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幼年編_サンタローズの洞窟_その1

 オラクルベリーの北方にある町、サンタローズ。遠方より来た旅人を見て、町の入り口に立つ衛兵は身構えた。
 だが、旅人が彼に手を振り親しげに「おーい」と呼びかけるのを聞いて、衛兵は目を擦り、もう一度見る。
「やあー、パパスさんじゃないか! 戻ってきたのか!」
 衛兵は職分も忘れて槍を投げ捨てると、旅人のほうへと駆けて行く。
「本当は南の港への船だったのだが、オラクルベリー行きの船に乗ることになってね、少し遅れたよ」
「いやいや、無事で何より。といってもパパスさんほどの腕前の人に心配はいらないわな。ささ、サンチョさんも皆も待ってるだろうし、急いであげて……」
「ああ、すまないな……」
 パパスは衛兵に軽く会釈をすると、入り口のアーチをくぐる。
「あー、パパスさんだ!」
「本当!?」
 すると村のあちこちから歓声があがる。実のところ、パパスはこの村ではちょっとしたヒーローなのだ。

**――**

 数年前のことだ。村の北にある洞窟の奥に魔物が現れたことがあった。それはけっして強くはないが、その存在を知る者からすれば人、魔物、妖精、ホビットを問わず脅威と知る存在だった。
 強いだけの魔物ならば強い傭兵を用いればよい。だが、その魔物の名前を聞いただけで皆震え上がり、誰も名乗り出ることが無かった。
 村人達はただただその脅威におびえて毎日を過ごしていた。
 そこへふらりとやってきた旅人がいた。従者を一人と幼子を連れた男こそパパスだ。
 彼は何かを探していた様子だが、村人のほとんどは村を出たこともなく、また書物を集めるようなこともなく、たいした情報を与えることも無かった。
 そんな中、村で一番古株のドルトン親方が、彼の探すモノについてなにかしら手がかりを知っていた。前に仕事場で使っていた部屋にそのようなものがあったと記憶しており、その本に記されていた絵をパパスに知らせた。
 パパスはソレをみると即座に洞窟へと走り出した。村人達が止めるのも聞かず、ただ一目散に。
 そして数時間と経たず、あの恐ろしい魔物達が洞窟を出てくるのが見えた。
 村人達は何事かと物陰に隠れてそれを見たが、最後にパパスが五体満足な様子で出てきたことを見て、それに駆け寄った。
 パパスの言うところによると、彼らは主食となる硫黄岩を探して旅をしていたそうだ。サンタローズの洞窟にもそこそこあったわけだが、最近は枯渇し始め困っていたらしい。そこでパパスは硫黄岩の多い地方を教えてあげたというわけだ。
 村人達はパパスが魔物と意思疎通ができることを驚き、また脅威が去ったことにもろ手を挙げて喜んだ。
 そんなことがあったのだ。

**――**

「旦那様、ご無事のお帰り何よりです……」
 サンタローズに用意されていたパパスの借家にて従者のサンチョが紅茶の準備をしていた。
「あいにくバニア産は切らしておりますが……」
 そう言って差し出されるのはキャラメルの香りのするお茶。飲むと深い甘味があり、リョカは大好きだった。
「いい匂い!」
 すると匂いをかぎつけてなのか、二階からどたどたと女の子がやってくる。
「ああ、ビアンカちゃんもいたのか……。お久しぶりだね……」
「お久しぶりです、おじ様! リョカもね!」
 そう言って微笑むのはリョカと同い年、一つ上の女の子、ビアンカ・ルードだ。
 金色の髪を二つに結んで乱暴に縛ったもの。彼女の性格らしい大雑把なもの。
 くりっとした瞳はリョカを見つけるとニヒッと口元に笑窪を作る。
 ビアンカはずいずいと彼の前にやってくると、自分の頭と彼の頭の高さを手で比べ、そして不機嫌になる。
「負けた~……」
 少し前までは三センチ以上差があったというのに、いつの間にか抜かれていることにがっかりするビアンカ。リョカはたじろぎ、彼女にぺこっと頭を下げる。
「まあいいわ。リョカがあたしの年下であることには変わりないし、ちょっと背が高くなったぐらいでいい気にならないでよね!」
 いい気になったつもりはないのだが、どうしても年上というだけで逆らえないのがこの年頃の子の心理。
「ねえ、リョカはまだ絵を描いてるんでしょ? 見せてよ」
「うん。いいよ。そうだ! あのね、僕オラクルベリーで人間の言葉を話すメラリザードを見たんだ! その絵を見せてあげるよ」
「人間の言葉を話すメラリザード? そんな嘘ばっかり!」
「嘘じゃないよ! ほんとだよ。ね、父さん!」
 疑われたことにムキになるリョカは父に同意を求めるので、パパスもふむと首を傾げる。
「あれはリョカを叱ろうとしたときなんだが、私も面食らって話し半分になってしまったよ。いったいあれはなんだろうな? メラリザードに似ているのだが……」
 パパスの同意にビアンカは「おじ様が言うのなら」と頷く。
「ね、それより二階に行きましょ? おじ様もサンチョさんと話したいことがあるだろうし、あたし達が居たら邪魔だよ。ね」
「うん」
 場の雰囲気のわかるのは彼女が商売人の娘だからだろう。リョカもそういうビアンカの気が利くところが好きだった。例のワガママばかり言うお姉さんや笑顔の割りに押しの強い女の子よりも……。

**――**

「へぇ……これは海の絵? この白いの……鳥? 何?」
「これはね、海猫だって。かもめみたいなんだけど、にゃーにゃー鳴くんだ。そして猫みたいにお魚さんを食べるんだ」
「へぇ~」
「でね、こっちがオラクルベリーの街。すごいんだ。とっても眩しくて、人が多くてさ……」
「いいわねぇ。リョカはいろんなところを旅できて……。私もどこか冒険に行ってみたい」
 リョカの絵を見ながら感心した様子で呟くビアンカ。アルパカの村の宿屋の娘である彼女にとって、冒険者を見ることはあっても冒険をすることはない。それはこれから先も変わらないことなのだろうけれど、自分より幼いはずのリョカが会うたびにそういう経験を重ね、認めたくはないもののたくましく、りりしくなっていくのが羨ましかった。
「でも、冒険は大変だよ。昨日なんて僕、デボラさんを危険な目に遭わせてしまったし……」
「デボラ? 誰?」
「デボラさんは船で一緒だった女の子だよ」
「女!?」
 女という言葉にビアンカが怪訝そうな声を出す。
「うん。とってもワガママで怖い人だった。でも僕、何がなんでもデボラさんだけは守らないとって、必死だったんだ」
「ふうん。もしかしてリョカはその人のことが好きなの?」
「え!?」
 飛躍する話にどきっとするリョカ。彼はここ数週間の出来事を思い出す。
 朝。彼女の部屋に朝食を届け、食器の片付けをする。
 昼。彼女にレモンティーを届け、絵を描きながら話相手。
 夜。彼女がお風呂から上がるまでずっと外で彼女に話しかける。
 深夜。彼女がトイレに行くのを送り迎えする。
「ないない、それは無い」
 ぶんぶんと首を振るリョカ。それでもビアンカは訝しんでいる様子。
「それに、僕が好きなのは……」
 もじもじしながら口を噤むリョカ。
 好きと言える女性。リョカの知る女性など数えるほどしかいないわけだが、その中でそれを選ぶとなれば、およそビアンカしか考えられない。
「ビアンカちゃんだけだもん」
「ふ、ふ、ふーん。そうよね。そうなのよね……うんうん」
 言ってしまったという様子のリョカに対し、ビアンカはさも当然という様子で胸を張る。ただ、しきりに眉が小刻みに震えているのが印象的であり……。
「アッ……」
 ふと思い出すこと。
 好きとキス。
 不意打ちとはいえ、リョカは昨日見知らぬ女性、アニスからキスをされた。
 片思いするビアンカにすらされたこともしたこともないというのに、彼はアニスと……。
 ――大丈夫だよ。聖水で三分以内に口を濯いだし、それはキスじゃないはず……。
 デボラの言葉を反芻するリョカだが、それは詭弁に過ぎないことを、唇が知っている。
 あのやわらかく、甘く、少ししょっぱい、ぬるっとした、良い香りのする行為。
 リョカの中であれは忘れられないことであり……。
「どうしたの? リョカ……」
 彼が神妙な顔付きであることにビアンカが声を掛ける。
「ビアンカちゃん!」
「はい!」
 突然の声にビアンカはまるで驚いた猫のように背筋をきゅっとさせる。
「その……キス……してもいい?」
「え? なんで、突然そんなこと言われても……」
「ねえ、駄目?」
 真剣な表情で迫るリョカにビアンカは後ずさりをする。けれど、すぐに背後の壁に捕まり、拒もうと伸ばした手は優しく取られ、不自然に身体から力が抜ける。
「僕、ビアンカちゃんが、ビアンカが好きだから……」
 彼のひとさし指が彼女の顎をそっと上向かせる。
「けど……んっ……」
 逃げる力も拒む気持ちも無いビアンカは覚悟を決め、そっと目を瞑る。
 彼の荒い鼻息が彼女をくすぐり、高鳴る胸が外に漏れるのではないかというぐらい鼓動を強める。
「ビアンカ、好きだよ……」
 その言葉と一緒に右手が強く握られる。そして……。
「リョカ、父さんちょっと出かけてくるから、お留守番頼むぞ?」
「え! あ、はい!」
 キス寸前といったところで突然の中断。二人とも目をぱちくりさせながらささっと身体を離す。
「ご、ごめん……」
「ばか……」
 互いにソレを言うだけが精一杯。暫く二人はそのまま視線をそらしていた……。

**――**

「ねえ、どうしてビアンカちゃん、サンタローズに居たの?」
「え? ああ、パパのクスリをもらいにね……」
「そうなんだ……」
「うん。けどさ、なんかドルトン親方がこの前から戻ってこなくてさ。ずっといるんだ……」
「へえ、おばさんは?」
「ママは食堂のお手伝いしてる。私は他に行くところないし、ここの二階で遊ばせてもらってたの」
「そう」
「……」
「……」
 先ほどのキス未遂が尾を引いているらしく、未だ二人は視線をそらせたままだ。たまに相手を見ようとしても直ぐに顔を赤くさせてしまい、やはりうつむいてしまう。
「ん? 親方はどこに行ったの?」
「えと、薬草を取りに村の北の洞窟……」
「あそこってまだ魔物がでるんじゃなかった?」
「そうね。でもスライムとかグリーンワームでしょ? 平気よ……」
「そうかな……。だってあそこって前にとっても恐ろしい魔物がいたって父さんが言ってた」
「でもそんな……え、でも……」
 険しい表情のリョカに気おされ、ビアンカにもその不安が伝染しだす。
「父さんに知らせよう」
 リョカはすくっと立ち上がると、階下目指して飛んでいく。
「あ、ちょっと待ってよ。あたしも行くってば!」
 それを後からビアンカも追いかけて、二人仲良く階段を転げ落ちるわけで……。

**――**

 ――旦那様は北の洞窟に行くといってましたが……。
 サンチョの言葉に二人は意を決して洞窟へと向かっていた。
 洞窟近くの衛兵の話によると二日前にドルトン親方が向かったっきりで、今久しぶりにパパスが入っていったとのことだ。
 二人は衛兵の制止も聞かず、洞窟へと入っていく。

**――**

 前に魔物が積みついたとき、洞窟の天井に大きな穴を開けたらしい。そのおかげで洞窟の中は意外と明るい。
 もっともそれほど力強い魔物が潜んでいたというのは、この片田舎にとって恐るべきことなのだが。
「いけ! ブーメラン!」
 探検を妨げる魔物目掛けてブーメランを放るリョカ。致命傷を与えることなく追い払い、そのまま奥へと進行する。
「へぇ、リョカ、前よりブーメランの扱いかた上手くなったね。前はへろへろって感じだったのに……」
「うん。練習したし」
 確実に強くなっているリョカに素直に驚くビアンカ彼女はというと、台所にあったおなべのふたで襲い掛かるスライムを叩き落したりと、それなりの奮闘ぶりだった。
「ね、もしかしたら親方、例の魔物に襲われてたりして……」
「父さんはちゃんと人里はなれたところに行くように説得したって……」
「でももしかしたら……」
 息を飲む二人。
 ビアンカの想像通りなら、既にドルトン親方は……。
 そもそも二人が対処できる程度の魔物ならば大人であるドルトンが不覚を取るはずが無い。例えば大きな怪我をしていたり、動くことも出来ない状況ならともかく……。
「ギヒャー!」
 何かの叫び声が聞こえた。そして不自然に明るい洞窟の奥。何か大きな、複数の灯し火が見えるが、それらの一つが二人へと近づいてくる。
「あれは? ろうそくのお化け!?」
 子供ぐらいあるロウソクに手足が生えたもの。さらに目と口、頭に火を灯し、好戦的な様子でやってくる。
「いけ、ブーメラン!」
 リョカはその頭の灯火目掛けてブーメランを放つ。火はふっと消え、ロウソクの魔物は突然の暗闇にあたふたしながら壁に激突し、動かなくなる。
「あんな魔物、ここら辺で見たことがないわ!」
「けど、そんなに強くないよ。急ごう!」
「うん」
 二人は急いで洞窟の奥の灯火の群れへと走った……。

続く

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