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01

 相模原市立山陽高校。
 一学年あたりの学生数も多く、市立でありながら千人規模を誇るマンモス高校。スポーツに特に力を入れており、花形である野球、サッカー、バスケットボールは強豪校として知られている。
 では文芸部はどうなのかというと、生徒数に比例してそれなりの規模を誇る。
 特に力が入っているのが吹奏楽部と合唱部。もっとも、どちらも運動部の応援に駆り出され、準運動部ともいえる。
 他にも演劇部や文芸部、その派生である映画研究サークルなどがあった。
 その中で最近、活発になりだしたのが美術部である。
 部員数は十数名程度。少し前までは近所のおばあさん画家に顧問を頼んでいたのだが、彼女が年齢と通院を理由に退いた。代わりに来たのが近くの美術大学の院生、曽我正仁。彼は週に三回、指導をしている。
 正仁に代わってからはこれまでののんびりした雰囲気がガラリと変わった。彼はコンクールや作品募集への投稿を部員達に呼びかけたりと勢力的に活動していた。
 安穏とした部活に訪れた締め切りという期日指定。最初は不満があったものの、二年の部員、高山志乃が市の小さなコンクールで銀賞を取り、表彰されてからまた変わったのだった。
 今では皆、自分の力量や分野に合わせて創作に励み、正仁に指導を求めるようになっていた。

 山陽高校美術部は秋に予定されている「相模原芸術の秋コンクール」に向けて活気付いているのである……。

~~

 放課後のチャイムが鳴ると、教室の皆は各々の活動場所へと散っていく。
 そんな中、一人、教室に物憂げに雑誌を見ている生徒がいた。
 背はそれほど高くはないが、短く切りそろえられた髪と制服の上からでも見てわかる体格は山陽高校の平均的な体育会系男子。
 彼の名は竹中一志。山陽高校二年の美術部員である。今、彼が見ているのは美術部で配られたコンクールの案内。他の部員なら今頃、自分の作品に向き合って筆なりコンテを走らせているところだろう。
 けれど、彼は今も教室にいる。
 理由は一志が美術に興味が無いことが原因だ。彼は少し前まで陸上部であり、右足の怪我と部で起こった不祥事をきっかけに退部した。
 自分には非が無いのだから堂々としていればよい。けれど、自分の中にあるプライドに似た気持ちと汚い現実を前に、投げ出してしまった。
 暇になった時間でアルバイトでもしようかと思った彼は、近くのコンビニで週二回、五時から四時間ほど働いていた。
 そこそこリッチな生活に不満は無いが、打ち込めるものが無くなったことが彼の活気を殺いでいた。
 陸上部の頃のただがむしゃらに駆け出そうという気持ちが懐かしい。アルバイトも最初の頃は怒られ、罵倒されて、それでも必死に仕事を覚えていたが、慣れてしまえば造作も無い。レジ打ちをしていても品だしをしていても訪れることはないのだから。
 そんなおり、クラスメートである高山志乃に美術部に誘われた。
 ――野球部の応援に使う横断幕を作るから手伝ってください。一志君、暇ですよね?
 彼女から話しかけられたとき、誰だなのかわからなかった。そして、よくよく思い出してみると、この前朝礼で表彰されていたことを思い出した。
 自分はアルバイトがあるからと断ったが、地味な雰囲気にしてはやけに意思の強そうな瞳で睨まれると断れなかった。
 小顔に不釣合いな大きめな目はよく見ればどきりとする綺麗さがあり、話すことでわかったことだが、柔らかそうな頬は怒るとぷくーと膨れて可愛らしい。
 胸は他の子と比べればまだ発達途中で、今後次第。だが、スカートやブラウスなど、しっかりと校則準拠でダレたところのない着こなしが、逆に目を惹き、ニーソックスとスカートの間から覗ける色白な膝はかなり評価が高い。……と写真部の部員が言っていた。
 一志は彼女を好きなのだと自分に勘違いさせて新しい青春のドアを開いたわけだ。
 作業中はよく彼女と話をしていた。
 横断幕云々、野球部云々、最近の活動、アルバイト、来年のこと。
 些細なことはいくらでもあり、それなりには楽しかった。が、彼にとっては……。
 ――面倒だな。
 志乃と会うのは楽しい。年頃の女の子であり、彼は男の子。興味が無いと言えばあるわけだ。ただ、活気付いた部活に浮ついた気持ちで入るのは辛い。
 特にこれといってすることも無く、目標も無く粘土に向かう。
 小学生じゃあるまいしと自分を笑いつつ、横目で志乃を探すも彼女は正仁と楽しそうにお話中。正直癪に障るし、嫉妬している自分が嫌だった。
 少年特有の潔癖さのせいか、それとも彼にある悪い癖なのか、最近は興味を失っていた。
 ぷるるる……。ぷるるる……。
 左ポケットに振動が伝わる。バイトを始めてからようやく手に入れた携帯電話。今のところ家族とバイト先ぐらいしか登録されていないが、それでも「もっていないクラスメート」に優越を感じることができる。
 画面には「杉原巧」とある。バイト先の大学生でいろいろお世話になった人だ。最近は資格試験の勉強のせいでシフトを外してもらっているらしく、会う機会が減ったのが寂しい。
「はいもしもし、なんすか杉原先輩」
『もしもし一志君、悪いんだけど、今日の午後出てくれないかな?』
「いいですけど、杉原先輩、午後でしたっけ?」
『いや、夕方の島津に夜に入ってもらって、代わりに一志君に入ってもらいたいんだ』
「あー、なるほど、わかりました。今から行きますけど、ちょっと遅れるかもしれません。あー、だいたい十分程度ですけど」
『ありがとう。店長には俺からちゃんと言っておくから。うん、ありがと。そのうちお礼するよ』
「はい、さようなら……」
 携帯を切り、席を立つ。
 彼は帰り支度を済ませると、部室に寄らずにバイト先へと向かうことにした。

続く

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