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僕らの関係 包み込む気持ち

包みこむ気持ち

「へくち」
 可愛らしいくしゃみはどこからだろう? まだ少し息の荒い幸太も由香も、愛をはぐくむ運動のせいか、まだ熱が残っている。
 二人は顔を見合わせたあと、扉のほうを見る。明かりを遮る影が二つ。
「りっちゃん、恵? いるの?」
「にゃはは、ばれた?」
「……馬鹿里奈、お前のせいだぞ」
 がちゃりとドアが開き、二人が入ってくる。室内の明かりはついていないが、それでもその表情は想像できた。
 由香は落ちていた毛布を掴み、前を隠す。けれど幸太はそれを押しのけ、彼女らにまっすぐ向き直る。
「どうだった? 由香は」
「うん。すごく気持ちよかった」
 野球の試合結果でも伝えるような彼に、由香は思わず耳を疑う。
「ユカリン、機嫌直った?」
「な、直るわけないでしょ! んもう、皆出て行けって言ったのに……」
「コウは中に入れといてか?」
「恵!」
 品の無い冗談を笑う余裕もある彼女はもう怒っていない。「ゴムをつけずにエッチした」という強引な言い訳にも騙されることにしたのだし。
「んもう、一体そういうつもりだったの?」
「いや、なに、そのな。由香が飛び出していったんで、さすがにあたしらも心配になってさ、んで、元凶であるコウを問い詰めたわけさ」
「ていうかユカリン、放課後、いつもエッチなことしてたんでしょ?」
「あ、それは……その」
「幸太君のらんちき振りは全て誰かさんの放課後のそれが始まりだったわけだ」
「そんな、でも……」
 きっかけはあくまでも幸太の手淫。しかし、彼の自慰の対象も自分。そして放課後に彼を射精したのも、その後に咥えてあげたのも、セックスを意識させたのも、全て自分であることを思い出す由香。
「すっかり女好きになったコウは里奈を手篭めにし、さらに先輩をくどき、しからばあたしまで押し倒してきた」
「恵、僕はそんな」
「里奈、初めてだから怖かったな。でも、コータ、「幸せにしてあげるから」って言うから、騙されちゃった」
「ほんと? 幸太ちゃん」
 嘘であるのは目を見なくともわかる。ただ、性的に奔放になった彼を懲らしめようと、由香は敢えてそれに乗る。
「な、そんなこと言ってない!」
「恵、オレの子を産んでくれ! とかな」
「もう、恵まで!」
「でも、私にも言ったよね、赤ちゃん作るってさ」
「うん。言った。だって由香ちゃんのこと、本当に好きだもん!」
 調子よく抱きついてくる彼は甘えたい盛りの幼児のように瞳を輝かせており、すっかり毒気を抜かれてしまう。
「うん。私も幸太ちゃんのこと、大好き……」
「里奈もー!」
 今度は里奈が飛びついてくる。
「ちょっと里奈まで……って、や、だ……め」
 可愛らしいと評価している彼女の顔が近づいてくると、例え同性でも欲しくなる。
「んちゅー」
 里奈の唇はとても柔らかく、濃厚なカカオの香りと甘さがあった。お菓子作りの天才である彼女だからだろうかと思いつつ、そう言えばデザートのアイスケーキはチョコレートだったはず。
「里奈、ケーキ食べたでしょ」
「えへへ、おいしそうだったから」
 にんまり笑う彼女を見ると、幸太がその誘惑に耐えられなかったのも頷ける。もっとも赦すかどうかといえば別なので、彼女は思い切り彼のお尻を抓る。
「い、痛いよ由香ちゃん!」
「あはは、罰だもん。浮気ばっかりする幸太ちゃんへの罰」
「そうだな。それと、皆に暴言を吐いた罰を与えないとな」
 恵は落ちていた布団を背負いながら彼女の脇に座り、そのまま四人を覆う。
「え? え?」
 両脇には恵と里奈、上には毛布と布団と幸太。
「由香は皆から愛されているっていう自覚が足りないみたいだし、この先はっきりさせておこうと思ってさ」
 四人で眠るには少々どころかかなり狭い。
「にひひ、ユカリンが悪いんだぞ」
「だ、だって、アレは酔った勢いだし」
「まあまあまあ、皆由香が好きなんだよ。だからさ、それいいじゃん」
 右腕に触る里奈の髪はこそばゆく、豊満な胸を押し付けてくる恵は柔らかい。そしてちょっとだけ逸れてくれた幸太は温かく、嬉しかった。
「……うん、そうかも」
 強引なピロートークに流され、由香は頷いてしまう。彼女はこの重く暑苦しい幸せを、今しばらく感じていようと思い、目を瞑った。

***―――***

「出来たよ! 今年はてんぷらにとろろに昆布に揚げ、なんでも選べる豪華バイキング年越しそば!」
 幸太が持ってきたのは素のそばだけだが、続く由香のお盆には色とりどりの具が分けられている。
 エビの好きな里奈は由香の目を盗んでひょいと尻尾を掴んで口に放り込む。
「あ、こいつ!」
「へへーんだ、のろまなケイチン、ここまでおいでー!」
 部屋の中を走り回る彼女は高校生というにはまだ幼く見えるが、それを追う恵もまたしかり。
「あ、こら二人とも! ちゃんと座ってから食べなよ」
「なんだよ、コウ。お前がとろとろしてるからいけないんだろ?」
 そういうと恵は彼の頭を軽く小突く。
「わ、ぶった。由香ちゃん、酷いよ恵ったらさ、僕悪いこと何もしてないのに」
 そんなに痛くないはずなのに、彼は目に涙を浮かべて由香に抱きつく。
「あはは、そうだね、ほら幸太ちゃん、いたいのいたいの飛んでけー」
 まるで小学生をあやすように言う由香に、幸太は恥ずかしがるどころか嬉しそうに微笑み、その仕草を真似する。
 由香をのぞく三人は少しだけ幼くなっていた。もちろん普段は普通の高校生だが、四人だけで集まると、途端にはしゃぎだす。
「ね、由香ちゃん、おソバ食べよ。僕ね、一生懸命作ったんだよ」
 手打ちそばを作るときはさすがに高校生の力を発揮した彼だが、仕事を終えたら甘えモード全開で彼女の傍を離れようとしない。
「あ、幸太ずるいぞ!」
「里奈も里奈もー」
 まるで保母さんにでもなった気分の由香は、傍でそばをちゅるちゅる啜る幼馴染達を優しく撫でる。
「さあさ、皆けんかしないでね」
 三人に包まれていた由香が夜中にワンワン泣き出し、赤ん坊のように恵や里奈に抱きつき、急に舌足らずな言葉で話し始めた。
 次の日の朝にはいつもの由香だったが、幸太とのセックスや幼児退行のことをすっかり忘れていたようだった。

 身体だけ歪に大人になった事実をリセットした。

 そんな様子だった。

 朝ごはんを食べ終えた後、恵も里奈も幸太まで泣き出し、由香は一人対応に追われたが、それも三人の愛に気付けなかった自分への罰なのだろうと、受け入れた。そして、代わりに自らの愛を注ぎ込み、関係の再構築を図っていたのだ。

 だが、それも時計が二十三時を迎えるころには終りだろう。
 遠くの空から響く鐘の音に、三人も少しずつ大人しくなり始める。
 恵は小刻みに震える携帯を取り出すと「瑠璃か……はは」と笑い、里奈も帰り支度を始める。
「それじゃさ、あたし待たせてる人いるし、帰るわ」
「えへへ、里奈もさ、今日だけは邪魔しないよ。でもね、ボンノーばっかりじゃダメだよ?」
 玄関先まで二人を見送り、去っていくその後姿が見えなくなるまで手を振る。
 外は小雪が舞い、二人を強引に近づける。
 煩悩は空を駆ける鐘の音に消え行くも、新たに芽生える気持ちを見逃していく。
「愛してるよ、由香ちゃん」
「私も、幸太ちゃん」
 自然と引き合う唇は、百八つめの鐘が鳴り響くまで、かすかに触れていた。

完?

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