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07_後編

「というわけなんです」
「はい、わかりました」
 彼女は話を終えると黙り込んだ。
 圧迫性の被害妄想だろうか? かなり重症だろう。
 今日はクスリでも処方しておくとして、あまり酷い場合は入院をしてもらう必要があるかもしれない。
「そうですね、ちょっと珍しい症例なんで……、あ、いえ、けして治らないということはありません。安心してくださいね」
 私は暗くなる彼女の様子に慌ててフォローをいれる。
 心療内科は特に言葉を選ばないといけない。それこそ心理に起因する病状が多いのだから、治らないなどと言えば、そう思い込んで本当に治らなくなる。
 彼女はすがるように私を見ている。そうだ。ようやく私に心を開いてくれたみたいだし、彼女の期待にも応えたい。
「先生、外来です」
「え? あ、ああ、いや、今は患者さんがいるんだから後で……」
 池田君がやってきた。いつもなら診察の間は必要が無い限り入ってこないのだが、どうしたのだろう?
「……」
「……」
「池田君」
「はい」
「今診察中なのだが、出ていってくれないか?」
「はい」
 彼女はそういうとそのまま後ずさった……が、まだ居る。
「池田君。聞こえなかったのかい? 私は出ていってくれと頼んだはずだよ?」
「はい、申し訳ありません」
 無機質な声。憮然とした……、というか妙に硬い態度。いつもならもっと明るくて聞き分けの良い子なのに。
「それでは今日はお薬を出しておきますね」
 私は池田君を無視してカルテに向き直る。
「あの、先生……」
 私が診察内容を書きとめようとしたところ、彼女が話しかけてきた。ひとまず向き直るが、どうしたものだろう。妄想が大きくなっている彼女と下準備なしに会話をするのはあまり得策ではないし……、おかしい……。
「私、何かおかしいですか?」
「あ、いえ……」
 おかしい。というか、変だ。
 私は診療内科専門だが、この患者がおかしいのは一目でわかる。
 この人、採光が開きすぎている。
 大きく開かれた瞳孔の黒に私は写っていない。なにもかも吸い込むような漆黒は私を写さない。
「ひぃ……」
 どうしてか私は飛びのいてしまった。
 いや、理由はわかる。もう一つ視線を感じた。見下ろされるような視線だ。
 それはどこから?
 池田君だ。
 彼女、棚から何か下ろそうとしているが、荷物を見ようとしていない。というか、やはりあの目で私を見ている!
 いったいなんだというのだ?

 困惑を隠せない私だが、たかが視線。たまたまといえばそうなる。池田君もそういう底意地の悪いことをする面があるのだ。
 私は一呼吸つくため、というか今も向けられているだろう視線から逃れるために窓辺に立つ。
 ブラインドでさえぎられた視界。

「ひぃ!」

 通りを行く親子連れがこっちを見ているではないか! この際目がどんな光をもっていようが関係ない。見られるというこの異常な偶然に私はブラインドの角度を変えた。

 しかし、収まらない。というより先ほどより強くなっている。

 なぜだ?

 答えはすぐにわかった。
 通りに面して向かいにあるビル。そこから休憩中のサラリーマン、OLが見下ろしているではないか!

「先生? どうかなさいました?」

 池田君の声を背中に受けるが、振り返る気になれない。
 きっと死んだ魚の目で私を出迎えるのだから……。

感染 完

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