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葉月真琴の事件慕_14

 トイレ……を目指さず、向かった先は上手側。
 ピアノを運ぶべく、石塚たちが四苦八苦しているのが見えた。
 真琴はそれをかわしながら、テーブルに大々的に張られた予定表を見る。それには出演者、スタッフの行動が細かく書かれており、直前まで変更があったせいか、何度も赤のペンで修正がされていた。
 それらはほとんどが由真の字であった。当然といえば当然だろう。彼女は司会兼、裏方の統括を行っており、続行後もしっかりと指揮を執っていた。
 彼女の本番強さなのか、それとも度胸の賜物なのだろうか?

 ……彼には気になることが在った。それがここに来た理由……。

「鳥羽さん」
「ん? なんだい?」
 ステージの上で清掃作業をしていた邦治に声を掛ける。彼は床に張られていた目張りを剥がしながら真琴に向き直った。
「喉渇いてませんか? 鳥羽さんの分、持って来ました」
「お、ありがとう。さっきから聴取だのなんだのでずっと質問責めのしゃべりっぱなしで喉が痛かったんだ」
 邦治は真琴から紙パックを受け取ると、遠慮なくのみ始める。
「それで、ちょっと聞きたいんですけど……」
「なに? ジュースのお礼に答えるよ……」
「はい、僕が聞きたいのは今日のスケジュールなんですけど、鳥羽さんは聞いてましたか?」
「いや、それが今日は本当に初めてでさ、石塚さんから指示受けるとか聞いてたんだけど、なんか磯川さんの指示待ちになったんだ」
「そうですか。幕間の準備とかは全部磯川さんが?」
「ああ、平木さんだっけ? あの人は特に打ち合わせに出てなかったし、ほとんど磯川さん主導で石塚さんも俺も皆言われるまんまかな?」
 邦治はステージにから降りると、マイクのコードをまとめ始める。
「佐々木さんも?」
「佐々木? ああ、平木さんの代役の人ね。うん。最初は俺らと一緒に幕間準備みたいだったんだけど、ああなっちゃったからね。まぁ、そんなに人数必要だったわけじゃないし、あれぐらいで十分なんじゃないの? まぁ、こっちも楽にお金貰えるほうがいいけどね。今月厳しいし……」
「? えと、鳥羽さんが頼まれたのって急な話なんですか? 前からじゃなくて……」
 彼はボランティアでは無く、アルバイトらしい。だが、そうなると過剰に人員を用意する理由があるのだろうか?
「ああ、急遽人が足りないからって言われたね」
 紙パックをストローで支えていた邦治はしゅこーしゅこーと音を立てた後、握りつぶして胸ポケットにしまう。
「他には何かあるかい?」
「はい、あの……、第二幕が始まってから鳥羽さん、下手にいたんですよね」
「いや、そうなんだけど、昼食とってからだからずっとじゃないな。その後も磯川さんに譜面台もってくるように言われたし……」
 邦治はステージにから降りると、マイクのコードをまとめ始める。
 事故直後、駆けつけた真琴が見た下手の風景は、倒れた譜面台と台本の一ページ。
 だが、第三幕を開演するに当たって真琴は特に何かを準備することは……?
 紙パックをストローで支えていた邦治はしゅこーしゅこーと音を立てた後、握りつぶして胸ポケットにしまう。
「他には何かあるかい?」
「はい、あの……」
 ――そう言えば……。
「下手の小さいほうのドアが開いていたみたいですけど、覚えています?」
「ドアが開いてた? いや、知らない。見て無いけど、俺は開けてないよ」
 思い出そうと斜め上を見る邦治だが、心当たりはないらしい。彼はまとめ終えたコードを手にステージに上る。
「磯川さんが開けたのかな? でも、あの時は誰かが出て行くことも無かったはずだし、勘違いとかじゃないの?」
「いえ、僕と石塚さんで見ましたから」
「そうか。じゃあ俺が知らないだけかな?」
 本当に知らないらしく、彼は首を傾げるのみ。
「磯川さんはその時ずっと……」
「えと、下手の控え室で誰かと話してたん。多分スタッフのだれかじゃないの? 聞き覚えあったし」
 けれど誰かはわからない。先ほど警察との聴取の盗み聞きの内容と同じだった。
「んで、磯川さんに譜面台を持って来いって言われて戻ってきたらって訳さ……。正直嫌なもの見ちまったよ……」
 肩をすくめる仕草から、見た目のわりに幼い感じの印象を受ける。
「その時って、他に誰か居ました?」
「いや? 多分、叫んだと思うけど、特に誰か来たってことは無いな。控え室に居たのならぎりぎりで聞こえたとおもうんだけど……」
「で、すぐに見に行ったんですか?」
「いや、なんか誰かいるような気がしてすぐには行かなかったんだ」
「でも、周りを見ても誰もいない……」
「ああ、くまなくってわけじゃないが、人が隠れられるような場所なんて無いし、少し落ち着いたところで階段降りたよ。……ただ」
「ただ?」
「生きてるって感じはしなかった……」
 眉を顰める邦治は思い出したくない場面が脳裏をよぎったのだろう、頭をぶるっと震わせて頬を叩く。
「それで、磯川さんが来たのは直ぐ?」
「ああ、正直記憶が混乱してるかもしれないが、直ぐに来たと思う」
「そうですか……」
 真琴は神妙な顔つきで頷くと、邦治もそれをみてふっと笑う。
「もう聞きたいことは無いの? 探偵君」
「え? あ、そんなつもりじゃないですよ……」
「いやいや、ここまで聞いておいてそれもないよ。ま、俺は事故でいいと思うけどね……」
「それってどういう……」
 真琴が聞き返そうとしたところで邦治は何かに気がついた様子で上手側を見る。
「お、君のガールフレンド達が来たぞ? 良いの? 怒ってるみたいだけど」
 言われて振り返ると、澪が渋い顔をしてずかずかとやってくる。
「あ、澪。どうしたの?」
 平静を装う真琴の頭を澪はかるく小突く。
「どうしたのじゃないでしょ。トイレ行くって言っておいてここはどこですか? もう、心配したんだから……」
「あはは、ごめん」
「そのさ、真帆さん、結構深刻みたいだし、もう帰らせたほうがいいと思うのよ。だから真琴も……」
「僕も?」
「うん、なんかアンタのことえらく気に入ったみたいでポン助と一緒がいいんだってさ……。で、ポン助ってなに?」
 心当たりのある真琴はどう答えたものかと悩みつつ、澪に手を引かれるまま、舞台を後にした。
 それを見つめる邦治は、ふうとため息を漏らしていたが……?

続く

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