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06_後編

「ガンダラ、ベッソニ、フンマン、ギリギリ、ソワカ」

 適当な文言と剣を十字にきり、依頼者の周りを回る。

「ソンバト、フンメイ、トンバル、シグルイ、オーム」

 それをきっかり三十分行い、陽光は依頼者にお神酒を吹きかける。

「えーい!」

 懐から数珠を取り出し、気合一閃。
 これで大抵の依頼者は気分が高揚するのだが、今回の依頼者はやや強敵らしく、まだ気だるそうな様子だった。

「ふむ。勝俊さん。最近墓参りには行きましたかな?」

 それならと、趣向を変えて切り出すことにする。
 大半の檀家もそうだが、お盆以外のときはそうそう墓参りなどしないから、この質問をすれば「いいえ」と答えてくれるのだ。

「いえ……」
「それはいかん。勝俊さん。今からでも先祖供養を行いなさい」
「それにはどうすれば」

 虚ろな様子で頷く勝俊に、陽光はしめたものと心の中でほくそ笑む。

「うむ。そのためにはですね、お供えモノを用意する必要があります。いいですか、今から言うものを集めるんです」
「はい、なんなりと」
「ふむ、それでは干したあわびとするめイカ、うどん。他に茎ワカメと、地酒に、あの世で使うためのお足です」
「は、はい……、それをお墓に供えればいいんですね?」
「いや、それらをここで直接先祖にお供えします。そうすればきっとご先祖様もあなたを守護してくれるでしょう」
「ははぁ……」

 勝俊は恭しく頭を下げるとさっそく地元に蜻蛉帰りし、六品目集めに奔走した。

~~

「いやぁ、今回も見事な手際ですね」

 勝俊の先祖供養を終えた陽光と金坂は笑いながら酒を酌み交わしていた。
 酒の肴は当然、勝俊の持ってきたお供え物。

「いやいや、金坂さんのおかげですよ」

 お足は六文銭を想像したらしく小銭でしかなかったが、先祖供養のお布施は通常より割高にした。
 普通の檀家なら渋る値段ではあったが、いわしの頭も信心からなのか勝俊はすんなり払ってくれて、そのまま晴れやかな顔で帰っていった。

「ふむ、この酒、いけますね」
「ええ。でもあの六品目はなんなんです? 本当にあるんですか?」
「いやいや、結納の七品目を適当に言ったまでです。麻糸は食えないんでうどんにしましたし」
「あっはっはっは、陽光さんも人が悪い」

 下品に笑う金坂は香ばしいするめに手を出す。

「金坂さん、新しい依頼なんですが……」

 酒盛りの席にADが電話片手にやってくる。

「おいおい、今日は店じまいだよ」
「いやいや、お客様を無碍にするわけにもいかんし、どれ、どんな用で?」
「はい、なんでも今から来てもらいたいとか」
「それは急だな」
「僕も断ろうとしたんですけど、お礼はしますからってきかないんです」
「ふむ、それなら話は別だ。陽光さん、今から参りましょう」
「そうですな」

 金の匂いがするのなら別と、三人はワゴンに乗り込んだ。

~~

 その患者は不思議なことに陽光達が来ると同時に平静になったという。
 それまでは髪を振り乱し、奇声を上げて暴れまわっていたというのだが、本人はそれを覚えていないらしくけろっとした様子だった。

「陽光様、今日は本当にありがとうございました」

 依頼主は深々と頭を下げ、約束通りの金一封を差し出してきた。
 謝礼としては少ないものの、御祓いをする前に解決したのではごねるわけにもいかない。
 それでも帰る前に「この家には何かを感じる。何かありましたら、すぐに相談ください」と営業も忘れなかった。

~~

「まったく、なんだったんでしょうね」

 その帰り道、宴会を中断された憂さを晴らそうと、金坂は酒の抜けていないにもかかわらず車を飛ばしていた。

「うむ。ただ、なんか気になるな。あの気配」

 一人神妙な面持ちな陽光は、腕組みをして何かを思い出そうとする。

「そうですか?」
「なんか最近似たようなことがあったような……」

 あの家に入る前に感じたのは、鼻の奥でツンとするナマグサさと一瞬の目眩。
 昔、テレビ番組に出演したときにも何度か感じたことがある。
 一度それを気の迷いと感じて見逃したが、結果は惨憺たるものでそのテープはお蔵入りらしい。

 ホンモノもいる。

 かなり低い確率だが、いる。

 最近は檀家とぬるい法要の打ち合わせしかしていなかったせいか忘れていたが、思えば勝俊からの依頼を受けたときも似たようなことがあった。

 ――もうろくしたな。

 そう思いつつ、つまみに持ってきていたスルメを一齧り。

「あ、俺にも下さいよ」

 金坂もミラー越しに気付いたのか手を出してくるので、足の一本を渡す……が、

「わぁ!」

 急にフロントガラスが真っ暗になる。
 驚いてハンドルをきる金坂だが、車は何かにぶつかった拍子に縦横逆さになり、そして気持ちの悪い浮遊感を感じたあと……。

~~

 身体に感覚がなく、それでも視界にはぐちゃぐちゃになった世界が映る。
 そして声。匂い。
 誰かの哂い声。
 鼻の奥にツンとくるナマグサさ。

 一体どうしてこうなったのか?

 薄れゆく意識の中で、口の中にかすかに感じる塩味に、妙に納得した……。

食い物の恨みほど怖いものはない 完

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