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葉月真琴の事件慕_06

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「あっはは、いい気味だった! マジうけるんですけど!」
 下手の控え室へと戻った真帆は開口一番大笑い。どうやらすごすごと帰る男達の惨めな後ろ姿が痛快だったらしい。
「もう、あんなことしていいの? ファンなんでしょうに……」
 真帆の豹変振りに驚いていた梓も、彼女の思惑を理解しており、それほどたしなめるつもりもない。
「いいのいいの。ああいうのはいらないから。っていうか、あたしは別にタレントとかそういうんじゃないの。彼氏が居ようが居まいがどうでもいいしね」
 そういってミルクルを飲む真帆は、本当に楽しそうに笑っている。
 彼女の思惑は真琴に彼氏を演じてもらうこと。ここ最近のおかしなファンには苦い薬になっただろうと彼女は言う。
「それに澪さん。ナイスクシャミ。あの音響の人もクールにオチをつけてくれたよね。なんかもう、一仕事完成させたって感じ」
「あはは、あたし鼻炎だから……」
 照れ隠しなのか澪は余計なことをぼそりという。さすがに贈り物の花束を台無しにしたのは、気が引けているところがある。
「でも大丈夫かな。なんか逆恨みされて真琴君が被害に遭いそうだわ」
「大丈夫大丈夫。男の子だし平気だよね? うふふぅ!」
 上機嫌の真帆は無責任に真琴の頭をなでなでとする。
「もう、さっきから真帆、真琴君になれなれしいわ! 少し離れなさい!」
 我慢が出来なくなったらしく、梓は真琴と真帆の間に割り込む。
「いいじゃない。減るもんじゃないし、それに真琴君だって楽しいでしょ?」
「真帆の手垢が着くみたいで嫌なの。とにかく離れなさい。貴女はこれから舞台でしょ? ちゃんと集中しなさいってば!」
「リラックスするくらいが丁度いいのよ。ね~真琴君!」
「何が真琴君よ。ちょっと澪も何とか言いなさいよ!」
「え? あたし? あたしは別に……。まあ真琴も男の子だしねぇって感じかな……」
「澪、それどういう意味さ……」
 フォローにならないことを言われて真琴もしょげてしまう。彼としてはもう少し彼女に関心を抱いて欲しいのだが、それはまだ無理なのかもしれない。
「失礼しまーす……」
 控え室のバカ騒ぎに水を差す涼やかな声。扉が開くと、一郎に促される形で見知らぬ女性がやってくる。
 白のニットセーターとゆったりとしたフレアスカート。上品な顔立ちの彼女はパンフレットに大々的の掲載されている喜田川久美だとすぐにわかる。
 澪や梓、真帆と比べても大人っぽく、嫌味にならない程度の化粧と春らしい色のルージュ。優雅な大人の女性という雰囲気だった。
「あ、喜田川さん。こんにちは。今日はよろしくお願いします」
 一転、真帆はしおらしい声を出して深々とお辞儀する。
「五十嵐さん、私こそよろしくね」
 久美もお辞儀を返し、控え室の奥のほうへと行き荷物を置く。
「あ、えと、台本忘れてた……ちょっと取りに行きます……」
 すると真帆はとってつけたようにそう言い、三人を急かすようにして控え室を出る。
 わけのわからない真琴達は下手側のやや広いところで彼女を待つ。
 真帆は二、三挨拶をした後、そっとドアを閉め、渋い顔になる。
「あの人が喜田川さん……」
「そ……。うちらのスポンサー様ね」
 嫌そうに舌を出す真帆。おおよそのことは梓から聞いていたが、そこまで露骨に嫌うのは、彼女の役柄とパンフレットの位置だけには思えない。
「へぇ……、思ったより怖くない人だね」
 身近に怖い女の子が複数居る真琴としては自然に出た感想であり、慌てて口を閉ざす。
「要はパパリンがお金もちってわけ……」
 真琴の言葉には気が付かなかったらしく、真帆は手近にあった椅子にどっかりと座り、ため息をつく。だが、すぐに思い出したように梓に向き直り、すまなそうな顔になる。
「あ、別にそういう意味じゃないからね……」
「気にしてないわよ」
 梓は困ったように笑うと、それっきり。澪も一瞬考えたあと、思い当たることがあったらしく唇をへの字にさせて視線をさまよわせる。
 重苦しい時間が流れること数秒、ロビーに続くドアが開き、由真が中年の女性を引き連れてやってくる。
「こちら下手になっておりまして、赤坂さんはこちら側から舞台に出ることとなっております」
「はい、ありがとうございます」
 赤坂と呼ばれた人は丁寧にお辞儀をすると、棚に荷物を置く。
「赤坂さん、こんにちは……。今日の舞台に出演する五十嵐真帆です。よろしくお願いします」
 真帆はドレスの裾を持って会釈をすると、赤坂と呼ばれた女性もお辞儀を返す。
「ええ、五十嵐さんのことは聞いてますよ。相模原市のコンクールで大賞を取った期待の星だとかね? おほほ……」
「それは言いすぎですよ」
 まんざらでもない様子で顔を綻ばせる真帆。彼女はかなり素直な性格をしているらしい。
「五十嵐さん、リハーサルはどう?」
 由真は真帆に向き直り仕上がりを確認する。内情をしる彼女からすれば、主演はあくまでも真帆なのだ。
「はい。ばっちりです」
「そ、それじゃよろしく頼むわ」
「それじゃあたしも練習しないとね……」
 赤坂はレコーダーらしきものを取り出して再生しだす。
 鏡の前で両手を使ってジェスチャーを始めるのは不思議な光景だったが、しばらくしてそれが手話だとわかる。
「ねぇ、コンサートって手話もあるんですか?」
 コンサートイコール合唱や演奏と思っていた真琴には意外なことだった。
「弾き語りっていっても、舞台にスクリーンがあってそこで物語が語られるから、手話の人も必要なのよ」
 真琴が真帆にそっと耳打ちすると、彼女はパンフレットにある手話の項目を見せてくれる。
「それじゃあ赤坂さん、よろしくお願いしますね……」
 由真は控え室へと入ろうとする……と、真帆が慌てたように彼女を呼び止める。
「あの、確か石塚さんがプログラムと効果音のことで打ち合わせがしたいって言ってましたよ!」
「そう? うん。確かに彼もぶっつけ本番なところあるし……、うん、ありがと」
 そう言って由真は上手側への通路へと走る。
「ふぅ……危ない……」
「なにをそんなに慌ててるんです?」
「うん、ちょっとね……、ほら、今そこに平木先生と喜田川さんが居るでしょ? ちょっと具合が悪いのよ……」
「それって……」
 どろどろとした関係をかぎつけた澪と梓は、眉間に皺を寄せながらも楽しそうな表情をする。
「平木さんと由真さん、前に付き合ってたのよ。でも、スポンサー様が来てからは乗り換えっていうのは言葉が悪いんだけど、そういういざこざがあってね……。表面的には気にしてないフリなんだけど、やっぱり二人をあわせるのはちょっと気が引けるのよね……」
「なるほど……、つまり三角関係って奴ね……」
 うんうんと頷く澪。梓は「わかるかも」とぼやく。
「先生も苦しい立場ってのはわかるけど、でもちょっぴり許せないところはあるわ。だって由真さんが……」
「こらこら、そういう話に首を突っ込むのはまだ早いよ」
 通路の向こうからよく通るダンディーな声が聞こえてくる。
 二十代そこそこという男性は、スーツ姿で、その声質から一郎の教え子兼スタッフと伺える。彼は真帆をたしなめるような笑顔を見せる。
「早いって、私だってもう子供じゃありませんよ、佐々木さん」
 そう言いながら立ち上がり、やはり丁寧にお辞儀をする真帆。
「といっても、今日は娘役だけどね?」
 そういってウインクする彼はロビーに続くドアを開けて去っていく。
「あれは?」
「佐々木久則さん。いわゆる兄弟子ってとこね。普段も練習とかで一緒になるけど、結構実力者よ」
「へぇ……」
「っていうか、結構知られてるみたいね、平木さんと喜田川さんのこと……」
「あはは……知らぬは久美さんだけってとこかな?」
 澪が苦笑いしつつ呟くと、真帆も困った様子で応じる。
「さ、あたし達もお昼にしましょう? えと、お弁当は……」
「ああ、そうね、それじゃあ喫茶室で食べようよ。まだ時間もあるし、広いほうがいいよ」
 真帆はそう言うと、ロビーに続くドアを開けた……。

-:-

 ホールに併設されている喫茶室にて昼食をとる真琴達。そこには例の迷惑なファンがおり、真帆はここぞとばかりに真琴にべったりして牽制していた。
 ただ、真琴としては帰宅時に若干の不安を持ってしまう。
 昼食を終えたところで開場時間となり、続々と観客がやってくる。
 澪は舞台設営ではなく売り子の手伝いを頼まれ、チケットを受けてはパンフレットを配り、たまに関連商品の販売を行ったりと忙しい。暇を持て余していた梓も澪に捕まり、二人で売り子をしていた。
 一方真琴はというと真帆に連れられ舞台裏、下手へ。途中、達弘とすれ違い、細かな変更点を聞き、そのまま下手で待機となった。

続く

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