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小春十三の短篇_4_1

 平日の昼下がり、日野輪クリニックの待合室では、専業主婦の白石清美が一人ソファにかけていた。
 春色のシックなチュニックにカーディガンを纏い、カジュアルなショートパンツからは柔らかそうなふくらはぎが見える。なだらかな服装のせいで隠れているが、胸元は谷間が出来るほど大きい。
 纏められた髪は薄っすらと茶色に染めており、細く描かれた眉と平坦な瞳から、頼りになる大人の女性という印象を与える。

 彼女は最近胃の調子が悪いのか食欲不振になりがちで、今日はそれを心配して訪れたのだった。

「白石さん、白石清美さん」
「はーい」

 いつもなら中年おばさん看護士さんが受付をしているのに、今日は若い男の声で呼ばれた。
 整髪料で髪を固めているのかツンツンと尖った短髪は、あまり病院には似つかわしくない。けれど清美は受付をバイトなのだと気に留めなかった。
 ただ、診察室には院長である日野輪幹夫がおらず、代わりに神経質そうな三十台手前の男が白衣に身を包んでいた。

「どうぞ、おかけください」
「はい……」

 丸いすを勧められると妙に近い。触診も行うこともあるが、その時は幹夫の方が椅子を前に滑らせるのが常だ。そもそも総合病院というわけでもない町の診療所である日野輪クリニックに他の医者がいたとは、今日まで知らなかった。

「どういたしました?」
「あの、最近風邪が治りにくくて、それで……」

 本当は食欲不振で来院した。窓口でもそう伝えたのだが、妙な胸騒ぎがして、本当のことを言うのが憚られた。
 主治医というほど大げさではないが、いつも穏やかな顔で笑うおじいさん先生ではない彼を信用することが出来なかった。

「そうですか、それでは喉を見てみましょうか……」

 胸元のプレートには日野輪とあるが、息子だろうか? 娘がいると聞いていたが、その子は医療の道には進まなかったらしく、入り婿かもしれない。

「大きく口を開けて……」

 清美は素直に従い、大きく口を開ける。
 ペンライトで照らされると眩しくて、目が開けていられない。清美はたまらず目を瞑ると、医者は「荒れてますね」と言う。
 確かに咳き込むこともあるが、自覚症状は無い。

 ――まさか本当に病気?

 リンパ腺ガンという言葉が脳裏をよぎる。身近に感じることはこれまで無かったが、あの類は本人の知らないところで着々と進行するのが相場。
 男の手が唇に触れる。爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。

 ――変だわ。

 幹夫も年相応の加齢臭を隠そうとたまに香水をつけていたが、それも目立たぬ程度のはず。
 しかし、目の前のインテリは攻めるようにつけている。それに唇に触れるにしても、金属の板を使うものではないだろうか?
 いろいろと不審感を募らせるも、荒れているという診断の理由も知りたいと、清美は踏みとどまる。

「心音聞くんで、前、見せてください」
「はい……」

 彼女は春物の淡い黄色のラッフルチュニックを脱ぎ、レースのキャミソールの姿になる。普段ならよっぽどのことが無い限り聴診器のお世話になることもなく、以前健康診断を受けたときは、シャツの上から聴診器を当てられた。
 その時に「脱がなくて平気ですか?」と聞いたとき、「私が倒れてしまいます」と笑いながら答えられたのを覚えている。

「脱いでもらえませんか?」
「脱がないとだめですか?」
「ダメって、これは診察ですよ? 変に意識されると困りますが……」

 怪訝そうに見返されると彼女もそれを恥じ、これはあくまでも診察なのだと自分に言い聞かせ、キャミソールの肩紐をずらす。そして、谷間のできるほど大きな胸を納めた赤いブラを外そうとする。

「ああ、ブラジャーはいいです。横から当てますから」
「そうですか」

 一体何を怯えていたのだろう。彼はあくまでも医者であり、自分は患者。そう思うと、喉の奥にあった荒れが気になりだし、少しの不安などすぐに忘れた。

 聴診器の吸盤のような器具を左の乳房に当てられる。ひんやりとして、少し気持ちが良い。医者は目を瞑りながら頷くと、手を離す。

「後ろを向いてください」
「はい」

 清美はくるりと椅子を回し、背中を向けて前にのめりこむ。
 吸盤の冷たい刺激に併せ、温かい手の平が押し当てられる。それは撫で回すように背中よりやや下にまで赴くが、触診の一種だろうと解釈する。

「息を大きく吸ってください」
「すうー……」

 前のめりになりながらも、オヘソ周りに贅肉は無い。結婚してからも日々パートに出ているせいもあり、余計な肉がつく暇も無く、学生時代と同様、スレンダーなスタイルを保てるのが彼女の自慢。

「吐いてください……」
「はぁー……」

 おなかをぺっこりへこませながら息を吐く。
 背中がとんと叩かれる。すると、赤い布がふぁさりと落ちる。
 なんだろうと見ると、それはブラだった。
 肩紐がむずがゆくなるので背中に回る紐だけで留めるタイプのブラを愛用している彼女だが、なんの理由も無く外れたことなどいまだかつて無い。せいぜい満員電車でずり上げられるとかその程度だが……。

続く

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