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葉月真琴の事件慕_10

**――**

 ――真帆さん、がんばって!
 下手の小さなドアから真帆を見送った真琴。
 本当なら上手で待機する予定だったが、扉を開ける役割ぐらいはと、そこに居た。
 すれ違うとき、真帆は彼の頬を指で弾いたが、その横顔に不安はなさそうだったのを覚えている。
 真琴は舞台中央へと向かう彼女の後姿を見つめたあと、上手へと移動する。
 上手では達弘が照明、効果音などを操作する機器に向かい、石川がヘッドホンをしながら音響機器を操作しているのが見えた。
 真琴も舞台の様子をモニターで見ながら、用意されたペットボトルを飲む。
「ん~と、まいったな……」
 しばらくして石塚が困ったように呟くので、真琴は顔を上げる。
「どうかしましたか?」
「うん、たいしたことじゃないだが、ちょっとトイレに行きたくて……。由真さん居ないし、他に頼めないからさ……」
 照明などの機器の扱いは由真か一郎ぐらいしか知らないらしい。
「探して来ますか?」
「うん、お願い……」
 石塚は手で礼をするので、真琴は静かに上手を出た。

-:-

 由真の行き先に心当たりは無いが、今時間帯はフリーのはず。喫茶室で遅い昼食をとっているのではないかと向かうが、特にそれらしい姿もない。
 ならば下手の控え室に居るのかと向かうが、鍵が掛かっていて入ることが出来ない。
 ――おかしいな、さっきまでは開いてたのに……。
 そう思いつつも、すれ違った立て札にはしっかりと関係者以外立ち入り禁止とある。今朝のこともあり、むしろ鍵が掛かっているのが自然なことなのだろう。
 ――そう言えば、下にも控え室あったっけ……。
 今朝方苦労してテーブルを運んだことを思い出す真琴。一階にも控え室があり、出演者らしき人の名前が張り紙されていたのを思い出す。真琴は急いで一階ロビーへと向かった。

-:-

 一階のロビーは閑散としており、ポストカードが置かれたテーブルは薄い布で覆われていた。澪と梓は他の売り子と一緒に舞台を見ているのだろう。
 のんきだと思いつつ、彼は関係者以外立ち入り禁止の立て札をかわし、控え室のほうへと走る。

-:-

「失礼します……」
 「平木」と張り紙された控え室にノックする。しかし、反応が無い。ノブを回すと抵抗無く開き、照明を点けるもがらんとした室内が見渡せるだけだった。
「居ないのかな?」
 ここにいないとなると、見当がつかない。もしかしたら入れ違いで下手の控え室に戻ったのかもしれないと考える。
 真琴は入り口横に貼ってある地図を見る。ややこしいつくりの建物を大きく回るのも面倒であり、石塚の膀胱のことも心配なので、最短経路を考える。
 一番近いのは非常階段。すぐ隣から二階の下手側に繋がっており、二人を探すにも丁度良い。
 だが、非常階段へと向かうとやはりドアに鍵が掛かっている。
 だめもとで上手側に繋がる非常階段を目指すと、こちらは普通に開いた。
 ――なんだかなぁ……。
 釈然としない気持ちを抱えたまま、真琴は階段を駆け上がった……。

-:-

 上手に戻ると石塚が居らず、石川が一人で音響機器を睨んでいた。
 石塚のことを聞こうと思ったが、神経質そうな石川ではきっと睨まれるのではないかと飲み込む。
「……なんか変だな……」
 すると意外なことに石川のほうから話しかけてきた……わけではなく、機器に向かって独り言を言っているようだった。
「え?」
「あ、いや、音がね。さっきからおかしいんだ……」
 真琴が聞き返すと、彼は機器から目を離さずに続ける。
「音? なんか変なんですか?」
 モニターを通しての音にはノイズがあり、そもそもそこまで音に敏感ではない真琴には違いはわからない。
「どっか開いてるのかな? ちょっと見てくれるかい」
「はい……」
 モニターを見るも画面の端は切れており見えない。観客席側かもしれないと、ひとまず真琴は外に出た。

-:-

「おっと……」
 ホールへの扉を開けると、ハンカチで手を拭いている石塚と出くわす。
「あ、すみません」
「いやいや。それより何かあった? そんなに急いで」
 真琴が平謝りすると、石塚が笑顔で応じる。
「あの、音響の人が、ちょっと音が変だって言ってて……、それでどこか開いてるかもしれないから見てきてって言われて……」
「そうなの? 閉め忘れかな……」
 石塚は手近なドアを開けて観客席に入る。
 薄暗い観客席、ステージだけが煌々とした照明で映し出され、真帆や幹谷が演技を続けていた。
「特に……開いてるところは……ここだけかな?」
 石塚の脇から真琴も顔を出し、中の様子を見る。
 かろうじて見える範囲に開いているところは無い。だが……。
「あれ? なんか下手側、開いてません?」
 舞台の端っこに違和感があった。よくよくみると確かに小さいほうのドアが開いている。
「やば……、閉め忘れかな? ちょっと行ってきますね」
 真琴はそう言い、駆け出す。だが、真琴は心の中で首を傾げてしまう。
 あの扉を最後に閉めたのは自分であった。もちろん、誰かがそのあとに開けたのかもしれないが、止め木を置いてまでの仕事をそうそう忘れるかは疑問であった。
 真琴は腑に落ちない気持ちを抱きながらも、音の不調を正すべく、下手へと向かう……。

-:-

「……、……?」
「……、……っ!」
 下手側へ辿り着いた真琴を迎えたのは階下での声。構わず小さいほうの扉を閉めるべく移動するが、しっかりと締まっていた。
 先ほどのは見間違いかもしれないと思いつつ、続いて喧騒のほうを見る。
 コンクリートでの打ちっぱなしの階段は柵も低く、少しでも足を滑らせたら落下してしまいそうな危険なもの。
 ただ、真琴の視線の先には、その先人とでも言うべきか、一郎が不自然な恰好で血溜まりを作っていたわけで……。

続く

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