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葉月真琴の事件慕_真相_02

「……どうやってここへつれてくるの?」
「大事な話しがあるとでも言えばいいでしょう?」
「なら! ならどうやって首だけ出すって言うのよ?」
 由真は自分でも驚くほど激昂していた。理由はきっと余計なことに首を突っ込んだこの高校生よりも、周りの人員に対してなのかもしれない。
「目張りです」
「目張り?」
「本来あるはずのない目張りが扉の間にされていた。犯人は平木さんに扉の間に何か落ちていると彼に言い、彼が調べたようとして顔を扉の隙間から出したとき、挟んだ……」
「まさかそんなこと……。彼は一幕のときは私と一緒に舞台挨拶をしていたのよ? その後はずっとお客さんもいたし、休憩のときは皆で仕事してて……いったい何時ここでそんな大それたことが出来たっていうの?」
「第二幕が始まり、真帆さんにスポットライトが当たったときです」
「はっ、それこそ無茶でしょ? 皆がステージを見てるのよ? その目を盗んで出来ると本当に思うの? ばかばかしい。やっぱり子供ね……、聞いて損したわ!」
 再び激昂する由真だが、それはどこか作られた感がある。彼女は無理やり話を終えようと踵を返す。
「誰もすき好んで主演が出たのに舞台袖なんか見ませんよ。たとえ見たとしても、ものの数分です。何が起こったなんて誰も気にしません。せいぜいスタッフが何か作業している程度にしか思いませんよ」
 だが真琴は追いすがり、そして追い詰める。
「……そう。なら仮にそうだとして、その死体はどこに? 鳥羽さんがここに待機していたのよ? 彼に気付かれたらどうするの? まさか控え室にでも隠したっていうの? 誰が来るかもわからないのに? それともまた通路? 死体なら立って壁にへばりつくなんてできないし、舞台を見ていたなんていい訳出来ないわよね?」
「いえ、死体を隠したのは扉の裏です」
「扉? 扉で殺して扉に隠したの?」
「ええ。隠したのは小さい扉です。開くとスペースができるんです。平木さんの死体を隠ぐらいの隙間がね」
「でも、気付かれたら……そうね。本番中にわざわざ隅っこを注視する人はいないわね……」
「はい。そして、犯人は鳥羽さんが一旦上手へと移動したのを見計らい、その間に死体を事故に見せかけようとした。しかし、鳥羽さんが思いの他早く戻って来そうだったので、犯人は先ほどの行動を取った」
「そして鳥羽君が来たとき、都合よく落下したと……」
「ええ、多分この犯人はそこまで計画的に行動していたわけじゃないと思います」
「ふうん。君はそう思うんだ。でも、それは君の推測でしょ? どうして本番中にドアが開いていたと思うの?」
「石川さんが言ってたんです。ドアが開いてるから音がおかしいんじゃないかって……。僕、一度舞台から見ました。けど、その時はわかりませんでした。ただ、真帆さんのファンが盗撮をしていて、その時たまたま澪の……いえ、下手にカメラが向くことがあって、しっかりと通路の明かりまで映っていたんです……」
 余計なことを思い出してしまうも、邪念を振り払って続ける。
「……なるほど。そうなんだ……」
 由真も反論すべく言葉が無く、口ごもる。
「……でも、そんなことが出来る人なんて居るの?」
「はい」
「……それは?」
「貴女です」
 確信に満ちた真琴の声に、由真自身予測していたのかそれほど驚きもない。
「……私はその時、控え室で打ち合わせをしていたわ。変なことができると思う?」
「いえ、そのときの控え室は貴女一人です」
「どうして? 鳥羽さんも私が誰かと話しているところを聞いているはずよ? まさか私が男の人の声も出していたとでもいうの?」
「では誰と話していたんですか?」
「えと、それは……ごめん、よく思い出せないわ……。今日はたくさんの人と打ち合わせなり挨拶したし……」
「テープですよね?」
「……」
「鳥羽さんが聞いたのは貴女とテープ、赤坂さんのウォークマンを再生して会話のフリをしたんです。巻き戻しをされていなかったから気付きました」
「ふうん。なるほどね……それなら確かにそうかもしれないわ……。でも、私が犯人だって言うには証拠みたいなものとかあるの?」
「はい、それは貴女が今ももっています」
「私が?」
 行動のおおよそを看破された由真だが、彼の指摘には首を傾げる。そして手から垂れる雑巾を見つめ、「あっ」と小さく呟く。
「平木さんはここで首を挟まれて殺されました。その痕跡は目には見えにくいですが、探せば確実に出てきます。その時、どうしてここに一郎さんの皮脂や血液が付着しているのか見つかれば……、事故としてすんなり処理することはできません」
「ふっ……ふふ……、今こうして証拠隠滅をしていたのに、逆に君の推理の決め手になったのね。皮肉なものね……」
 今彼女が雑巾をバケツの中に入れたら、もしかしたら隠滅を完遂できるのかもしれない。けれど、彼に看破された以上、そして論破されたことを彼女自身認めたせいか、それも意味が無い。
「そもそも手すりよりもドアの間を入念に拭くなんてありえません」
「あはっ、変なところ見られちゃった……。たいした名探偵君ね……葉月君は……」
 雑巾で顔を拭うようにする由真は乾いた笑いを漏らす。
「……」
「それで? 私はどうすればいい? 警察官ならまだ警備室に居ると思うけど……」
 力なく壁にもたれかかり、雑巾を床に投げ捨てる。真琴はそれを拾うことはせず、ただ彼女を見つめて口を開いた。
「いえ、自首をしてください……」
「自首ねぇ……嫌よ……。自首するくらいなら面倒な手順で彼を殺したりしないわ……」
 またも笑い出しそうになる由真。とはいうものの、彼の推論は状況から起こりえることを並べただけに過ぎず、彼女の言うとおり、決め手になれど証拠にならない雑巾があるだけだった。
「僕にできるのはそれだけです……」
「逃げるかもよ?」
 由真は膝を抱えながら面白そうに呟く。その選択時、探偵がどう対処するのか、それをからかうかのように。
「この殺人が上手くいった理由なんですが、それは多分、平木さんのおかげです」
「おかげ? バカなこと……。なんで自分が殺されるのに、おかげなの?」
「もし、彼が首を挟まれたときに悲鳴を上げていたら?」
「それは……」
「多分事故として処理されるでしょうね。一郎さんの不幸な事故。犯人である貴女はせいぜい業務上過失致死。明確な殺人の意図は見られず、『事故』でしかありません。でも、舞台は失敗に終る可能性が大きいです。平木さん、この舞台を成功させたいがために、おそらく悲鳴を上げなかったんだと思います……」
「ふ、っふは、あはは……はは、何? 君は、一郎は自分の命と舞台を天秤にかけて、それでも舞台を取るっていうの? ありえない。バカじゃない?」
「それは多分、貴女が一番知っていると思います……」
「貴方に何がわかるっていうの! 大人をからかうのもいい加減になさい!」
 本日二度目の彼女の真の激昂は、真琴の右頬を張る。
 小気味の良い音がして、真琴の右頬に赤い痕が残る。
「すみません……」
 彼は視線を逸らし、非礼を詫びる。だが、彼が一番伝えたかったこと、それは推論が導き出した知人の想い。
「……んぅん。そうね……、君の言うとおりね……。うん。そう。それが一番悔しかったのかもしれないわ……」
 由真は彼の肩を力なくかわすと、そのまま上手への通路へと歩みだす。
「磯川さん?」
「心配しないで、荷物を取りに行くだけ……。大丈夫。反省して自殺なんてしないわ」
 おそらくきっと彼女は……。

続く

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