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葉月真琴の事件慕_02

 連休初めの土曜日の朝、澪は眠い目を擦りながら相模大野駅へ向かっていた。目的地は定期が使える範囲らしく、交通費的には問題なかったのが救いだ。
 ただ、せっかくの休日、ボランティアに無理やり借り出されるのは納得いかない。とはいえ、メールを送ってしまったのは他ならぬ澪。その責任からしぶしぶ参加することにしたが、もし可能なら梓に代わってもらいたくもあった。
「みぃおぉ、まってよ~」
 背後からは諸悪の権化の声。真琴の顔を見ては嫌味の一つも言いたくなるのだが、きっと彼はニコニコ笑って聞き流すだろう。あの笑顔でいられると、どうも調子が狂う。それがこれまでの彼女と彼の関係なのだ。
「一緒に行こうよ。待っててくれてもいいのに……」
「い・や・よ。こんなところ誰かに見られたら誤解されちゃうじゃない」
「誤解?」
 演技なのか本当にわからないのか、真琴は首を傾げる。
 澪にしてみれば暫定彼氏などという真琴と一緒に居るところをクラスの面々に見られるのは誤解の基でしかない。これ以上甘酸っぱい青春から遠のいてしまうのはごめんと、せめて駅までは別々に行くことにしていたのだ。
「もう、あたしはこぶの面倒なんてみたくないって言ってるの」
 そう言って真琴を待たずに澪は先を行く。
 真琴も負けじと彼女の隣を歩く。お互い競うように歩調を速めるが、道行く人々からみるとなかなか異様な風景。
「僕はこぶじゃないよ」
「はいはい、そうでちゅね~」
 赤ん坊をあやすように満面の笑顔でそう言うと、さすがの真琴も顔をしかめる。
「もう、澪ったら、すぐ子供扱いする」
 最近、本当に最近なのだが、真琴は澪に不機嫌を返すときがある。
 昔、といっても一年前までは常に笑顔で上機嫌な印象しかない彼の心にも変化が出てきたのだろうと、澪は感じていた。
「あ、怒った?」
「怒ってないよ」
「嘘、怒ってる。真琴もたまには怒るのね~」
「もう、澪ったら……」
「ふふん、真琴も怒るんだ~」
 ――反抗期かしら? お姉さん、年頃の男の子には困っちゃうわ……。
 幼馴染を上手くからかうことが出来たことに、澪は上機嫌に口笛を吹いた……。

――**――

 相模大野駅から谷町行きの電車に乗ること五分、相模杉浦駅で真琴が「着いたよ」と言う。この程度の距離なら電車を使うまでもなく、むしろトレーニングがてらに走りこみできる距離。
 真琴は改札を出ると、大通りのほうを示す。澪は自販機で眠気覚ましに珈琲を買うと、彼の後を追った。
 彼女のイメージとしては、公園かどこかに集合して、街に捨てられている空き缶やゴミを拾い集め、お昼を食べて解散というもの。
 その想像に漏れることなく真琴の向かう先は、街中をやや離れた寂しい場所。だが、人気が無いかといえばそういうわけでもない。大学生らしき人々が様々な目的で往来していた。
「ねえ、一体何をするの? こっちって湘國大学のほうだよね?」
 湘國大学は相模原市にある国立大学。つい最近六十周年を迎えたらしく、その象徴である建物が最近お披露目された。その名前は……。

:-:

「欅ホール?」
 地元のニュースとは別に最近どこかで聞いたことのあるフレーズを目にし、澪は首を傾げる。
「うん、今日はこの欅ホールでコンサートだったかな? あるみたいなんだ。僕と澪はそれのお手伝い」
「え、ボランティアってゴミ拾いじゃないの?」
「違うよ。受付のセッティングにパンフレットを揃えたり、あと舞台の設営もするよ」
 よく考えてみればゴミ拾いに制服は必要ない。むしろジャージで参加すべきだろう。正装を指定されるのなら、それ相応の仕事が待っているのも頷ける。
「舞台? そんなの大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。僕らが出演するわけじゃないし、舞台に出るっていっても幕間とか、暗転してるときだけだから」
 舞台という言葉に動揺したが、ようは雑用。それほど気張る必要もないと知り、澪はほっと安心する。
「いわゆる裏方ってわけね?」
「うん」
「コンサートの裏方か……、なんか面白そうね。控え室とか見れるの?」
「うん、じゃないと仕事ができないよ」
「じゃさ、じゃさ、誰か有名な人とか来るとか?」
「う~ん、テレビ的に有名な人は来ないけど……」
「な~んだ、がっかり……」
 一瞬興奮するもまた下がるテンション。そもそも高校生をその場しのぎにスタッフに使うのなら、それほど重鎮が来るはずもない。
 時計を見ると九時五分前。ホールのエントランスはまだ薄暗いが、スタッフらしき人がせわしなく出入りしているのが見える。
「さ、僕らも急ごうよ」
「はいはい……」
 気の無いそぶりの澪だが、日常を外れた体験を前に若干期待していた……。

:-:

「おはようございます」
 受付でダンボールを抱えていた男性に真琴が声をかける。
「ああ、おはよう。ボランティアの学生さんだね」
 男性は二人に気付くとカウンターに荷物を置いて向き直る。
 スーツ姿に整髪料で整えられた短髪は乱れ一つ無い。かなり長身であり、縁の無い眼鏡がオシャレに見える。外せばさらにハンサムなのだろうと澪は見ていた。
「今日はありがとう。本当にネコの手も借りたいところだったんだ。まずは受付の設営を手伝ってくれ。えと、あっちにいるスーツの女の人、磯川さんに聞いて」
 そう言うと彼は真琴と握手をした後、ダンボール抱えて走っていく。
「あの人だれ?」
「平木一郎さん。今日のコンサートの主催者さんだよ」
「へぇ……」
 主催というからにはそれなりの貫禄というのがあるものだろう。けれど一郎は見た目も若く、そういう雰囲気が無い。とはいえ、澪自身、企画の主催者やプロデューサーと呼ばれる人に会ったこともないので、そういうものなのかもと納得する。
 二人はスーツ姿の女性のもとへと駆け寄り、指示を仰ぐことにする。
「おはようございます。僕達は今日のボランティアです。平木さんに指示を仰げといわれましたので……」
「葉月君と香川さんね。私は磯川由真、よろしくね。えと、時間が惜しいの。とりあえず向こうからテーブルが運ばれてくるから、それを言うとおりに並べて」
「はい」
 とにもかくにも二人のボランティアが始まったわけで……。

続く

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