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24_前編

 五月の連休を前に、私は憂鬱だった。
 普通ならつかの間の休息に浮かれていられるハズなんだけど、最近仕事が溜まっていて困る。
 というのも新人の教育から先輩のフォローまでと、全部ひっくるめて私の肩に乗っかかってくるから。
 次のプレゼンのレジュメもまだ半分しか起こせてないし、新人君は電話の対応すらまともにできないし……、多分連休中も出社かな。

~~

 夜の十時を回った頃、私はようやく会社を後にした。
 まだ主任は残っているけど、こっちは三十台手前の嫁入り前の身なんだし、少しぐらいは大目に見てもらう。ていうか、残業するのだって主任が間違って文書を消しちゃったことが原因だし……。
 私はふうとため息をついた後、空いてきた小腹がぐうとなる。
 今日も一日お疲れ様と自分にごほうびをあげるため、私は駅から踵を返し、まだ営業中ののぼりの目立つスーパーへと向かった。

 レジで支払を終えた私はマイバックに品物をつめる。
 最近はこんな時間でもお店を開けてくれているからありがたい。ただ、レジ袋でいちいち三円取られるのはめんどくさいけど。
 地球の環境よりもまず私の周りの環境を良くしてもらいものだわ。

~~

 本当ならすぐに帰るつもりだった。
 なのに私は駅前の広場にいた。半額のドーナッツをかじりながら、地べたに座って。
 目の前にはカジュアルというか、半分浮浪者のような格好の男性がいる。
 彼の前にはお客が一人いて、その所作をじっと見ている。
 そして彼から色紙を受け取ると、お礼と御代を渡して去っていく。
 なんのことはない。その人はいわゆる路上詩人っていう奴だ。
 季節感のある挿絵のある色紙に達筆というかみみずの云々したような字で詩を書いている。その内容はけしてオリジナルというわけではなく、どこかで聞いたことのあるようなそういう詩。
 特にお金を出してまで欲しいとは思わないけど、話の種というかものはためしにお願いした。

 路上詩人さんは私を数秒睨み、おもむろに書き始める。
 書くのもやっぱりものの数秒でしかなく、しめに名前を聞かれたので井上喜久子とこたえた。

「できました……」

 路上詩人さんは視線を下げたまま、色紙を差し出してくれた。
 いったいどんなちんぷでチープな詩ができたのか、嘲りに近い期待を込めて私は色紙を見る。
 ふむふむ、なになに……。

――しずかなやみ
――ねむるはおしいつきのした
――よるのとばりにめをほそめ

 う~ん。意味がわからない。
 まあいいや。

「ありがとう。えっと、おいくら?」
「……四百九十円」
「そう、それじゃ……」

 五百円玉を渡したあと、お釣りはとっておいてと言い残し、私はそのまま駅へと向かった。だって彼が小銭をじゃらじゃらするのを待っていたら終電に間に合わないもの。

~~

 次の日も、次の日も私は仕事に追われていた。
 今週の仕事が終われば来週の仕事の準備。
 お得意様を回って、ご新規様獲得のためにも外回りはかかさない。
 そのときついでに新人も連れて行くけど、その子は運転もヘタクソで困ってしまう。
 仕事ができなくてもいいけどさ、せめて足を引っ張らないでね……。

 そんなこんなで私は今日も残業だ。
 さすがに午前様ということはないけれど、やっぱり深夜の帰宅は避けられない。

 ……で、なぜか私は例の詩人のところに居た。
 というか、詩人が私の向かう先にいるのだからしょうがない。
 別に気になるってわけじゃないし、あの詩だってそんなに価値もなさそうだし、これから上がることも無いと思う。
 なのに、私は今日も頼んでいた。

「できました……」
「ありがとう」

――いつもこころにたいようを
――のどかなようきと
――うきたちめぶくだいちとともに
――えがおをわすれぬそんなすてきな

 今回もさっぱりなでき。

「それじゃ、御代ね……」

 私はこの前と同じように五百円玉を渡すと、そのまま駅へと走る。
 彼はきっと視線を下にそらしたまま、次のかもを待っているのでしょうけど……。

続く

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