日も沈みかけていたこともあり、ルドマンの誘いでオラクルベリーの宿へ泊まることとなった。やはりルドマンはパパスに用があるらしく、リョカが布団を深く被った頃に部屋を出て行った。
そしてリョカも久しぶりの陸地での夜を満喫するため、イエティの数を数え始めるのだが……。
「……起きて、ねえ、リョカ……」
ドアがノックされると同時に開く。そこには例の赤髪の女の子がおり、さらに青髪の女の子もいた。
「どうしたの? おしっこ?」
「ちが! どうしてあたしがおしっこにいくのにあんたを呼ぶのよ!」
「だって、船ではよく……」
「まあ、姉さまったらようやく一人で行けるようになったと思ったら、リョカ君を……」
「うっさい! ばかばか! もう、フローラに知られちゃったじゃないの!」
手近にあった枕でばしばし叩かれるリョカ。痛みはさほどではないが、毛羽立つ埃で目が痛い。
「ご、ごめんなさい。で、それで何のよう?」
「あ、それで……あのさ、昨日フローラが言ってたこと覚えてる? 誰かが居るって……」
「誰か? どこに?」
「船に誰かが居たのよ。私達と同じくらいの子がさ!」
「そうなの?」
「見たわけじゃないんだけど、その、あたしにも聞こえたのよ。ここがオラクルベリーかって……」
「大人じゃなくて?」
「違う。あれは子供……っていうほどじゃないけど、ぜったい大人じゃないの……」
「ん~。そうなんだ……でももう船を下りちゃったし、探すにしても無理じゃないかな?」
サントフィリップ号が港に来てすでに数時間経っていることを考えればリョカの言い分が正しい。それに関してはデボラも否定するつもりはないらしい。だが……、
「それがさ、あたしの部屋。まだ使ってないコップが濡れてたり、お菓子が一人分なかったりして……多分誰かいるのよ……」
「? つまみ食いじゃなくて?」
「あんたじゃないの!」
ガツンとこぶしが降り注ぐ。
「ごごご……。で、でもそれでも逃げちゃってるとか……」
「それがね、そいつはすごい間抜けみたいで、お菓子をぼろぼろ零しながら逃げてるのよ……だからそれを辿れば……」
「ふうん。なるほど」
「いまからソイツを捕まえてぎゃふんて言わせるの。来るわよね」
「……うん」
一瞬思案するリョカは二人を外に出してから普段着に着替え、そして道具袋の中から……。
**――**
点々とこぼれているお菓子のカス。それは街の外へと続いており、塀の外へと出て行ったらしい。
「この塀を越えたのかしら?」
「多分ね……。どうする? 遠回りする?」
「そうね……。早くしないと逃げられちゃうわ」
「でも姉さま、私達子供だけで外に出してもらえるかしら? 街の外は少ないとはいえ魔物がいるのでしょう?」
「うん。だから急いだほうがいいんだ」
身震いするフローラに対し、リョカは生真面目な様子で言う。
「なんで?」
「だって、もしその子が本当に子供だったら危険じゃないか。デボラさんとフローラさんは父さんを呼んできてよ。僕がその子を追う」
「アンタ一人で? ふざけないでよ。そんなこと……」
「大丈夫。危ないって思ったらすぐに逃げるから……。それにぐずぐずしてたら多分その子もお菓子を食べ終えちゃう。そしたら追いかける方法がなくなるよ」
「そ……そうね……それじゃあ任せる……わ。行きましょ、フローラ……」
「でも姉さま……」
「いいから……」
デボラに急かされフローラは元来た道を戻る。その背後では塀をひらりと乗り越えるリョカの姿が見えた……。
**――**
――このあたしがなんで小魚の言うことを聞いてるの?
宿に戻る途中、デボラは先ほどのやり取りを反芻していた。
これまでいいようにあしらっていたはずの年下の男の子。それが急に怖い……とは違う、畏れとも違う、抗うことの出来ない圧力を持っていた。
冷静になればなるほどそれが信じられず、また悔しくなる。
それが彼女の足を止めた。
「姉さん!?」
後ろを走っているはずの姉の足音が途切れたことにフローラも立ち止まる。
「フローラ、貴女だけ行きなさい。あたしはリョカを追うわ!」
そして姉の号令に、フローラはただ従ってしまう。
――待ってなさい。あんたなんかの言うこと、聞いてあげないんだから!
デボラは踵を返し、街のはずれへと走った。
**――**
「……ここら辺かな?」
食べかすを辿ってきたリョカだが、月明かりだけで探すことが難しくなっていた。
だが、オラクルベリーの周辺に森はなく、あるのは見渡しのよい平原とブッシュだけ。
リョカは携えてきた道具袋からブーメランを取り出し、瓶に入っていた聖水を自身に掛ける。
ハッカのような香りが身体を包み、服がびしょりと濡れて不快感を出す。
「そこ!」
ブッシュに紛れて何かが走った。それを目視するや否や、リョカは手にしていたブーメランを低い軌道で投げる。
「ピギー」
何かやわらかいものを打ち砕くと、それははじけて草原に消える。おそらくゲル状生命体だろう。それらは草原のブッシュ近くに集まっており、何かを執拗に攻撃しているように見える。
「スライムだけならいいけど……」
父との旅はけして安全なものとはいえない。百戦錬磨の父の背中に居たリョカだが、見よう見まねで魔物との戦い方を覚えてきた。
最近では下級モンスターならば父の手を借りることなく倒すなり追い払うことができるようになっていた。それが今回の一人での追走劇をさせた。
もし誰かが危機にあるのならそれを助けたい。それは表向きであり、本当は父に自分の姿を見てもらいたいという子供ながらのプライドからだ。
「なにすん。おれをなんだとおもってるんだ!」
そして聞こえてきた声。それは確かに子供の声だった。
「まずい! 伏せて!」
リョカは魔物の集まっているブッシュにブーメランを放つ。そしてさらに道具袋の中から銅製の剣を取り出し、切り込む!
「うああああああ!」
誰かを襲う魔物どもはスライムと木槌を持った毛むくじゃらの小人のみ。リョカでも対処できるであろう存在だった。
「ぎぃ! ぎぎぃ!」
木槌を持ったブラウニーは突然の攻撃に防戦一方であり、戻ってきたブーメランが後頭部にぶつかったのをきっかけに逃げていく。
スライムどもはリーダー格であろうブラウニーの逃走に劣勢を読み取り、そのまま逃走する。
「ふう、追い払えたか……。さ、君大丈夫?」
一息つく暇もなくリョカはブッシュに倒れているであろう誰かに声をかける。しかし、そこに居たのは一匹の赤い羽根トカゲ、前にメラリザードと呼ばれた魔物を見たことがあるが、それによく似た魔物であった。
「モンスター?」
「だだだれがモンスターじゃい! だれが……。俺がモンスターに見えるか!?」
リョカの疑問符にそのトカゲはきっと顔を上げ、早口で捲くし立てる。
「見える……けど……しゃべった!?」
「おう、しゃべっちゃ悪いか!」
「いや、いいけど、でも魔物がしゃべるなんて……聞いたこと無い……」
「おうおうアホかい坊主。いいか? 言葉しゃべる魔物なんてこの世界いくらでもおるで? ま、上級な魔物じゃないとむりじゃけんどな……。つまり俺様は上級な魔物……って、俺は魔物じゃないわい!」
「でも、君はメラリザード」
「アホ! 俺をそんなちんけな火トカゲと一緒にすんな! 俺は……えっと……なんだっけ?」
「だから、メラリザード」
「ちがわいどあほ!」
「けど、魔物なら……」
言葉がしゃべられることに気を許していたリョカだが、ソレが魔物である以上、見過ごすわけにはいかない。彼はブーメランを拾い、銅の剣を構える。
「いやいやいや、だから……そうだな……そうだ! 俺はドラゴンだ!」
「ドラゴンならやっぱり魔物……」
「違う。そうじゃない……もっと高級というか、存在自体が別の何か……」
「けど……」
警戒を怠らないリョカは剣を握る手に力をこめる。
「リョカー!」
するとそこにデボラの声が届く。だが、彼女一人。父の姿が見えない。
「デボラさん。父さんは?」
「アンタが心配だから来てあげたのよ。もう……それで、どれがお菓子泥棒?」
デボラはとりあえず一発リョカを小突くと、ソレと粉砕されたスライムの残骸を見つめる。
「どれってあんた……!? そうだ、思い出した! 俺はシドレーだ!」
「シドレー? 聞いたことの無い魔物だけど、やっぱり……」
「違う、違う、俺の名前だ。シドレー……下の名前は忘れたけど……、俺は魔物じゃない。けど、お前らのような人間とも違うんだ……」
「なに? これ?」
「だから、シ・ド・レー!」
「シドレー? よくわからないけど、魔物じゃない証拠にはならない」
「そうね」
シドレーを睨む二人の顔が険しくなる。対しシドレーは両手をぶんぶんと振りながら弁解しようと必死。
「おいおい、魔物がなんで魔物の襲われるんだよ! そんなことありえんでしょ?」
「でも、人間だって時と場合によっては人間を襲うわ。悲しいけど……」
「いやいや、ほら、人間の言葉しゃべるし……」
「つまり、シドレーっていう種族は高級な魔物ってわけでしょ? ならやっぱり……」
「そんな、俺が高級な魔物に見えます? ほら、そこいらの雑貨屋でせいぜい三千ゴールドの値打ちにもならんって。そうね、値引きされて三百ゴールドくらいかもよ……」
驚くほど卑屈になるシドレーに堪えきれず噴出す二人。リョカは暫くわらった後、道具袋から薬草を取り出し、シドレーに勧める。
「使い方はわかるだろ? それをあげるからこれからはお菓子泥棒なんかしちゃだめだよ?」
「お菓子泥棒って、俺はそんなこともぐもぐ……」
差し出された薬草の一部を頬張りながら「まずい」と呟くシドレー。
「そういえばコイツにお菓子を盗まれたのよね……? けど、コイツならここまで逃げる必要あるかしら? だって飛べるんでしょ? 屋根の上なら誰も……」
ふと気付くデボラにリョカもはっとなる。そして一瞬シドレーが頬を膨らませたと思うと、燃え盛る火炎を二人に向かって吐き出す。
「デボラ! 危ない!」
リョカは咄嗟にデボラの頭を抱きしめながら草原にダイブする。その間もシドレーは炎を吐く。
続く
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「どうしたの? おしっこ?」
「ちが! どうしてあたしがおしっこにいくのにあんたを呼ぶのよ!」
「だって、船ではよく……」
「まあ、姉さまったらようやく一人で行けるようになったと思ったら、リョカ君を……」
「うっさい! ばかばか! もう、フローラに知られちゃったじゃないの!」
手近にあった枕でばしばし叩かれるリョカ。痛みはさほどではないが、毛羽立つ埃で目が痛い。
「ご、ごめんなさい。で、それで何のよう?」
「あ、それで……あのさ、昨日フローラが言ってたこと覚えてる? 誰かが居るって……」
「誰か? どこに?」
「船に誰かが居たのよ。私達と同じくらいの子がさ!」
「そうなの?」
「見たわけじゃないんだけど、その、あたしにも聞こえたのよ。ここがオラクルベリーかって……」
「大人じゃなくて?」
「違う。あれは子供……っていうほどじゃないけど、ぜったい大人じゃないの……」
「ん~。そうなんだ……でももう船を下りちゃったし、探すにしても無理じゃないかな?」
サントフィリップ号が港に来てすでに数時間経っていることを考えればリョカの言い分が正しい。それに関してはデボラも否定するつもりはないらしい。だが……、
「それがさ、あたしの部屋。まだ使ってないコップが濡れてたり、お菓子が一人分なかったりして……多分誰かいるのよ……」
「? つまみ食いじゃなくて?」
「あんたじゃないの!」
ガツンとこぶしが降り注ぐ。
「ごごご……。で、でもそれでも逃げちゃってるとか……」
「それがね、そいつはすごい間抜けみたいで、お菓子をぼろぼろ零しながら逃げてるのよ……だからそれを辿れば……」
「ふうん。なるほど」
「いまからソイツを捕まえてぎゃふんて言わせるの。来るわよね」
「……うん」
一瞬思案するリョカは二人を外に出してから普段着に着替え、そして道具袋の中から……。
**――**
点々とこぼれているお菓子のカス。それは街の外へと続いており、塀の外へと出て行ったらしい。
「この塀を越えたのかしら?」
「多分ね……。どうする? 遠回りする?」
「そうね……。早くしないと逃げられちゃうわ」
「でも姉さま、私達子供だけで外に出してもらえるかしら? 街の外は少ないとはいえ魔物がいるのでしょう?」
「うん。だから急いだほうがいいんだ」
身震いするフローラに対し、リョカは生真面目な様子で言う。
「なんで?」
「だって、もしその子が本当に子供だったら危険じゃないか。デボラさんとフローラさんは父さんを呼んできてよ。僕がその子を追う」
「アンタ一人で? ふざけないでよ。そんなこと……」
「大丈夫。危ないって思ったらすぐに逃げるから……。それにぐずぐずしてたら多分その子もお菓子を食べ終えちゃう。そしたら追いかける方法がなくなるよ」
「そ……そうね……それじゃあ任せる……わ。行きましょ、フローラ……」
「でも姉さま……」
「いいから……」
デボラに急かされフローラは元来た道を戻る。その背後では塀をひらりと乗り越えるリョカの姿が見えた……。
**――**
――このあたしがなんで小魚の言うことを聞いてるの?
宿に戻る途中、デボラは先ほどのやり取りを反芻していた。
これまでいいようにあしらっていたはずの年下の男の子。それが急に怖い……とは違う、畏れとも違う、抗うことの出来ない圧力を持っていた。
冷静になればなるほどそれが信じられず、また悔しくなる。
それが彼女の足を止めた。
「姉さん!?」
後ろを走っているはずの姉の足音が途切れたことにフローラも立ち止まる。
「フローラ、貴女だけ行きなさい。あたしはリョカを追うわ!」
そして姉の号令に、フローラはただ従ってしまう。
――待ってなさい。あんたなんかの言うこと、聞いてあげないんだから!
デボラは踵を返し、街のはずれへと走った。
**――**
「……ここら辺かな?」
食べかすを辿ってきたリョカだが、月明かりだけで探すことが難しくなっていた。
だが、オラクルベリーの周辺に森はなく、あるのは見渡しのよい平原とブッシュだけ。
リョカは携えてきた道具袋からブーメランを取り出し、瓶に入っていた聖水を自身に掛ける。
ハッカのような香りが身体を包み、服がびしょりと濡れて不快感を出す。
「そこ!」
ブッシュに紛れて何かが走った。それを目視するや否や、リョカは手にしていたブーメランを低い軌道で投げる。
「ピギー」
何かやわらかいものを打ち砕くと、それははじけて草原に消える。おそらくゲル状生命体だろう。それらは草原のブッシュ近くに集まっており、何かを執拗に攻撃しているように見える。
「スライムだけならいいけど……」
父との旅はけして安全なものとはいえない。百戦錬磨の父の背中に居たリョカだが、見よう見まねで魔物との戦い方を覚えてきた。
最近では下級モンスターならば父の手を借りることなく倒すなり追い払うことができるようになっていた。それが今回の一人での追走劇をさせた。
もし誰かが危機にあるのならそれを助けたい。それは表向きであり、本当は父に自分の姿を見てもらいたいという子供ながらのプライドからだ。
「なにすん。おれをなんだとおもってるんだ!」
そして聞こえてきた声。それは確かに子供の声だった。
「まずい! 伏せて!」
リョカは魔物の集まっているブッシュにブーメランを放つ。そしてさらに道具袋の中から銅製の剣を取り出し、切り込む!
「うああああああ!」
誰かを襲う魔物どもはスライムと木槌を持った毛むくじゃらの小人のみ。リョカでも対処できるであろう存在だった。
「ぎぃ! ぎぎぃ!」
木槌を持ったブラウニーは突然の攻撃に防戦一方であり、戻ってきたブーメランが後頭部にぶつかったのをきっかけに逃げていく。
スライムどもはリーダー格であろうブラウニーの逃走に劣勢を読み取り、そのまま逃走する。
「ふう、追い払えたか……。さ、君大丈夫?」
一息つく暇もなくリョカはブッシュに倒れているであろう誰かに声をかける。しかし、そこに居たのは一匹の赤い羽根トカゲ、前にメラリザードと呼ばれた魔物を見たことがあるが、それによく似た魔物であった。
「モンスター?」
「だだだれがモンスターじゃい! だれが……。俺がモンスターに見えるか!?」
リョカの疑問符にそのトカゲはきっと顔を上げ、早口で捲くし立てる。
「見える……けど……しゃべった!?」
「おう、しゃべっちゃ悪いか!」
「いや、いいけど、でも魔物がしゃべるなんて……聞いたこと無い……」
「おうおうアホかい坊主。いいか? 言葉しゃべる魔物なんてこの世界いくらでもおるで? ま、上級な魔物じゃないとむりじゃけんどな……。つまり俺様は上級な魔物……って、俺は魔物じゃないわい!」
「でも、君はメラリザード」
「アホ! 俺をそんなちんけな火トカゲと一緒にすんな! 俺は……えっと……なんだっけ?」
「だから、メラリザード」
「ちがわいどあほ!」
「けど、魔物なら……」
言葉がしゃべられることに気を許していたリョカだが、ソレが魔物である以上、見過ごすわけにはいかない。彼はブーメランを拾い、銅の剣を構える。
「いやいやいや、だから……そうだな……そうだ! 俺はドラゴンだ!」
「ドラゴンならやっぱり魔物……」
「違う。そうじゃない……もっと高級というか、存在自体が別の何か……」
「けど……」
警戒を怠らないリョカは剣を握る手に力をこめる。
「リョカー!」
するとそこにデボラの声が届く。だが、彼女一人。父の姿が見えない。
「デボラさん。父さんは?」
「アンタが心配だから来てあげたのよ。もう……それで、どれがお菓子泥棒?」
デボラはとりあえず一発リョカを小突くと、ソレと粉砕されたスライムの残骸を見つめる。
「どれってあんた……!? そうだ、思い出した! 俺はシドレーだ!」
「シドレー? 聞いたことの無い魔物だけど、やっぱり……」
「違う、違う、俺の名前だ。シドレー……下の名前は忘れたけど……、俺は魔物じゃない。けど、お前らのような人間とも違うんだ……」
「なに? これ?」
「だから、シ・ド・レー!」
「シドレー? よくわからないけど、魔物じゃない証拠にはならない」
「そうね」
シドレーを睨む二人の顔が険しくなる。対しシドレーは両手をぶんぶんと振りながら弁解しようと必死。
「おいおい、魔物がなんで魔物の襲われるんだよ! そんなことありえんでしょ?」
「でも、人間だって時と場合によっては人間を襲うわ。悲しいけど……」
「いやいや、ほら、人間の言葉しゃべるし……」
「つまり、シドレーっていう種族は高級な魔物ってわけでしょ? ならやっぱり……」
「そんな、俺が高級な魔物に見えます? ほら、そこいらの雑貨屋でせいぜい三千ゴールドの値打ちにもならんって。そうね、値引きされて三百ゴールドくらいかもよ……」
驚くほど卑屈になるシドレーに堪えきれず噴出す二人。リョカは暫くわらった後、道具袋から薬草を取り出し、シドレーに勧める。
「使い方はわかるだろ? それをあげるからこれからはお菓子泥棒なんかしちゃだめだよ?」
「お菓子泥棒って、俺はそんなこともぐもぐ……」
差し出された薬草の一部を頬張りながら「まずい」と呟くシドレー。
「そういえばコイツにお菓子を盗まれたのよね……? けど、コイツならここまで逃げる必要あるかしら? だって飛べるんでしょ? 屋根の上なら誰も……」
ふと気付くデボラにリョカもはっとなる。そして一瞬シドレーが頬を膨らませたと思うと、燃え盛る火炎を二人に向かって吐き出す。
「デボラ! 危ない!」
リョカは咄嗟にデボラの頭を抱きしめながら草原にダイブする。その間もシドレーは炎を吐く。
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