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06

「一志君、昨日どうして部活に来なかったの? 一志君に手伝ってもらいたかったのに」
 教室で友達と話していると、怒ったような志乃がやってきた。
「ああ、ごめん。アルバイトがあって、それでさ、いけなかったんだ」
「嘘、だって昨日は違うって」
 以前部活を始める前に部長には話をしておいた。
『週に三回バイトがあるから部活には出られません。あと、急なシフト変更もありますので……』
 理穂はそれを許可してくれたわけだが、確かに連絡なしに休むのはマナー違反。
 ただ、志乃がどうして彼のシフトに口出しするのかは気になるところ。
「急に入ったんだよ。うん、まあいいじゃん、今日はいくから、それでいいだろ」
 けれど、今は美術部のことを考えたくないと思うふしがあり、一志はつまらなそうに教室から逃げた。

 その日の放課後、志乃に連れられて部室にやってきた一志は、いいようのない嫌悪感にただ眉を顰めていた。
 自分が悪いわけではない。もちろんベランダに侵入し、覗きをしたことは確かに法に触れることではあるが、この気持ち悪さは自分のせいではない。
 全ては理穂がいけないのだ。
 彼女は久しぶりにやってきた一志に対し笑顔で「一志君、久しぶりだね。ちゃんときてくれないと忘れちゃうよ?」と話しかけてきた。一志はただ困ったように「はぁ」とだけ応えた。
 理穂は遅れてやってきた副部長と二言三言、話してまた作業に戻る。
 おそらくは普段と変わらぬ部活風景なのだろう。
 しかし、
「一志君、それ押さえててね」
「ああ……」
 一志はたたみ二畳分ある紙の端っこを押さえ、表面にあるほこりを手で払う。
「ふぅ」
 視線は横目で彼女を捉えているが。
 理穂は正仁との行為のエッセンスのために副部長や周りの男子を嘲り、そして自分もその被害者にしていた。
 なのに普段と変わらない彼女が彼をいらだたせる。
 その一方で彼女をオナペットにした自分も、彼女を普通に見ているだけだと気付く。
 お互い自慰の道具としか見ていないと思えば、このどろっとした気持ちもただの我侭にすぎないのかもしれない。
 が……、
「おはよう皆。今日もしっかり創作に励んでくれよ」
 遅れてやってきた正仁の笑顔を見ると、急激な劣等感に襲われる。

 アイツは女子部員とセックスをしていた。
 指導する立場と指導される立場でセックスをしていた。
 本来目的をもって何かに取り組むべき場所で、彼らは道に外れてセックスをしていた。

 それが許せないのは、一志が陸上部を止めたもう一つに理由から……。

~~

「なぁ、顧問ってどんな人?」
「曽我先生のこと? うんとね、熱心な先生だと思うよ」
 帰り道、荷台に志乃を乗せて一志はゆっくりと自転車を漕いでいた。
 何故二人が一緒なのかというと、それは今日の部活の内容が一因である。
 サッカー部の応援用の横断幕をつくる作業に時間がかかり、部室を出るころにはすっかり暗くなっていた。志乃の家は学校からそう遠くないようだったが、暗い中を一人歩かせることに一志は嫌な気持ちを覚え、「送っていく」とがらにも無いことを提案していた。
 志乃がそれを「昨日サボった罰」として頷いてくれたからだ。
「他には?」
「他? たとえば?」
「たとえば、彼女とか」
 どうしてこんなことを聞くのかといえば、当然……。
「うん、なんか最近別れたみたいだよ」
「え?」
「なんかね、大学の頃から付き合ってた彼女さんとわかれて寂しいってさ」
「ふうん」
 昨日は女子部員とよろしくやっていた正仁が寂しいなどと思うのだろうか? はなはだ疑問だが、一志はぐっとこらえて自転車を漕ぐ。
「そういえばさ、この前美術館に誘われたの。えっと、フランス印象派なんとか展覧会だって」
「え!?」
 一志は驚いてブレーキを握る。急に停まる自転車の慣性は志乃を前につんのまらせ、「むぎゅ」と悲しい声が聞こえる。
「もう、酷いよ、停まるなら停まるっていってよ」
「あ、いや、ごめん。いや、それよか、何? 高山、アイツに言い寄られてるの?」
 鼻をおさえる彼女は真っ赤な顔とすこし涙目になりながら彼を見返す。
「何? 一志君も行きたいの?」
「そうじゃなくて、高山はアイツに……」
「違うよ。ほかの子も誘われたっていってたし」
「そう、そうか……」
 他の子が誘われているのなら、それはいわゆる課外授業という奴だろうか? 美術部のように試合の無い部活でも、外へ出て美術館を巡るということがあってなんらおかしくはない。
 一志はまたも考えすぎと胸を撫で下ろす。
「ごめん。なんか最近変なお客さんがいてさ、それでちょっと考え事してさ……」
「ああ、一志君アルバイトしてるんだもんね。こんど見にいってもいい?」
「おいおい、やめてくれよ。っていうか、店長厳しいんだよ。この前だって……」
「……へぇ、そんなこと、なんか大変そうだね。そういえば……」
 取り留めの無い話は胸に暖かく響き、暗い夜道のような一志の心を弱く照らしてくれた……。

続く

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