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小春十三の短篇_5_1

竹刀でシナイ?

 しんと静まりかえる道場の中央で、江口美鈴は黙想をしていた。
 神棚を正面に見据え微動だにせず座する彼女は、川原剣道場の若き師範代。
 師の留守中は彼女が最高責任者である。

 平日は近くの主婦の運動不足解消のために簡単な指導を行い、午後から夜にかけては小中高の学生を相手に竹刀を振るう。
 たまに女子大の薙刀部の指導も行うなど、精力的に活動している。

 それができるのも、全ての彼女の存在のおかげだろう。
 光沢のある黒髪は見ようによっては、深緑の艶を出し、あまり外での稽古をしないせいか、肌の色も白く、なのに唇は血のように赤い。
 目は常に伏せ目勝ちだが、奥ゆかしさを際立たせ、笑うときなどもしっかり口元を隠すなど、古き時代の日本の女性像そのものを体言する。

 しかも、強い。

 高校の頃から彼女の活躍は目覚しく、竹刀を取っては県大会ベストフォー。
 薙刀を取れば全国大会で流麗な演舞を披露した。

 そのおかげか、男女問わず彼女を慕い、憧れて入門するものが多かった。

「ふぅ……」

 黙想はきっかり三分。呼吸を整え、心が落ち着くまでの最低限の時間。
 稽古、掃除が終わった後、彼女はいつも一人道場にこもり、その日の出来事を反芻するのが日課だ。

 今日も大変だった。
 師範がいないせいで指導に手が回らず、模擬戦では緊張と疲労のせいか手が滑り、危なく一本を取られる場面もあった。
 他にも師範がいないことをいいことに女子とふざけ合う男子がいたりと、まだまだ舐められているふしがある。

 もっとも、稽古の名の下に、彼らにはきついお灸をすえたのだが。

 ――まだまだ、未熟ね……。

 力でねじ伏せることでしか抑えることの出来ない自分の指導力不足を恥、彼女は唇の端をきゅっと噛む。
 若き天才美女剣士は、技術はともかく、心身の修養に励むべしと誓い、目をゆっくりと開いた。

 既に日は落ちている。
 今から一人暮らしのアパートに帰り、夕飯の支度をするのは億劫。ここ二、三日は気疲れがたまっているし、早く眠りたい。
 自分へのご褒美にしては少々ささやかながら、近所のスーパーでタイムセールの惣菜でも買って楽をしよう。
 そう決めた彼女は更衣室へと向かう。

 すると……、

「師範代、いますか?」

 道場にやってきたのは、先ほど灸をすえた高校生二人組み。
 名は斉藤健介と東山祐。どちらも腕はあるのだが、どこか真剣みが足りず師範も手を焼いていた。

「あら、貴方達、まだいたの?」
「ええ、さっきのこと……」
「ああ、ごめんなさいね。私、竹刀を持つと加減が効かないから」
「いえ、いんです。俺ら、ふざけてましたし」

 意外にも殊勝な様子の健介はぺこりと頭を下げ、続いて祐も「すいませんっした!」と頭を下げる。

 ――この子達にも通じてるんだ。私の理念……。

「そうなの。わかってくれたのならもういいわ。明日から、びしびしいくから、そのつもりでいてね」

 美鈴はいつもなら笑うことを控えているものの、今の彼等の真摯な態度に心打たれたのか、二人に歩み寄ると、表を上げさせる。

「師範代、お願いがあるんですけど……」
「何かしら?」
「もう少し稽古をつけてもらえませんか? なんつうか、今までの遅れをとりもどしたいんです!」

 時計は既に七時を回っている。
 いまから帰ったところで残っているのはどうせ肉の少ない八宝菜か餃子ぐらい。
 それなら彼らの指導をしたほうが良いかもしれない。鉄が熱くなっているのは今なのだから。

「わかったわ。でも、覚悟なさいね!」

 美鈴は道場の中央に戻ると、防具を付け直す。
 ただし、その背後では二匹の獣が声を出さずに笑っていたのだが……。

続く

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