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03

「ん~腹立つ! 腹立つ腹立つ腹立つ!! なんなのあいつら! まじでむかつく。つか、あんたらなんてベンチじゃん! ふざけんなっつうの!」
「そう怒るなよ柚子。先輩たちだって悔しんだしさ」
 昨日はぼろぼろ涙していた彼だが、もう普段の落ち着きを取り戻したらしく、部活に対しての殊勝な態度を示す。

「だめだよ博之先輩。いい? いくら体育会系だからって先輩の言うことは絶対じゃないの! 時には言い返すことも必要よ! じゃないと身体壊すってば」
「壊すか……、そうしたら柚子が看病してくれる?」
「バカ言わないの」
「はは、ごめんな。んでも、柚子に格好悪いところ見せたくないからさ……」
「バカ……」

 夕暮れ時、まだ日も残るものの、彼の身体がそれを隠し、汗臭いジャージにも関わらず、唇は……。

~~

 その日はいつも以上に暑かった。
 菅野は今日も大学・企業巡り。OBの康平が代わりに指導をしていたが、さすがの暑さに顔をしかめていた。

「おーい梶原!」
「はい!」

 ノックをしていた康平は現キャプテンを呼び、何かを耳打ちしてバットを置く。

「全員集合!」

 現キャプテンの掛け声にみな全速力で集合し、一列に並ぶ。

「俺たちは春の選抜目指しているが、この真夏日だ。身体壊したらもとも子もないから、今日はグラウンドでの練習を中止にする。いいな? グラウンドでの練習を中止にするだけで、さぼるんじゃないぞ」
「はい」

 球児たちはグラウンド清掃を始め、終わったものから礼をして部室に戻る。
 康平と幹夫は木陰で涼みながら運営について話している。いわゆる引継ぎというものだろう。

 その隣で素振りを行う博之。汗を迸らせ、豪快な音を立てて空を切る。
 これならどんな玉でもアルプススタンド越え間違いないというほどだ。

 ――あーもう、なんでこう練習バカなんだろ。そりゃ気持ちはわかるけど、んでも、あたしのことも忘れないでよ。

 クーラーボックスを片付けながら柚子はぶつくさとつぶやく。

「おい博之、今日はもうあがれよ」

 さすがに看過できないと康平が遠巻きに声を掛ける。

「いえ、もう少しがんばります」
「おいおい、昨日は俺も言いすぎたけど、アレはお前をたきつけるためであって、みんなそんなこと思っちゃ居ないって」
「自分は、先輩たちの、甲子園の、切符を、捨てたから、だから、もっと、もっと」
「先輩、博之はこうなったら止められませんよ」
「まったく……、だけど練習で身体壊すなよ? 頼むぜ」

 聞く耳をもたれないのではと康平もさじを投げ、一人グラウンドを後にする。
 ただ、それに感化された幹夫も、彼の隣で素振りを始めていた。
 つまり、気持ちはみな一緒……ということだ。

~~

 木陰とはいえ、暑さから逃れることなどできない。
 三時を回ったころには二人ともばてており、地面に座り荒い息を吐いていた。

「もう、キャプテンも博之もがんばりすぎです」
「柚子、待っててくれたんだ」
「当たり前でしょ? 水分補給させないと脱水症状で倒れるってば」

 二人にぬるくなった麦茶を勧める柚子。

「ふぅ、生き返ったわ。サンキュ、マネージャー」

 そうは言うもののまだ幹夫の額には滝のような汗がひかる。

「もう午後は練習しませんよね?」

 活動日誌を胸に抱きながら二人をぎろりと睨むマネージャーに、幹夫も博之も苦笑い。

「よね!?」
「ああ、わかったよ。休むのも練習の内だし、それじゃ俺らこれで……」
「おっ? なんだよ俺らってさ。やっぱお前ら、付き合ってんの?」
「あ、いや、その……」
「まだですけど、そのうち? みたいに、ねっ?」

 ぽっと赤くなる柚子は彼の大きな背中をちょんと蹴飛ばす。

「まあいいさ。つか、俺も彼女ほしいわ」

 幹夫は冗談めかしに悔しがったあと、部室棟へと向かう。

 蝉の声。
 風に揺れる雑草たち。
 グラウンドにはもう二人だけ。
 たまに聞こえる車の音。
 遠くに見える白く大きな雲。

 しばらく座っていたい。
 背中を合わせていたい。
 恥ずかしくて顔をみせられないのだし。

続く

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