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葉月真琴の事件慕_05

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 大学近くのコンビニエンスストアでリクエストの品を購入した真琴は、再び欅ホールへと向かう。
 ロビー正面は気の早い観客や関係者でごった返しており、入ろうとすると係りの人に呼び止められてしまう。
「すみません、僕、今日のコンサートのスタッフで……」
 そう告げる真琴だが、腕章も首賭けのパスも持たない彼は門前払い。仕方なく非常口へと回ることにしたが……。
「……今日って本当に真帆ちゃん主演? なんか年増の婆がいるんすけど?」
「……にしてもドレスの裾長すぎね? 真帆ちゃんのおぱんちゅ見れないじゃん……」
 非常口付近で誰かの話し声が聞こえたので、真琴は慌てて身を隠す。そしてそろりと声の方を見ると、太めの男達がパンフレットらしきものを見ながら談笑しているのが見えた。
 ――もしかして、この人達が真帆さんの?
 見た目で疑うのはよくないと思いつつ、会話から黒であるとも予想できる。疑問なのは彼らが非常口付近でたむろしていることだが、それもすぐに理由がわかる。
 彼らは非常口を開けると、そのまま欅ホールへと入っていく。
 ――開いてたんだ……。
 真琴もしばらく待ってから非常口へと向かい、彼らと鉢合わせないように遠回りして上手を目指した。

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「お待たせ……」
「あら遅かったじゃない。どうかしたの?」
 息を切らせながら上手に戻ってきた真琴に、澪と梓がお出迎えする。
「うん、ちょっと通してもらえなくて……」
「まだ開場だし、制服姿だけどお客さんと思われたのね」
 くすっと笑う梓に頭をかく真琴。
 時計を見ると十時半。スタッフの石塚達弘が舞台見取り図を持ちながらやってくる。
「学生ボランティアの……葉月君と香川さん、もう直ぐ第二幕終るから、下手で準備して」
「はい」
 その言葉にようやく今日の本業を思い出し、二人は下手へと向かう。
「あ、待ってよ」
 それに梓も着いていこうとするが、真琴は彼女にストローつきのミルクルを渡す。
「真帆さんに渡してあげてね」
 他にも気になることが一つあったが、それは余計な不安を掻き立てるだけだろうと飲み込み、真琴は下手へと走った。

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 下手側には衣装に身を包んだ出演者が控えており、発声練習らしき声が聞こえる。
 よく通る声、どこから出しているのか頭を捻る無理の無い高音。どれも学校の音楽の授業では見受けられない風景だ。
「……うわぁ、なんかすごいね……。学校の合唱とじゃ全然違うよ」
 普段声楽に携わっていない真琴でさえもその違いがはっきりとわかるほどすんだ声。大柄な男性から高く嫌味の無い声が出るのはどういうギミックなのか理解が出来ない。
 ロビーに続く扉が開くと、由真がやってくる。彼女は丁度良いとばかりに二人に手招きすると、見取り図を見せる。
「葉月君、ちょっと来て。今から君たちにセットしてもらうのは……」
 舞台見取り図にはいくつかバッテンがあり、そこに椅子や譜面などが書かれている。
「今からするのは第二幕から第三幕へと設営ね。これは本当に手早くする必要があるから注意が必要なの」
「休憩とかじゃないんですか?」
「うん。時間的な都合で休憩が取れないのよ。あと、どの作業も遅れると延滞料金が取られちゃうから気をつけてね」
「延滞料金?」
「そ。三十分刻みで二十万円ね」
 笑顔でさらっと告げる由真に二人は目を丸くする。庶民の二人にはたかが三十分の使用料で二十万などと信じられない話。せいぜいレンタルビデオの四百円程度のイメージしかない。
「大丈夫よ。めったなことじゃ遅延なんて起こらないし、基本スケジュールは巻きで行われるから」
 そう言ってウインクする由真だが、聞きなれない金額に二人とも呆然としてしまう。
「それじゃあ、最初の作業だけど……」
 指示されることはそれほど難しいことではないが、自分達の挙手挙動に遅延金がかかっていると思うと、責任は重大であった。

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 遅延金の説明のおかげでなかなか緊張感のあるリハーサルだった真琴は、精神的な疲労を抱えて上手へと戻る。
 すると、明らかにスタッフとは違う雰囲気の男性グループが見えた。
 彼らはチェックのシャツとジーパンという、演者ともスタッフとも言えない姿であり、手には花束を持っており、石塚に何か詰め寄っていた。
「ですから、困ります。ここはスタッフ以外立ち入り禁止です」
「堅いこといわないでよ。ぼくらは真帆ちゃんのファンで、花束贈ったら帰りますよ」
「だから、花束は私が届けますから、お引取りください」
 物腰丁寧な石塚だが、その額にはうっすら汗が滲んでおり、また先ほどから手に持ったボールペンを左に右にと意味もなく持ち換えている。
「どうかしたのかしら?」
「……あ、澪、真琴君」
 もう一人部外者がいるのだが、こちらは真帆の付き添いなので不問。二人は彼女の傍へと駆け寄ると、ことのいきさつを説明する。
 どうやら真帆のファンが花束を持って押しかけてきたそうだ。
 開場していないのにどこから入ってきたのかと不審に思うスタッフだが、真琴には心あたりがある。おそらく非常口からだろう。
 肝心の真帆はというと、ファンを見るや否や控え室へと引きこもったのだという。
「で、真帆はとりあえず、真琴君に用があるんだって……」
「僕に?」
 真琴は言われるままに控え室へと入る。どうせ腹立ち紛れの憂さ晴らしと思いながら……。

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「あ、やっと来た。遅いってば……」
「ごめんなさい」
 控え室へ入ると開口一番怒られる。ただ、その苛立ちの原因も理解できているからか、受け流すことも容易。
「で、何か用ですか?」
 見ると彼女はミルクルを飲んでいたらしく、紙パックがしっかり開けられてストローがささっている。
「うん。君にしか頼めないことなんだけどね……」
 そういって笑う彼女は、パンフレットにある幼いアヒル口の可愛らしい真帆で……。

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 控え室を出てきた真琴と真帆にスタッフといわずそこに居た大半の人が驚く。
 真帆は真琴の腕を取り、恋人のようにべったりとくっついているのだ。
「真琴、どうしたの?」
 澪は突然の展開に間の抜けた声を出す。
「あ、うん。えと……」
「今日はありがとうね。真琴君。真帆の為に応援に来てくれてすっごく嬉しいな」
 歌声のような声とピンクの雰囲気のこぼれる笑顔を真琴に向ける真帆。
 その様子にファンの男達と梓は石のように固まる。
「石塚さん。その人達は?」
 唖然としていたのは達弘も同じだが、彼女に水を向けられると顔をぶるっと振ってから気を取り直す。
「ああ、五十嵐さんのファンらしくって、花束をだって……」
 達弘は固まったままのファンの腕から花束を取り上げると、真帆に渡す。
「まあ、ありがとう。真琴君、持って」
 これ以上無いというくらいの微笑みを見せたあと、花束は無造作に真琴へと渡される。
「あ、うん。澪、持って……」
 真琴も片手でそれを持つのは大変なのでそれを澪に手渡す。
「えと、梓いる?」
「いらない」
 受け取ってしまった澪はさらに梓に振ろうとするが、彼女は受け取り拒否。ただ、問題なのはその花束に花粉を舞い散らせるものがちらほらあり……。
「ふぁ、ふぁ……、ふぁくしょんっ!!」
 豪快な澪のくしゃみで花束の一部は吹き飛んでしまう。
「あ、あはは、あはは……ごみんなさい……」
 茎だけになった花束を見つめたあと、澪はそれを手近にあった机の上へと置く。
「邪魔……」
 すると今まで音響機器に神経を注いでいた石川がヘッドホンをしたまま無造作に茎束を燃えるゴミの袋へと投げ入れる。
「あ、あと石塚さん、今のところで効果音ね。本番では忘れないでください」
 そう言うと、再びヘッドホンを付け直して音響機器に向き直る。
「あ、はい。わかりました。……えと、そういうわけなので、お引取りください」
 達弘は苦笑を堪えるた複雑な表情でファンの男達をホールへのドアへと追いやる。ファンも強引な達弘に抗えず、そのままなし崩し的に去っていった。
 ようやく落着した騒動に、真帆はほっと胸を撫で下ろす。
「それじゃあ本番前ですし、お昼食べに行きますね。真琴君、行きましょうか?」
「え? あ、はい……」
 だが、真帆は真琴の腕を取ったまま、下手側へと向かう。
「ま、待ってよ!」
 梓はそれを追おうとするも、澪に腕をつかまれる。
「な、何よ。離してよ」
「その前に散らかった花を片付けるの手伝って……」
 涙と鼻水を啜る澪に頼まれ、梓はしぶしぶ花を拾うのを手伝った……。

続く

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