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葉月真琴の事件簿if_06

 非常口から上手へ上がるには非常階段を通るのが近道。だが、気になることがあった。
 それが何なのかは引っかかり程度でしかないが、それでも澪は自分の直感を信じ、ロビーへと移動した。

:-:

 ――ここをまっすぐ行けば……。
「こら!」
 二階のロビーを移動していた澪の背後から、怒鳴り声が聞こえた。
 振り返ると、青い警備服に身を包んだおじいさんがやってくる。
「どっから入った! ここは勝手に入ってこられたら困るんだ!」
「あ、あの、すみません……えと、その……、そうだ! あの、一緒に来てもらえますか?」
「なにを言ってる! まず君が警備室に……」
 警備員は澪の腕を掴むと、強引に今来た道を引き返そうとする。
「えと、それで友達が今このホールに居るみたいで、不安なんで一緒に来てもらえますか?」
 警備員はためらう様子を見せるが、険しい顔をしつつ頷く。
「さっきからちょろちょろ誰か居るとは思ったが、お前さんの友達か……。どこから入ってきたんだ? 今どこにいるんだ?」
「えと、非常口からなんですけど、今上手の控え室に居るってメールがあって」
「上手か……。あそこは監視カメラが無いからな……。よしわかった。だがその前に、お前さんに警備室に……」
「ここに殺人鬼がいるんです!」
 今警備室に連れて行かれては困ると、澪は叫ぶ。すると、警備員は面食らい、手を離してしまう。
「ごめんなさい、急ぐんで!」
 澪は警備員を振り切ると、急いで上手へと向かう。
「さ、殺人鬼!? って、おい、待ちなさい!」
 警備員も逃がすわけにはいかないと、必死に追いかけてくる。
 むしろそれは澪にとっても都合が良く……。

:-:

 上手のドアを開けると、何か衣擦れのような音がした。
「んぐぅ! ぐぅ!」
 そして続くくぐもった悲鳴。
 まさか既に犯人に二人が襲われたのかと、澪は身構える。
 練習後ゆえ、バットも持っている。澪はバットを取り出し、もし何か出てきたら、これで一撃お見舞いしてやると、力強く握り締める。
「誰、出てきなさいよ!」
 そう叫ぶと、不意に舞台へのドアがノックされる。澪は恐る恐る近づき、窓から舞台を見る。
「いっ!?」
 そこには見知った女性が一人、半裸で椅子に縛り付けられていた。
 ――あれってえっと、誰だっけ……。
 必死に思い出そうとする澪だが、背後に気配を感じて振り向く。
「誰!」
 いつのまに現れたのか、チェックのシャツとジーパン姿、厚い眼鏡をした小太りの男がニヤ付いた顔で立っていた。
「こなくそ!」
 澪はバットを槍のように突き出し、牽制する。
「うお、あぶね! 何しやがるんだ!」
「アンタこそ! いったここで何をしてるのよ!」
 澪は背中を壁に預けたまま、バットを構える。
 狭い通路、正直リーチの短いバットでは心もとない。だが、男も痛みに怯えているのか、彼女の出方を伺っているのがわかる。
「おいタクちゃん、まだ掴まんねーの?」
「だってこいつ、バット振り回してやがるんだ!」
 さらに別の男の声がした。
 ますます不利になる状況に、澪は自然と手が震える。まるで初スタメンのバッターボックスのような緊張感だ。
「バット? まじやべえな。いいよ、これ使えって!」
 男に何かが手渡されるのが見えた。シルエットからそれがモップだとわかるが、リーチだけならバットよりも優れている。
 特に奥まった一本道であり、澪は一転窮地に陥る。
「そらそら!」
 男はモップで澪を突いてくるが、彼女はそれをすんでのところでなぎ払う。
 だが、それもいつまでもつだろうか? 今の彼女は部活後であり、相手は複数。単純な体力勝負になれば、それは……。
「こらあああ!!!」
 緊張の最中、竹を破るような叫び声がとどろく。
「げぇ!」
「ぐあ!」
 そして続く悲鳴。暗がりのせいでよく見えないが、次々と男達が倒されていくのが見え、そして澪に迫っていた男にも……。
「まま、待って、待って、助けて……」
 怯む男だが、後ろにはしっかりと澪が居り……、
「それはこっちの台詞だ!」
 澪はバットで思い切り男のお尻を叩いた……。

――**――

 痛みに呻く男達のズボンを脱がせ、それを使ってふんじばる。
 警備員はおおとりものに興奮しているのか、まるで時代劇のように「大人しく縛につけ」と叫ぶ。澪も目のやり場に注意しながらそれを手伝う。
 ――そうだ……、二人は!
 舞台で辱めを受けていた久美を救い出したあと、澪は携帯で二人に電話を掛ける。
 すると控え室から着信音が響く。
「梓、真帆!」
 澪は扉をぶち破る勢いで開け放ち、電気をつける。
「んー、んー!」
 そこには私服姿で猿轡をされた梓と真帆が座っていた。
「二人とも、大丈夫だった?」
 澪は急いで二人の戒めを解くと、二人はほっと息を吐く。
「はぁ……助かった……ありがとう澪……」
「うう、怖かったよぉ……」
 ぐずつく真帆と苦虫を噛む梓。二人は暫く縛られていたらしく、また恐怖のせいか直ぐには立てそうに無い。
「一体なにがあったの?」
「うん、それが襲われて、ここに連れ込まれて縛られたのよ」
「もう、なんでこんなことしたのよ……」
「だって、だって先生のこと……殺した犯人を捕まえたくて……」
「だからって真帆が捕まっても意味が無いでしょ? で、やっぱりこれは……」
「うん。罠だった……」
「だから言ったのに……」
 ただ、澪としては彼女達を戒める言葉を放った覚えは無かった……。

:-:

 その後、警察が来て前園猛他五名は警察へ連行された。
 澪達も簡単な事情聴取と警備員からのお叱りを受けた後、開放された。
 澪が不審に思ったこと。
 それは梓のメールの一人称。
 彼女は常に『私』のはずが、メールでは『あたし』になっていた。
 久美もまた例の手紙を受けており、同様に呼び出されたらしい。そして猛達に捕まり、辱めを受けたのだった。
 猛達はここへ真帆が来ると聞いて待っていただけだというが、久美を襲い縛り付けたこと、二人を控え室に監禁したことからそのいい訳も通りそうに無い。
 ただ、手紙の件について彼らは一様に否認しており、事故に関しては未だ闇の中だ。

:-:

『澪、心配したんだよ……。もう、僕にも連絡してよ』
 六月の第二週、日曜日、午後。
 携帯を充電すると、ソフトボール部の面々と幼馴染から着信があった。
 言い訳を考えながらいると、真琴から電話が掛かってきたのだ。
「何言ってるのよ。アンタが居たって何も出来ないでしょ?」
『けど、もし澪になにかあったら……』
 電話の向こうでは今にも泣き出しそうな真琴がいるが、それが妙に心地よい。
 最近生意気になった幼馴染に、その立場というべきものを理解させるには都合がよかった。
「何かあったらどうなのよ?」
『僕……、僕……』
 言葉を詰まらせる真琴に、澪も少し苛めすぎたと反省し、
「ほらほら、なかないで。で、今日の試合どうだった?」
 話題を変えてあげる。
『え? ああ、うん、桜蘭高校が二対一で負けたよ』
「はぁ……やっぱりあたしが居ないとダメね」
『みんな心配してるよ……』
「うん、まあ、そうね。ちょっと事情が事情だったし……、明日皆に謝っておかないとね」
 昨日は真帆が怯えるため、梓と共に彼女の家に泊まったのだ。母にも「ちょっと友達のところに泊まるから」とメールをしていたが、真琴にはすっかり忘れていた。
『澪、早く帰ってきてね』
「帰ってって、別にあたしはあたしの家に帰るわよ」
『そうだけど……』
「はいはい、それじゃあね……」
 澪は電話を切る。しかし、直ぐにまた別の電話番号から着信があり……、
「はい、澪だけど……」
『こら澪ちゃん! どこに行っていたの! 真琴君の家にいるなんて嘘ついて! 早く帰ってらっしゃい!』
 ――げ、お母さんだ……。
 母のけたたましい声に圧倒される澪。彼女としてはなかなか珍しい武勇伝を作ってしまったわけだが、母にあってそれは心配の種でしかない。せめて真琴が余計なことを言わなければと思いつつ、
「ごめんなさい、ごめんなさい! もう、ゆるしてよ、おかあさんってばあ!」
 平謝りに終始するのであった……。

香川澪の武勇伝 ~欅ホール捕り物帳~
『泣く子と母には適わない』 完

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