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15_前編

 俺、川上辰夫は困ってる。
 何を困ってるかというとだな、留年しそうなんだ。あ、ちなみに俺は大学三年の七年生な。今回落ちると来年八年生。つまり、自動的に退学なんだ。
 大学なんて単位取ればいいだけだろ? 最初は適当にやってたら、なんか就職氷河期が入ったとか皆いいだしてよ、だから、今は卒業しないほうがいいとかそういう噂信じてのらりくらり留年してたわけさ。そしたらかなりやべーことになっちまったんだよ。

 もともと授業とか出てないのもあって、試験も全然わかんなかったからほぼ白紙で提出したのよ。
 そしたら不可。んでもって再試無し。
 なんだよこれ、嫌がらせじゃね?
 こっちは留年決定どころか退学リーチだっつうの。
 そりゃ不真面目にやってたのは悪かったさ。けどさ、そんな、酷いって……。

 んでさ、俺も悪あがきしてやったのさ。
 毎日のように教授の部屋訪ねて泣き落としと賄賂の日々。
 そしたらアイツ、再試のチャンスくれたんだよ。
 けどよ、よく考えたら俺、全然講義出てないから勉強というかそういうの全然見当つかねーのさ。
 もちろん過去問を集めたりもしたぜ? そんで今の同学年のお友達に解いてもらったりもしたわけさ。
 けど無理。範囲が広すぎて対処できねー。
 もうどうすりゃいいのさ……。
 もう諦めて寝るか……?
 いやいや、起きてないと……zzz。

~~

 俺は気が付いたらおかしなところにいた。
 真っ暗だから夜なのはわかる。けれど、部屋じゃない。というか、黒いけど闇じゃないみたいだ。
「こんにちわ」
 そんなときにいきなり肩を叩かれたもんだから、俺は本気で飛び上がっちまった。
「うわっ! びっくりした。誰だよいきなり!」
 けど、振り返ったらまた驚かされた。
 だってそいつ、変にとがった耳と赤い唇。いわゆる魔女っぱなっていうの? ああいう鼻でさ、レンズの無いめがね越しに俺のことぎょろって見てるんだもの。
「はい、悪魔です」
「はぁ? 悪魔?」
「ええ、悪魔です……ってぷくく、あはは、あーっはっはっはぁ……」
 そいつは何が面白いのかいきなり大声で笑うと、そのままえびぞりになって倒れて……、
「お、おい……」
 俺が手を差し伸べようとしたとき、そいつはそのまま黒い空間に落ちていった。
「なんなの? これ……」
 小さくなる悪魔を見送る俺だけど、俺も落っこちないかすげー不安。
「さあ? なんでしょうね」
「え? 嘘!」
 振り返ると悪魔は俺の背後に居た。
「まあ深く考えてもしょうがないでしょ。それより、お困りですね?」
「いや、別に」
 コイツが悪魔なのかはわからない。けど、こんな不思議なことができる奴がまともなわけないし、ここは変な誘いに乗らないのが吉だって俺の勘が言うんだ。
「あらそう。それでは……」
 俺がそういうと、悪魔はくるりと踵を返してどっかへ行こうとしてしまう。
「ま、まてよ、うそうそ、俺困ってる! マジで困ってる」
 というか、こんなところにおいてかれたら困るっての。
「あらそう? なら正直になりましょうよね? ええ、人間正直が一番」
 悪魔はコホンと咳払いをすると、一本の万年筆を取り出す。
「なんだそれ?」
「万年筆です。まあ、ただの万年筆じゃないんですけどね?」
「へえ、どうただじゃないんだ?」
「五十円です」
「ふうん」
「あら、面白くない?」
「ああ」
「そうですか。やはり人間の笑いというのは奥深い」
「いや、それよりも、それがなんなんだよ」
「ええ、実はこれ、ただの万年筆じゃないんです」
「それはさっき聞いた」
「実はですね、どんな問題にも答えを書き込める優れものなのですよ」
「どんな問題にも答えを書き込める? なんだそれ? どういう意味だよ」
「はい、おばかそうな貴方に説明いたしましょう。たとえばテスト、試験なんかありますよね? 人間の世界には」
「ああ、っていうかそれで今困ってる」
「ええ、ええ、そうでしょう。馬鹿そうな顔してますもの。そんなとき、この万年筆を使うと答えがすらすらって書けちゃうんですよ」
「ホントかよ」
「ええ、ためしにしてみましょうか?」
「あ、ああ……、けどよ、何か条件とかあるんじゃねーの? たとえば魂を取るとかさ」
「いえいえ、あなたの魂なら要りません。まにあってます」
「じゃあ不幸になるとか?」
「いえいえ、手出ししなくともあなたは勝手に不幸になります」
「言いたい放題だな」
「ええ」
「くそ……。それじゃあ、試してみるよ。なんか問題ないのか?」
「はいはい、それじゃあこれなんかどうですか?」
 悪魔は指をパチンと弾くと、どこからともなく紙切れを取り出す。俺はそれを受け取り、さっそく解いてみることにした。

 問い
 ある村に幼い兄弟が住んでいました。何故でしょう?

「おい、ふざけんな、答えなんてないじゃないか!」
「答えなら私が今から作ります。というか、答えの定まらない抽象的な問題でも、出題者の意図を予想して答えることができるのが、その万年筆のすごいところなんですよ。なのでとりあえず答えを書いてください」
「ああ、それじゃ……」
 俺は適当に万年筆を走らせると、そこには「知りません」と書かれていた。
「書いたぜ」
「では答えを申しましょう。知りません。というか、理由なんてあるんですかね? どうです? あたっているでしょ?」
「あ、ああ、けどよう、こんなのいんちきかどうか確かめようがないじゃないか」
 いまいち納得できない。というか、また馬鹿にされているのか?
「そうですねえ……困りましたねえ……、じゃあ今回の話は無かったということで……」
「ちょ、ま……。いやいや、まあそうあせるなよ」
 俺は悪魔から万年筆を庇うようにして制す。さすがにこの実験で信じるのは無理があるが、だめもとで試してみるぐらいはいんじゃねーの?
「なあ、もう一度聞くぞ。これを使っても魂を奪うとかそういうことは無いんだな?」
「ええ。要りません」
「どんな問題でも答えられるんだな?」
「ええ、白黒が出るものはもちろん、抽象的なものも問題なしです。なんちゃって……」
「なにか裏があるのか?」
「そうですね、壊れやすいことですかね?」
 ほらきた。どうせ俺が使おうとしたら壊れるとかそんなもんなんだろ? やっぱり聞いてよかった。
「どうすると壊れるんだ?」
「じゃあ、悪魔について知ろうとしたらなんてどうですか? さすがに私も弱点を知られたりすると困るんで」
 じゃあって今決めたのかよ。聞かなきゃよかったのか? いや、あとで言い忘れていたとか言われても困るしな……。
「ほう、他にはないのか?」
 なるほど、悪魔にも苦手なものはあるわけか。まあそれは不可能として……。
「それとそうですね、入り口と出口は常に違う扉を使ってください」
「なんだそれ?」
「悪魔のルールです。昔ファウストもこれを破ってどっかの教授に捕まりかけたとか……ぷ、くっくっくっく、あーっはっはっはっは!」
 またあの笑い声。そしてお決まりののけぞりと、黒への落下……。きっと振り向いたら居るんだろ?
 俺が振り返ると、悪魔の奴はつまらなそうに眉をしかめてやがった。この野郎、人のことおちょくりやがって、いい気味だぜ。
「あら、わかっちゃいました? まあいいや。どうぞ、お使いください。くれぐれもルールをお忘れなく? 必ず守ってくださいね」
 少し悔しそうな悪魔はまた指をパチンと鳴らすと、黒を闇に変えて消えていった……。

続く

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