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葉月真琴の事件慕_13

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 控え室では手話の赤坂が何かを探していたらしく、きょろきょろと見回している。
「どうかしましたか?」
「ああいえ、たいしたことじゃないんだけど、ウォークマンが見つからないのよ。あたしどこへやったかなって思って……」
「それはそれは……」
 真琴と澪は真帆の荷物をどかすと、一緒に探し始める。
「あ、ありました」
 テーブルの下を見ていた真琴が椅子の陰から見つけだす。
「ああ、ありがとう。これがないと困るのよ」
 赤坂は真琴に頭を下げると、壊れていないか再生しだす。
「……うん、大丈夫、壊れてないわ……?」
 録音されていたのは幹谷による「冴えない老猫」の朗読の終わり際であり、澪は「あの場面は笑った」と思い出し笑いをしている。
 ふと赤坂は首を傾げ「巻き戻し忘れてたかしら」と呟いていたが、すぐに巻き戻しボタンを押すと、帰り支度を始める。
「それじゃあお暇しようかな。えと、磯川さんはどちらに?」
「えと、上手の控え室にいると思います」
 赤坂はもう一度二人に会釈をすると、控え室を後にする。
 二人も真帆に荷物を届けるべく、控え室を出た……。

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 二人が上手に戻ってくると、撤収作業が行われていた。
 本来なら現場と繋がっていることもあり保存すべきなのだが、延滞料金のこともあり、由真の必死の交渉によって許可されたのだ。
 特に警察も事故と断定しており、現場と下手階段付近以外の作業を行って良いそうだ。
「ふぅ、まったくボランティアも楽じゃないわね……」
 澪と真琴は一階ロビーへと行き、テーブルの片付けをする。
 外には物々しい警察車両があるが、その事実から目を背けたいスタッフ達は黙々と仕事をこなしていた。

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 あらかた片付け終えたところで上手に戻る一行。
 石川も音響機器をしまい終えており、ゴミの処理と下手を残して完了となる。
 代表の代理ということで由真が警察に呼ばれており、残された面々は手持ち無沙汰に時計を見たりと暇を持て余す。
「……本当に事故よね」
 その静寂を破ったのは真帆の一言。
 一瞬殺気めいたどよめきが起こるが、皆口を閉ざす。
 梓は気落ち気味の友人の肩に手を置き、何か言いたげだが何もいえない。
「事故だと思う。というか、うん、俺が見たとき、他に誰も居なかったはずだし……」
 それに応えてなのか、邦治が口を開く。
 この場で唯一の目撃者である彼の言葉は絶対だろう。もちろん、嘘であるという可能性も無いわけではないが……。
「嘘よ……、だってなんで一郎さんが……、事故なんてありえないわ……。落下? なんでこんなところで落下なんて起こるのよ。小学生じゃあるまいし、二階から落ちたぐらいで人が死ぬわけないじゃない!」
 邦治の言葉を否定するのは久美の喚き声。事実は変わらないのだが、あたるべく矛先が無いことが、そのやり場の無い悲しみの逃げ場を奪っているのかもしれない。
 久美はただ泣き崩れ、話題の発端である真帆も嗚咽を漏らす。
「ただいま……って、どうしたの?」
 聴取を終えた由真が上手の様子にひと悶着あったと推測し、渋い顔になる。彼女もその胸中はかつての恋人の死で複雑であろうはず。気丈にスタッフに指示を出せるのは責任感ゆえだろう。
「警察はなんて?」
 石塚は彼女を見ずに言う。
「ええ、転落死でまず間違いないですって。台本を見ていて気付かず、バランスを崩しての転落。落ちた先で首の骨を折ってのこと。即死ではないけれど、助かる見込みも無いだって……バカにしてるわ……」
 つまらなそうに吐き出す由真だが、それで納まる道理もない。久美はすくっと立ち上がると、彼女を睨みつけた後、控え室へと入り、乱暴にドアを閉める。
「ふん、自分ばっかり不幸なヒロイン気取って……」
 金銭と愛情を伴う三角関係の頂点の一つが崩れたところで、その確執がなくなるはずもなく……。

**

 上手の撤収作業を終ったところで四人は喫茶室で一息ついていた。
「はいどうぞ……」
 澪がおぼん片手に手際悪くお茶を配る。
「ちょっと、零さないでよ?」
 並々と注がれたお茶の表面が揺れるのを見て梓がおっかなびっくりに声を出す。
「うわわ、今声をかけないでよ、おっとっと……」
 なんとか無事テーブルに置くも、どうやって飲めばよいのかと首を傾げる梓。
「お口から向かえてください」
「何が口からよ……ばっかみたい」
 梓はそう言いつつ、そっと茶碗に唇をつけ小さく音を立てて啜る。
 真帆も澪からお茶を受け取り、梓に倣って唇を茶碗につける。
 まだ真帆は動揺を隠せないものの、だいぶ落ち着いてきたのがわかる。
「真帆、その気持ちはわかるけど……」
 言いかけて口を閉ざす。どう慰めの言葉を選ぼうにも言葉が見つからない。
 知り合いの死、それも身近な人の死を飲み込めるほど、現実は軽くはないことを、彼女は知っている。
「本当に……」
「真帆?」
「本当に事故なのかな……」
「なんで? 事故じゃないってどうして思うの?」
 先ほどから何度目だろうか。真帆はどうにも気になるところがあるらしく、事故であるということを疑うようだった。
「だって、それ以外に考えられるの? 鳥羽さんだっけ? あの人も見たって……」
「嘘かもしれないじゃない……」
「嘘って……。なら、鳥羽さんが殺したとでも言うの? どうして?」
「そうじゃないけど、でも、なんか信じられなくて……」
「真帆さんは誰かを疑ってるの?」
「え!?」
 真琴の言葉に澪と梓はぎょっとして彼を見返す。
「な、何言ってるのよ真琴、これはただの事故よ。そんな推理漫画みたいなこと……」
「そうよ真琴君。真帆もつまらないこと考えないで……」
「つまらなくない!」
 喫茶室全体に響く声に、その場に居た人々の視線が真帆に集まる。たいていは直ぐに自分達の会話に戻るが、彼女が主演女優と気付いた人は外のパトカーの存在とあわせて視線を送っていた。
「先生は……、だって……、そんなこと信じられるはずがないじゃない!」
 真帆に何か確証が在ってのことではない。梓は友人の肩を抱き、その揺れる気持ちを抱きしめる。
「うう……うう……」
「真帆……」
 しばらく嗚咽が続いたあと、真帆はゆっくりと座り、そのままテーブルに突っ伏す。
 梓はその隣に座り、肩を抱く代わりに髪を梳く。
「……、ごめん澪、僕ちょっと行ってくる……」
「え? どこに?」
「トイレ……」
「んもう……バカ」
 デリカシーの無い真琴の言葉にがっくりとしつつ、この重苦しい雰囲気の中を抜ける彼を羨ましそうに見送る澪だった……。

続く

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