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僕らの関係 試合

試合

 学園祭が終わった頃、恵からメールが来た。
『十一月の新人戦にお弁当を持ってきてほしい。それもパーティサイズ。予算は五千円から六千円まで』
 相変わらず無茶を言うと思いつつも、予算には心惹かれるものがある。
 使う調味料などを買い込むことが出来れば、普段の予算を結果的に安くすることができるし、母に必要経費として要求できる。
 幸太は財布と相談すると、二つ返事で了解する。
 業務用スーパーでトリの胸肉の塊を買い込む。他にパセリとレモンなどの香味野菜。
 サニーレタスにプチトマト、ジャガイモが安かったのでポテトサラダも良いかもしれない。他には卵を買えばゴマカシも利くだろう。出し巻き卵は得意料理だし、何よりボリュームがある。
 試合に持っていく差し入れなら、きっと女子が大半だろう。それなら甘いものを作ってあげるのも良い。季節柄、アップルパイならきっと喜んでくれるかもしれないと、酸味の強そうなリンゴとパイ生地をカゴに入れた。


 重箱サイズのお弁当箱三つ分で、包みを別に二つ。
 一段目はから揚げとパスタ。にんにくの代わりに生姜を利かせた和風ペペロンチーノに、甘辛ソースを絡ませたトリモモ肉のから揚げ。
 二段目はポテトサラダと水菜のシーザーサラダ。から揚げを作るついでにチーズを軽く揚げたものをまぶし、ゴマドレッシングにいりゴマを加えて風味を引き立たせる。
 三段目はクリごはんと山菜ごはん。これは炊き込みご飯の元を使った手抜きで、ボリュームを増やす為だ。
 その他に卵一パック使った出し巻き卵に、メインであるアップルパイ。シナモンが用意できなかった代わりに、カモミールの葉を刻んで混ぜてみた。
「うん、これで大丈夫だよね?」
 幸太は風呂敷につつむと、張り切って家を出た。


 試合会場は県の体育館で行われる。
 近隣の高校がこぞって参加しており、中には応援団が出張している学校もある。
 試合は七チームトーナメント制。新人戦としての位置づけらしく、試合には二年生や一年生が多いらしい。
 試合前に一度、恵に挨拶してこようとした幸太は包みを持って会場をうろちょろする。
 遠めに見知ったジャージ姿の集団を見つけ、駆け寄ろうとしたが、廊下一杯に響く顧問の気合の入った声に躊躇する。
 恵は何時に無く真剣な眼差しでコーチの話に耳を貸しており、あの美雪ですら表情が堅い。
 ――がんばってね、恵。
 今顔を出すのは選手達、特に美雪のテンションに影響を及ぼすかもしれないと、幸太は気付かれないように観客席へと戻る。


 試合開始直後、長身を生かした恵がジャンプボールを制すと、美雪が例の人ごみを縫うドリブルで相手チームのディフェンスを抜いていく。
 部員達の「ソッコー」の掛け声に違わぬ攻撃スタイルで、開始一分を待たずに先制点を挙げる。
 相手も負けていられないと、連携を活かして機動力を封じてくる。
 試合は一進一退を繰り返しつつ、相模原は二点リードされながら第四クオーター、終盤を迎える。
 ――あー、大丈夫かな……、あと五分も無いのに。
 フル出場している恵には疲れも見えるが、選手層の薄いベンチには彼女の代わりを勤められるものもいない。
 相模原のゼッケン五番が上がっていた恵にパスをする。しかし、相手校のセッターも即座に回りこみ、ゴール下では熱い接戦が繰り広げられるが、長身を活かした恵がボールを取り、そのままシュート……。しかし、無常にもリングに嫌われたボールはあさっての方向に転がりだし、甲高い笛の音がゲームを止める。
 試合終了かと思いきや、時計はまだ時間を刻んでいる。
 コートの中の会話は聞き取れないが、どうやら相手のファウルを取ったらしい。
 フリースローを与えられた恵は慎重にゴールを見据えて第一投……。リングに当たることなく、綺麗に決まる。
 続く第二投はまたもリングに弾かれる。
 一点差を守る相手校は必死に時間を潰しにかかるが、バイオレーションを意識してか、ギリギリまで粘れない。
 その隙をついた相模原の五番がボールを奪い、速攻をかける。
 そのままゴール下まで駆け抜けると、レイアップシュートに見せかけて、後方に控えていたノーマークの十番にパスをする。
 キャプテンは一瞬呼吸をするくらいの余裕を持って、綺麗な放物線を描く。
 一点差が一気に二点差に広がると、ムードもがらりと変わる。
 連携に長じていたハズの相手校は時間に焦り、全員が上がり過ぎてしまい、コートを狭く使ってしまう。
 刻一刻と時計は進み、終了を告げる主審の笛の後には、相模原ベンチの沸きあがる声が響いた。


 初戦を白星で納めた相模原も続く二戦目では遭えなくして敗退した。
 選手層の薄い相模原に対し、相手はシードで体力を温存しつつ、試合中もしっかり観戦し、対策を立てていた。
 基礎力が互角にも関わらず、手の内を読まれている相模原は苦戦を強いられ、しかも恵がファイブカウントを取られて退場になる始末。積極的に相手チームのプレイヤーをマークしていたのがあだになったのだろう。
 うなだれる相模原陣は顧問がいくつか訓示を述べると、コートに一礼をして体育館を後にする。
 幸太はぐうと鳴るおなかのチャイムを聞くと、お弁当を届けようと席を立った。


「わー、これ全部幸太君が作ったの? 私のために、ありがとうね」
「どういたしまして……」
 てっきり落ち込んでいると思われた美雪も、幸太の顔とその豪勢なお弁当を見ると、目を輝かせて歓喜の声を上げる。それは恵や他の部員も同じであり、食堂のテーブルに広げられたお弁当にゴクリとツバを飲む。
「へー、恵の彼氏って器用なんだな」
 一試合目で逆転勝ち越しのスリーポイントシュートを決めたキャプテンの橘薫子がふむふむと頷く。
「やだなあ部長、コウはあたしの彼氏じゃないですよ」
「そうだよ。幸太君は美雪のペットだもん。ねー」
 せめて彼氏といってもらいたい幸太だが、反論したところで誰も聞く耳を持たないだろうと飲み込む。
「違いますよ。先輩、コウの彼女は由香っていう子ですよ」
「由香? ああ、あの可愛くない子ね? もう、幸太君もあんな怖い子とさっさと別れちゃいないよ」
 別れるも何も付き合ってはいない。ただし両想いではあるハズだ。少なくとも自分は由香を求めているし、彼女もそれを受け入れる約束をしている。
 ただし、自分は裏切りに近い行為をしてしまった。
 焦らされたから、誘われたから……。
 言い訳はいくらでも思いつくが、どれも正当性が無く、ただ煩悩に流されただけでしかない。
「それより阿川先輩、おなかすいてるでしょ? 試合中も大活躍でしたし、どんどん食べてくださいね」
「やーん、幸太君やさしーいー!」
 一々リアクションの激しい彼女は里奈に通ずるものがある。それでも食べているときぐらいは静かだろうと、幸太は紙の皿を渡す。
 女子とはいえまだまだ育ち盛りで、しかも顧問の「ガッツり食え」の一言に皆黙々と食べる。
 一キロあった鳥のから揚げも、ジャガイモ六つ分のポテトサラダもどんどん無くなっていき、だしまき卵は幸太の分すらない。
 彼女達のあまりの食欲を見せつけられた幸太は、見ているだけでおなか一杯になってしまい、箸も進まない。
「幸太君……あーん」
 隣を見ると美雪がスプーン片手にクリごはんを差し向ける。
「僕はもう、いいですよ」
「だめー、幸太君にあーんしたいの」
 ダダをこねる彼女からは先ほどまでの覇気が見られない。
「じゃあ、遠慮なく……、あーん」
 もち米の比率も、味付けも悪くない。しいて言うなら既製品のクリを使わず、天然のものを甘く煮たほうが香りも邪魔をしないだろう。
 今後の課題を交えながら、ゆっくりと飲み込むが……。
「あーん、幸太君に私のクリちゃん食べられちゃった!」
 両頬に手を当てて直球でシモネタを放つ美雪に、幸太は咽てしまう。
「阿川先輩、何を言うんですか!」
「だってー、ほんとのことでしょ?」
「なんだよ、コウ。先輩のクリ食べたのか?」
 意味を知っている部員達はクスクスと笑ったり、半眼で睨んだりと、リアクションもさまざま。
「変なこといわないで下さいよ」
「あーあ、ちょっと残念だな」
 美雪はフォークでから揚げを突き、あんぐりと開いた口に頬張ると、「美味しい」と舌鼓を打つ。
「何がです?」
 もしかしたら何か味付けに物足りなさがあったのかもと、素直に聞き返してしまう。
「ん? それはねー」
 にっこりと微笑む美雪はまじまじと自分を見つめる幸太の鼻先を人差し指で小突くと、一言告げる。
「内緒!」
 幸太はまたからかわれたのだと、肩を落とした。


 お昼を終えたあとも、相模原女子バスケ部は試合を観戦しており、この後も学校に戻ってからミーティングと軽い練習を行う予定とのこと。
 幸太は先に帰ると告げたが、美雪はマネージャーになってとしつこく食い下がり、しまいには顧問も呆れていた。
 次の試合のときも差し入れを持ってくると約束することで開放されたが、リクエストも色々出た。
 もっとも、自分の作った料理を美味しいといってくれるのは単純に嬉しかったし、張り合いもある。
 幸太は帰りの足で本屋に向かうと、普段は手にすることのない、宴会料理の本を覗いてみた。


 盛り付け、下ごしらえ、隠し味……、新たな知識を得ると試したくなるのが人情であり、幸太もそれに漏れない。試しに肉料理でもと、早速料理酒とブタ肉を買い、他にもセロリやにんじんなど、コクのある野菜を選ぶ。
 気がつくと外は既に日も落ちて、真っ暗だった。夢中になるとこれだと思いながらも、意気揚々と家路につく。
 すると、家の前に誰かがいた。
 由香だろうか? それなら料理の味見をしてもらうのもいい。
 しかし人影は二つ。一人は背が高く、もう一人もそれなりに長身だ。
「お、コウ! 何処ほっつき歩いてたんだよ? ケータイ連絡しても出ないし!」
 恵の声にポケットに突っ込んでいただけの携帯を引っ張り出すと、着信三通とあり、いずれも「恵」とある。
「ゴメン、お肉選んでたらつい夢中になって、気付かなかったよ。それより、どうしたの?」
「いやさ、その……悪いんだけどさ……」
「幸太くーん!」
「わ、阿川先輩!」
 またも美雪の声に、幸太も今度は驚くことが出来なかった。

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