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葉月真琴の事件慕_12

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 喝采の拍手のもと、舞台が暗転し、幕が下ろされる。
 完全に閉じるのを待ってから扉が開放され、出演者達のにこやかな顔が上手へと流れてくる。
 だが、彼らを出迎えるのは……。

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「嘘……」
 呆然とする真帆。
「先生が……」
 急な代役を頼まれた佐々木は驚きのあまり二の句が告げない。
「だから来なかったの?」
 富岡は手話の赤坂に向き直り、驚いた様子で手のひらを上にする。
「一郎さんが……!? 嘘、何かの冗談でしょ? だって、さっきまで私達と一緒に……」
 狼狽が激しいのは一郎の恋仲にある久美。青ざめたと思ったらふらっと足元を乱し、そのままへたり込む。
「ちょっと久美さん、落ち着いて……」
 慌てて由真が支えるが、その手にすがる力もない。
「ええ、でも……ねぇ、嘘でしょ由真さん……、先生が、一郎がそんなこと……」
「落ち着いて……。とにかく……一旦控え室に行きましょう」
 由真は久美に肩を貸して立たせると、上手の控え室へと連れて行く。
 スタッフの反応は様々だが、皆一応に顔を曇らせており、うなだれた様子だった。
「失礼します……。真帆、お疲れ様! 真琴君もここにいたの」
 ホールからのドアが開き、梓が顔を出す。当然事故のことを知らない彼女は有人をねぎらうべく声を掛けるが、その空気に何かを察する。
「ふぅっと……、あれ、真琴……なんかあったの?」
 続いてやってきた澪もその場のおかしな雰囲気に幼馴染に小声で確認する。
「うん、実は……」
 説明しようにもどう言うべきか。元々直接の関係の無い澪と梓なのだからそれほど気を遣う必要も無いが、それでも青ざめた真帆が傍に居るところを見ると、言葉を選ぶ必要がある。
 しかし、それも下手側からやってきた警備員と警察の姿で杞憂に終る。
「平木一郎さんの事故の件で、皆さんから少しお話しを聞きたくて……」
 警察手帳を見せることなくそう言うと、きょろきょろとスタッフを見る。
「責任者の方は……」
「ああ、それなんですけど、事故に遭った一郎が責任者というか、代表でして……」
 石塚が代表してそう言うと警察も困ったように頭を描く。
「最初に事件現場を発見したのは?」
「はい、俺です」
 隅っこで椅子に腰を下ろしていた邦治が手を挙げる。
「それじゃあ事故の詳しい様子とか、教えてもらえますか?」
「はい……」
 蒼白といった様子の邦治は、警察に連れられて下手へと行く。
「……どうかしましたか?」
 この後に及んでようやくヘッドホンを外した石川は、周囲の張り詰めたムードに違和感のある声を発していた……。

**

 邦治の話によれば、彼は柵に腰をかけていたらしく、そのまま仰け反るようにして落下したらしい。
 出演を前に台本を片手に柵に腰をかけての転落死。
 事故前後の所作をスタッフ一同聞かれたが、ほとんどは舞台に居るか上手での待機であり、邦治の証言からも特に事故として処理されているようだ。
 現場検証として写真を数枚撮ると、その後、もう一度邦治に事情聴取を行う程度であった。

**

「一郎さんが……一郎さんが……」
 上手側控え室からは久美のすすり泣く声が聞こえており、教え子である佐々木も真帆も表情が暗い。
「先生……嘘……」
 自分に活躍の機会、再び母に認めてもらうきっかけをくれた一郎の死に、真帆も相当答えている様子だった。
「真帆さん……」
 掛ける言葉も見つからない。こんなとき、自分が本当にポン助であれたらと思うのは安易な逃げかもしれない。彼女を元気付けるためのケーキバイキングなど口にすることも出来ず、ただ隣に立ち尽くすだけ。
「大丈夫……」
 そんな真琴の手持ち無沙汰を見てなのか、真帆はそっと呟く。もちろん、言葉とは裏腹に、表情は暗いまま。
「でも」
「うん。いいの。ねぇ、控え室から荷物持ってきてくれないかな……」
「え? あ、はい……」
 着替えなどを真琴に頼むのはたんなるワガママではない。下手の階下にはまだ一郎の……。

**

 下手へ向かう真琴と澪。梓は真帆についており、それどころではない。
「ねぇ、事故って本当なの?」
「え? うん。だって、他にないでしょ?」
「まぁ、そうだけど……」
「……」
「……」
 特に話題も無いせいか、ほんの数メートルが長く感じられる。
 通路の先ではまだ邦治が警察官から事故当時のことを聞かれているようで、話し声が聞こえてきた。

**

「……はい、第二幕が始まりまして、お昼を食べてからここに戻ったんですよ……。丁度三十分くらいかな、二時の。それで、俺だけがいて……、いや、確か磯川さんか、あの人が控え室にいました。話し声が聞こえましたから確かです」
「それが誰かはわかりますか?」
「ええと、わかりません。男の人の声でしたし、一郎さんじゃないですか? っていうか、ほとんどの人は今日初めて会ったばかりで、よく知らないんです」
「普段は……」
「ああ、ここでの手伝いは石塚さんに頼まれてで、毎回というわけじゃないんです」
「お昼の後、貴方はずっとここにいたんですか?」
「いえ、磯川さんに譜面台を運ぶように頼まれて、一度上手に行ったんです。戻ってきたら一郎さんが居て……そして……」
「それは何時頃のことですか?」
「えと、慌ててわからないんですけど、そんなに時間は経っていないはずなんです……。えと、三十分、いや、四十分くらいだったかな……」
「彼が柵を乗り越えて落ちたと……」
「はい。その、一瞬なんで、掴むとかそんなことは出来なくて……」
「で、救急の手配などが遅れたのは?」
「ああ、そうなんですよね。恥ずかしいことですが、最初目の前で起きたことが信じられなくて、あと、なんか変な感じがしたんです」
「変な感じ?」
「見られてるっていうか……いや、これは気のせいですね。とにかく人が落下することなんてそうそうおめにかかるものじゃないし、なんか足が竦んでしまって……」
「ようやく見に行ったと」
「はい。ですけど、その、そんなに高いところじゃないし、まさかその、死んでいるなんて思わなくて……」
「死んでいないと思うならすぐに救急に連絡すべきではないですか?」
「冷静になればそうなんですが、なんかこう、パニックになっていて……、磯川さんが降りてきて、それでボランティアの学生も来てからようやく電話しようとしたんですが、その頃にはもう遅いって言われて……」
「わかりました。また後で聞くことがありますが、一旦お戻りください」
「はい……」

**

 階段上から聞き耳を立てていた真琴だが、警察官の頭が見えたところでさっと身を翻す。
「何してるのよ、まったく……」
 澪は控え室へと向かい、真帆の私物であろう物を探そうとする。真琴も慌ててそれを追った。

続く

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