FC2ブログ

目次一覧はこちら

03_後編

「先生、信也君の容態が……!」
「なんだって?」

 集中治療室のほうがあわただしくなった。

 でもそれは、しょうがないことなの……。
 んぅん。もし信也君が後から来てたら、こんなことにならなかったのよ。

~~

 緊急手術は成功した。
 若干血が足りないせいで和義は貧血気味みたいだけど、車椅子の上ではしゃぐ彼は十分に元気だ。

 私は執刀医に深く頭を下げ、もう一人の涙に暮れる人に頭を下げた。

 貴女の息子、信也君のおかげで和義は助かりました。

 ありがとうございます。
 このことは地獄の底までもって行きます。

 私は心の中で懺悔をすると、夫の向かえる車に和義を一緒に乗り込んだ。

~~

 あの事故から一ヶ月が経ち、和義は順調に回復していった。
 その祝いを込めて、和義と私はレストランで昼食をとっていた。
 息子はやっぱりマグロ丼で、私はやはりハンバーグ。
 どうしてこんなに食の好みが違うのか不思議に思うこともあるけれど、彼の笑顔をみているとそんな些細なことはどうでもよくなる。

 私は今を感謝していた。こうして無事に毎日を過ごせることに。
 いや、そもそも悪いのはあの事故だ。なんでも設計にミスがあったらしく、かなり手抜きな工事だったらしい。
 今もその裁判は続いていて、この前は家にも弁護士と事故調査員がやってきたんだ。
 私達はそれに巻き込まれた被害者。そう、信也君も犯人を恨めばいい。
 それに、どちらか一方しか助からない状況だったのだし、それならこうして和義が無事で生きていて、何が悪いというの?

「あの……」
「はい?」

 声に振り向くと、いつぞやの奥さんがいた。
 信也君のお母さん。
 絶対に忘れないだろう。

「少し、お話があるのですが、よろしいでしょうか?」
「はい……」
「ここだとちょっと困るので、席を移動してもよいですか?」
「はい? ああ、はいわかりました」
 彼女と話す義理などないけれど、ただなんとなく後ろ髪を引かれる感じがあり、私は和義を残して彼女の席へと移った。

~~

「実は、和義君のことで聞きたいことがあるんですけれど」
「はい、何か?」
「もしかして和義君、A型ですか?」
「はい」
「六月の十日から十七日ごろの生まれ」
「はい」
「病院は天神通り産婦人科」
「はい……」
「刺身が好き」
「ええ……、それが何か?」

 そんなことを聞いてどうするのだろう?
 私は訝しむけれど、病的な彼女を見ていると、下手に刺激してもよくないと我慢した。

「息子、信也のことなんですけどね、あの子、生ものがだめなんです。アレルギーっていうか、全然受け付けないんです」
「はぁ……」

 違和感。
 一つ。

「あの、もしかして足の裏に痣があったり……」
「それは、知りません」

 二つ。
 ある。赤ん坊の頃からずっとある。
 というかそんなこと、どうしてこの人が知っているの?

「……いえ、なんでもありません。どうか、忘れてください」

 彼女はそういうと、和義のほうへ行く。
 何か二、三こと話しているようだけれど、その様子はとにかく自然。
 先ほどまでの憑き物が落ちたように晴れやかな様子なのも妙な気がする。

 もしかして……?
 いや、まさか、そんなこと、あるはずないわ。

 もう帰ろうと思って立ち上がろうとしたとき、彼女の座っていた場所に一枚の写真が落ちていたのを見つける。

 おかっぱ頭のかわいらしい子が写っている。二重の瞼と控えめな鼻。
 見たことがあるなと思ったら、それは私の若い頃の写真だった。
 どうしてこんなところにあるのかしら?
 不思議に思って手に取りしげしげと見つめる。
 背景はいつも見ている住宅地。
 着ている服はファッションセンターのワゴンのもの……?

 おかしい、こんな新しいはずがない。私の子供の頃の写真なら、色あせているはずだ。

 っていうか、この子は男の子?

 さっきまで彼女が座っていた席にどうして?

 どうしてこの写真があるの?

「あ、すみません、それ、信也の写真なんですけど……よろしかったら差し上げます」

 私が必死にその写真を見ていると、涼しげな彼女の声が聞こえた。
 振り返ると彼女は微笑んでいた。
 それはけっして自分の子供を失った親がするようなものではない、自然な、満ち足りた微笑だった……。

取り違い 完

Trackback

Trackback URL
http://13koharu.blog73.fc2.com/tb.php/433-9f545969

Comment

Comment Form
公開設定

プロフィール

小春十三

Author:小春十三
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ

創作検索ぴあすねっとNAVI
dabundoumei
trt
オンライン小説/ネット小説検索・ランキング-HONなび  
リンク予定


二次元世界の調教師様のサイトです。



無料アクセス解析