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08_前編

「荷物はここでいいんですか?」
「はい、あとは梱包を解くだけですし。お世話になりました」
 引越し業者の青年に支払いをして、伝票に印鑑を押す。青年は「それじゃどうも」と明るい挨拶を終えると、さっさとトラックに乗り込み、去っていった。
「さて、ここからが大変だ」
 積み重ねられた荷物を前にして、私はため息を漏らす。今日中に半分を終わらせておきたいが、この暑さでは仕事もはかどらないだろう。
 ほとんど詰め替えすらしていない収納ケースと布団と机にテーブル、他に調理具とポットにノートパソコンがあればいい。本やCDなどは基本買わない。
 うん、大丈夫! やってやるさ。

 八月半ばの急な転勤は、まさに寝耳に水であった。
 独身であったことが災いしてか、白羽の矢がとまり、その後抗う機会も与えられず、今日に至る。
 といっても、転勤はこれで三度目。根っこを下ろすことなく渡り歩く私はさしずめ根無し草といったところだろう。
 ただ、いつもと違うのは、会社が借家を用意してくれたこと。
 正確には取引先が紹介してくれたらしいのだが、なんとそこは一軒家。
 二階建てで部屋は八部屋あり、一人で住むにはやや広い。
 設備はというとこれまた豪勢で、システムキッチンにウォシュレット付トイレ、エアコン完備、デジタルテレビまである。
 唯一の不満があるとすれば、駅から遠いという点だけだろう。
 いや、広すぎるのも考えすぎかもしれないが、狭いよりはマシと納得する。
 うん、文句を言ったらバチがあたるわな。

~~

「え? 家賃って決まってないんですか?」
 最初、耳を疑った。
 一軒家を借りさせてもらっているわけで、それなりの家賃を覚悟していたのだが、専務の話によると、気持ちで良いそうだ。
 もっとも、いいにくそうな様子もあったので、おそらくいわく付の物件なのだろう。
 それならこちらもそれなりに構えるとしよう。
 とりあえず、普段使うのは一階の居間とキッチンぐらいだから、他に物置として使うとして、三部屋二十畳。
 月給から考えて十万程度でいいだろうか? まぁ、足りなかったら会社に負担してもらおう。ここを薦めたのは会社なんだし。

~~

 こっちに引っ越してきて三ヶ月たったある日、私は通帳の預金残高を見て首を捻っていた。
 実のところ、親戚の結婚や飲み会やらで出費が激しくて手持ちが厳しいのだ。
 ひとまず八万だけ振り込んでおこう。来月十二万振り込めばそれで問題もないだろうし。

~~

 取引先は何も言ってこなかった。
 だから私は今月も八万だけ振り込んだ。
 そもそも三部屋全て使っているわけではないし、最近は土曜日も出勤することがあるわで日中ほとんど居ない。
 そんなところに十万も使うのはもったいない。
 もし問題があるなら、そのうちお達しが来るだろうし、ここは一つ……。

~~

 職場の子と良い仲になれた。
 初めて会ったときから良いなと感じていた私は適度に彼女に話しかけ、昼食をとったりと撒き餌を駆使して最近ではオフに一緒に出かけることもできるようになった。
「なんかトイレせまくないですか?」
 そして今にいたるわけだ。
 彼女を家に誘い、手料理をいただいた。彼女は何か不思議がっていたが、そんなことよりも彼女と一緒に居られることが嬉しすぎて、それほど気にしなかった。

 狭いベッドで肌を重ねる。
 彼女の中は思った以上に狭かった。

~~

 結婚。
 彼女との交際を経てそれを強く意識した。
 あまり蓄えをしていなかった私は必死で節約を重ね、なおかつ彼女の前ではそれを見せないように振舞おうとしていた。
 食費、雑費を削るもたかがしれているし、彼女とのデートがあれば吹いて飛ぶ程度でしかない。
 どこを削ればよいのだろう?
 ……。
 なやんだ挙句、今月は五万しか振り込まなかった。

続く

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