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幼年編_妖精の里_その三

 ――ほーっほっほっほ! やっぱり子供だねえ~! 大人しく騙されていればいいものを! 見てなさい春なんか来させやしないんだからね~!!
 一陣の風、いや吹雪がリョカとザイルの間を縫ったと思うと、それらが集まりだし、人の形を成す。
「お前が氷の女王か!」
 ふわふわした粉雪の青いドレスに身を包む女性。美しくも冷たいその存在は、右手にフルートをしかと持っている。
「ぐるるる……」
「コイツがボスか……。坊主、コイツかなり強いど……気ぃぬくな!」
 唸るガロンはリョカの命令も待たずに飛び掛る。ガロンも大きく口を膨らませると、大きな火炎の玉を吐き出す。
「ぐっ! まずいわね~」
 ガロンの牙を左腕ではらうが、メラミを飲み込む炎の塊には冷や汗も凍るほど。女王は咄嗟に作った氷の盾でそれを弾くが、炎の威力が勝っているらしくそれは一瞬にして半壊していた。
「今だ!」
 リョカは間髪いれずにブーメランを投げる。
「しまった!」
 それは右手首を強く打ち、フルートを落させる。
「いただき!」
 ちょこまか動いていたベラはフルートを拾い、扉へ走る。
「みんな! 逃げるわよ! これさえポワン様のところに戻れば女王も力を失うわ!」
 勝利の予感に喜びの声を上げるベラだが、皆表情が暗い。
「出られたらの話かな……」
 リョカの言葉の直ぐ後に、扉のほうで破裂音がした。
 玉座と廊下を結ぶドアが崩れたのかと思ったベラだが、音はさらにその外側で起こっていたらしく、うっすらと見える第一の城壁が崩れ、出口を塞いでいた。
「その通りよ! お前達を逃がさなければ春風のフルートはポワンの元へいかない。そうすればこの世界は永遠の冬になる。私の時代よ! あの忌々しい姉さんだって手が出せない、氷の楽園をつくるのよ!」
「まあ、恐ろしいことですわ……」
 わざとらしい驚いた口調で言うフローラだが、そっと両手を広げると、大きな火炎の玉が二つ出来上がり、それが空中で合わさると先ほどシドレーが放ったそれよりも一回り大きなものになる。
「なっ! なんじゃそりゃ~!」
「メラミ? いや、メラゾーマ?」
「メラって言いますの。両手で出すとこんなに大きくなって、物騒ですわね……」
 ふうと困ったようにため息をつくフローラだが、彼女を除くほとんどの者がありえない大きさのメラ(×2ではあるが)に驚きを隠せない。
「そおれ!」
「ひ!」
 無常にも投げつけられた火焔球はものすごいスピードで女王へと向かう。再び氷の盾を作るが、それらは触れると同時に蒸発してしまう。
「ぎやぁあああぁぁぁ!」
 体の半分を持っていかれた女王。それでも火焔球の勢いは衰えず、城の屋根をぶちやぶって外へ出て消える。
「あらあら、粉雪のお召し物が台無しですわね……。私、夏に一着欲しかったのですが……、諦めますわ……」
「き、きぃ~」
 女王は彼我の明らか過ぎる戦力差におびえ、歪み、魔物の性分ともいえる醜い顔を見せる。
「わ、わあ! 化け物だ!」
 ザイルはリョカの背後に隠れがたがた震えだす。
「よくも私の服を、城を、半身を……! お前だけは許さない。お前だけは氷付けにしてばらばらにしてやる!」
 そう叫ぶと女王はすごい勢いでフローラに突進する。
「バカやな~、あの威力を見てまだ行くんかい……」
「それが……、先ほどの魔法でここら辺の火の精霊さん達がいなくなってしまいまして……、連発は無理ですわ」
 窮地であることを臆すことなく語るフローラに再び唖然とする面々。女王のみがにやりと笑い、氷の槍と化した右手を構え、フローラに襲い掛かる。
「ですが……、氷の精霊さんならいくらでも……」
「バカが! 雪の女王に氷が効くとお思いかい? そのお花畑な脳みそぶちまけな!」
「あらあら、そんな言葉遣いだとお里が知れますわ……」
 やれやれといった様子のフローラは空中で円を描き「ヒャダルコ」と呟く。
 それは氷結系の中級魔法ではあるが、たとえどんなに魔力の差、錬度があろうと、氷の魔物に効果があるとは思えない。
「死ね!」
「フローラさん!」
 すっかり油断していたリョカはカシの杖を構えて彼女の前に出ようとする。
「大丈夫ですわ……」
 だが、それは軽い真空魔法で弾かれてしまう。
 一体何が大丈夫なのかわからないリョカだが、それは数秒と経たずに理解できた。
 氷の槍を構えた女王が空中で、フローラにまったく届きそうに無いところで止まっているのだ。
「な、なんだ! バカな!」
 なんと氷結が氷柱をなし、女王の体を捉えているのだ。
「本当は氷の中に留めてしまおうと思ったのですが、意外とスピードがありますわね?」
 フローラは女王が動けないことを確かめもせず、近寄ると、さらに氷の精霊を集めだす。
「ぐ、まさか、氷の、私は氷の女王だぞ! なんで氷に!? まさか……私が……!」
 断末魔の悲鳴を上げることも出来ない速度で氷漬になる女王。完全に氷柱に閉じ込められた彼女はもう身動きが取れることはないだろう。
「嘘……、だって氷の女王だよ……」
「氷の女王を名乗られましても氷を使役できるわけではないでしょ? 風邪を引かないようにお気をつけ遊ばせ……は、は、くしゅん……」
 寒さのせいか可愛らしいクシャミをするフローラは照れたように鼻をかむ。
 だが、彼女がそんな可愛らしい存在とは誰も思えないわけで……。

**――**

「フローラさんすごいね!」
 ソリを引くリョカとザイルとガロン。乗るのはフローラとベラの女の子二人組み。
「いーえ、これは本当のことですけど、私一人ではどうにもなりませんでしたよ?」
「そうじゃな。まあ俺の炎のおかげかな?」
 リョカの肩に止まるシドレーがボソッと言うと、ベラがむきになる。
「何が俺の炎よ! 全部このフローラ大先生のおかげじゃない! ああん、私は最初からずっとやれる子だって信じていました! 貴女を見たときからきっと名のある大魔道士の卵だと!」
 目をきらきらさせるベラにフローラは落ち着いてと手をかざす。
「ええ、気付いておられたようですので種明かしをしますが、あの場で火の精霊を集めるなんて無理です。けれど、シドレーさんが炎を吐き出したおかげで私、そこに集まってきた精霊を誘導しましたの。それに、リョカさんや皆さんの奮闘のおかげで魔法を練ることが出来ましたわ」
 その言葉にリョカとベラはへーと頷く。
「それと、あれはメラじゃなくてメラミだな? つか、おじょうちゃん、無詠唱で使えるんな?」
「ええ」
「なんでメラミって言わないの?」
「その方がハッタリが効きますでしょ? 正直、あの状況で女王を倒すことは不可能と思っておりましたの。女王が私達を城に閉じ込めようとしたとき、そこにヒントがあるかもと思いまして……、それで氷の柱に封じ込めようとしましたわ。もちろん、彼女に氷を打ち破る力がありましたらお手上げですけどね……」
「んでもま、俺が火を噴けばまたあのメラミが使えるんだけどな……」
 ぼっと炎を噴いてみせるシドレーだが、ベラは調子に乗るなと頭を叩く。
「でもすごいや。魔法って本当に強力だね! 僕もちゃんと勉強しないと……」
「ええ、ですが、魔法には脆弱性があります。いくら威力がありましても、それを練るまでの時間があります。そして、その間に攻撃されたら私のようなか弱い者など倒されてしまいます。それらを守る戦士というのは、やはり戦いにおいて重要なポジションなのですわ」
「ふうん……」
「ですから、リョカさんも魔法に拘るのではなく、守ることも勉強することも重要なのです」
「うん。わかったよ。ありがとう。フローラさん」
「はい」
 にこりと笑うフローラにリョカはやや照れてしまう。
「ね~、講釈もいいけど、お前らもちゃんとひっぱってよ~」
 そんな中、一人黙々とソリを引っ張っていたザイルは泣き声をあげていた。
「ま、おまんが余計なことしなければ今回のこともないわけやし、罰だわな……」
「お願いだよ~! 手伝ってよ~」
「ははは、がんばろうね、ザイル!」
 リョカはそう言うと、綱を肩から背負い、ソリをぐんぐんと引っ張った……。

**――**

 春風のフルートが奏でる音色。それは世界に春を知らせるもの。
 雪を降らせていた暗い雲が流れ、暖かな日差しが差し込む。
 それはエルフの里にも、世界の各地に広がるであろう。
 リョカの足元の、雪解けをしていた地面ではむくりと小石が持ち上げられ、寝坊を取り戻そうとしているのか、双葉がわかれ、どんどんと芽吹いていく。それはまるでおとぎの世界の話だが、触れることでそれが真実であるとわかる。
「うわ~、すごいよ……」
「本当……、生命、植物の神秘を感じますわ……」
 リョカは思い出したように道具袋を開けると、そこから持ってきていたスケッチブックと貴重なカラーコンテを取り出す。
「僕、この絵を描くんだ。そしてあの女の子にあげないと……」
「あのアンとか言う生意気な青ジャリか……。一体何者なんじゃろな? 俺のこと知ってるしで、気味悪いわ……」
「誰が気味悪いの?」
 シドレーがぶつくさ言っていると、青い髪のおかっぱの、青いリボンをつけた女の子が笑顔でやってくる。
「わ! 出た!」
「アンさんだね? 今描いているんだけど、どうしようかな……」
 リョカはまだ描き始めたばかりの絵を見て手を急がせる。
「んーとね、この前描いたものでいいの。えとえと……」
 アンはリョカのスケッチブックを開くと、ごそごそと探し始め、そしてこの前書き上げたサンタローズの洞窟の絵を選ぶ。
「え? これでいいの? 他にももっといいのが……」
「ん~、お……リョカさんの絵はステキだけど、順番があるの。それで、本当は全部もらいたいんだけど、そうすると他の……私が困っちゃうのよ……」
「そう……。でもいいや。はい、君に上げるね……」
「うん、ありがと」
 アンは礼儀正しくお礼をすると、絵をくるくるとたたんでリボンで結ぶ。
「なんや、この前と違ってえろう素直じゃな……。それになんかちっさいし……? 縮んだと違う?」
「え? あ、あはは……シドレーさん、そんなことないよ……」
「つか、自分この前俺のこと呼び捨てにしてなかった? まあ、さん付けのほうが気分悪くないけど……」
 それでもなにか引っかかることがあるらしく、シドレーはくるくる空中で回る。するとそれに気付いたガロンが何かの遊びなのかとじゃれ付き始める。
「あは! ちっちゃいガロンだ。可愛い!」
 女の子はシドレーにじゃれたいガロンを抱き上げると、頭をなでなでとする。
「なんじゃ? お前、ガロンのことも知ってるのか……? こうなってくると、ますますわからんな……。俺の昔の知り合いってわけでもなさそうだし……」
「まま、いいからいいから……」
 アンはガロンを離すと、急に落されたせいで着地に失敗してしまう。
「あらあら、ガロンちゃん、乱暴に扱っちゃめーですよ?」
 ガロンが走った先にはフローラが居り、やっぱり抱きかかえながら戻ってくる。その手には何か本を持っているようで、かなり古臭く、そして厚いのがわかる。
「フローラさん、それは?」
「ええ、今回のことでごほうびをいただけると聞きましたので、魔法に関する本を一冊借りましたの……。読み終わりましたらベラさんが別のを届けてくれると仰るので、うふふ、らっきーですわ」
 本を掲げながら嬉しそうに微笑むフローラ。するとアンは驚いたようにリョカの後ろに隠れる。
「どうしたの? アン……」
「えと、その……」
「まあ、貴女も呼ばれたの? 本当にベラさんたらそそっかしい人……」
 ふうとため息をつくフローラは彼女に歩み寄り、その顔を覗き込む。
「アンさん? もう怖い氷の女王はこのお兄さん達で退治しましたから、安心してくださいね?」
「は、はい、ありがとうございます!」
 にこっと話しかけるフローラと対照的にアンは直立不動の敬礼しかねない様子で言う。
「あら? このリボン……」
 フローラは彼女のおかっぱの髪を結っているリボンを見て呟く。
「こ、これ、お母様から頂いた大切なリボンなの!」
「そう。私のお気に入りのと似ているから、つい……」
「へ~、そ、そうなんですか……とてもセンスがいいものだから、多分流行っているんですよ!」
「変ね~。これはヅルトン工房で親方さんに特別に刺繍してもらったものなんだけど……」
「あ、いや、だから、多分イミテーションと言いますか……」
「イミテーション? ふふ、おかしなことを言うのね。リボンにそんなことをする必要があるのかしら?」
 何か言うたびにボロが出るようなアンはしどろもどろになり、リョカに助け舟を求めるかのような視線を送り出す。
「あ、フローラさん、妖精の村から帰るまえに何かお土産を買っていこうよ。ほら、エルフのお守りとかいろいろあるみたいだよ?」
 リョカは大振りでフローラの視界を遮り、彼女の肩を押しながら露天へと送る。
「あ、ありがと……」
「ん~ん、この前失礼なことしちゃったお詫び……」
 キスのことを思い出すリョカだが、アンはなんのことかわからない様子できょとんとしている。
「とにかく、フローラさんは引き受けるから、アンはもう行きなよ……」
「はい、わかりました!」
 不自然に素直なアンは、そう言うと宿屋の陰へと走って消えた……。
「へえ……姉さんにも何かお土産を買っていこうかしら? ねえ、リョカさんなら姉さんにどれが似合うと思います~」
「えっと! きっと赤いものが似合うと思うよ!」
 デボラのことを思い出すとややげんなりするところもあるが、フローラのお小言を思い出すとまだデボラのからっとした態度のほうが懐かしく思えるから不思議だ。もちろんそれを態度に表せば、きっと帰宅時間が大幅に遅れるのだろうけれど……。

**――**

「ただいま、サンチョ! おなか空いたけど、夕飯はまだ!?」
 家に帰ったリョカはいの一番に台所にいたサンチョに声を掛ける。
「夕飯ともうされましても、まだお昼を食べて二時間程度ですよ? まあ、お腹が空かれたようならおやつを用意しますが……」
 そう言ってサンチョはフライパンを温めだす。
「……ねぇシドレー。もしかして妖精の国と僕らの世界じゃ進む時間が違うのかな?」
「……どうだろうな? まあ腹時計で確認する限り、そうらしいが……」
 こそこそ話をする二人。五分と待たないうちにホットケーキの香ばしい香りが漂い始める。
「うわーい、サンチョのホットケーキは綺麗な狐色なんだよ!」
 さらに盛られたケーキはこんがり狐色の円を描いている。
「うは、こんな風に綺麗に焼けるとか、あんたプロだな!」
「いっただきまーす!」
 二人は口々にそれを頬張る。だが、その笑顔は一瞬にしてくずれ……。
「に、にがーい! なにこれ、苦いってば!」
 慌てて水を飲むリョカにシドレー。一体なにを間違えればホットケーキが苦くなるのか?
「今朝のことなんですけどね? 朝食に食べようと思っていたパンがミミだけを残して……」
「ご、ごめんなさ~い!」
 リョカは今朝の軽率な自分を、ちょっと、いやかなり、反省していた……。

**――**

「フローラ! 一体どこに行っていたんだい? 外で魔物に襲われたのかと思って心配したよ……」
 フローラがサラボナの街に戻り、噴水の傍で佇んでいると、金髪の少年が慌てて走ってくる。彼の名はアンディ・ラーズ。ラーズ商会の一人息子で、フローラの幼馴染だ。
 金糸で刺繍のされた服は品のよい調和を誇っており、年のわりに大人びている風もある。
「ええ、ちょっとイタズラな風に誘われまして……」
「風に? そう……でも急にいなくなったりしないでくれ。僕は君にもしものことがあったら心配で心配で……」
 ほっとした様子で肩をすくめるアンディ。
「ええ。ですがきっとアンディなら私のことを守ってくれると信じていますわ……」
 フローラは彼の左やや後ろに立つとその腕を取り、
「頼りにしておりますわ、アンディ……」
 そう呟く。
「ああ、君が困っていたら僕は何をも省みず、きっと助けにいくよ!」
 そう誇らしげに語るアンディの背後でそっと覚えたての印を組むフローラ。そして……。
「……大地のイタズラな精霊よ……、えい、アガム!」
 彼女がそう言うとかちゃりと音を立ててアンディのベルトのバックルが外れ、ずさっと落ちてしまう。
「わわ! なんだ!」
 慌ててズボンとパンツをあげようとするアンディだが、可愛らしい象さんはしっかりとフローラの目に焼きついており。
「まぁ!」
 彼女は頬を赤らめながら口元を両手で覆う。それはもちろん、笑っていることを隠すため。彼女が鍵の技法を教えてもらえなかった要因であろう……。

続く

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