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幼年編_ラインハット_その二

「おい坊主。そいつから離れろ。アブナイ奴だ」
「え? でもアニスさんは僕らのこと助けてくれたし……」
「そうじゃない。そういう意味じゃないほうのアブナイだ……」
 パタパタと羽ばたきながらリョカの前に降り立つシドレー。彼はアニスに敵意というよりは胡散臭いといった視線を投げている。
「まったく……。この前のちゅーといい、おま、本気の変態だな?」
「あら、人聞きの悪いことを……。私はただ可愛い男の子のまだ穢れない身体に興味があるだけよ……?」
「はん! 包茎の恥垢だらけのちんちんのどこが穢れてないんだか!」
「ちょっと二人とも、やめてよ……あぶないよ……」
 恩人であるアニスと友達であるシドレーがぶつかるのはあまり好ましいことではない。さらに言えば殺傷能力のある炎を無限に吐ける竜と、それを軽減するどころかかき消してしまうほどの力を持つ魔法使い。この静かなアトリエが荒地になりかねない。
「ごめんなさい。リョカ……。その、ちょっと私もおかしかったわ……」
「……ま、坊主が言うならやめるけど、変な大人にほいほいチンコみせんなよ?」
「アニスさんは僕の病気を……」
「けっ、それより先にショタコン娘の性癖を診てもらえっての……」
「忌々しいトカゲね……まったく……」
 ケンカこそ終ったものの、やはりこの二人も仲が悪いらしく、互いに睨み合っている。
「んで? 今度はなんの用? こう見えてうちのリョカ画伯大先生は忙しいの。アンとかいう青ジャリの仕事間に合わせなあかんし、邪魔するなら帰ってな。仕事のほうなら受付のガロンを通してくださいね」
 いやみったらしく言うシドレーだが、遅れて走ってきたガロンはアニスに警戒することなく近寄っていく。
「あらガロン。ご機嫌ね……」
 アニスはガロンを抱き上げると、そのまま胸にだく。ガロンもその扱いが嫌ではないらしく、ごろごろと喉を鳴らす。
「まさかガキならなんでもいいんか?」
「違うわよ。ガロンはまあ……、そうね。なんでか私にも懐いてくれるのよ。ねーガロン」
 ガロンを見るアニスの視線は彼女の言う穢れのないものであり、とても子供っぽいところがあった。
「ん? なんでお前ガロンのこと知ってるん?」
 ふと首を傾げるシドレー。リョカもその指摘に「そういえば」とアニスを見る。
「え? だって……今シドレーが言ってたでしょ? ガロンさんを通してくださいねって……」
 アニスはシドレーの口真似をしながら言うが、シドレーは不満気味。
「普通、受付通せって言われて猫がガロンだと思うか?」
 墓穴を掘るアニスは目を泳がせながら「まあ、そういえばそうね」と言い訳が見つからない様子。
「ねえそれより今日はどうしてきてくれたんです? 僕この前のお礼も全然だし、そうだ。サンチョにパンケーキを焼いてもらうよ。ね? 一緒にお昼を……」
 だが、また険悪なムードになりかねないとリョカは慌てて話題を換える。
「え、ええ、それは嬉しいんだけど、でもちょっと別に用があるのよ……」
「またチンコ見せろってのか? この変態女が……」
「ちが! そりゃまあ……って違うわよ。いい? この前レヌール城の絵をアンに渡したわよね? それで……もしかして何かこう、金色の玉を見つけてない?」
「なんだ、やっぱり坊主の金玉に興味があるんか……」
「だから! もうこのバカトカゲ! ここで灰にしてあげたら全部解決するかしら……まったくもう……」
 ぶつくさと不満たらたらなアニスだが、リョカはこれ以上彼女の機嫌が悪くならないように道具袋から例の金色に光る玉を取り出す。
「これですか?」
「ん~、多分これだけど、ちょっと見ていい?」
「はいどうぞ……」
 アニスはガロンを離すと、リョカの差し出した光の玉に手を伸ばす。
 リョカは疑う様子なくそれを渡すので、アニスは「ありがとう」と受け取ると、それを太陽に翳して見る。
 リョカもシドレーもそれを見るが、木漏れ日に視界を遮られる。
「ん、ありがと……。そうね。ちょっと違うみたいね」
「アニスさんも探し物?」
「ええ。これじゃないんだけど……」
 そういってアニスは玉を返してくれる。
「アニスさんも探し物?」
「ええ、まあね……」
「そう。父さんも何かを一生懸命探しているんだ。僕もそのお手伝いがしたいんだけど、全然弱くて……。だからアニスさんやボルカノさんみたいに強くなれたらいいんだけどね……」
 リョカはそう言うと照れたように笑い、頭を掻く。
「そう……。そうなのよね……。それは多分、覆せないこと……なのよ……」
 アニスはそう言うと瞳を潤ませる。そして急にしゃがみこむと、また彼を抱きしめた。
「お、コイツまだ諦めてないのか! リョカ、さっさとその変態ショタコン娘から離れろ! 妊娠するぞ!」
 シドレーは苦々しげに呟くが、アニスはそれに乗る気配がなく、微かに動いた長い睫、横顔に太陽の光が不自然に反射していたのが見え、言葉を止める。
「アニスさん?」
「ごめんね。私はリョカを守れない。貴方が本当に辛いとき、何もしてあげられない。だけど君は強い人だから、だからきっと大丈夫。どんなに苦しいことがあっても、きっと希望を見つけ出せる人だから……。私は強くないから、貴方のように、強くないから……」
 後半涙に掠れる声にリョカは心が痛んだ。自然と彼女の頭を撫でているのは目上の女性に対して失礼なことにも関わらず、彼はそうしており、彼女もそれを拒まなかった。
「大丈夫だよ。僕は負けないから。それにアンさんにも絵を描いてあげる約束をしたんだ。だから大丈夫だよ……」
 リョカは彼女を優しく受け止め、涙に震える彼女が落ち着くまで、そうしていた。
「ごめんね。大人のくせに泣くなんて恰好悪いよね? 強いなんていっても、せいぜい魔法が使えるだけだもの、私なんて……」
 両目をウサギのように真っ赤にさせたアニスは彼から身体を引くと、照れ笑いをしながら涙を拭く。一体彼女がどうして突然泣き出したのかはわからないが、それでも何か強い不幸があったのだろうと察し、リョカは辛かった。
「んっ……」
 すると彼女は突然目を閉じ、唇を突き出してくる。シドレーは「またか」とぼやきながら、リョカに判断を任せてガロンと一緒にそっぽを向く。
「駄目だよ。キスは大切な人とする行為、本当に好きな人としないと……」
 リョカは彼女の下唇にそっと人差し指を当てると、ちょっと強く押す。
「……むぅ、貴方はいつもそう……」
 アニスは酷く残念そうにそう言うと、すっと立ち上がる。
「それじゃあ私はこれで……。きっとまた出会うことになると思うけど、私はいつでも貴方達の味方だからね……」
「うん。僕はアニスさんのこと信じてますよ。すごくカッコイイ魔法使い! 憧れます!」
「本当! 嬉しいな!」
 アニスは「こまっちゃうな~」などと嬉しそうに身体をくねらせるので、シドレーは我慢していた一言をポツリ……。
「坊主の貞操の敵」
「死ね、トカゲ!」
 無詠唱の炎はシドレーの居た空中を通過して、空へと消えていった……。

**――**

 アニスと別れたリョカが家に戻ると、今度はまた別のお客が着ていた。
 緑を基調とした礼服に身を包む初老をとうに過ぎた老人と、その護衛らしき全身鎧に身を包んだ兵士二人。兜はフルフェイスらしく表情が見えないが、よく訓練されているらしく直立不動で待機している。
 リョカとシドレーは何事かと思い、窓から家の中を伺う。
 どうやらパパスに用があるらしく、居間兼応接間にてなにやら話しているのがわかる。
「おいリョカ、あの鎧、どっかの国のか?」
 シドレーに言われて鎧をよく見ると、肩口に緑の二本線とライオンのマークがあった。それは東にあるラインハット国の紋章である。
「あれはラインハットの紋章だよ。ここからずっと東にある国で、前に父さんと一緒に言ったことがあるよ。僕は小さかったから覚えてないけど……」
「ほう……。お前の親父、いろんなところにコネあるんじゃな……」
 感心した様子で呟くシドレーにリョカは少し鼻が高かった。
「んでも、なんでわざわざ親父に会いに来たんだ? あんなごっつい装備の兵士二人に守られてるってなるとかなり高級な官僚だろ? お前の親父はただもんじゃないだろうけど、いっちゃなんだが上流階級じゃないだろ?」
 あけすけなく言い切るシドレーだが、それはリョカも同じことを疑問に抱いている。
 そもそも父とは物心付く前から旅をしていたが、その生業がなにであるかは教えてもらっていない。旅をして何かを発見して報酬をもらう冒険家かとも考えたが、パトロンの存在も見えない。それにサンチョのような従者を従えていることも不思議なことだ。
「ね、何を話してるかわからない?」
「無茶言うな。俺かてお前と同じしか聞こえんわ……」
 ならばと耳を壁につけるが、レンガ作りではそれもままならない。かといってずかずか入るのも気が引ける。しょうがなく座り込むリョカ。その隣ではガロンがお昼ねするために彼の膝を枕にする。
「どうしようね」
「さあな。ま、なるようになるだろ……」
 そう言うとシドレーもリョカの道具袋に潜り込み、すぐに寝息を立てる。
「もう二人とも……」
 リョカはそう言いつつも、遅まきな春の陽気に転寝を始めた……。

続く

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