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09_前編

 因幡城山は心霊スポットとして有名だ。
 そう高い山ではないのだが、蔦が多く背の低い木々を結いつけて光を遮るせいで、人が通る道ですら暗くなっている。
 ――まるでトンネルのよう。

 大沢重人はそう思った。
 今年大学生になった彼は、映画研究同好会に所属しており、今ここにいるのはオリエンテーリングの一種らしい。
 映画の研究といっても見るだけではなく、実際に撮影現場とされる場所に見学に行ってみたり、学園祭前に撮影も行うなど活動的なもの。
 今回の因幡城山に行くのも、最近ホラー映画のロケがあったらしく、それを聞いた部長が新入部員との交流を図って計画したのだ。

 お昼を過ぎる頃には蔦のトンネルを抜け、頂上に出られた。
 それほど高くないせいで達成感もなく、空気が美味しいというわけでもない。
 そんな部員を他所に部長の新栄友則がノートパソコンで例のシーンを再生させる。

 蔦で編まれた自然のトンネルを抜けて走る主人公とヒロイン。後からは得たいの知れない気配が迫り、その様子は背筋が凍る。
 今までに何度か見せられたものではあるものの、こうして改めて現場で見るのはやはり臨場感が違う。

「なんか、帰るの怖くなるね」

 同じく侵入部員の鹿島芽衣が呟く。

「そんなの作り物だろ。こんなの怖くて映研やってられるかっての」

 先輩の一人、高篠卓也は笑い飛ばすように言う。

「ふふ、けどな、実はこの映画にはある噂があってな、それは……」

 神妙な面持ちで語りだす友則は、どこか楽しそうだった……。

 噂というのは、ホラー映画につき物の「撮影中、事故があった」こと。
 しかもこの因幡城山での撮影中だったらしい。

 ただ、濡れ落ち葉や太い木の根っこなどで足元が不安定なとこなのだから当然ともいえ、迫力を出すためにソレらしく作りあげたとも考えられる。

 一つ気がかりなのは、それを決定づけるというか、すぐに消える噂から都市伝説レベルの域にあげたのは、劇中に見えた謎の白い存在。

 残念ながら動画ではカットされていたが、先行試写と初回のフィルムで上映された映画館では確かに映っていたらしい。
 さらに、そのフィルムで上映した映画館では不幸が続いたそうだ。

 心霊写真ならぬ心霊映画。

 そんな噂が、ウェブ上で真しやかに語られているのだ。

~~

「でだ、諸君。今年はここで映画を撮ろう思う」

 友則の提案に大半の部員は反対した。
 というのもほとんどの部員はホラーに興味がなく、洋画、それもラブロマンス。もしくはヒーローやサクセスストーリーの方が好みだから。

「いやいや、俺も別にホラーをとりたいわけじゃない。話題性を使いたいんだよ。あくまでもワンシーン。それだけ」

 脚本を出す前に先に撮影場所をきめるのはどうなのか?
 部員達は首を捻ってしまうが、根は良い友則のたまの我侭に異論を飲み込むことにする。

~~

 夏休みの中盤から終りにかけて撮影が開始された。
 予算も人員もない状況で出されたシナリオはラブストーリー。
 それがどうすれば心霊スポットでの撮影になるのかは不明だが、友則曰く「宣伝に例の映画が使えるから」と笑っていた。

 撮影は部費で購入したデジタルカメラで行う。
 一世代ふるいもので、重く大きく、長時間の撮影ではすぐにバッテリーも切れる困り者。さらに昼でも薄暗い山なので、照明に傘の裏側にアルミホイルをつける簡単な集光器を作るなど、素人臭さが満載だった。

「どう? いい画、撮れてる?」
「うわあ!」

 急に声をかけられたことで飛び跳ねる勢いの重人を芽衣がけらけらと笑う。

「脅かすなよ、俺、びびりなんだから……」
「ふーん、じゃあホラーにならなくて良かったね」
「いやなこと言うなよな……」

 同じ部に所属するせいで何かと話す機会が多かったせいか、最近はよく一緒にいる芽衣と重人。まだ恋人というには未満なものの、クリスマスまでが勝負だと重人は一人燃えていた。

「ね、ね、見せてよ。どんな風なの?」

 好奇心旺盛な芽衣が彼を押しのけてカメラを覗こうと身を乗り出す。

「おい、やめろよ、壊すなよ? 高いんだから」
「あ、それ先輩に言われたじゃん」

 そしてまたけらけら笑う彼女を、やはり可愛いと思う重人だった。

 ――!?

 一瞬、背筋が凍りつく。
 真顔に戻って辺りを見渡す重人。
 先輩達が小道具や段取りの確認をしている中、誰も自分を見るものはいない。
 では誰が?
 芽衣?
 違う。

 明らかに敵意をむき出しにしたもの。

「どうしたの? 重人君」
「いや、なんでもない……」

 ――気のせいだ。心霊スポットだから意識したせい。つか、芽衣がこんな近くにいるからそんで……、いわゆるジェットコースター効果ってやつだよな? うん。そう、街がいない。

 重人は気持ちを切り替えて午後の撮影に臨んだ……。

~~

 学園祭を控えた頃、ようやく撮影も終わる。
 そこで映画研究同好会では一度試写会をしてみることとなった。
 何度か撮影状況を確認していたが、通しで見るのはこれが初めて。上手く繋ぎ合わせられたかと、重人はやや緊張していた。

 その日、部室に集まったのは十人程度だったが、それが限界。締め切った部屋は蒸し暑く、素人の棒読み大根役者ぶりをみせられると気恥ずかしくなってしまう。

 正直なところ後悔し始めていた重人だが、隣で見ている芽衣は瞳を輝かせて口元を押えたり。
 彼女の感受性に感動しながら、とりあえずスクリーン兼壁を見つめることにする……、

 が、

「あっ!」

 友則の驚きの声、そして悲鳴。

 スクリーンにはいるはずの無い、あるはずの無い白い何かが映っていた。

「おい、マジかよ……」

 因幡城山の道中での撮影。
 スクリーンでは演劇部の子が蔦のトンネルを走り抜けるシーン。そこにぼんやりと映る白いそれは、最初長細いシルエットだったのが、徐々に陰影をもち始め、振り返ったところで消えた。

 光加減。

 そんな言葉が思い浮かぶが、撮影時は曇りで光量が安定していた。アルミの集光器のせいかもしれないが、数秒に渡ってスクリーンに映し出されるソレは明らかに異質。

「マジか……」
「これ、どうする?」
「だって、これさ、不幸が起こるって話じゃん……」

 部員達は囁きあい、最近起こった身のまわりの失敗などを「撮影のせいでは」と語りだす。

「どうすんだよ部長。これ上映するのか? 取り直すにも時間無いし」
「ごめん、こんなことになるなんて……」
「やっぱりあそこはホンモノなんだよ……、やばいよ。これ削除しないと……」

 せっかく撮影したものをお蔵入りする。
 徒労感に見舞われる部員一同は、誰と無くため息をつく。

「こんなの編集すれば大丈夫だって。ほんの数秒だろ? それに今から別の映画撮る時間なんて無いだろ? だから、な、な?」

 現状、それしかないと、皆卓也の意見に頷いた……。

~~

 映画は上映できれば成功したといえる。もともと大学の趣味のサークルレベルでしかないのだから。
 結局、例の宣伝文句は使わなかった。
 上映後もこれといって事故は起こらず、また誰も例の噂を口にすることは無かった。

 しかし、

 友則は責任を感じてなのか活動から遠ざかり、やがて大学を休学したらしく、見かけることもなくなった。

 彼を知る人は、例の心霊映画のせいと囁いていた。
 ただ、同じように撮影していたほかの部員には特に災いもないことから、うやむやのまま、忘れ去られた……。

続く

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