俺が声を掛けると、雄介はびくっと肩を震わせた。
畜生。こいつが余計なことをしやがったから……。
俺は雄介の肩を掴むと、そのまま教室を出て行った。
~~
校舎の裏に連れてきたところで突き飛ばす。
雄介は顔面から突っ伏すがしったこっちゃねえ。
俺が味わった恐怖に比べればこんなもんへでもないからな。
「おい、お前自殺しようとしたんだろ?」
「そんなこと……」
「んで、悪魔とかいうふざけた奴に頼んで俺らに復讐しようとしたんだろ?」
「僕は、してない……」
胸倉掴んで立たせてやる。
雄介はもう涙ぐんで、喘息みたいにえぐえぐいいだしやがる。
「嘘つけよ」
「してない……」
「なら……身体に聞くわ」
「ぐぅえ……げふ、げふ……」
とりあえず腹に一発お見舞いしてやった。
腹を押さえてうずくまる雄介はまるで尺取虫のように腰をかくかくさせている。
ふん、いい気味だ。
仕返しなんかしようとした罰だ。
「なあ、正直に話せよ? どうなんだ?」
髪を引っ張って顔を上げさせる。ようやく暴力の恐怖を思い出したのかコイツ、目がきょどりやがった。
「はっはっはぁ! さっさと吐けよ! おらぁ!」
もう夢のことなんてどうでもいい。俺はうずくまったそれを思い切り蹴っ飛ばしてやった。
そらそら、どうだ、ああ? いてえか? お前にはこれがお似合いなんだよ。
復讐なんて考えないで、真面目に俺のサンドバックになってればいんだ! あ、サッカーボールか? どっちでもいいか。
「ま、まって、言う。言うよ……本当のこと言う……だから、待って」
血反吐を吐きながら雄介がようやく口を割る。
もうどうでもいいが、まあいいか。とりあえず聞いてやるぐらいはしてやるか。
「あのね……、ぼく、悪魔を呼び出す方法を知ってるんだ」
「はぁ? 何いってんの? 殴られ過ぎておかしくなった?」
とりあえずもう一回蹴っ飛ばす。つま先で膝裏をえぐるようにな。
「ほんとだってば……。徳夫君、悪魔に酷い目に遭ったんでしょ?」
「そうだなぁ、じゃあその呼び出す方法っての教えろよ。つか、呼び出してみろっての!」
蹲る雄介の髪をもう一度掴み、無理やり起こす。
「うん、あのね、これを使うんだ……」
そういって雄介はポケットを弄り……、
「ぐぅふぅ……」
俺のわき腹に何か突き立てやがった……。
畜生、痛え、なんだ、これ。
「もうすぐ、多分、もうすぐだから……」
雄介は目を一杯に開いて、かつ瞬きせずに俺を見る。
奴の手元がぐりぐりされるたびに俺に新たな痛みがやってくる。
痛い、痛い、痛い、痛い、動け、逃げろ、止めろ、何してんだ、俺……。
俺は逃げようとしたんだ。
なのに、できない。
「ぼくね、死のうとしたんだ、手首切って。で、意識が朦朧としたときにさ、悪魔に会ったんだ。で言うんだよ、そんな方法じゃ死ねないって。死にたいなら殺してあげるよって。その代わりに一つ願いを叶えてくれるって。だから復讐を頼んだんだ。三人とも酷い目に遭ったでしょ? あれ全部ぼくのせいなんだ。痛かったでしょ? 悔しいでしょ? むかつかなかった? 最後のアレ、すごく笑ったよ。皆で死ぬの押し付けあってさ。ぼくのこと追い詰めたくせにさ。君達笑っちゃうよ。全然覚悟ないのね。あはははは……。でもさ、なんか徳夫君殺そうとしたときにさ、悪魔がぼくのところに戻ってきたんだ。どうしてだろうって聞いたら、なんかぼく助かりそうなんだって。だから取引は無しだっていうんだ。変だよね。殺してくれるって言ったの悪魔だろ? だからぼく、抗議したんだ。けど、不自然な死だと死神が困るからって言うんだ。おかしいよね。悪魔のくせに死神には頭上がらないみたいなの。あはははは……。でさ、それでね、悪魔、拷問を無理やり夢にしちゃったんだって。なんかさ、ネタが浮かばない漫画家みたいだよね。困ったら夢落ちとかさ。これじゃぼくが君達に酷い目に遭わされるって怒ったんだ。けど、悪魔は言うんだ。死ぬ気になれば何でもできるって。何それ。ぼくなんて死ぬ気になっても死ぬこともできないのに、何ができるっていうんだろうね?」
雄介のやろうは俺のたえだえの息も気にせずに饒舌に話してやがる。
クソ、なんだってんだ……、おい、悪魔の野郎、来いよ……、俺の願いも叶えろよ……、クソ、卑怯だぞ……。どうして俺のところには……。
薄れ行く意識の中で、俺はふと思ったんだ。
もしかしたら、今、俺の代わりに死ぬのが明で、その代わりに死ぬのが聡で、その代わりに俺が死ぬんじゃないかって……。
叶えられていた願い 完
俺は雄介の肩を掴むと、そのまま教室を出て行った。
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校舎の裏に連れてきたところで突き飛ばす。
雄介は顔面から突っ伏すがしったこっちゃねえ。
俺が味わった恐怖に比べればこんなもんへでもないからな。
「おい、お前自殺しようとしたんだろ?」
「そんなこと……」
「んで、悪魔とかいうふざけた奴に頼んで俺らに復讐しようとしたんだろ?」
「僕は、してない……」
胸倉掴んで立たせてやる。
雄介はもう涙ぐんで、喘息みたいにえぐえぐいいだしやがる。
「嘘つけよ」
「してない……」
「なら……身体に聞くわ」
「ぐぅえ……げふ、げふ……」
とりあえず腹に一発お見舞いしてやった。
腹を押さえてうずくまる雄介はまるで尺取虫のように腰をかくかくさせている。
ふん、いい気味だ。
仕返しなんかしようとした罰だ。
「なあ、正直に話せよ? どうなんだ?」
髪を引っ張って顔を上げさせる。ようやく暴力の恐怖を思い出したのかコイツ、目がきょどりやがった。
「はっはっはぁ! さっさと吐けよ! おらぁ!」
もう夢のことなんてどうでもいい。俺はうずくまったそれを思い切り蹴っ飛ばしてやった。
そらそら、どうだ、ああ? いてえか? お前にはこれがお似合いなんだよ。
復讐なんて考えないで、真面目に俺のサンドバックになってればいんだ! あ、サッカーボールか? どっちでもいいか。
「ま、まって、言う。言うよ……本当のこと言う……だから、待って」
血反吐を吐きながら雄介がようやく口を割る。
もうどうでもいいが、まあいいか。とりあえず聞いてやるぐらいはしてやるか。
「あのね……、ぼく、悪魔を呼び出す方法を知ってるんだ」
「はぁ? 何いってんの? 殴られ過ぎておかしくなった?」
とりあえずもう一回蹴っ飛ばす。つま先で膝裏をえぐるようにな。
「ほんとだってば……。徳夫君、悪魔に酷い目に遭ったんでしょ?」
「そうだなぁ、じゃあその呼び出す方法っての教えろよ。つか、呼び出してみろっての!」
蹲る雄介の髪をもう一度掴み、無理やり起こす。
「うん、あのね、これを使うんだ……」
そういって雄介はポケットを弄り……、
「ぐぅふぅ……」
俺のわき腹に何か突き立てやがった……。
畜生、痛え、なんだ、これ。
「もうすぐ、多分、もうすぐだから……」
雄介は目を一杯に開いて、かつ瞬きせずに俺を見る。
奴の手元がぐりぐりされるたびに俺に新たな痛みがやってくる。
痛い、痛い、痛い、痛い、動け、逃げろ、止めろ、何してんだ、俺……。
俺は逃げようとしたんだ。
なのに、できない。
「ぼくね、死のうとしたんだ、手首切って。で、意識が朦朧としたときにさ、悪魔に会ったんだ。で言うんだよ、そんな方法じゃ死ねないって。死にたいなら殺してあげるよって。その代わりに一つ願いを叶えてくれるって。だから復讐を頼んだんだ。三人とも酷い目に遭ったでしょ? あれ全部ぼくのせいなんだ。痛かったでしょ? 悔しいでしょ? むかつかなかった? 最後のアレ、すごく笑ったよ。皆で死ぬの押し付けあってさ。ぼくのこと追い詰めたくせにさ。君達笑っちゃうよ。全然覚悟ないのね。あはははは……。でもさ、なんか徳夫君殺そうとしたときにさ、悪魔がぼくのところに戻ってきたんだ。どうしてだろうって聞いたら、なんかぼく助かりそうなんだって。だから取引は無しだっていうんだ。変だよね。殺してくれるって言ったの悪魔だろ? だからぼく、抗議したんだ。けど、不自然な死だと死神が困るからって言うんだ。おかしいよね。悪魔のくせに死神には頭上がらないみたいなの。あはははは……。でさ、それでね、悪魔、拷問を無理やり夢にしちゃったんだって。なんかさ、ネタが浮かばない漫画家みたいだよね。困ったら夢落ちとかさ。これじゃぼくが君達に酷い目に遭わされるって怒ったんだ。けど、悪魔は言うんだ。死ぬ気になれば何でもできるって。何それ。ぼくなんて死ぬ気になっても死ぬこともできないのに、何ができるっていうんだろうね?」
雄介のやろうは俺のたえだえの息も気にせずに饒舌に話してやがる。
クソ、なんだってんだ……、おい、悪魔の野郎、来いよ……、俺の願いも叶えろよ……、クソ、卑怯だぞ……。どうして俺のところには……。
薄れ行く意識の中で、俺はふと思ったんだ。
もしかしたら、今、俺の代わりに死ぬのが明で、その代わりに死ぬのが聡で、その代わりに俺が死ぬんじゃないかって……。
叶えられていた願い 完