FC2ブログ

目次一覧はこちら

幼年編_サンタローズの洞窟_その2

「こっちくんな! くそ! コイツに火がついたらわしもお前らも全員ドカンだぞ!」
 洞窟の奥でロウソクのお化けに囲まれていたのは岩を背負ったドルトン親方。
「おやかたー! 無事ですか!」
 リョカはブーメランを投げながら、ビアンカもおなべのフタで火消しをしながら急ぐ。
「おお、パパスさんの倅か……! って、いやいやいや、危ないから逃げなさい!」
「大丈夫、こいつらを倒せば!」
 火の消えたロウソクの魔物は一時停止するが、まだ火の残る者が再点火することで復活する。もし倒すのならば、それは一度に「全部をやっつける」ことが重要だろう。
「それよりもドルトン親方こそ逃げてよ。そんな岩抱えてないで……!? それ、もしかして!」
 ドルトン親方の背負う岩。そこにはぎろりと二つの目があり、なにが楽しいのかニヒルな笑顔が見えた。
「爆弾岩!」
 かつてサンタローズの村を脅威に晒した魔物。それは爆弾岩だ。
 通常大人しい魔物であり、唯一使える究極自己犠牲魔法も使うことの無い魔物だが、もし強い衝撃や炎を浴びたら、強制的にそれが発動するという、まさに爆弾なのだ。
「そんなの置いて逃げて……」
 見たところこのロウソクのお化けはそれほど強い火力があるわけではない。もし爆弾岩を起爆させるにしても、数十分の余裕があるだろう。この洞窟もきっと崩落するだろうけれど、爆発の方向を出口の方に固定できるので、村への被害も小さくできるはず。
 リョカはそう考えていたが、それはドルトン親方も同じだろう。だが、よくよく目を凝らしてみると、周りには親方の抱えるよりずっと小ぶりの爆弾岩が複数いるのが見える。
「まさか、親子?」
「そうなんじゃ……」
 苦々しく呟くドルトン親方。彼がこの状況で逃げないのはそれが原因だろう。
 もしこの親子が連鎖爆発を起こせば、村にまったく被害が出ないとは言い切れない。
「ねえ何か方法はないの? そうだ。ブーメランでそいつら全員一度に倒せたりしない?」
「無理だよ。せいぜい二、三匹だ……いや、あるぞ……!」
 リョカはブーメランを腰のホルダーにしまうと、両手で印を組み始める。
「大地を駆ける精霊よ、今、我は汝の力を欲する時なり……。唸れ真空刃! バギ!」
 リョカがロウソクのお化けに向かって両手を向けると、彼が大気中から集めた風の精霊の力が集い、軽やかな轟音と共に空間のひずみが見える。
「ギヒィ!!」
「グヘェ!」
 魔物達の悲鳴が上がり、灯火がどんどん消えていく。
「すごいすごい!」
 だがそのうちの一匹は物陰に隠れ、彼の真空魔法をやり過ごそうとする。
「ビアンカ、お願い……」
 魔法が終ると同時にビアンカもその炎を絶やすべく、フタを持って駆け出す。だが、
「メラ!」
「きゃっ!」
 突然の反撃とさらに味方への援護。ビアンカは何とかそいつの炎を消すも、近くに倒れていたろうそくの一体に炎が向かう。
「くっ!」
 もう一度唱えるべきか迷うリョカ。だが、霧散した風の精霊を再び集めるには、洞窟という無風に近い場所では困難を極める。
「ヒャド!」
 すると女の子の声がした。これまた簡易詠唱の氷結魔法。いくら初等とはいえ、そうそう使いこなすことができるものではない。
 リョカは一瞬昨日の女性、アニスを思い出すが、声質からそれが年相応の女の子だとわかる。
「ギョヘィ!」
 炎を託されたロウソクだが、それは突然の氷結魔法により潰えた。
 洞窟の中は差し込む弱い光のみとなるが、一同、ほっとしていた……。

**――**

「まったく! 爆弾岩がこんなに居たら危ないじゃないの。どうしてすぐに逃げないのよ……」
 洞窟を出たところでその子はリョカに向き直り、その頬を突く。
「だって、子供が居たから」
「そうね。ここに二人もね」
 小ばかにした態度の女の子にビアンカはむっとして突っかかる。
「何よ、貴女だって子供でしょ?」
「なによ。おばさんいくつ?」
「十三よ! 貴女は!」
「うっ……十二……だけど、もう直ぐ十三だもん!」
 どうやら彼女も年功序列には逆らえないらしく、たかが数ヶ月という年齢差にややしおらしくなる。
「十二なら僕と一緒だね。ありがとう。僕はリョカ。君は?」
 とはいえ助けてもらったことも事実。リョカが礼儀正しく挨拶をすると、彼女も上機嫌になる。
「ふふん、感謝なさいよね! もし私が来なかったら今頃みんなどうなっていたんだかね!」
「そんなことないわ! きっとリョカのブーメランで倒せたもん!」
「なによ。そしたらまたメラで復活させられてたんじゃないの!?」
「そしたらまたあたしが……」
 たれらばの堂々巡りになりそうなところで互いに視線をぷいっとさせる。
 どうもデジャブを感じるリョカだが、余計なことは言うまいと決める。
「あれ?」
 よく見ると彼女の髪は青だった。天然色というにはやや強い青だが、ボルカノが言う「怒りっぽい」ところもある。
「ねえ、もしかして君、アニスさんの知り合い?」
「アニス? 聞いたこと無い名前ね……」
 しかし、彼女は知らないという。自分の見当違いかと思うリョカ。
「ねえ、それよりリョカ、あなたの絵をくれないかしら?」
「絵? やっぱりアニスさんの知り合いじゃ……」
「だから知らないってば……。それより早く頂戴ってば!」
「う、うん。わかったよ……」
「ちょっとリョカ、なんでこの子に上げるのよ! 必要ないってば、こんな生意気な子!」
「うんでも、約束したんだ。アニスさんって人と……。その人僕のことを助けてくれて……」
「「だからアニスって誰よ!」」
 二人の声が重なり、面食らうリョカ。
「アニスってのは昨日坊主とちゅーしたショタコン女だよっと……」
 突然の声に皆辺りを見回す。まだ爆弾岩を背負っているドルトン親方は岩と目を合わせるが、知らないという素振り。
「ここじゃここ……っと……、はぁ、苦しかったわ……」
 リョカの道具袋が動いたかと思ったら例の赤い羽根トカゲが顔を出す。
 リョカの眼前で滞空するシドレーに皆きょとんとする。
「シドレーじゃない!」
「「え!?」」
 その膠着を破ったのは女の子。
「もう、アンタが居るなら急ぐ必要なかったわ。氷の息でいちころでしょ?」
「なんでお前、俺ん名前知っとるの? てか、氷なんて吐けないで?」
「え? だっけ? あ、ほんとだ、色が違う。赤シドレーだ……」
「赤ってお前、俺の色違いがいるわけ? てか、まず自分誰よ?」
「あはは……まあ、そうね。正義の味方?」
「生意気な……ね」
 得意になる女の子に対し、ビアンカは半眼で嘯く。
「なによ!」
「そっちこそ!」
「「ふんだ!」」
 どうしてか仲の悪い二人。それもこうして無事だからこそなのだろうけれど……。
「そうだ。僕今日のこと絵に描くね。それをあげればいい?」
「ん……そうね。今日のはいいわ。これまでのを貰える?」
「じゃあオラクルベリーの絵をあげるよ。一緒に来て!」
「う、うん……」
 リョカが手を引くと、その子は不意を突かれた様子で顔を赤くして、彼を追いかけた。
 それをつまらなそうに見つめるビアンカだが、ふとあることを思い出す。
「ん? ねえ、メラリザードのシドレーだっけ? リョカがちゅうしたってどういうことかしら?」
「ああ、坊主がね。昨日助けてくれた綺麗な金髪のねえちゃんにぶちゅうってされたん。いやあ、坊主ってばモテルのね……てか、何人これいるの? 両手両足で足りなくね?」
 空中で器用に両手両足の小指を立てるシドレーは「つり目、垂れ目、金髪、青髪、金ジャリ」と数えだす。
「ちょっと、金じゃりって何よ! 金じゃりって……」
「え? そな自分のこと決まってるでしょ。自分、昨日の姉ちゃんと同じ、金髪だで? んだけど、まだまだションベン臭いじゃりじゃし、せやから金ジャリな。我ながら名案じゃろ?」
 ふふんと胸を張るシドレーに対し、ビアンカはその首を絞める。
「きー、くやしい! なんなのよ! もう~~!!」
「ぐへぇ、くるじい、坊主、たしけてぇ~~!!」
 昨日のことを思い出すのは、何もリョカだけではなく、ドルトン親方はその様子にほっほっほと笑っていた。

**――**

「待ってろよ。もう少しで出来るからな……」
 作業場に戻ったドルトン親方は弟子のマールと一緒にすぐに作業に取り掛かった。
 ダンカンのクスリを処方しながら、片手で爆弾岩の手当ても行う手際はなかなかのものであった。
「……なるほどな。子供産むんで里帰りしてたんな……。そこでアイツラに囲まれてってわけか……。まったくお化けキャンドルどもも迷惑な話だな……」
 魔物の言葉がわかるシドレーは爆弾岩と何か会話をしており、三人もへぇと相槌を打っていた。
「で、これから死の火山に戻るのな? まあきいつけて行けな。といってもお前らに挑むバカも居ないだろうけどな!」
「笑いごとじゃないわよね……」
「そうね……」
 爆弾岩という存在はやはり気分に良いものではなく、ビアンカと女の子の表情は硬い。
「この絵でいい?」
 リョカは部屋から持ってきたスケッチブックから、異国のお城の絵を出す。
「これは?」
「わかんない。前に父さんに連れられて行った場所なんだ。サンチョおじさんも居るよ」
「あ、ほんとだ」
 リョカが指差すところには中年小太りの男性が子供を抱えて立っている。
「君、サンチョおじさんを知ってるの?」
「え? ああ、さっきあなたのことを探しに行ったとき、サンチョさんに聞いたのよ」
「ああ、それで……」
「うん。それじゃあこれでお仕事完了かな……。この絵、大事にするからね……」
「え? ああ、お願いね。そうだ、君の名前は……」
「私は……アン……。そうね。アンよ」
「アンさん? そう。よろしくね、アンさん!」
「ん~、なんか変ね……まあいいわ。そうね、また会いましょ」
 アンはそう言うと青い髪を煩そうに掻き揚げ、立ち上がろうとする。すると……。
「んなあほな~! 自分、怖い顔して、大概にしなさいな!」
 爆弾岩と盛り上がっていたらしいシドレーが空中でくるくる回りながらアンにぶつかり……。
「きゃっ!」
「危ないよ、アン」
 リョカがそれを支えようとしたとき……。
 チュッ!
 互いの唇がまるで引力でも発しているかのように近づき、重なってしまう。
「え~~!!」
 最初に反応したのはビアンカだが、その間実に八秒。みるみるうちに二人の顔が赤くなり、アンはリョカを突き飛ばして、腰につけた道具袋から聖水を取り出し、勢い良く嗽を始める。
「ちょっとリョカ、ほら、あたしの聖水あるから、直ぐに嗽して! ほら、はやくしないと! 三十秒以内ならノーカンにできるから!」
 地方によってキスのリセットまでの猶予時間に違いがあるらしい。リョカは言われるままに嗽をはじめ、外へと走る。
「んもう! これならさっきちゃんとしとけば良かった! リョカの意気地なし!」
 ビアンカは作業場を走り出る二人の後姿を見つめながら、天に向かって叫んでいた……。

**――**

「べっ、べっ、べっ……」
「はぁはぁはぁ……」
 外にでて濯いだ水を吐き出す二人。リョカは笑顔だが、アンは怒ったまま。
「ちょっと、なんでアンタまで濯いでるのよ……。この変態!」
「変態って、僕はただ、ビアンカに言われて……」
「んもう! 人のファーストキス奪っておいて! この変態! ロリコン! 近親相姦! 極悪人! 鬼畜! スケコマシ!」
「そんなに言われるほどかな……」
 理不尽な気持ちになりながら頭を掻くリョカ。だがアンにしてみればそれは大層なことらしく、嗽を終えた後も唇を拭う。
「ふんだ! 人のファーストキス奪っておいて! だいっきらい!」
 そう叫ぶと、彼女はどこかへと走りさっていった。
 どうやら聖水で濯ぐだけではキスの記憶をリセットできないのは、彼女も同じらしい。問題は好きと告白した相手。ビアンカがどう思うかということであり、リョカは後ろを振り返るのが怖かった……。

**――**

 ダンカンの風邪薬を処方してもらった翌日、ビアンカ母子はアルパカへと帰ることになった。
 ただ、いくら凶悪な魔物が居ないとはいえ、女子供の二人旅が危険であることに代わりはなく、パパスが送ることとなった。
「すみませんねぇ。アルパカなんて目と鼻の先なのに……」
「いえいえ、何か間違いがありましたらこのパパス、一生の深くですから……。それにまだリョカもビアンカちゃんとお別れをしたくないように見えますし……」
 リョカはビアンカの外套の裾を掴み、必死で何かを弁解している様子だが、当のビアンカは取り付く島もない。
「ふふふ……そうですね……。うちの娘もリョカ君とケンカ別れになったら後悔すると思いますし……」
 ビアンカの母――ジルバ・ルードはそういうと口元を抑えておほほと笑う。
「それでは参りますか」
「ええ……」
 パパスが先立って歩くと、ジルバ、それに続いてビアンカも村を出る。リョカはただ情けなく「あれは事故だってば~」と言い、その肩ではシドレーがつまらなそうに欠伸をしていた……。

**――**

 もの影からそれを見つめる女の子が居た。
「間違いないわ。あの子はきっと強い戦士! 手は多いほうがいいし、あのアンディって子も誘って三人なら……。よし、急いで報告しないと!」
 紫の髪をなびかせる彼女。人とは違う、長く尖った耳が特徴的で……。

続く

彷徨いし者達~目次へ戻る
トップへ戻る

Trackback

Trackback URL
http://13koharu.blog73.fc2.com/tb.php/565-473785a5

Comment

Comment Form
公開設定

プロフィール

小春十三

Author:小春十三
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ

創作検索ぴあすねっとNAVI
dabundoumei
trt
オンライン小説/ネット小説検索・ランキング-HONなび  
リンク予定


二次元世界の調教師様のサイトです。



無料アクセス解析