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03_前編

 来週の盆、夫の田舎に帰る予定だ。
 夫は私に菓子折りを用意しておいてくれというので、今日は夏休みの息子の和義を連れ立って駅前のデパートに来た。
 和菓子屋でいくつか見繕うと昼食に良い時間だったので、そのまま上にあるレストラン街に出かけた。
 小学校高学年になる和義はお子様ランチを嫌がり、一丁前にマグロ丼を頼む。
 私も夫もどうしてか生ものが苦手でついついお刺身を敬遠するせいか、和義は外だと張り切って刺身を頼む。
 私は適当にハンバーグセットを頼み、一緒にとったコーヒーを飲んで時間をつぶす。

 ……あら?

 向かいの席に親子連れが座った。
 私と同じ主婦っぽい人で、子供も和義と同い年ぐらいの子。
 その子は私に気づいて会釈をするので、ついつい私も返してしまう。
「お母さん、何してるの?」
「え? あなんでも……」
 和義が訝るのも無理はない。普段から知らない人に声をかけちゃいけないといっている自分がどうして知らない子に会釈をしてよいのかと思ったけど、そこまで過剰に意識する必要なんてないわよ。相手は子供だし。
 私はようやく運ばれてきたハンバーグセットに手を合わせたときには、和義は既にマグロ丼を美味しそうに頬張っていた。

~~

 デパートを出ようとしたとき、轟音がしたと思う。それは悲鳴が混じっていた気がする。
 地面が揺れて立っていられなくなったのも覚えてる。
 ぱらぱらと小石がおちてきたあと、グシャラという嫌な音を立てて天井が落ちてくる。
 逃げなきゃって思ったけど、よく見ると足がひび割れた床にとられて動けなかった。



 そして、気づいたらベッドの上だった。
 白い天井とつんとくる消毒薬の匂いで、ここが病院だとわかる。
 私がベッドの上で身を捩ると、他の患者の容態を見ていた看護師さんが気付いて笑顔を向けてくれる。
「少々おまちくださいね。今先生に連絡します、――夏川さんが意識を取り戻しました」
 看護師さんはナースコールを鳴らしてそう告げると、「少し待っていてくださいね」と言い残し、走っていった。

 身体が痛い。
 おなか、いや、背中。そして、右足。
 記憶がない。いや、混乱している。
 なにか忘れているような気がする。
 どうやら事故に遭ったみたいなのはわかったけど、あとはなんだろう?
 私は駆けて来るナースを出迎えようと上半身を起こす。
「あいたたた……」
 身体の節々が痛むけれど、痛いのならまだいいほうだと思う。瓦礫が降ってきて、それでも四肢が無事で動けるのなら、痛みなんて生きてる実感でしかないもの。
「夏川さん、もう少し寝ていないと……」
「いえ、平気です……それより……そうだ、和義は?」
 ここでようやく息子のことを思い出した。
 そしたら急に背筋が寒くなった。
 事故の直前、わが子はいったいどこにいたのか?
 瓦礫の下? まさか!
「先生、和義は、和義はどこですか!」
「お、おちついてください夏川さん……」
 私は医者の胸倉に掴みかかり、必死に叫んだ。

~~

 私達は地震によるデパートの崩落に巻き込まれたらしい。
 今も懸命な救出活動が続いており、近隣の病院には今も負傷者が続々と運び込まれているらしい。

「正直なところ、かなり危険な状態です」

 集中治療室に横たわる二人の子供を前に、看護師さんが言いにくそうに教えてくれた。
 息子、和義は極度の出血と臓器の損傷で本当なら今すぐにでも手術を行わなければならないらしい。だが、他にも怪我人が居るらしく、術式が追いつかない。
 光の加減のせいで青白く見える和義に、私は声を上げて泣き出してしまう。

 そんなことってあるのかしら?
 和義はまだ小学生なのに、どうして?
 身体だって小さいし、そんなに血なんて必要ないでしょ?
 麻酔だってそんな……。
 おかしい。おかしいわ……、こんなこと……。

「手術を急いでくれないの? ねえ、どうして息子は、和義は……」
「急いではおりますが、先にも一人、危険な状態の子がおりまして、その次かと……」

 よく見ると和義の隣にはもう一人、男の子が寝かされていた。
 出口に近いことからおそらくはその子のことなのだろうと思う。
 どうしてウチの子じゃないんだろう。どうして和義は?

「そんな、ウチの子は間に合うの? 助かるの? ねぇ、どうなのよ!」
「それは……申し訳足ませんが……、無事を祈ってもらうしか……」

 看護師さんを責めたところでしょうがない話。
 けれど、まさか手術の順番待ちで死を迎えるなどと到底納得のいく話じゃない。

 ……?

 そう。
 そうなの。
 そうよ、しょうがないわ……。

「ごめんなさい……取り乱して……、悪いんだけど、今日は和義の傍にいさせてもらってもよいかしら?」
「ええ、まだ夏川さんの様子もみないといけませんし、検査入院をしてもらう予定でしたから」

 私はそのまま病院に入院させてもらうことにした……。

続く

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