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幼年編_レヌール城のお化け退治_その1

「リョカ、行ったぞ!」
「はい、父さん!」
 草原を走る赤いねずみ。それは普段台所をちょろちょろするものなどではなく、人間の赤ん坊くらいの大きさがあった。
 リョカは今回の旅の前に新調してもらったカシの杖を地面に突きつけると、ソレを足場に大きく飛ぶ。
 目標を失ったお化けねずみはきょろきょろと辺りを見るが、上空からの影が大きくなり、銅製の剣の腹で頭蓋をしこたま打ち込まれる。
「ギピィ~」
 お化けねずみは頭を抱えてそそくさと逃げる。すると劣勢を感じ始めたほかのねずみも逃走を始める。
「ふむ……。なかなかやるようになったな。リョカ」
「はい、父さん」
 自身の成長を認めてもらい、リョカはとても嬉しそうだった。
 パパスは剣に残る油と血、毛を拭うと、大柄な両刃の剣をしまう。
「何故命を助けた?」
「え? それは……、可愛そうだから……」
「そうか……。そうだな」
 父はグリーンワームを二体、スライムに触手の生えた亜種であるホイミスライムを一体屠っていた。
 その亡骸は弔われることもなく草原に散り、餌を待つカラスがわさわさと集まっている。
 リョカは自分が「かわいそうだから命を奪わない」ということが、暗にパパスを責めているかのようで、それが心ぐるしかった。
「リョカ。今はそれでいい。お前が心優しい子に育ってくれて、父は誇りに思うぞ」
 そう言って頭をクシャクシャとしてくれる父。力強く、優しさを持ち、また厳しさを併せ持つ父のそれが嬉しかった。
 最近、パパスはリョカを積極的に戦闘に参加させていた。
 特に強い魔物がいないことのもそうだが、リョカの成長をパパスは見誤っていたと認識していた。
 息子は強い、いや強くなれる素質がある。
 呪文も簡易とは言え治癒魔法、真空魔法を使えるようになっている。
 だが、一番のそれは己を守り、さらには敵すら守ろうとする戦い方だ。
 先ほどのお化けねずみもそうだ。闇雲な突進など、カシの杖でやわらかい腹を突けば手間も掛からずに絶命させられたであろう。けれど、彼は空中から壊れかけた銅の剣の平たい部分で一番堅いであろう頭蓋を殴った。哀れな剣は折れたが、ねずみは一目散に逃げていったわけだ。
 アクロバティックな戦い方などサーカスに任せておけばよい。重要なのは「そうすれば命を奪わずに済む」という戦い方を即座に実行できることなのだ。
「よし、先を急ごう……」
 ただ、心配なのは、これから先彼が守るべきもの背負いながらもその戦い方で生き延びられるかということ。リョカが生き残ったとして、悲劇を背負うのならば、それは父と同じ苦しみを持つことになる……。
 パパスはそのことが心配だった……。

**――**

 アルパカの村へとたどり着いたのは出発してから次の日のお昼だった。途中魔物に襲われること数回、その対処に手をかけたのだ。
「本当にありがとうございます。パパスさんが居てくれて本当に心強かったですわ!」
 ジルバは宿の奥の応接間で二人を労っていた。
「コイツなら魔物だって近所のおしゃべりでなんとでもできるもんですがね……」
 病床にあったダンカン・ルードもゴホゴホと咳こみながらやってきて頭を下げる。
「何言ってるのよ、お前さん! ほら、ドルトン親方特製のクスリをもらってきたから、さっさと飲んで寝てしまいよ」
「ああ、だが……」
 ダンカンも亭主として妻のボディーガードをしてくれたパパスに感謝を示したく、無理をしているのが見える。
「まぁま、ダンカン殿もクスリを飲んで、しっかり風邪を治してくれ……それでは私はこれで……」
 そう言って立ち上がるパパスだが、ジルバはそれを慌てて制止する。
「お待ちください。今村に着いたばかりだというのにもう戻るというのですか? せめて一日ぐらいおもてなしをさせていただきたく……」
「そうですか……」
 パパスはリョカのほうをチラりと見る。彼はまだビアンカと仲直りが出来ていないらしく、先ほどからビアンカを見ている。それは彼女も同じらしく、何かを訴えかけてくる視線にパパスが折れた。
「それではお言葉に甘えて……」
 その言葉にリョカ、ビアンカの顔がぱっと明るくなる。
「ささ、それでは二階の特別室へどうぞ……」
「いやいや、私達はそういう豪華な部屋だとかえって寝付きが悪くなります。どうか普通の部屋で……」
「はいはい只今!」
 ジルバこそ休む暇なく駆け出すと、シーツ片手に宿を闊歩した。
「ママ、私リョカと遊んでくるね!」
「ええ、ええ、仲良くね……」
「行こ、リョカ!」
「うん……」
 二人の中のもどかしさが、少し薄れていたような……。

**――**

 村の中を探案内されるリョカ。道具屋で旅の必需品を買おうとしたらシドレーがリュックから顔を出してしまい、ビアンカが慌ててそれを追いかける。
 リョカとしてはシドレーよりも二人きりで居たかったので、非常に不機嫌な様子。
 そんな折、店内を見回すと赤いヘアバンドが目に入った。
「ねえ、これいくら?」
「ん? これは十二ゴールドだね。まあ、もう古いものだし七ゴールドにしてあげるよ」
「本当ですか!」
 リョカは先ほど買った薬草と交換でヘアバンドを手にする。
 これをビアンカにプレゼントしてあげたら、きっと仲直りが出来る。
 今も仲直りの最中ではあるが、きっともっと深い仲になれるのではないか? そんな甘い期待を持ちながら、リョカは揚々と店を出る。

**――**

「ちょっと、やめなさいよ! 可愛そうでしょ!」
 町の中にある公園に人だかりが出来ていた。その中心で聞き覚えのある声が聞こえた。
 リョカは騒ぎの中心にビアンカが居ると知り、子供達の合間を縫って向かう。
「ビアンカちゃん!」
「あ、リョカ! 聞いてよ! こいつらがあの猫を苛めてるのよ!」
「猫!? え? あれが……?」
 ビアンカの指差すほうを見ると黄色の毛並みに茶色いまだら模様のある猫といえば猫なものがいた。頭は真っ赤な毛がふさっと生えており、ぼろぼろになりながらも懸命にいじめっ子を威嚇していた。
「ほら、男でしょ! がつんと言ってやって!」
 肩を押すビアンカに無理やり騒ぎの中心に出されるリョカ。この数ヶ月で確かにたくましくなっていたリョカだが、それはあくまでも魔物相手。単純な腕力なら彼らに負ける道理も無いが、力で解決する気にはなれない。
「あの、そういうのはやめたほうがいいよ」
「なんだようっせーな! よそもんはひっこんでろ!」
 いじめっ子の片割れがリョカを突き飛ばす。不意を突かれたリョカはそのまましりもちを着き、その様子に周りから笑いが起きる。
 同い年の子に囲まれ、笑われる経験の無いリョカはどうしていいかわからず、ただ照れ隠しに苦笑い。
「もう、リョカったらだらしないわね! ほら、いつものようにブーメランでも真空魔法でも使えばいいでしょ!」
 真空魔法という言葉に一瞬どよめきが走る。
 子供でも魔法を使える者はいる。だが、それは極めて一部であり、富裕層や職業軍人、魔法使いの子供というのがほとんどだ。たまに独力で覚えるものもいるが、それもせいぜいホイミや照明魔法のレミーラなどの「使えたら便利」という程度のものしかない。
 当然ながら攻撃に使う魔法が使えるとなると、それは脅威の対象だ。
「おい、まじかよ……本当に使えるの?」
「いや、そんな危ないことは……」
 リョカとしてもあまり目立つことをするのは好きではなく、また大勢の居る中で真空魔法などを放てば、たとえ微弱であろうと良い結果を招かないことを知っている。だから隠そうとしていた。
「リョカはねえ。お化けキャンドルに囲まれたとき、あたしを守るためにバギを使ってみせたのよ! まあ、一匹は逃がしちゃったけど、でも本気になったら怖いんだから!」
 まるで自分のことのように胸を張るビアンカだが、リョカはどんどん小さくなっていく。
「へえ……真空魔法ねえ……。お化けキャンドルねぇ……」
 いじめっ子の片割れは面白そうに二人を見る。現実問題それを見ていない者からすればにわかに信じがたいことであり、それは周りも同じこと。
 ひそひそ声が高まり、やがて「うそつき」と囁かれる。
「な! 本当だってば!」
「ビアンカちゃん、うそつきだ! うーそーつーき!」
 そして始まるうそつきコール。ビアンカはすぐに顔を真っ赤にさせ、「本当だもん」と声を裏返す。その瞳には涙が浮かんでおり、それをみたリョカは心が痛んだ。
「よーし、そんじゃあさ、嘘じゃないんならお前らちょっと頼まれてくれよ。この村の北にレヌール城ってあるだろ? あのお化け城だ。あそこに最近お化けキャンドルが住み着いてるみたいなんだ。それを根こそぎ退治してきたら信じてやるよ」
「本当……?」
「ああ。そうさ。たとえ真空魔法が使えなくても、あんだけの数を倒せたらそれ以上だしな! どうだ? やれっか?」
「ねえリョカ……」
「僕は……」
 思い出されるのはこの前のシドレー追走劇。自身を過信し、デボラを危険な目に遭わせたという事実。彼は首を縦に振ることに躊躇する。
「リョカ! お願いよ!」
「そうだな。もし退治したらこの猫を苛めるのやめてやるよ!」
「ねえリョカ!」
「だって……」
 だがリョカは……。
「もういい! あたしがやる! あたしが一人で行ってお化けを退治してくるわ! そんなの簡単よ!」
「ビアンカちゃん……」
「うるさい! 意気地なしは宿で布団被って寝てなさい!」
 ずんずんと遠ざかるビアンカにリョカが慌てて追いかける。しかし、心無い子の足にかかり、転んでしまう。その拍子に例の赤いヘアバンドがこぼれる。
「あっ……」
「リョカ!?」
 物音に振り返るビアンカは駆け寄るべきか逡巡する。
「なんだ? これ……。うわ、古くっさ……だっせ~!」
 一人がソレを拾い、しげしげと見つめたあと、それをブーメランのように放り投げる。
「返してよ、それ、ビアンカちゃんにプレゼントするつもりなんだから!」
 リョカはそれを追うが、無常にも空を舞い別の子に……。
「そんな古臭いの似合うのうそつきビアンカぐらいだな!」
 その言葉にビアンカは顔を真っ赤にさせ、道を塞ぐ子を突き飛ばしながら走っていく。
 突き飛ばされた子は膝をすりむいたらしく泣き出してしまう。
「あ、大丈夫!?」
 リョカはヘアバンドを忘れて転んだ男の子に駆け寄り、その傷を見る。
 尖った釘が刺さっており、赤錆も浮き出ている。傷口こそ浅いが、破傷風の可能性がある。
「痛いよう! 痛いよう!」
 リョカはソレをすっと引き抜く。男の子は苦痛に顔を歪めるが、リョカは続ける。
「大丈夫。待ってて……」
 リョカは両手で印を組むと船で一通り読んで覚えた呪文を詠唱する。
「浄化の風よ、この者を蝕む壊疽の呪いを開放せよ……キアリー……」
 静かにゆっくりと風が集まり、傷口から黒いモヤが出て、そのまま霧散する。
「あとは……ホイミ……」
 簡単な印を結んだあと、詠唱を省略して治癒魔法を唱える。膝をすりむいた程度なら直ぐに回復を始め、薄いピンクの皮膚が傷口を塞ぐ。
「あとでちゃんとお医者さんに見せてね……」
「あ、ありがと……」
 二種類の魔法を即座に詠唱するリョカに向けられるのは感謝の目が二つと奇異の目が多数。彼が真空魔法を使えるというのも、あながち信じられることと、脅威を感じ始める。
「ビアンカちゃん、怒りっぽいところあるけど、本当は優しい子だし、嘘なんて言わない。信じてね……」
「うん。信じる……」
 呆然とする男の子だが、リョカのその実力が本物であることはわかる。きっとこの旅の男の子は初等真空魔法を使えるだろうと……。そして、適うならばあのレヌール城に巣食う魔物を退治することも……。

**――**

 その日の夜。ビアンカは一言も口をきいてくれなかった。いや、ただ一言だけ、「あの子は大丈夫だった?」と聞いてきたので、「うん」とだけ答えた。
 彼女は誰に言うわけでもなく、「明日謝るから心配しないで」と言い、それ以上は何も話しかけてくれなかった。

**――**

 夜、パパスは再び険悪になった二人を心配していたが、それもまたしかりと口を挟むことをしなかった。ただ一言「明日、しっかり話しなさい」とだけ言い、リョカも「うん」と答えた。

**――**

「ねぇねぇおきてよ……君、起きてってば……」
 誰かが布団を引っ張る。誰だろう? 男の子とはわかるけれど、それ以外はわからない。
「ん~、だあれ? デボラさん、またおしっこ?」
 寝ぼけ眼を擦りながら起き上がるリョカ。そこにはお昼に助けた男の子がいた。
「君か……。もう足は平気?」
「うん。けど、そうじゃなくて……」
 男の子はおずおずと赤いヘアバンドを差し出してくれた。それは土汚れこそ落ちているものの、どこか朽ちかけた箇所のある惨めな様相をしていた。
「ゴメン。探して洗ってきたんだけど、汚れちゃったんだ……」
 すまなそうに言う男の子にリョカは笑顔で「ありがとう」という。
 ただ、この古臭いヘアバンドをビアンカは受け取ってくれるだろうか? ダサい、汚い、壊れかけ……。そういう次元ではない失態を犯していることぐらい、リョカにもわかる。
「ビアンカに酷いことしちゃったし……」
「そのビアンカさんのことなんだけど、一人で行っちゃったんだ!」
「どこに?」
「レヌール城に……。僕がこれを探してたら、ビアンカさんがこっそり衛兵の脇をすり抜けていくのが見えたんだ」
「な!」
 リョカは心底驚いた。今日の夕飯をまだ日が沈む前に済ませたビアンカ。彼女は直ぐにお風呂に入ると、そのまま布団に入ったはずだ。それはもしかしたら今こうして夜に町を抜け出すための布石だったのではないか?
「どどどうしよ!」
 パパスに報告すべきか? だが、父は調べ物があるらしく、夕飯後から外している。アルパカの町並みに詳しくないリョカが探すのは困難というものだ。
「ねえ旅の君は強いんでしょ? お願いだよ。きっとビアンカさん、キンタとサンタの言うこと真に受けて行ったんだよ! だから……」
「う、うん。でもお城の場所が……」
「僕が近くまで案内するから……だから!」
 男の子はぶるぶる震えている。けれど、それ以上に女の子を一人、お化けの巣窟に行かせたことを後悔しているらしく、その責任で奮い立っていた。
「そう、じゃあお願いするよ!」
 リョカは道具袋を取ると、寝ていたシドレーごと宿を出た……。

**――**

「なあ坊主。あのな、あの猫なんだけど……」
 道具袋で揺られるシドレーは腕で枕を作りながらリョカに囁く。
「ねえ、どっちのほう?」
 だがリョカはそれどころではなく、後からついてくる男の子をいらいらしながら待っていた。
「うんと、あの一本杉を目指したところなんだ」
 平均的な体力しかない男の子にリョカを先導するのは無理というもの。おおよその場所を聞いたリョカはシドレーを袋から取り出す。
「そう。わかった。ねえシドレー、この子をアルパカにまで連れて行って!」
「ええけど、んでも、あの猫は……って話は最後まできけー!」
 走り去るリョカの後ろにむなしくシドレーの声が響いた……。

**――**

 暗い……というよりは黒い場所。一筋の明かりも見えない。
 城が見えるころは月明かりが見えた。しかし、正門をくぐったところで突然の雷がなり、激しい雨音がし始めた。
 そのまま逃げるように城へ入ったビアンカを待つのは浮遊する幽霊。
 人の姿を模したそれはどういう理屈か黒の場所でもよく見えた。
 それは彼女の頭を掠めるように飛び交い、ある場所へと誘導していた。
 その場所とは……おそらく「箱」の中だろう。
「よい夢を……ラリホー」
 暫く喚いたところで息苦しくなり、次第に……眠くなった……。

**――**

 リョカがたどり着いたとき、月明かりは群雲に隠れていた。
 朽ちかけた城は外壁がところどころはがれ、たまに骨格がむき出しになっていながらも、今もなおそこにいた。
 ――ここにビアンカが!
 リョカの畏れるものに幽霊はない。彼は正門へと走り、そのドアを蹴る。しかし、それはびくともせず、まるで魔法による封印されているかのようで、彼の侵入を妨げた。
 ――くそ!
 リョカは心野中で毒づくと、周囲を伺い始める。
 どこかに別の入り口がないかと歩き回ること数秒、裏手に螺旋階段を見つけた。
 ここを登ることで活路があるかは定かではないが、それでも焦る気持ちが後押しし、リョカを急がせた。

 飛び飛びの階段を超え、リョカは走る。そこに何が待ち受けているのかなど恐れもせずに……。

続く

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