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02_前編

あけてはいけない

「お姉さん、生中二つ追加、お願いしますね。おい、陽介は何にする?」
「俺は今んとこパス。つか、お前も自重しろつの」
 駅前の居酒屋チェーン店で、俺はペン片手に悩んでいた。
 隣は皆盛り上っているというのに、俺と目の前の女子、五十嵐文恵、それと隣の部長の佐川新一も同じく眉間に皺。
 というのも、俺は自分の所属する旅行サークルの夏休みの予定をたてているから。
 そもそもこの飲み会だって最初こそミーティングのはずだったんだ。
 なぜこうなったかというと、待ち合わせ時刻になっても来ない奴がいて、電話をしたところパチンコで大勝しているらしく、少し待つように言われた。
 遅れること三十分。そいつはにやけたツラと福沢諭吉を数人引き連れて、「ミーティング場所、居酒屋にしない?」と笑顔で言ってきた。
 時間的には夕飯に少し早い程度だったが、普段まともなものを食べていない俺達はすぐに頷いた。

 サークルの伝統として、目的地は着く場所。
 青春十八切符と時刻表を頼りに一日でたどり着けるギリギリの駅。
 先達者は島根まで向ったそうだが、着いた駅が駅だっただけに鉄道旅行になってしまったとのこと。
 当然ながら、俺らはそうするつもりはなく、適当なところで妥協して観光をするつもり。
 いまどきそんな無意味なことに時間を費やす必要もなく、それに今年は女の子もいるし、体調云々をいい訳にしやすい。
 目的地を決めるとき、俺は出発予定の駅から八時間程度で向かえそうな範囲を予想し、地図にコンパスで円を描いた。
 そこの範囲で泊まれるところがあるところがあれば、そこで決定。

 と思ったら……、

「そこ、俺の田舎の家じゃん」

 パチンコ遅刻男、長峰隆が砂肝食べながら言い出した。
 よしよし、宿の手配も出来そうだし、おれも乾杯するとしよう……。

~~

 出発の日は雲が多く、今にも雨が降りそうだった。
 とはいえ、県をまたげば晴れマーク。天気は西から東に変わる以上、電車で雨は回避できそうだ。うん、問題ない。

「おーっす」

 今日はパチンコをしていないだけあってか、隆は遅れずにやってきた。
 他のメンツもぞろぞろ(といっても俺を含めて六人だが)と集まり、新一が来たところで改札に向った。



 ローカル線を乗り継いでゆく旅はとにかく時間との戦い。
 初めて見るボックスの席は新鮮だった。三人ずつに分かれて窓の景色を見たり、キオスクで買った冷凍みかん、ゆで卵を食べたりとすっかりピクニック気分。

「そういえば、長峰君の実家って大きいの?」

 須藤咲子がもっともな疑問を投げかけると、隆は「え? あ、俺?」と寝ぼけたようすで向き直る。

「田舎の家だし、部屋は無駄に多いんだ。つか、ほんとは叔父さんの家でさ、一年通して盆と正月以外はほとんどいないんだ。掃除すること理由に宿泊代タダにしてもらったんだ」

 いつもはぺらぺらと話す奴じゃないんだけど、こいつ、もしかして咲子のこと?
 ここは応援すべきか足を引っ張るべきか悩むところだ。
 はは、そんなんでいいさ。どうせ、時間はたっぷりあるし……。
 次の乗り換えまでの二時間半、俺は時刻表をアイマスク代わりにして窓辺にもたれかかった。



 目的地に着いたのは夕方。ある程度覚悟はしていたものの、スーパーが一軒あるだけの超がつくぐらいのド田舎。
 隆の奴はえらく陽気に咲子をエスコートしているけど、まあ、上手くやったみたいだな。
 さて、まずは今日の晩御飯の用意をだな……。



 バスはなく、代わりにレンタカーを借りて移動する。
 木々が鬱蒼としていき、日も暮れ始め、だんだんと寂しい雰囲気が漂いだす。

「なんか怖いね」
「そんなこと言うなよ」

 文恵がぶるっと肩を震わせて言うもんだから、俺まで背筋が寒くなる。

「はは、わかる? うん

 で
 る
 ん
 だ


 」

 助手席でナビを努めていた隆が、懐中電灯で顔をしたから照らすお決まりのことをしてきた。

 まったく……、
 しょうがないから驚いてやるよ……。

「うわあああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!」

 正直、かなりびびりなんだ。
 俺。



 隆の叔父さんの家は埃っぽく、どこかカビ臭かった。
 とりあえず男は掃除と布団の用意で、女は料理。
 あと、風呂を沸かすのは隆の役目だ。俺を驚かせた罰だから。

 夕飯はスーパーのオードブルと地元野菜のサラダ。叔父さんの畑にあったものを二つ三つ拝借して刻んだってだけだが、やっぱり新鮮、無農薬のそれは一味違った……ような気がした。

 んで、食べたあとは新一が用意していた花火をして夕涼み。
 やぶ蚊がぷ~んとやってくるが、そこは蚊取り線香が追い払ってくれるから問題ない。

 ……………

 ゆっくりとした時間。
 静かな夜。

 別にこういうのを求めていたわけじゃないが、これはこれでよしと思えてくるから不思議だ。

「陽介君、お風呂空いたわよ」

 湯上りの文恵はタオル片手にほんのり上気した頬。
 無地のシャツと緑の短パン姿は地味だけど、そこから惜しげもなく出される太腿は、俺の心を鷲掴みにしてくれた。

「ああ、サンキュ」

 俺はそれを知られるのがイヤでぶっきらぼうにそう答えると、汗と土ぼこりに汚れた身体を流そうと、風呂場へと向った。

~~

「そういえば、鍵かけた?」

 さあ寝ようとしたとき、咲子が髪を梳きながら言った。
 隣り合う六畳の部屋二つを隔てる襖を外し、十二畳の部屋に六つの布団。
 俺は枕投げをしていたが、そういえばと隆のほうを見る。
 すると、

「わっ!」
「隙ありだ、陽介」

 顔面に飛んでくる枕に一瞬視界がブラックアウト。

「おま、今の卑怯だろ」
「あはは、悪い悪い」

 隆は頭を掻きながら適当に笑うが、とりあえず後で覚えていろ。

「でも、鍵はいいの?」

 もっともな疑問に、皆の視線が集まる。

「んー、田舎ってあんまそういうのかけないんだよな。つか、今夏だし、玄関だけ閉めても意味ないから」

 冷房の無い部屋に男女六人。いくら夜とはいえ、季節は夏。
 充分に蒸し暑く、窓は目一杯開けている。

「それもそっか……。っていうか、よく考えてみれば、今の状況の方がアブナイかもね?」
「大丈夫、俺が守ってあげるから!」

 冗談めかして言う咲子に、隆は一人張り切って胸を叩く。

「まあ、頼もしい。でも、隆君が一番危ないかもね」
「なんですとぉ!」

 一同爆笑。俺も同じこと考えてたし、気味がいいや。

「でもさ、出るんでしょ? ここ」
「あ……」

 と思ったら、文恵の奴が過ぎたことを蒸し返す。チクショウ文恵、恨むぞ。

「ああ……、っていうか、出るんじゃなくて、あるんだけどな」

「「ある?」」

 多分、今回の旅で一番気持ちが重なった瞬間じゃないかな?

続く

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