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19_後編

「そうおっしゃらず。なんでしたっけ? 交通ルールでしたっけ? やっぱりルールを守らないのはいけませんよね~」

「そんなこと悪魔が言うの? 悪魔って平気で人を騙したりするんでしょ?」
「いえいえいえいえいえいえいえいえいえ違います。誤解です。私達は嘘は言いません。というか、嘘をついてもむなしいだけです」
「あら、どうして?」
「だって私達、貴方と違って万能に近いんですよ? ペテンにかけることはあっても安直に嘘をついたりなどしません。第一つまらないじゃないですか」
 つまらないじゃないですかという言葉に、なぜか妙に説得力を感じた。そうだ。この男が悪魔なら、悪魔的な力でどうにでもしてくるだろう。それができるからこそ、私は今この悪魔の前にいるんだ。
「さて、話を元に戻しますよ? 私達は契約の生き物です。天使なんかとは違い、人を騙すような真似は一切いたしません。不幸になった人がいるのであれば、それはその人がよく契約内容を確認しないから起こった不幸でしょう」
「はぁ」
 そういえば昔読んだその手の話だと、欲を掻いて身の破滅を迎える話はたくさんあった。確かに騙すことはなくとも、陥れるのならそれは似たようなものではないのかしらとも思うけど。
「いいですか? 私達が困るのはルール違反。その点は貴方も一緒でしょう?」
「ええ、まぁ」
「でしたら! いやあよかった。貴女に力を授けましょう。ルールを他人に守らせる力。すごいでしょう? かっこいいでしょう?」
「そうなの? そんなの……」
 いや、違うかも? でも、悪魔の力なんて借りて大丈夫?
「まぁまぁまぁ、ひとまず話しを聞いてくださいな」
 妙に乗りの軽いけど、何かよからぬことをたくらんでないかしら?
「いいですか? その力には制限があります。明文化されていないルールを守らせることはできない。よし、もう一つおまけだ。日本の国の憲法、法律、市町村の条例の範囲内にとどめましょう。これでどう? この程度の力で本当に身に破滅が起こると思います?」
「そんなことは……ないかも?」
「で、もしこの力に不満がありましたら返してくれれば結構です」
「そう? 何か私から奪ったりとか?」
「いえいえ、押し付けまがいのことをしております故、そのようなことはいたしません。貸したものを返してもらうだけで、御代は一切要りません」
「でも、そんなの役に立つのかしら? 交通事故を直接なくせるような力のほうがずっと楽なのに」
「それは使い方次第でしょ? それにそうなると、オプション料金が掛かりますよ?」
「オプション? いいわ。結構。これだけで十分よ」
「そうでしょうそうでしょう。ぜひご利用ください……」
 悪魔は指をパチンと鳴らすと、その先っぽから炎を燻らせ、そしてふぅっと浮かびあがる。
「ちょっと貴方!」
「ああ、それから、ルールは貴方の声が届く範囲でしかないですからね?」
 悪魔はそれだけ言うと、そのまま消えてしまった。
 そして私の周りの黒が闇に変わり始め……。

~~

 目が覚めた。時計を見ると午前六時。夫もようやく起きだしたらしく、眠そうにあくびをしている。
「ふぁ~あ、おはよう」
「ええ、おはよ」
 私は今朝の夢など忘れてさっさと朝の準備に取り掛かった。
 そうだ、今日も交通安全指導があるんだから!

 スクランブルエッグとレタスとチーズの簡単な朝食なのに時間が足りない。さらに洗濯機回してゴミ捨てもしないといけないのに、どうしろっていうのよ。身体一つじゃ足りないわ。
 なのに夫と来たら新聞片手にのんきなもの。一面には男女共同参画社会の実現のために市も条例を定めたとかあるけど、ウチには関係ないわ。今も全然協力する気ないし。
「ちょっと貴方、ゴミ捨てぐらいしてくれないの? 朝ぐらい急がしいんだから」
 無駄とわかっても頼んでしまう。夫が家事に協力してくれるのなんて、所詮テレビや雑誌の向こう側だけなのに。
「……あぁ、わかった」
「ほんとう? ありがと」
 一瞬耳を疑った。新婚生活からがんとして家事に協力しようとしなかった彼が、文句の一つを言い返すことなくゴミをまとめだすんだもの。
 どうして? んーん、そんなことより今は朝のラストスパートをかけることのほうが大事。
「ほら英輔、学校遅れるわよ!」

~~

 英輔を待っていたら交通指導に遅刻してしまう。もしそんなことになったらどうなるの? ねちねちと嫌味を言われた挙句、村八分にされかねない。
 車通りの少ない横断歩道なんかよりも、更年期を過ぎたおばさん達のほうが怖いわ。

「みんな信号をよく見てね。青になったら手を上げて渡るのよ」
 横断旗をふるって通学途中の小学生に声をかける。すると不思議なことに皆、左右の確認、信号を見て、しっかりと手を掲げて渡っていく。
 昨日までは弾丸のように駆け抜けていくだけだった腕白坊主が、今日はしっかり交通ルールを守っている。
 もしかしてあの夢は本当なの?  そうよ、だって今朝だって夫は……。
 うん、これはすごい力だわ。これさえあれば……、何かできるのかしら?
 たとえば政治家の汚職とかを暴いたり? でも、私がそんな人と会うことなんてあるの? だって私の声が届かない人には効果がないんでしょ? 一長一短っていうか、融通がきかないわ。やっぱり悪魔のやることだもの、そんなものかしら……。
「あ、危ない!」
「え?」
 私が物思いに耽っていると、突然甲高いブレーキ音が響いた。
 横断歩道の真ん中では、しりもちをつく英輔と、横転しかけているバイクが向き合っていた。
「馬鹿やろう、どこ見てんだ!」
 バイクを運転していた男性の怒鳴り声にはっとした私は、赤信号にも関わらず息子のところへと駆け寄り、抱き起こす。
「英輔! 怪我はない?」
 見たところ外傷はない。バイクのほうも特にぶつかった形跡がない。
「うん、大丈夫」
 放心している英輔は目をしばたかせていたけど、怖くなったのかぐずつき始める。
「もう本当に……、ちゃんと交通ルールを守りなさい! 赤は止まれ、青は進めでしょ?」
 次の瞬間、私と英輔は走り出したバイクに跳ねられた……。

青は進め 完

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