「そんな横暴な!」
「いや、だって、私だって商売ですから」
「なんだよ、商売って、別に魂欲しいわけじゃないんだろ?」
「いやいや、魂は要りませんよ? けど、ものには分相応というのがありましてですね」
「何が分相応だよ、目を覚まさせるのと命じゃつりあわないだろ!」
「いやいやいや、ところがどっこい、貴方の場合はそのレベルなんですよ。というか、生きてるのが不思議なぐらい。うん、今こうして夢を見ていることだって奇跡みたいなものなんですよ?」
「そ、そうなの」
「ん~、多分」
「多分って……」
「いや、私も悪魔ですけど、そこまで調べてないんですよ。だって契約してないし」
「なら契約しよう」
「料金は教えないことになりますがよろしいっすか?」
「それじゃ意味がないだろ!」
「だって、そういうもんなんだもん」
「そんなぁ……」
「そんなぁって、私悪魔ですよ? そういうのは天使に頼んでくださいよ」
「じゃあ、どうしてここにいるんだよ」
「知りたいっすか?」
「いーや、どうせ記憶するとかそういうのと引き換えにするんだろ?」
「ああ、なるほど。その手があったか」
「なるほどって……」
「悪魔といえど全知全能ってわけじゃないんですよ。そんなちーとみたいなことできませんから」
「ちーと?」
「あ、いえいえ、こっちの話です」
「そうかい。なあ、僕はどうすりゃいいのさ?」
「それを教えるには、貴方がソレをしないことが契約料になりますね」
「あっそ。いいよ。教えてくれなくて……」
「そうですか。まあ、気長にやりましょう。そうだ、最近のことなんすけどね……」
~~
この男、確かに悪魔だ。
なんていうか、本や小説に出てくる悪魔のイメージとは違うんだけど、やっぱりこずるいというか、結果的に人を不幸にしているんだ。
財産、命、人、心、問わず、何かしら契約のもとに奪っているんだ。
そして毎回自己責任。
なんて卑怯な奴だろう。
しかも、隙をみては僕に契約を勧めてくる。
命と目覚めを引き換えってなんだよ! 僕は絶対に契約しないぞ。
こんな奴のいうとおりになってたまるか!
~~
白一色の部屋の中央にあるベッドには、一人の青年が横たわっている。
鼻や口、下半身にチューブが伸びており、横にある機械には脈拍や心電図の波が映っている。
「息子は、まだ目を覚まさないのですか?」
青年の手を握る老婆はやつれ、悲しみにくれていた。
事故の後、奇跡的に一命を取り留めたものの、今日までの二十年間、彼は目を覚ますことはなかった。
「はい。希望をもってとしかいえません」
「希望なんて……」
唇をかみ締める母親にいたたまれなくなった医師は一礼をするとそのまま病室を出る。
希望なんて無い。
寝そべったまま栄養チューブで食事を取り、排泄を行うだけの息子。
治療費は嵩み、いつしか両親の懐を圧迫するようになっていた。
いっそ治療を辞めてしまえれば。
なんどそう願ったことか。
しかし、どうしてかそれを行う気になれない。
やはり自分の子供だからだろうか?
それとも希望があるから?
こういうとき、決断ができない自分が呪わしい。
「はぁ……」
かわらない息子を見て、彼女はいつものようにため息をついた。
~~
「で、どうします? 契約」
「結構だ。僕は君に騙されないぞ!」
「そっすか? まあ、いっすけど……。そういえば、この前も……」
今日も僕は悪魔の誘いを断った。
うん、負けるものか、僕は絶対に誘惑になんか乗らないぞ!
優柔不断 完
「いや、だって、私だって商売ですから」
「なんだよ、商売って、別に魂欲しいわけじゃないんだろ?」
「いやいや、魂は要りませんよ? けど、ものには分相応というのがありましてですね」
「何が分相応だよ、目を覚まさせるのと命じゃつりあわないだろ!」
「いやいやいや、ところがどっこい、貴方の場合はそのレベルなんですよ。というか、生きてるのが不思議なぐらい。うん、今こうして夢を見ていることだって奇跡みたいなものなんですよ?」
「そ、そうなの」
「ん~、多分」
「多分って……」
「いや、私も悪魔ですけど、そこまで調べてないんですよ。だって契約してないし」
「なら契約しよう」
「料金は教えないことになりますがよろしいっすか?」
「それじゃ意味がないだろ!」
「だって、そういうもんなんだもん」
「そんなぁ……」
「そんなぁって、私悪魔ですよ? そういうのは天使に頼んでくださいよ」
「じゃあ、どうしてここにいるんだよ」
「知りたいっすか?」
「いーや、どうせ記憶するとかそういうのと引き換えにするんだろ?」
「ああ、なるほど。その手があったか」
「なるほどって……」
「悪魔といえど全知全能ってわけじゃないんですよ。そんなちーとみたいなことできませんから」
「ちーと?」
「あ、いえいえ、こっちの話です」
「そうかい。なあ、僕はどうすりゃいいのさ?」
「それを教えるには、貴方がソレをしないことが契約料になりますね」
「あっそ。いいよ。教えてくれなくて……」
「そうですか。まあ、気長にやりましょう。そうだ、最近のことなんすけどね……」
~~
この男、確かに悪魔だ。
なんていうか、本や小説に出てくる悪魔のイメージとは違うんだけど、やっぱりこずるいというか、結果的に人を不幸にしているんだ。
財産、命、人、心、問わず、何かしら契約のもとに奪っているんだ。
そして毎回自己責任。
なんて卑怯な奴だろう。
しかも、隙をみては僕に契約を勧めてくる。
命と目覚めを引き換えってなんだよ! 僕は絶対に契約しないぞ。
こんな奴のいうとおりになってたまるか!
~~
白一色の部屋の中央にあるベッドには、一人の青年が横たわっている。
鼻や口、下半身にチューブが伸びており、横にある機械には脈拍や心電図の波が映っている。
「息子は、まだ目を覚まさないのですか?」
青年の手を握る老婆はやつれ、悲しみにくれていた。
事故の後、奇跡的に一命を取り留めたものの、今日までの二十年間、彼は目を覚ますことはなかった。
「はい。希望をもってとしかいえません」
「希望なんて……」
唇をかみ締める母親にいたたまれなくなった医師は一礼をするとそのまま病室を出る。
希望なんて無い。
寝そべったまま栄養チューブで食事を取り、排泄を行うだけの息子。
治療費は嵩み、いつしか両親の懐を圧迫するようになっていた。
いっそ治療を辞めてしまえれば。
なんどそう願ったことか。
しかし、どうしてかそれを行う気になれない。
やはり自分の子供だからだろうか?
それとも希望があるから?
こういうとき、決断ができない自分が呪わしい。
「はぁ……」
かわらない息子を見て、彼女はいつものようにため息をついた。
~~
「で、どうします? 契約」
「結構だ。僕は君に騙されないぞ!」
「そっすか? まあ、いっすけど……。そういえば、この前も……」
今日も僕は悪魔の誘いを断った。
うん、負けるものか、僕は絶対に誘惑になんか乗らないぞ!
優柔不断 完