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幼年編_妖精の里_その一

 サンタローズに戻ってきたリョカの日々は平穏としたものだった。
 パパスはアルパカの酒場の店主から借りた本に掛かりきりであり、リョカもアニスとの約束を果たすため、レヌール城やサンタローズの日常を描いていた。
 そんな折、村で不思議なことが起こった。
 ドルトン親方の作業場で薬莢がなくなったり、道具屋と武器屋の品揃えが入れ替わったり……。酒場のお煮しめをつまみ食いされたりと、どれも他愛の無いことばかりだった。
「坊ちゃん。お茶が入りましたよ~」
 階下でサンチョの呼ぶ声がしたので、リョカは筆を止めて急ぐ。
「旦那様、バニア産が行方不明でして……」
 テーブルにはキャラメルの匂いのする紅茶が三人分用意されており、パパスはスコーンをつまみながら啜っていた。
「うむ……。おかしいな。前に買ったばかりなのに……。リョカ、イタズラしてないよな?」
「え? 僕じゃないよ……」
 疑われたことにむっとしながらも、前にお茶の缶をひっくり返して黙っていたことを思い出し、それも仕方が無いと思うリョカ。ただ、先日パパスが買い物から戻ってきたときは確かにあったわけで、それがこの狭い家でなくなることは、十分不思議なことである。
「おーい、なんか臭い葉っぱの缶があったで~」
 すると地下室からシドレーがガロンを連れてやってくる。シドレーが抱えているのはなくなっていたとされるヴァニア産の紅茶だった。
「なんで地下室に? ……ぼっちゃんですか?」
 サンチョはそれを受け取ると、リョカをぎろりと睨む。普段優しいサンチョなのだが、イタズラ、特に厨房周りをいじくると、とても怖いのだ。
「ぼ、僕じゃないよ。だって僕、最近はずっと二階で絵を描いてたし、ほほ、本当だよ!」
 リョカは慌てて否定するが、サンチョは聞く耳を持たない。
「坊主じゃないと思うで? これあったの坊主の手の届きそうにない箪笥の上にあったしな……」
「じゃあシドレーさんということになりますな~」
 すると今度はシドレーに視線が向かう。
「違う違う。俺が隠したならわざわざ持ってこないって……」
 慌てて弁解するシドレーに、サンチョもそれもそうかと頷き、では犯人は誰なのかと首を傾げる。
「もしかしたら、イタズラ好きなエルフの仕業かもな……」
 その様子を見ていたパパスは紅茶を啜りながら笑って言う。
「エルフ?」
「ああ、普段は人里離れたところにいるらしいが、たまに人間の住みかにやってきては他愛の無いいたずらをするらしい。最近この村でもそういうイタズラめいたことが多いし、もしかしたらそうなのかもな……」
「じゃあそのエルフを捕まえてイタズラしないように言わないと!」
 リョカは疑われたことを根に持っているらしく、憤慨気味だった。
「そうですねえ。でも私としては焼きたてのパンがミミだけ残っていることのほうが不思議なんですけどね~」
「え? あ……それもきっとイタズラエルフが!」
 しれっと言うサンチョの言葉にリョカはそう叫ぶと、こっそりと台所を出ようとする。
「坊ちゃん、コンテを消すのに使っていませんよね?」
「ごご、ごめんなさ~い!」
 リョカは捕まるまいとばかりに脱兎のごとく飛び出した。
 ハイヴ家のイタズラ坊主はまだまだやんちゃの盛りなのかもしれない……。

**――**

「あーあ、帰ったらサンチョに怒られるのかな……」
 コンテを書き直すのにパンを使ったことを後悔するリョカ。普段なら少しの書損じぐらいは無視するのだが、今回のは人にあげるもの。会心の出来を差し出したいというプライドが彼にもあった。
 受け取り主が何時くるのかがわからないのもあり、出来るだけ完成を早めたい一身で、焼きたてのしっとりふわふわのパンを使ったわけだ。
「なあ坊主、最近感じとったんだけど、お前の周りに誰かいるで?」
「え?」
「さっきのパパさんの話聞いて眉唾思ったけど、本当にいるかもな、イタズラエルフ……」
「そんな、シドレーまで……」
 普段は実利的というか自分の見たものくらいしか信じようとしないシドレーだが、今回は妙にエルフの存在を信じているらしい。
「まあなんだ。俺、多分エルフとか会ったことあると思うからなんだろうけど、それにしても今回のはちょいわざとらしすぎるな」
「そう? でもちょっと会ってみたいな。そのイタズラエルフに……」
「イタズラじゃなーい!」
 リョカがくすっと笑うと、背後で女の子の声が響いた。驚いて辺りを見回すが、誰も居ない……かに見えた。
「誰? どこにいるの?」
 リョカはキョロキョロしながらも武器を構える。この前の幽霊のこともあり、何時どこに悪意のあるものがいるのかもわからない。
「危ないな……。武器なんてしまいなさいよ」
「でも、姿が見えないし……」
「もっと目を凝らして、感覚の目で見るの……」
「感覚の目って……」
「うふふ、嘘よ……。アンチレムオル……」
 リョカの前で光が人の形に散りばめられたと思ったら、知らない、紫の髪の女の子が立っていた。
 イタズラっぽい二重の瞼と気の強そうな釣り目。鼻が高く、上唇のふっくらした感じの唇。なにか楽しそうで笑窪が出来ている。
 腕組みをしたまま彼女はリョカに歩みよる。
「私はエルフのベラ。ベラ・ローサ。急で悪いんだけど君にお願いがあるの」
「僕にお願い? いいけど……、そうだ、君がこの村でイタズラをしていたの?」
「ええ……。みんな気付かないから楽しくってね……。でも焼きたてのパンを消しゴム代わりにしたのは私じゃないけどね……」
「うう……」
「坊主の悪さはしっかり筒抜けだわな。しゃーない、サンチョにはこってり油絞られて来い」
 くくっと笑うシドレーと憂鬱になるリョカ。ガロンは主人の周りを走りまわる。
「あのね、実は今妖精の村が大変なことになっているのよ。人間の世界に春を呼ぶための春風のフルートが盗まれちゃって……」
「春を呼ぶための? もしかして最近がまだ寒いのって……」
「そう。それが原因なのよ。で、なんとかしてそれを取替えさなきゃいけないんだけど、あたし達エルフ……、エメラルドエルフって言うんだけど、戦いとか苦手なのよ。だから、人間の戦士に協力を求めているの」
「協力ってあんた……、そんなん坊主に頼まないでパパさんやらもっと強い人誘えばいいんでないの?」
 もっともな疑問を口にするシドレー。確かに子供にしては強いリョカだが、戦士を生業としている者のほうが適任と言えるだろう。
「それがね、エルフの里があるんだけど、そこが人間の……特に欲望に塗れた大人に知られると困るのよ。だから里に案内できるのはまだ欲の少ないであろう子供に限られるの」
「なんじゃそりゃ……。そんなん言うてる暇があるのかいな……」
「そうなのよ。でも、おえらいさんの方だと、まだ逼迫した状況じゃない、ルビーエルフの戦士を呼べばとかのんびりしたことばっかり。もし春が来なかったら植物は育たないし、人間の世界は大変なことになるわ……」
 深刻そうな話なのだが、せこいイタズラをして回っていたベラを見ていると、それが伝わってこないところがある。ただ、彼女が必死であることだけは理解できるのと、最近の寒さにはリョカも不思議だと思っていた節がある。
「そう。わかったよ。それじゃあ僕らはどうすればいいの?」
「うん。まずはエルフの里に案内する。捉まって」
 リョカは差し出された手を掴む。ベラは片手で器用に印を組むと、大気中から魔力が集まりだし、二人と二匹は光に包まれる。
「ルーラ!」
 そして、空へと消えた……。

**――**

 リョカが目を開けると、最初に飛び込んできたのは雪一色の世界。
「雪だ……、こんなに積もってるなんて見たことないや……」
「ぼうず~!」
「なに? シドレー……うわっぷ!」
 リョカが振り向くと小さい雪の玉が投げつけられる。鼻先でもふっとはじけて冷たさを残す雪球に、リョカも負けじと足元の雪で玉を作り、投げ返す。
「ふふん! 当たるか、そんなひょろだま!」
 シドレーはひょいとかわすも、続く玉がバスンと顔面に命中。
「やったな、坊主! うりゃ、うりゃ!」
 シドレーは雪の上に降り立つと、小さな手で雪をほいほい投げ始める。
「お、やるか! どうだ!」
 リョカも同じくやり返すが……。
「きゃっ!」
 その玉はベラにぶつかり、彼女は怒りにぷるぷると震えだす。
「このアホガキ!」
 ベラはそう言うと足元の雪で玉を作り、リョカに投げつける。
「はは、ベラさん、こちら!」
 こうして始まった雪合戦。ガロンは雪の冷たさで震えながら、休める場所を探していた。
 すると、そっとガロンを抱きかかえてくれる手があった。青い髪の少女はガロンを持ち上げ、未だに雪合戦を続ける二人と一匹のほうへと歩み出る。
「三人とも、子猫ちゃんが寒がっていますわよ~。早く村に参りましょう……」
 その呼びかけに夢中で走りまわる彼らは気付いていない様子。
「ほらほらー!」
「きー! まちなさい! このバカとかげ!」
「ねえ、ベラさ~ん」
 間延びした声は興奮した彼らを冷やすことはなく……。
「ほらほら、リョカさんも~」
 それた雪球が少女のほうへと向かい……。
「きゃっ!」
 顔面にぶつかった……。
 ガロンは驚いて彼女のほうを見るが、その表情にぶるっと身震いすると、無理やりにでもその腕の中を逃げようとした。だが、彼女はそれを許さず、なれた手つきで背中を撫でる。ガロンは寒さとは別の理由で震えていたが……。
「あ、ごめんなさい……」
「ご、ごめん!」
「いやな、このアホエルフがいけないんやで……」
 二人と一匹は青いロングヘアーの少女に気付いたらしく、口々に謝りだす。
「リョカさ~ん、ベラさ~ん、それにメラリザードさん? ちょっといいですか? お話しがありますんで……」
 ぱらぱらと雪を払う少女はにっこりと微笑んでいるものの、額には怒りの四つ筋が浮かんでおり……。

**――**

「まったく、妖精の国が大ピンチというから来たというのに、ベラさんは雪合戦のお相手を探していたというのですか? リョカさんもメラリザードさんもそうです。春風のフルートが無いと人間界にも春が来ないんですよ? 今はまだ肌寒いで済むでしょうけれど、季節はずれの雪が降った日には農作物に甚大な影響が出ます。飼料がなければ町と町、村を結ぶキャラバン隊にも影響が出るんです。そうしたら世界中で子供達がおなかを空かせることになるんですよ? 私達はその事態を解決すべきためにここに呼ばれたのでしょう? 確かに一面の雪にはしゃぎたい気持ちもわかります。恥ずかしながら私も雪ウサギを二つ三つ作っておりましたし。けれどそれはベラさんがもう一人の戦士を呼ぶまでのあいた時間でした程度のことです。今こうして戦力が集まった以上、すべきことは雪合戦のほかにあるのではありませんか!?」
「「「は~い、すみませ~ん……反省してま~す……」」」
 妖精の村の宿屋の隅っこにて、リョカ、ベラ、シドレーは正座させられながら青いロングヘアーの少女、フローラ・レイク・ゴルドスミスにお説教を受けていた。それもかれこれ小一時間。一体どこから叱る材料を持ってくるのか、彼女の台詞は多岐に渡り、しまいには古語、故事、最近の出来事に至るまでになる。
「あの……そろそろですね……」
 恐る恐るベラがお説教の中座を求めるが……、
「まだ話は終ってません!」
 とぴしゃりとされる。
 リョカは前にデボラが妹の説教を恐れていたことを思い出し、そしてそれを実感していた。
「いいですか? ……クドクド……。でしてね……クドクド……」
 まだ終わりを見せない説教なのだが、いちいち反論のしづらい言葉選びに三人ともすっかり消沈気味。
「……フローラさん、その辺にしてあげてはいかがかしら……」
 ドアがキィと開き、青い派手さはないが豪華な服装に身を包んだ上品な女性がやってくる。
「ポ、ポワン様!」
 ベラは慌てておでこを床にこすりつける。フローラもその威厳というべきものを感じたのか、ようやく口を紡ぐ。
「ベラ。この方達が貴女の選んだ戦士なのですね? なんとも可愛らしい戦士ばかりですが……」
 ポワンはフローラ、リョカを見ながらそう言う。
「はは、はい! このリョカはこの見てくれですが、この年にして独力で回復魔法、解毒魔法、それに真空魔法を覚えております。それに武器などの扱いにも精通しており、なにより地獄の殺し屋といわれるキラーパンサーの子供を手なずけております」
 その地獄の殺し屋の幼子は先ほどから暖炉の前でごろごろ寝返りをうち、ホビットから与えられたマタタビで気持ち良さそうにしている。
「そしてあの……、本当はアンディという少年を連れてくるつもりでしたが、何かの手違いでフローラさんを連れてきてしまい……。直ぐに送り届けますので……」
「あら、ベラさんは私が戦士だと不服だというのですか?」
「いえいえ、滅相もありません。むしろ、私を含めて最強かと……」
 先ほどの攻撃ならぬ口撃を見るにそうそう適う相手ではないと判断するベラ。むしろ別な理由で彼女を送り返したいのが本音だろう。
「私だって回復魔法はべホイミまで使えますし、氷結魔法、爆裂魔法、火炎魔法も中級までは覚えておりますわ……」
「へえ、フローラちゃんは複数の系統の魔法を使えるんだ……」
 リョカは素直に驚いていた。彼も複数の魔法を覚えているとはいえ、攻撃系を複数に覚えるというのは至難のこと。というのも、魔法を放つに当たって必要なのはイメージなのだ。
 魔力を媒体に精霊を使役する。真空なら風の精霊を呼び、炎なら火の精霊を呼ぶ必要がある。だが、その際イメージが伴わなければ正しく精霊を呼び寄せることが出来ない。例えば火炎魔法を使った直後だと上手く他の精霊をイメージすることができず、氷結魔法に限らずほかの系統が使えないことがある。
 普通、魔道士とされる者ならともかく、一般には一系統を覚えればそれで十分とされるのは、それが原因である。
「ええ。そのうち真空魔法も覚える予定ですし、閃光魔法も初級なら問題ありません」
 得意そうに言う彼女は、普段姉の影に隠れる控えめな子に見えない。
「だだけど、女の子に危ないし……、アンディ君は剣も使えるから……」
 ベラはなんとしても帰したいらしく、仕切りにアンディの名を告げる。
「あら、ベラさんも女の子でしょ? 貴女に出来て私に出来ないとでも言うのかしら? それに危ないならこそ回復魔法が使える私が必要になりませんか?」
「そうだね、僕も回復魔法はホイミしか使えないし……」
 頼りにしていたリョカにまで見放され、ベラはがっくり膝をつく。
「そうですか……わかりました。ですがご無理はなさらぬようにお願いします。あなた方が傷付いて悲しむものも居ります事をくれぐれもお忘れなく……」
 ポワンはそう言うと深くお辞儀をして、また元のように戻っていった。
 するとリョカの影からシドレーが顔を出す。何かにおびえていたのか、その額には汗が浮かんでいる。
「なんかすごい圧力だったな、あのおばちゃん……」
「そうなの? 普通の優しそうな人じゃないか……ってエルフか」
「いやいや、なあベラ。あの人、ただもんじゃないだろ?」
「……ええ……。少なくとも貴方ごときメラリザード、片手で灰に出来るわね……」
 ごくりと息を飲むシドレー。
「ならおばちゃんが行けばいいんじゃないの?」
「それが出来たらそうしてるわ。このエルフの里は貴方達人間の世界のどこかに必ずあるのよ。人間達も人が増えれば新しい土地を探す必要がある。最近は常により安全で、恵みの多い土地を求めているでしょ? エルフの里をそういう人間達から隠すためには結界を張る必要があるのよ。それをしているのがポワン様。もしポワン様がみだりに動けばバランスが崩れて人に発見される恐れがある。だからポワン様はいけないのよ……」
「なるほどな……。まあ、しゃーないな……。よし、俺らでちょいとその何とかのフルートってのを拾ってくるか……」
「ええ、まずはそれを盗んだとされる極悪非道の罪人、ザイル・シードをしょっぴいてあげるわ!」
 こぶしを天高く掲げるベラにリョカとフローラも「おー」と続く。ガロンはただ「にゃぁ」と鳴いていたが……。

続く

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