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幼年編_妖精の里_その二

 ザイルはホビットと一緒に住んでいるらしく、村の西の庵にいるとのこと。
 リョカ達は防寒具に身を包みながら向かっていた。特注の手袋というか足袋で四肢を防寒したガロンは元気よく荷物を載せたソリをひく。
「なあ、なんでルーラつかわんの?」
 せわしなく周囲を飛ぶシドレーは自然な疑問を口にする。
「アンタだってその葉っぱみたいな羽つかってないでしょ? もっと大きくてカッコイイドラゴンならあたし達皆を一度に運べるのにさ……、せいぜいトカゲのシドレーちゃんにはそれも出来ないもんね……」
「うっさいアホ!」
 フンと火の息を吐くシドレーに、ベラはニヒッと笑う。例のイタズラも本当にこの子の性格が原因なのだろうとリョカは思っていた。
「でも、ルーラのような古代の魔法が使えるなんてベラさんもすごいですわね……。私達人間はある理由で禁止したそうですが……」
 魔法に特別興味のあるフローラはふうとため息をつく。
「え? 禁止したの? どうして?」
「ルーラーっていうのはつまり、拠点を制覇するってことに起因しているのよ。今世界は……人間の世界だけど、大陸ごとにある程度まとまっているわけ。けど、当然ながら火種は持っている。人が増えれば領土が必要になる。だから新たに土地を求め、場合によってはほかの国を滅ぼしたり従属させる必要がある。つまり、戦争ね」
「戦争……」
 リョカはその言葉を深くかみ締める。彼が生まれてから大きな戦争はなかったが、東のラインハット国では平和的な先王の死をきっかけに再軍備が行われているとパパスがサンチョと話しているのを聞いた。
「もしルーラなんてあったら、斥候を走らせて大部隊を送ることができる。それは互いに同じことだけど、まあ千日手になりかねないってことよ。で、戦争を続けるにはお金に兵站っていうか、単純に食料とかが必要になるわけ。でも、働き手が槍をもって借り出されるわけだから、その先に待ち受けるのは……」
「なるほど……」
「で、そういったことを防ぐためにも人間達はルーラを禁止したの」
「へぇ……でも、昔はどうして平気だったの?」
「昔は……確かポワン様のおばあちゃんのおばあちゃんの頃なんだけど、地獄の帝王っていうのが復活してね、人間同士が争っている場合なんてない、協力する必要があったのよ。だからルーラで互いの繋がりを持っていたわけ。でも今は魔物の活動も減って……」
「嘆かわしいことですわ……」
 そう言うフローラだが、それとは別にあまり表情が良くない。というのも、彼女はルーラが封印されたもう一つの理由を知っているからだ。
 戦争の回避は表向きな理由だが、本当は経済界の圧力だ。経済を牛耳る方法の一つとして流通の掌握がある。
 平地よりも危険で大型の水棲の魔物がいるというにも関わらず船を動かすのは、そうすることで商品の値段を維持できるから。
 当然世界の富豪、十指に名を連ねんとしたいゴルドスミス家もまた、その恩恵にあずかっているわけだ……。
 半分真実、半分流言であるルーラ封印の理由がエルフの里にも流れていることにフローラは驚きを持っていた。
「んで? その講釈と妖精のイタジャリがルーラで移動しないのはどういう理由なん?」
「それは……私がホビットの庵の場所を知らないからよ……」
「か~、そんなん俺ら呼ぶ前に調べとけっての。そうすりゃわざわざ荷物ソリに乗っけて移動する必要ないじゃん……」
「う、うるさいわね! っていうかイタジャリって何よ!」
「イタズラばっかりするジャリん子だからイタジャリ。我ながらナイスなネーミングセンスだろ?」
「き~、誰がジャリよ! アタシはれっきとしたレディだってば!」
「はいはい、まだトマトリゾットも出されていないションベン臭いジャリは黙っていてください」
 また例の単語を出すシドレーにリョカは疑問符を浮かべるしかない。だが、心当たりのあるフローラと今まさにバカにされたばかりのベラは顔を真っ赤にしている。
「いいでしょ! エルフはそういうのが人間より遅いんだから! ねーフローラさん!」
 女の子というか人間の性徴を知る者ならばある程度見当の付く会話。振られたフローラはやや申し訳なさそうに俯くと一言。
「えと、私はもう……」
「え……もう? 嘘、アタシより年下なのに……」
「その、ごめんなさい……」
 何がごめんなのかわからないリョカ。楽しそうに飛び回るシドレーと、真面目の走るガロン。ベラは八つ当たり気味に雪球を投げるが、空中を飛び回るシドレーに当たるはずもない……。

**――**

 村を出てから三時間程たったころ、ようやくそれらしき山倉があった。
 看板には「デルトンのお家」とあり、近くの小屋の煙突から白い煙が上がっていた。
「ここがザイルのアジトね! 見てなさい。フルートを盗んだこと、後悔させてあげるんだから!」
「まぁまぁ、落ち着いて……。でも変ですね。極悪な罪人が隠れているにはあまりにも無防備すぎませんか? 何か罠とか仕掛けているかと警戒していたのですが……」
 庵が見えるにしたがってフローラは仕切りに周囲を伺うように言っていた。だが、ここまで来るにいたって特別何かがあるわけでもなく、今こうして目の前にある小屋も危険のきの字もしない。
「ん~、それもそうね。よし、シドレーあんたに名誉ある任務をあげる。私達はここで待機するから小屋の中を偵察してきなさい!」
「なにが名誉あるだよ……まったく……」
 そう言いながらもシドレーは入ろうとドアを引く。だが、押してもびくともせず、しょうがなく空へ飛ぶと、煙突のほうから入っていく。
 しばらくして中の様子があわただしくなり始める。そしてきいとドアが開く。
 出てきたのはサンタローズの村にいたホビット、ドルトン親方に良く似た小男で、驚いた様子で目をぱちくりしていた。
「君ら、ポワン様の使者なのかい? ザイルが春風のフルートを盗んだというのは本当かい?」
「ええそうよ! 盗人のザイルを匿うのなら貴方も同罪よ! さあ、神妙にお縄につきなさい!」
 びしっと決めるベラだが、この雪の中歩いてきたせいか鼻水がずる……。
「とりあえず中に入りましょう。ここではなんだし……」
 ホビットはとりあえず三人と二匹を小屋に招きいれた……。

「まぁ、デルトン親方はここで鍵について研究を……」
 白湯の入ったマグカップを持ちながら、フローラは驚いた様子で話を聞いていた。
「ええ、ただまあ、こういう研究でしょ? 泥棒に使おうとするものが弟子入りしてくるので、しょうがなくここの小屋に移り住んだわけですよ。それをザイルが何を勘違いしたのかポワン様に追い出されたと言い出しましてね、それで仕返しをすると言って出て行ったのですよ……まったく困った弟子だ……」
 ほっほと笑うデルトン親方はドルトン親方にそっくりで、違うところがあるとしたらおでこに大きなほくろがあることぐらい。
「ねえ親方。もしかしてドルトン親方の兄弟?」
「ドルトン? これまた懐かしい名前だなあ。兄貴は元気にしているかい?」
「ええ。この前爆弾岩に囲まれて大ピンチだったけど……」
「はっはっは、まだアイツも難儀な……」
 笑い方はやや違うが、その仕草や雰囲気は良く似ている。これは兄弟だからなのだろうか?
「で、ザイルはどこに行ったのかしら?」
 歓談になりかねない空気にようやく鼻をかんだベラが真面目な顔で切り出す。
「うむ。ザイルなんじゃが、ここにいないということはおそらく雪の女王の城かもしれん。いくら春風のフルートが奪われたとはいえ、今回の猛吹雪が説明できん。おそらくザイルの奴、女王にそそのかされて奪ったのかもしれんな」
「雪の女王?」
 まるで童話の中の話。いや、エルフの里という時点ですでにそうなのだが、最近読んだ本にそういうのが有ったのを思い出すリョカ。確か男の子が心を魔物の鏡の破片に奪われたらしいが、まるでそのザイルも同じだと感じていた。
「また厄介な奴が出てきたわね。せいぜい冬の間だけいい気にしていればいいものを! エルフの里に二人も女王が要らないことを教えてあげる必要があるわね! それじゃあいくわ……は、は、はくしょん!」
 盛大に噴出した鼻水は空を飛んでいたシドレーをしっかりと捉えて……。

**――**

 小屋を出て氷の城に向かう一行。
 リョカは印を組み、先ほど教えてもらった新たな「技」を練習している。
 ガロンは相変わらずけなげにソリを引き、シドレーはその上で転寝。
 フローラは顎に手を当てながら考え事をしており、それはベラも同じ。

 ――坊やに特別に『鍵の技法』を教えよう。これは簡単な鍵を開けてしまえるという特殊な技法なんだ。いわゆる禁止魔法の類じゃな。まあ、なんだ、あまり行儀の良い技ではなくてな。坊やみたいな心の清らか……というと色々語弊があるが、不思議と澄んだ目をしている子になら教えてあげてもいいと思う。本当ならワシが行けばよいのだが、生憎ぎっくり腰で寒さが堪えるんじゃ。いや、それだけじゃない。これは付け足しみたいに聞こえるかもしれんが、坊やにこそこの技法を教えるべきなのではないかと思えてな……。そう、かつてある賢者が馴染み深い塔にて盗賊から万能な鍵を奪ったことがあっての、じゃが使い道がない。しょうがなく昼寝をしていたらある勇敢な若者がある日訪れる、その者にこそ鍵を渡す必要があるとお告げじみた夢をみたそうだ。実はわしも最近変な夢を見てな、素朴だがやや女子にだらしない少年にそれを渡すという夢なんじゃよ……。あ、いやいや坊やが女性にだらしないというつもりはないぞ? ただまあ、ほら、可愛い娘さんたちに囲まれておるし、そういう意味では夢の通りじゃし、まあそのなんだ、とりあえず、ザイルのバカを正気に戻してやってくれ……。

「もう、どうしてあたしに教えないのよ! 人間の子供に教えるなんてデルトン親方もどうかしてるわ!」
 当然といえば当然。わが身を振り返れば納得いくことなのだが、どうにも当人にはそれがわからないらしい。
「……鍵の技法がもしアバカムのような禁魔法の類なら……」
 逆にフローラは神妙な顔つきでぶつぶつと独り言。
「そんなん当然だろ? イタジャリなんかに教えたらイタズラに使われるっての……」
 眠そうにそう呟くシドレーには雪の玉が投げられ……。

**――**

「でっかいな~」
 氷の城を前にして、リョカは呟いた。
 雪の降りしきる中、轟然と佇む氷の城。扉も城壁も全て氷であり、屈折率の違いのせいで七色に輝いて見える。
 いかんせん氷のためか、中の様子がうっすらと見え、玉座と思しき場所には誰かが宝箱片手にいるのが見える。
「あれがザイルね……、よーし、いっちょシドレーアイツに火炎をおみまいして!」
 これまでの旅路の寒さ、疲労、それに鍵の技法の件について不満たらたらなベラはシドレーにそう言う。
「無茶言うな。なんぼ透けてる言うても、あそこまで炎が届くかいな。せいぜい壁をちょっと溶かして終わりだっての……」
 小さく炎を吐くと、壁の一部が少し溶ける。だが、溶けた水もしばらくすればまた固まる。
「さて、それじゃあリョカさん。鍵の技法で扉を……」
 フローラに促されて城門に出るリョカ。ただ、フローラの嬉々とした視線の前でどうにもやりづらいのが本音。
「ま、いっか……」
 リョカは親方に教えてもらった印を組むと、雪の下から大地の精霊の力が集約されていく。
「大地に眠る悪戯な精励よ、我は彼の者の戒め破らんと願うなり……、戒めを解け、……アガム……」
 リョカの声に合わせて精霊達は城門の鍵へとまとわり付き、そして開錠の音が聞こえた。
 ――やはり禁魔法、アバカムの類なのね……。ルカニに似た印だけど、デルトンさんはおそらく簡易型しか発見していない。これでは魔法による鍵を開錠することは無理かしら……。
 フローラはリョカに隠れてみよう見真似で印を組む。ただ、それをシドレーに見られたので、笑顔で誤魔化していた。
「さて、そんじゃいくべか~」
 シドレーはのんきにそう言うと、そそくさと城門を潜った……。

 氷の城の廊下は当然氷。気を抜くとつるつるすべり、そのたびにぶつかったり転んだりと繰り返す。
 城の中央では彼らの侵入に気付いたのか、玉座にいる覆面を被った少年が指をさして笑っている。
「きぃ~、絶対に許さないんだから!」
 今ぶつけたばかりの額を摩りながら、ベラはザイルと思しき存在に毒づく。
「おっと、もう直ぐ玉座だな……と」
 迷路のような、それも透明で行けるようで辿り付けない城を練り歩き、最後には交代で左手を壁に添えて玉座を目指した討伐隊。徐々に盗人の笑い声が近くなり、玉座に向かうであろう門の前にたどり着いた。
「よーし、リョカ、お願い!」
「う、うん! ……アガム!」
 二度目ともあり省略しながら魔法を唱えるリョカ。比較的初級の魔法のおかげで直ぐに使えるようだった。
 扉はギシっと音を立てた後、氷の床を滑るように開き、そのまま外れてしまう。
「うは……あぶね……」
 倒れてきたドアが氷の壁につっかえることでなんとかぺしゃんこを免れたシドレーはほっと一息。
「なんだお前ら! ここをどこだと思ってるんだ? ここは氷の女王様のお城だぞ! 控えろよ!」
 玉座の少年は手斧をぶんぶん振り回しながら喚いているが、ベラは怯む様子なく啖呵を切る。
「そっちこそ神妙になさい! 世界に春を呼ぶための春風のフルート! それが無いおかげでどれだけの人が迷惑していると思っているの!」
「へんだ! ポワンがデルトン親方を追い出したのがいけないのさ! 親方が帰るまで俺は絶対に返さないぞ!」
「なにをバカなことを! デルトン親方は研究のために庵を移したって言ってるでしょ!? 全部あんたの勘違いなのよ!」
 デルトンの名前が出たことでやや怯むザイル。
「だって、氷の女王が……」
「何が氷の女王よ! 春を来させないことで力を伸ばしたいだけの小物でしょ? アンタは騙されてるのよ!」
「俺が騙されてるって、証拠あるのかよ!」
「そんなの、周り見ればわかるでしょ? 冬が長引くことで得する人なんてそんなにいるわけないじゃない!」
「けど……だって……」
 彼もこの寒さに辟易しているのか、身震いしながら白い息を吐く。
「その寒さだって、氷の女王のせいなの! いい? もう一度言うけど、アンタは騙されているの!」
「嘘、嘘だ……そんなの……」
 かじかんだ手は斧を持つ力も入らなくなったらしく、コロンの氷の床に落ちると、そのまま慣性に従って滑る。
 リョカはそれを拾うと、ゆっくりとザイルに近寄る。
「ベラの言い方はケンカ腰だけど、でも春が来ないのはおかしいことだよ。本当なら今頃いろんな草花が芽を出すはずなんだ。親方の家にも鉢植えがあったよね? あんまり寒いと皆震えて外で遊べないんだ……」
「うっ……うぅ……」
 リョカの優しい物言いに素直に反論しづらいザイル。斧を受け取る手を握られると、その温かさがかじかんだ手をかゆくさせる。
「そっか、俺、親方のことしか考えないで皆に酷いことしてたのか……」
「まだ僕らの世界はそんなに影響が出ていないけど、これが続けば取り返しがつかないことになるかもしれないんだ。だから……ね?」
「う、うん。わかったよ。俺が間違ってた……」
 ザイルはそう言うと斧を捨て、玉座に乗せていた宝箱から宝石の散りばめられたフルートを取り出す。
「これ、返す。そして俺、ポワン様に謝るよ」
「うん!」
 ザイルの素直な言葉にリョカは微笑みを返す。
「ふん! 正義は勝つ! 当然よ!」
 ベラはことの成り行きがいい方向に向かったことで腕組みをしながら高笑いをする。
 だが……、

続く

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