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幼年編_オラクルベリーの草原で……。その3

「やっぱりコイツ危険な魔物!」
 リョカに抱きしめられながら呟くデボラ。
「いや、違う。囲まれてる。山賊ウルフだ」
 リョカがそう言うのでデボラも目を凝らす。すると四足が音もなく彼らを囲んでおり、リーダー格の一匹――眼帯をしているのが立ち上がるのを合図に皆二足になる。
 そして金属の滑る音と月明かりに浮かぶ半月の剣。
「まずいで坊主。こいつら意外と強い。さっきの雑魚とじゃ比べものにならない」
 状況からシドレーは彼らを敵とみなしており、続く炎を吐こうと再び頬を張る。
「シドレー、君は空を飛べるんじゃないの? 逃げれば……」
「アホ言うな。坊主には薬草の借りがあるし、それにそんなに力ないっての……」
「そう。それは残念だね……」
 リョカはデボラを背後にしながら剣を構える。
 次の瞬間、一匹目が走ってきた。
「コオオォォォッ!」
 唸り声を上げて走ってくる山賊ウルフ。リョカはブーメランを投げつけるも弾かれる。
「断!」
「きゃあ!」
 そして強い一撃が振り下ろされる……もなんとか受けきるリョカ。
「そりゃ不用意ってやつだろ! カァァッ!」
 リョカをしとめそこなった一匹に近距離で炎を浴びせるシドレー。見る見るうちに火達磨になるも、囲う魔物達は怯む様子を見せない。
「坊主、正直なところ、俺もそんなに炎をはけない」
「坊主じゃない、リョカだ……リョカ・ハイヴァニア……」
「そうか、リョカか。けどな、とっておきがあるんだって……ソレ使えばなんとかなるはずだ。いいか? 俺が合図したら目瞑れよ……」
「ああ、でも本当に信じていいの?」
「そうさな、目を開けたら俺だけ逃げとるかもな……」
「それでもいいさ。君は魔物だろうし……」
「だから、俺は魔物じゃないっての……」
「走」
 口笛のようなものが聞こえた後、ウルフたちが駆け出す。最初の一撃で複数の攻撃を防げないということを見切っての攻勢だろう。
「目つぶれ! 行くぞ、ジゴフラッシュ!!」
 合図を共に目を瞑るリョカとデボラ。シドレーの方が急に眩しくなり、それは瞼越しにもわかるほどだ。
「よし、ええぞ、反撃だ!」
「え、逃げないの!?」
「無理言うな。今のはただの目くらましだ。逃げたところでこいつらの回復と足のほうが速いわ!」
「ああ、大丈夫、いける!」
 リョカは駆け出すと打ち落とされたブーメランを拾いまごつく群れに向かって投げる。一匹に当たるとさらによろめき別の一匹と共倒れ。その隙に銅の剣で孤立しているものをなぎ倒す。シドレーも残る炎を最大限に活かし、あれよあれよと状況を一転させる。
「活」
 だが、リーダー格は一味違うらしく、眼帯を外して片目で剣を振るう。
「おいおい、おしゃれ眼帯かよ!」
「そんなのあるの!?」
 不意を突くはずがまさかの反撃に遭い、リョカは何とかそれを受け流す。
 片目のせいでリーダーは距離感がつかめないらしく、リョカもなんとか捌ききる。
「く、強い、だけど!」
 善戦するも所詮は銅。鋼と思しき半月の剣に適うはずもなく、刃こぼれ、変形をしだす。
「ちょっとアンタ、炎は? 何か出せないの!?」
「無理ゆうな。俺だってもうガス欠だっての……てか、おじょうちゃんこそなんか魔法はないんかい!」
「魔法……魔法……そうだ……! えっと……火の精霊よ、古の契約より命ずる、我の敵を打ち崩せ、メラ!」
 最近練習を始めた初級火炎魔法の印を組むデボラ。彼女の示す指先からは勢い良く炎の塊が飛び出し、山賊の後頭部を焦がす。しかし、リーダーはそれほど意に返すことなくリョカに襲い掛かる。
「なんじゃい、あんだけやっといてメラかい……」
「しょうがないでしょ、これしか出来ないんだから!」
「けど、このまんまじゃ……」
 普段危険とはかかわりあいの無い生活をしてきたデボラにとって、メラを唱えるのが精一杯。彼女がかろうじて気を失わないのは、小ばかにしてきたリョカが奮闘しているが故だ。
「どうしよう……父さん……パパスさん!」
 無力に打ちひしがれるデボラは父の穏やかな顔とパパスの険しい顔を思い出すのみ。しかしそれが現状を打破するはずもなく……、
「ヒャダルコ!」
 女性の声だった。中級氷結魔法と同時に突如降り注ぐ氷の雨。それらはまごつく山賊ウルフを打ちのめす。
「え! え!?」
 一瞬の出来事に息を飲むデボラ。
「伏せろ、リョカさん!」
 続く男性の声。
 言われるまでもなく体力の限界であったリョカは沈み、その上を誰かが越えていく。
「ぐぅ!」
 獣の低い声と何かが砕ける音は同時だった。
「だ、誰……!?」
 パパスではない誰か。青年と呼べる年頃の男女が窮地を救ってくれたのだろうことはわかるが、突然すぎて状況がわからない。
「まったくいつ来てもピンチなんだから……」
「だからこそ記憶に残るのかもね……」
 二人は倒れたリョカを起こすと、簡単な回復魔法――ホイミを唱える。
「あ、ありがとうございます。えと、お兄さんとお姉さんは……」
「お姉さんだって! この子可愛い!」
 リョカがお礼を言うと、女性のほうが彼をぎゅっと抱きしめる。
「何が可愛いだよ。姉さんも……」
 呆れ顔の男性は短髪を掻きながらふうとため息をつく。
「アンタは可愛くない……」
 女性はリョカを抱きしめながら男を睨む。
「はいはい……、えと……デボラさんって呼べばいいかな? 怪我はありませんか?」
 面倒臭いとばかりに男は姉を無視してデボラに手をかざし、ホイミをかける。
 目立つほどではないが草で切ったらしき傷が癒えるのがわかる。
「え? あ……はい……ありがとう」
「そうですか、よかった……」
 ほっとする男はデボラを見つめていた。
 長身で短髪、端整な顔つきの男。太い眉毛と誠実そうなまっすぐな瞳。デボラの好みに近い小魚を連想させる顔なのだが、不思議と憧れを抱いても誰かに対する思いと同一のものを抱くこともなかった。
「あ、あの、苦しいです……」
 一方、女性に抱きしめられていたリョカ。その豊満な胸元は彼に窮屈さを抱かせる。
「ああ、ごめんね……。貴方があんまり可愛いから……つい……」
 そういうとようやく彼女はリョカを開放する。ただ、その表情は隙あらばスキンシップをとばかりに獲物を見つめている気がする。
 その女性、月明かりの下、金色の髪が良く風になびく。長くしなやかでしっとりとした髪。髪留めも意味がなく、前髪が何度も瞼を過ぎる。彼女はそれを掻き揚げながら、リョカの視線にしゃがんでおでこをつける。
「リョカ君……でいいかな? あんまり危ないことをしちゃいけないよ」
「はい、ごめんなさい」
 言い終えた後、足が竦む。先ほど剣を振り下ろされたときもそこまで酷くなかったというのに、今こうして無事だというのに、その恐怖を実感し始める。
「震えてるね……怖い?」
「はい……けど……」
「けど?」
「男の子は女の子を守らないといけないから……、次は怖くない」
「そう……」
 彼女は少し悲しそうにした後、リョカをもう一度抱きしめる。
「お姉さん? 誰?」
「んーん、ごめんね……さっきから……」
「いえ……」
「君にお願いがあるんだけど、いいかな?」
「え? なんでしょうか」
「君、絵を描くのが好きだよね? 君の絵を欲しがる子が居るのよ。青い髪のとっても可愛い子なんだけど……」
「とっても怒りっぽくて、ファザコンで……」
「うっさい! そこ!」
 女は無詠唱で氷の矢を放つも、男はソレを足で軽くいなす。
「その子に上げて欲しい。そうね。今日のこととかも描いてくれるかな?」
「うん。わかった」
「うふふ。素直な子って本当に可愛い……」
 笑顔になる女だが、舌なめずりをした後……。
「あっ……んっ……」
 リョカの顎にひとさし指を沿え、少しだけ顔を上げさせ、唇を重ねた……。
「あああーーー!!!」
「えええーーー!!!」
「ちょ、ま!」
 三者三様驚きかたは様々だが、それはリョカも同じ。
 初めて触れる唇。その柔らかさ。甘い香り。緊張が混乱と相成って動悸が酷い。呼吸も困難なくらい酸素が足りない。
「んふ……」
 うっとりとした様子で両頬に手をあてる女。彼女は「甘酸っぱい」と小声で言い、その余韻を楽しむかのように唇を舐める。
 デボラと男は女に詰め寄り、
「姉さん!」
「貴女!」
 シドレーは呆然とするリョカの肩に乗る。
「お前はもう男だ!」
「ぼ、ぼく……」
 子供ながらにキスという言葉は知っている。旧知の親交を表すため、頬でするのも知っている。そして唇同士でそれをする意味も……。
「ちょっとリョカ、聖水はないの!? ほら、あった! あたしの貸してあげるから早く口ゆすぎなさい! 三分以内ならノーカンだからね!」
「う、うん……」
 言われるままに嗽を始めるリョカ。
「ちょっと! 人を風邪みたいに言わないでくれる!?」
 女性はデボラに対しては強い口調で言う。
「なに言ってるのよ! いくら命の恩人でもいきなりキスするなんて非常識だわ! 恥知らずもいいところ!」
 しかしデボラも負けていない。
「まぁまぁ、デボラさん、姉さんも……」
 それを執り成す男だが……。
「「あんたは黙ってて!」」
 二人声を揃えていなされる。
「はい……」
 そして縮こまる男。
 暫く言い合いは続くわけで……。

**――**

「もう、キスぐらいいいじゃない。どうせファーストキスは私なんだし……」
「だから! あんたが今しっかりファーストキスを奪ったんでしょうが!」
 ふてくされる女にデボラは食って掛かる。まるで自分のファーストキスが奪われたかのように叫ぶが、シドレーの「ええやん、坊主のことなんだし。それとも何か許せない理由とかあるのか?」という声に収まった。
「おーいリョカー!」
 そうこうしているうちにパパスの声が聞こえてきた。そしてフローラとそれに続く衛兵達。
「あ、まずい……。ほ、ほら、行こうか……」
「はいはい……。それじゃあリョカ君。気をつけて……」
「あ、はい……。あの、お二人のお名前は……」
 何かの魔法を唱え始める女に、リョカが声を掛けると、二人は少し顔をしかめた後、
「俺はボルカノ・エバ……」
「私はそうねアニス・レイクニア」
「ボルカノさんとアニスさんだね。ありがとうございました。本当に助かりました」
「ん……んーん……」
 リョカのお礼にも二人は難しい顔。そして光が凝縮されたあと、二人の姿は空へと消えた。
「あれ……なんて魔法!?」
「ルーラだろ? 空間転移魔法の……」
 シドレーはさも当然という様子で答えるが、デボラは首を振る。
「そんな、だって、空間転移魔法は契約方法が失われているって……」
「そんなんまたつくればいいじゃん」
「あんたね。さっきから簡単に言うけど、魔法の契約ってすっごい大変なのよ! ものすごいお金が掛かるか、苦労するか、その苦労がわかって言ってるの!?」
 デボラはシドレーの首を掴むとぶんぶんと前後に降り始める。
「んなこと言われても、俺、あれを頻繁に唱える奴ら知ってるし……」
「無理に決まってるでしょ! 失われてるんだから!」
「ぐるじ~、たしけて~」
「きい! なんなのあの女! 悔しい!」
 ぶつける先の無い怒りにデボラはただシドレーを苛めるわけだが……。
「リョカ! 無事だったか……!」
「父さん!」
 ようやくやってきたパパスにリョカは走り出す。
 自分の奮闘ぶり。シドレーと共に山賊と切り結んだことを話そうと。そして、それを褒めてもらおうと……。
「馬鹿者!」
 頬に走る衝撃と、夜空に消える音。
「とう……さん?」
 頬を叩かれたまでは理解している。そして父が悲しそうな顔をしていることも……。
「お前に何かあったら……私は、私はなんていえばいいんだ? 私はお前に強くなってもらいたい。勇敢になってもらいたい。けれど、それは無謀になれと言っているわけではない。お前の決断がお前どころかデボラちゃんまで危険な目に遭わせたんだぞ? わかっているのか!」
「ご、ごめんなさい……父さん……」
 そして沸き起こる後悔の念。そう。もしボルカノ、アニスが来なければ二人と一匹は今頃……。
「そうだな。坊主もガキにしては強いけど、まだまだじゃからな……」
 ようやくデボラから開放されたシドレーはリョカの肩に止まると、小刻みに震える彼の頭をぽんぽんと叩く。
「そうだけど、コイツもコイツなりにがんばってくれたんだ。俺が魔物に襲われてるところ、助けてくれたしな……」
「う? うむ? まも……の?」
 陽気に話すシドレーにパパスは目をしばたかせる。長いたびの中、上級の魔物、言葉をしゃべる魔物と対峙すること数回、しかしこのようなあまり威厳の無い上級な魔物というのは記憶に無い。
「ちがうちがう。俺にはシドレーっていう立派な名前があるんだわ。ま、とりあえず、坊主も反省してるみたいだし、ここは俺の顔に免じて……」
「何が免じてよ! そもそもアンタがあたしのお菓子を食べなければこんなことにならなかったんでしょ!」
 そういって再びシドレーを掴むデボラだが……。
「姉さん」
 軽く肩を叩かれたデボラ。
「なによ、後にしてよ……」
 無意識にソレを振り払う。
「ね・え・さ・ん?」
 再び肩を捕まれる……。
「だから!」
 またしても振り払おうとするけれど、振り返ったデボラの前には笑顔と怒りの四つ筋を額につけた妹が居り……。
「とーっても心配したんだからね……」
「ふ、ふろーら……ご、ごめんなさい……」
「今日はしっかり絞らせてもらうからね……」
「ご、ゴメンって言ってるじゃない! ねえリョカ、助けて!」
 何かにおびえるデボラはリョカに助けを求める。しかし、彼は父の腕の中で自身の弱さ、軽率さを恥じ、ただ泣きじゃくるのみ。父はその頭を優しく撫でるくらい。
「そうだ。父さん……。ね。父さんもあたしのこと怒ってるでしょ? ね……ほら、フローラ……、父さんがあたしに話あるみたいだし……」
 心配そうにしているルドマンを見るデボラ。きっと父もお小言の一つ言いたいのだろうことは察している。それはそれで面倒なことなのだが、笑顔の妹に比べればあるいは……。
「すまんなデボラ。ワシの言いたいことはおそらくフローラが言ってくれると思う。今はただ、お前の無事を安堵させてくれ」
「そんな、父さん、父さんってば! ふろーら、許してよ~」
 デボラの後悔の叫びがむなしく空に消えていった……。

**――**

「それではルドマンさん。世話になりました」
 次の日の朝、旅に戻るパパスはルドマンに別れを告げていた。
「いえいえ。パパス殿のおかげで今回の船旅も滞りなく……」
「ですがお嬢さんのことは……本当に申し訳ない」
「ルドマンさん。デボラさん、フローラちゃん、本当にごめんなさい……」
 頭を下げるパパスに続き、リョカもまた深く頭を下げる。
「いやいや。今回のことはデボラにとって良い薬でしょう。無事だったのだし、なに、そんなに神妙になる必要もありません」
 ルドマンは鷹揚に頷くと高らかに笑っていた。
「ねえデボラさん、本当にゴメンなさい」
 リョカはもう一度デボラにそう告げるが、彼女はどんよりとした顔でうなだれていた。
「うう……フローラ、怖い……」
 一体なにがあったのか? とうのフローラはこれといって何もないのだが、デボラは妙に彼女を遠巻きにしていた。
「……ねえ、あのトカゲは?」
「さあ。今日は見てないよ? どこかへ行ったんじゃない? でも一体何者なんだろう……」
「さあね」
 ちっと舌打ちするデボラはちらっとリョカを見たあと、いいにくそうに口を開く。
「それはそうと……」
「なあに? デボラさん……」
「昨日のリョカ……」
「昨日の僕?」
「ちょっぴり……」
「ちょっぴり?」
「……ん~小魚っぽい!」
「あはは……またそれか……」
 肩透かしを食らったリョカだが、昨日のふがいなさは身に沁みている。これからはもっと強くなろう。そう決意するリョカだった。
 そして、その二人のやり取りを見てくすりと笑うのはやはりフローラであり……。
「それでは私達は旅に戻ります。ゴルドスミス家に良い明日を……」
「ええ、グ……ハイヴァニア家に良い明日を……」
 ルドマンは何かを言い直しながら二人が小さくなるまで見送っていた……。

**――**

 旅を続けるリョカ。その道具袋からひょっこり顔を出す赤いトカゲ。
 周りをキョロキョロ見渡した後、再び中にもぐりこみ、寝息を立てた……。

**――**

「ん~……合格ラインかしら……。けど、もう少し見たほうが良いかしら? あの金髪の子のほうが魔法も使えるし、足手まといになると困るからなあ……」
 もう一人物陰からリョカを見つめるものが居た。
 その者は口の周りに昨日紛失されたとされるお菓子のチョコレートがついており……。

続く

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