二十代で結婚し、一子もうけた。三十半ばで一軒家を建てられたわけだが、これも質素倹約に努めてきた妻の美佐子のおかげだろう。
……といいたいが、俺もかなりのものだ。
酒もタバコもしない。趣味もない。付き合いも職場の関係が悪くない程度に控えてきた。当然女遊びなんてしない。美佐子一人で十分だし、我慢してきた。それは美佐子も同じだろうけど。
とにかく、俺は金を貯めたんだ。だからこうして家を建てられる。
もちろん、ローンもあるからこれからも倹約生活は終わらない。
いや、実はそこだけじゃない。
土地も安くなっている昨今だが、妙に安かったんだ。
不動産会社に聞いたんだが、どうも曰く付きらしい。
いわゆる、不幸があったとかな。
その分安いわけだが気にしない。
というか、日本史を紐解けば、殺人現場なぞいくらでもある。
いったいどれだけ鎮めろという話だ。
~~
たまたま暇があったので、私は建築予定地を訪れた。
そしたら、例のテントがあったんだ。
神社にあるあのヒラヒラした紙が付いてる棒が四隅に差されていて、神棚のようなものがある。
こんなもので誰が鎮まるというのかはなはだ疑問だ。
まったく、美佐子の奴。アイツもしょうがないな。
こんな無駄なことをしても日程がずれ込むだけだろう。本当にしょうがない。
と思っていたら、そこは隣の土地らしい。
そういえば下見をしにいったとき、不動産屋に「ここからここまでです」と言われたっけ。なるほど、隣にも家が建つわけか。
ふ~ん。
無駄なことが好きだな。
~~
それからしばらくしてようやく完成したわけだ。
隣のはまだ内装の段階らしいが、まあ、他人のことだし気にしてもしょうがない。
ふふ、これで俺も一国一城の主か。
よし、これからもがんばらないとな……。
~~
一ヶ月遅れで隣の住居が完成したらしい。
今日帰ったら引越し蕎麦をもらったと美佐子が喜んでいた。
あまり近所づきあいはしたくないが、さすがに隣人との付き合いをおろそかにするわけにもいかないし、何か持って挨拶に行こうか……。
~~
意外だった。
かなり若い夫婦だったから。というか、俺とそう変わらない年齢だろう。
まあ、他人ごとだ。気にしてもしょうがない。
~~
さらに意外だった。
隣の夫婦の子供もウチの翔太と同い年らしい。しかも同じ学校か。
まあ、他人ごとだ。気にしてもしょうがない。
~~
最近は仕事が忙しく、あまり家でもゆっくりする暇が無い。
今朝も事務所から連絡がきた。お得意様のところで新人が粗相をしたらしい。
まったく……。
休日出勤をしようと家を出ると、隣の家の家族が楽しそうに団欒しているのが見えた。
ふむ。さすがにこれはうらやましいな。
~~
最近は順風満帆というわけじゃない。けれど、大きな失敗もない。
息子も第一志望の高校に合格したし、俺も昇進が決まった。
ただ、最近美佐子の様子がおかしい。
というか、彼女の悩み事が問題だ。
どうも隣の家がおかしいらしいということだ。
他人事だからと諭そうとしたが、悲しそうにしている彼女をほっとくわけにもいかず、俺は話を聞いてやった。
どうやらお隣の息子さん、入試に失敗したらしい。
しかも、だんながリストラされて奥さんもパートに出ているらしい。
ローンも残っているというのにお先が暗いお隣に、俺は表面上は「気の毒に」といいつつ、暗い喜びがあった。
他人の不幸というのはなんとも蜜の味だよ。
~~
最近、隣の家の様子がおかしい。
夜になるとののしりあう声と悲鳴のような声が聞こえてきて、たまにガラスの割れる音もした。
なんというか、地鎮祭なんぞよりもまず自分を鎮めろといいたい。
~~
今朝のことなんだが、隣のだんなさんと会った。
俺が軽く会釈すると、彼はにたーっと気味の悪い笑顔を向けて、酒瓶片手に引っ込んだ。
ふむ。ここまで不幸だと気持ちが悪いな。やはり少し見下せるぐらいが丁度いいのかもしれない。
いやいや、そんなことを考えるな俺。
続く
酒もタバコもしない。趣味もない。付き合いも職場の関係が悪くない程度に控えてきた。当然女遊びなんてしない。美佐子一人で十分だし、我慢してきた。それは美佐子も同じだろうけど。
とにかく、俺は金を貯めたんだ。だからこうして家を建てられる。
もちろん、ローンもあるからこれからも倹約生活は終わらない。
いや、実はそこだけじゃない。
土地も安くなっている昨今だが、妙に安かったんだ。
不動産会社に聞いたんだが、どうも曰く付きらしい。
いわゆる、不幸があったとかな。
その分安いわけだが気にしない。
というか、日本史を紐解けば、殺人現場なぞいくらでもある。
いったいどれだけ鎮めろという話だ。
~~
たまたま暇があったので、私は建築予定地を訪れた。
そしたら、例のテントがあったんだ。
神社にあるあのヒラヒラした紙が付いてる棒が四隅に差されていて、神棚のようなものがある。
こんなもので誰が鎮まるというのかはなはだ疑問だ。
まったく、美佐子の奴。アイツもしょうがないな。
こんな無駄なことをしても日程がずれ込むだけだろう。本当にしょうがない。
と思っていたら、そこは隣の土地らしい。
そういえば下見をしにいったとき、不動産屋に「ここからここまでです」と言われたっけ。なるほど、隣にも家が建つわけか。
ふ~ん。
無駄なことが好きだな。
~~
それからしばらくしてようやく完成したわけだ。
隣のはまだ内装の段階らしいが、まあ、他人のことだし気にしてもしょうがない。
ふふ、これで俺も一国一城の主か。
よし、これからもがんばらないとな……。
~~
一ヶ月遅れで隣の住居が完成したらしい。
今日帰ったら引越し蕎麦をもらったと美佐子が喜んでいた。
あまり近所づきあいはしたくないが、さすがに隣人との付き合いをおろそかにするわけにもいかないし、何か持って挨拶に行こうか……。
~~
意外だった。
かなり若い夫婦だったから。というか、俺とそう変わらない年齢だろう。
まあ、他人ごとだ。気にしてもしょうがない。
~~
さらに意外だった。
隣の夫婦の子供もウチの翔太と同い年らしい。しかも同じ学校か。
まあ、他人ごとだ。気にしてもしょうがない。
~~
最近は仕事が忙しく、あまり家でもゆっくりする暇が無い。
今朝も事務所から連絡がきた。お得意様のところで新人が粗相をしたらしい。
まったく……。
休日出勤をしようと家を出ると、隣の家の家族が楽しそうに団欒しているのが見えた。
ふむ。さすがにこれはうらやましいな。
~~
最近は順風満帆というわけじゃない。けれど、大きな失敗もない。
息子も第一志望の高校に合格したし、俺も昇進が決まった。
ただ、最近美佐子の様子がおかしい。
というか、彼女の悩み事が問題だ。
どうも隣の家がおかしいらしいということだ。
他人事だからと諭そうとしたが、悲しそうにしている彼女をほっとくわけにもいかず、俺は話を聞いてやった。
どうやらお隣の息子さん、入試に失敗したらしい。
しかも、だんながリストラされて奥さんもパートに出ているらしい。
ローンも残っているというのにお先が暗いお隣に、俺は表面上は「気の毒に」といいつつ、暗い喜びがあった。
他人の不幸というのはなんとも蜜の味だよ。
~~
最近、隣の家の様子がおかしい。
夜になるとののしりあう声と悲鳴のような声が聞こえてきて、たまにガラスの割れる音もした。
なんというか、地鎮祭なんぞよりもまず自分を鎮めろといいたい。
~~
今朝のことなんだが、隣のだんなさんと会った。
俺が軽く会釈すると、彼はにたーっと気味の悪い笑顔を向けて、酒瓶片手に引っ込んだ。
ふむ。ここまで不幸だと気持ちが悪いな。やはり少し見下せるぐらいが丁度いいのかもしれない。
いやいや、そんなことを考えるな俺。
続く