、心の中で静かな闘志を燃やしていた。
 というのは表向きの理由。本当の理由は入学式の頃から秘めていた淡い恋心に起因する。

 一昨年のクリスマス、ふとしたきっかけで知った偲の理想。それは自分より頭のいい人。
 それが学業というだけの意味で無いと知りつつも、彼は明確に数字で判断できるテストにかけていた。

 ――もし学年一位になったら告白する。

 そんな妄想。

「どうしたの? 怖い顔して」
「ん? あ、いや、なんでもないよ」

 可愛らしいまん丸の目を大きく開いて下から覗き込まれると、今覚えたハズの英単語が耳の穴から湯気と一緒に出て行きそうで怖かった。

~~

 試験は今日で三日目。
 残すところ、順に英語、数学、現代文。
 前日の化学、物理、世界史では充分な手ごたえがあり、しかもトップスリーは「ヤマ外した」と軒並み不調を訴えている。
 今回はいける。そう感じていた。

「はい、席に着いて……いまから問題用紙を配るが、開始の合図まで開くなよ」

 担任と副担任がそろって教室に入ってくると、皆いっせいに静まり返る。
 寛はこの一瞬の緊張感が好きだった。

 配られた用紙を裏返しにして、静かに目を瞑る。頭の中の単語カードには今朝覚えた十五個の重要単語とその用法が繰り返される。そして、お下げのあの子も。

 ――いかんいかん、今は集中するんだ。

 寛は邪念を払おうと頭を振り乱し、静かに目を開ける。

「それでは開始してください」

 担任の低い声に、一斉に紙の翻る音がした。

~~

 学年末テストは一学年分の内容があるためか、重要なポイントさえ抑えておけば意外といける。
 たまに重箱の隅を突くような問題を出す教師もいるが、傾向と対策は休み明けの実力テストで分析済み。
 一年以上かけて偲への恋心を秘めてきた彼にとって、日々の勉強一つ一つが彼女へと続く道しるべになると信じ、怠ることをしなかった結果かもしれない。

 試験時間は残り十分程度。既に見直しを三回終えた彼は、手持ちの時間を使って次の数学に備える。
 公式とそれに関わる問題パターン。出題方法はいくらでもあるが、最後はギミックの付け替えに過ぎないと、クールに確認する。

 カラン……。

 つい調子に乗ってシャープペンを回していたら、それを落としてしまった。
 しんと静まり返った教室では、妙に甲高く響く。
 後ろからやってきた副担任がそれを拾い上げ、机においてくれる。

「すみません」

 寛は去り行く副担任に軽く会釈をして、前を向く……そのとき、ふと視線を感じた。

 それは自分の真横から。

 隣に座っているのは美咲まどか。茶色に染めた髪は特に纏めることもなく、ピンクの良くわからない飾りがある程度。爪も一センチ近く伸ばしており、ネイルアートとされる装飾がされており、授業中、休み時間関係無しに、こまねずみのようにせっせと磨いているのを知っている。

 そしてそのせいで本業の学問がおろそかになり、今度の試験の結果次第では留年するということも。

 ――まさかね。

 寛はふと思いついた疑念を自意識過剰と笑う。
 しかし、やはり感じる。
 問題用紙を彼女のほうへと近づけ、確認をするふりをして視界の端に彼女を映す。

 そして、一瞬だが視線を捉えた。

 ――間違いない。まどかの奴、カンニングしている。

 身体が一瞬だけ熱くなる。それは授業中に当てられて正解を答えるも、クラスメートの視線に晒されたときのように、自分が正当なはずも感じる羞恥に似ていた。

 ――どうしよう? 先生に言うべきか?

 まどかがカンニングをしている確証はまだ無い。そして、それを報告する義務も。
 だが、彼は憤りを覚えていた。彼が望む戦場を、彼女は卑劣な方法で犯したのだから。

「はい、そこまで……」

 担任の声に、寛は我に返る。後ろから集められる答案用紙に自分のを重ね、前に渡す。
 言うのなら今だろう。

 しかし、寛は何も言わなかった。

続く

Trackback

Trackback URL
http://13koharu.blog73.fc2.com/tb.php/356-1886bbb0

Comment

Comment Form
公開設定

プロフィール

小春十三

Author:小春十三
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ

創作検索ぴあすねっとNAVI
dabundoumei
trt
オンライン小説/ネット小説検索・ランキング-HONなび  
リンク予定


二次元世界の調教師様のサイトです。



無料アクセス解析