「ふぁ~あ、僕もおなか空いたしおやつ食べたいな……」
リョカはまだお昼も食べていないことを思い出し、そそくさと玄関に向かった。
**――**
物陰から客人が帰るのを見送ったあと、リョカはそっと家に戻る。
居間には独特の臭いのするバニアティが手付かずで残っていた。リョカも本当のところあの香りが好きではないのだが、パパスはなぜかそれを好み、それはサンチョも同じだった。
パパスはじっと何かを考えている様子で、リョカがやってきたことにも気付いていないように見える。
「ねえ、父さん。さっきの人は? ラインハットの人?」
「ん? ああ、居たのかリョカ。ああ、少し困ったことがあってな……」
話しかけるとようやく気付いたらしく、ふうとため息をつく。
「また旅になるな……。今度はラインハットか……」
「そう。どれぐらいになる? 支度しないと……」
リョカはキャンバスを抱えながら二階へ走ろうとする。
「いや、今度の旅にリョカは連れていかないつもりだ……」
「え? なんで?」
リョカは素直に驚いていた。これまでの旅にはどんなに過酷であろうとリョカを連れたパパスが、今回に限ってそれをしないという。
「うむ。それほどかかる用事ではないし、お前も絵を仕上げたいんだろ? だから……」
「やだよ。僕も行く。父さんと一緒に連れて行ってよ! 勝手なことしないから、邪魔にならないようにがんばるから!」
置いていかれたくないと必死なリョカは父の腰にすがりつく。
「いや、お前が邪魔というか足手まといなことはないのだ。むしろ最近のリョカは十分旅に堪える力を身につけているしな……。そうではなくて……」
パパスはリョカの頭を撫でながら言葉を選んでいる様子。すると、
「ぎゃー! き、き、き、キラーパンサーだ!」
外で悲鳴が聞こえた。裏返った老人の声はどこかユーモラスだが、その後に聞こえる金属の滑る音は尋常ではない。
「キラーパンサー? まさか!」
リョカは外で転寝をしていたはずのガロンを思い出し、外へ出る。
「ガロン!?」
外へ飛び出るとフーッと唸るガロンとそれに槍を構える二人の兵士。老人は腰を抜かしているらしく、へたりこんで動けない。
「やめてください! その子は危なくないです! 僕の友達なんです!」
リョカは兵士の前に出て、両手で必死に制止しようとする。
「なななにを言っている! そいつは地獄の殺し屋、キラーパンサーだぞ!? 危なくないはずがないだろ!」
老人はなおもそう叫び、兵士も矛を収めない。
「そんなことないです! ほらガロン、おいで……」
リョカがそう言って手を差し出すとガロンはひょいっと腕に飛び込む。
「なんと……地獄の殺し屋がこんな子供に……」
ようやく立ち上がった老人は別の驚きでまた腰を抜かしそうになる。
「ふむ……、まさかなあ……、子供、お前は一体……」
「それは私の息子のリョカです……」
「なんと、パパス殿の息子……となると……」
老人が何かを言いそうになったところをパパスは慌てて人差し指を立てる。
「そうか……。なるほど。パパス殿の息子となればまああるいはありえるかもしれんな……。しかしベビーパンサーをのぉ……」
老人はずれた眼鏡を直しながらリョカに近づき、ガロンに手をかざす。だがガロンは敵愾心むき出しでフーッと唸る。
「ほほ、嫌われたもんじゃな……。少年よ……、おぬしはまさか魔物と意思の疎通が出来るのか? ふ~む、いや、だが、これはもって生まれた才能というべきもの。年端も行かずにそれに目覚めたことこそ賞賛すべきことか……、にしても気性の荒いとされるキラーパンサーを子供とはいえ……」
口をもごもごさせながらぶつくさ言う老人はもう一度リョカに向き直り、両肩を叩く。そしてまっすぐ瞳を覗き込んできて、
「ふむ、やはり透き通った目をしている。これまで何人かのモンスタマスターを見てきたがお主ほどの逸材はそうそう居ない。お主も『銀髪の剣士』を目指して精進すると良いぞ」
老人は満足そうに言うと、もう一度パパスに一礼して兵士を連れ、去っていった。
「ねえ父さん、『銀髪の剣士』って何? モンスターマスターなのに剣士なの?」
「うむ、『銀髪の剣士』というのは昔、ずっと昔の、竜の神様がいたころの話よりさらに昔に居たとされる伝説のモンスターマスターのことだ。その剣士は雷を操る剣と緑の竜を筆頭に数多の魔物を従えたという。そして一時の間、自らを魔王として世界に君臨したらしい」
「え? 魔王!?」
魔王といえば、かつて竜の神と対峙したとされる地獄の帝王や、人間もエルフも魔族、魔物でさえ超越されたと『存在』がそれに当たる。だが、それを名乗ることを許された人間が居るとなればそれはどれだけの力の持ち主なのか?
「うむ。伝承によれば人魔王とされているが……、同じくモンスターマスターの兄妹によって討たれたらしい……。ま、全ては御伽噺だ」
だが、パパスにしてみればそれはただの子供だましの絵空事でしかないらしく、はっはと笑ってそのまま家に戻っていた。
「やっぱり嘘なのかな……」
リョカがそう呟くと、道具袋がごそごそと動く。
「坊主は騙されやすいからな……」
「そうなのかな……」
シドレーの言葉にリョカはただ素直にがっくり来ていた……。
**――**
「旦那様、坊ちゃま、お気をつけて」
ラインハットへの旅立ちの日、サンチョはお手製のサンドイッチのお弁当とバニアティの水筒をくれた。リョカとしてはキャラメルティが良かったのだが、旅の途中で飲むものなので甘いものは控えた。
「うむ。今回はまあそうだな、すぐに帰るつもりだ。うむ、大丈夫だ……、さ行くぞ、リョカ」
パパスはまだ心残りがあるのかしばし黙っていたが、決心したらしくサンチョに頷くと、リョカの肩を押す。
「うん!」
リョカは今度の旅も連れて行ってもらえることに喜んでおり、いつもの旅の始まりよりも、気合の入った返事を返す。それに勇気付けられたのか、パパスも軽い足取りで村を後にできた。
「そうだ、サンチョ! もし僕の留守に青い髪の女の子が来たら、僕の描いた絵が二階にあるからって教えてあげてね!」
「はーい! わかりましたよ~坊ちゃま! どうかご無事で~!」
しばらく離れたあともまだ見送りを続けているサンチョも、しばらくして見えなくなった……。
**――**
東へ向かうこと二日目、何度か魔物の群れに遭遇するも戦力としての頭数が増えたリョカ達が苦戦することはなかった。
もともとパパスの剣戟だけでも余裕であったのだが、ガロンの鋭い牙、シドレーの燃え盛る火炎に魔物達は恐れをなし、無用な戦いを避けることが出来た。
緩やかな山道に差し掛かった頃、パパスは歩を止める。
「このままのペースなら明日には着くだろう。だが今日はもう日が暮れるだろう。だからここいらで野宿をするぞ……」
日はまだ西の空に傾きかけたばかり。だが、今進むとなれば山道で夜を明かすこととなる。夜の山の天気は変わりやすいのが常識であり、下手に進んで野営の準備ができなくなるおそれもある。
リョカは荷物を降ろすと、辺りを見回して燃えやすそうな木々を拾い集める。
シドレーは一本の生木に火をともすと、リョカが集めてきた枯れ木をくべる。父が野宿の準備を始めたので、リョカは夕飯の準備をしようと干肉、固めに焼いたパンを出す。
こうして旅のひと時の安らぎの時間が訪れた……。
**――**
侘しい夕飯を終えたあと、リョカは寝袋で横になる。
ゆらめく炎をみていると徐々にうとうとしてくる。
今日もよく歩いた。明日の山越えを終えたら、東国の境界となるライン川にたどり着くだろう。
子供の頃のうろ覚えの記憶だと、水と緑の豊かな国だったと記憶している。土壌が肥えていることもあり、のんびりとした農業国とサンチョにも言われていた。
だが、焚き火の向こうのパパスは険しい顔つきで剣を磨いている。
油断怠りなき父ならいつものことなのだが、今回の旅ではやや違う。
例えばリョカの装備だ。これまで使ってきた銅の剣を廃し、代わりに鋼の杖――明らかに攻撃力のありそうなもの――と刃の施されたブーメランをくれた。そして旅人の服も新調し、さらには鎖帷子も用意していた。
「父さん、まだ寝ないの……」
いまだ剣の手入れに余念の無い父にそっと声をかける。
「ああ、眠れないのか? すまんな。もうすぐ終る……」
「そうじゃなくて、そんなに危険なのかな……」
パパスはその問いかけに少し考えたあと答える。
「うむ……。そうだな、不安なのかもしれんな」
「不安? 父さんが?」
父のような戦士にも不安があるのだろうか? あまりにも意外な答えにリョカは勢いで起きてしまう。
「私だって不安はあるさ」
息子の驚きにパパスは笑って答える。
「だって父さんはすごく強いじゃないか……」
「まあお前から見ればそうかもしれんな。だが、私の強さはせいぜい身の回りの人間を守れるぐらい……、いや、それも出来ないか……」
ため息をつく父の姿は非常に小さく見えた。そして、身の回りの人間を守れないという言葉に酷く違和感を覚えた。
今日までの旅路で、パパスがリョカを守れなかった時があっただろうか? 思い出してもそれはリョカがパパスに隠れてオラクルベリーの外へ出たときくらい。
「父さんは僕のことを守ってくれてるよ……」
その感謝の気持ちからか、うなだれる父に何かを言わないと気がすまなかったリョカ。
「ああ、私の最後の希望だからな……」
そう言うとようやくパパスは剣の手入れをやめ、焚き火を小さくする。
「明日も早いからな。私も寝るとしよう……」
「はい、おやすみ……」
リョカは静かに目を閉じたが、パパスはしばらく焚き火の向こうに居る息子を眺めて居た……。
続く
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物陰から客人が帰るのを見送ったあと、リョカはそっと家に戻る。
居間には独特の臭いのするバニアティが手付かずで残っていた。リョカも本当のところあの香りが好きではないのだが、パパスはなぜかそれを好み、それはサンチョも同じだった。
パパスはじっと何かを考えている様子で、リョカがやってきたことにも気付いていないように見える。
「ねえ、父さん。さっきの人は? ラインハットの人?」
「ん? ああ、居たのかリョカ。ああ、少し困ったことがあってな……」
話しかけるとようやく気付いたらしく、ふうとため息をつく。
「また旅になるな……。今度はラインハットか……」
「そう。どれぐらいになる? 支度しないと……」
リョカはキャンバスを抱えながら二階へ走ろうとする。
「いや、今度の旅にリョカは連れていかないつもりだ……」
「え? なんで?」
リョカは素直に驚いていた。これまでの旅にはどんなに過酷であろうとリョカを連れたパパスが、今回に限ってそれをしないという。
「うむ。それほどかかる用事ではないし、お前も絵を仕上げたいんだろ? だから……」
「やだよ。僕も行く。父さんと一緒に連れて行ってよ! 勝手なことしないから、邪魔にならないようにがんばるから!」
置いていかれたくないと必死なリョカは父の腰にすがりつく。
「いや、お前が邪魔というか足手まといなことはないのだ。むしろ最近のリョカは十分旅に堪える力を身につけているしな……。そうではなくて……」
パパスはリョカの頭を撫でながら言葉を選んでいる様子。すると、
「ぎゃー! き、き、き、キラーパンサーだ!」
外で悲鳴が聞こえた。裏返った老人の声はどこかユーモラスだが、その後に聞こえる金属の滑る音は尋常ではない。
「キラーパンサー? まさか!」
リョカは外で転寝をしていたはずのガロンを思い出し、外へ出る。
「ガロン!?」
外へ飛び出るとフーッと唸るガロンとそれに槍を構える二人の兵士。老人は腰を抜かしているらしく、へたりこんで動けない。
「やめてください! その子は危なくないです! 僕の友達なんです!」
リョカは兵士の前に出て、両手で必死に制止しようとする。
「なななにを言っている! そいつは地獄の殺し屋、キラーパンサーだぞ!? 危なくないはずがないだろ!」
老人はなおもそう叫び、兵士も矛を収めない。
「そんなことないです! ほらガロン、おいで……」
リョカがそう言って手を差し出すとガロンはひょいっと腕に飛び込む。
「なんと……地獄の殺し屋がこんな子供に……」
ようやく立ち上がった老人は別の驚きでまた腰を抜かしそうになる。
「ふむ……、まさかなあ……、子供、お前は一体……」
「それは私の息子のリョカです……」
「なんと、パパス殿の息子……となると……」
老人が何かを言いそうになったところをパパスは慌てて人差し指を立てる。
「そうか……。なるほど。パパス殿の息子となればまああるいはありえるかもしれんな……。しかしベビーパンサーをのぉ……」
老人はずれた眼鏡を直しながらリョカに近づき、ガロンに手をかざす。だがガロンは敵愾心むき出しでフーッと唸る。
「ほほ、嫌われたもんじゃな……。少年よ……、おぬしはまさか魔物と意思の疎通が出来るのか? ふ~む、いや、だが、これはもって生まれた才能というべきもの。年端も行かずにそれに目覚めたことこそ賞賛すべきことか……、にしても気性の荒いとされるキラーパンサーを子供とはいえ……」
口をもごもごさせながらぶつくさ言う老人はもう一度リョカに向き直り、両肩を叩く。そしてまっすぐ瞳を覗き込んできて、
「ふむ、やはり透き通った目をしている。これまで何人かのモンスタマスターを見てきたがお主ほどの逸材はそうそう居ない。お主も『銀髪の剣士』を目指して精進すると良いぞ」
老人は満足そうに言うと、もう一度パパスに一礼して兵士を連れ、去っていった。
「ねえ父さん、『銀髪の剣士』って何? モンスターマスターなのに剣士なの?」
「うむ、『銀髪の剣士』というのは昔、ずっと昔の、竜の神様がいたころの話よりさらに昔に居たとされる伝説のモンスターマスターのことだ。その剣士は雷を操る剣と緑の竜を筆頭に数多の魔物を従えたという。そして一時の間、自らを魔王として世界に君臨したらしい」
「え? 魔王!?」
魔王といえば、かつて竜の神と対峙したとされる地獄の帝王や、人間もエルフも魔族、魔物でさえ超越されたと『存在』がそれに当たる。だが、それを名乗ることを許された人間が居るとなればそれはどれだけの力の持ち主なのか?
「うむ。伝承によれば人魔王とされているが……、同じくモンスターマスターの兄妹によって討たれたらしい……。ま、全ては御伽噺だ」
だが、パパスにしてみればそれはただの子供だましの絵空事でしかないらしく、はっはと笑ってそのまま家に戻っていた。
「やっぱり嘘なのかな……」
リョカがそう呟くと、道具袋がごそごそと動く。
「坊主は騙されやすいからな……」
「そうなのかな……」
シドレーの言葉にリョカはただ素直にがっくり来ていた……。
**――**
「旦那様、坊ちゃま、お気をつけて」
ラインハットへの旅立ちの日、サンチョはお手製のサンドイッチのお弁当とバニアティの水筒をくれた。リョカとしてはキャラメルティが良かったのだが、旅の途中で飲むものなので甘いものは控えた。
「うむ。今回はまあそうだな、すぐに帰るつもりだ。うむ、大丈夫だ……、さ行くぞ、リョカ」
パパスはまだ心残りがあるのかしばし黙っていたが、決心したらしくサンチョに頷くと、リョカの肩を押す。
「うん!」
リョカは今度の旅も連れて行ってもらえることに喜んでおり、いつもの旅の始まりよりも、気合の入った返事を返す。それに勇気付けられたのか、パパスも軽い足取りで村を後にできた。
「そうだ、サンチョ! もし僕の留守に青い髪の女の子が来たら、僕の描いた絵が二階にあるからって教えてあげてね!」
「はーい! わかりましたよ~坊ちゃま! どうかご無事で~!」
しばらく離れたあともまだ見送りを続けているサンチョも、しばらくして見えなくなった……。
**――**
東へ向かうこと二日目、何度か魔物の群れに遭遇するも戦力としての頭数が増えたリョカ達が苦戦することはなかった。
もともとパパスの剣戟だけでも余裕であったのだが、ガロンの鋭い牙、シドレーの燃え盛る火炎に魔物達は恐れをなし、無用な戦いを避けることが出来た。
緩やかな山道に差し掛かった頃、パパスは歩を止める。
「このままのペースなら明日には着くだろう。だが今日はもう日が暮れるだろう。だからここいらで野宿をするぞ……」
日はまだ西の空に傾きかけたばかり。だが、今進むとなれば山道で夜を明かすこととなる。夜の山の天気は変わりやすいのが常識であり、下手に進んで野営の準備ができなくなるおそれもある。
リョカは荷物を降ろすと、辺りを見回して燃えやすそうな木々を拾い集める。
シドレーは一本の生木に火をともすと、リョカが集めてきた枯れ木をくべる。父が野宿の準備を始めたので、リョカは夕飯の準備をしようと干肉、固めに焼いたパンを出す。
こうして旅のひと時の安らぎの時間が訪れた……。
**――**
侘しい夕飯を終えたあと、リョカは寝袋で横になる。
ゆらめく炎をみていると徐々にうとうとしてくる。
今日もよく歩いた。明日の山越えを終えたら、東国の境界となるライン川にたどり着くだろう。
子供の頃のうろ覚えの記憶だと、水と緑の豊かな国だったと記憶している。土壌が肥えていることもあり、のんびりとした農業国とサンチョにも言われていた。
だが、焚き火の向こうのパパスは険しい顔つきで剣を磨いている。
油断怠りなき父ならいつものことなのだが、今回の旅ではやや違う。
例えばリョカの装備だ。これまで使ってきた銅の剣を廃し、代わりに鋼の杖――明らかに攻撃力のありそうなもの――と刃の施されたブーメランをくれた。そして旅人の服も新調し、さらには鎖帷子も用意していた。
「父さん、まだ寝ないの……」
いまだ剣の手入れに余念の無い父にそっと声をかける。
「ああ、眠れないのか? すまんな。もうすぐ終る……」
「そうじゃなくて、そんなに危険なのかな……」
パパスはその問いかけに少し考えたあと答える。
「うむ……。そうだな、不安なのかもしれんな」
「不安? 父さんが?」
父のような戦士にも不安があるのだろうか? あまりにも意外な答えにリョカは勢いで起きてしまう。
「私だって不安はあるさ」
息子の驚きにパパスは笑って答える。
「だって父さんはすごく強いじゃないか……」
「まあお前から見ればそうかもしれんな。だが、私の強さはせいぜい身の回りの人間を守れるぐらい……、いや、それも出来ないか……」
ため息をつく父の姿は非常に小さく見えた。そして、身の回りの人間を守れないという言葉に酷く違和感を覚えた。
今日までの旅路で、パパスがリョカを守れなかった時があっただろうか? 思い出してもそれはリョカがパパスに隠れてオラクルベリーの外へ出たときくらい。
「父さんは僕のことを守ってくれてるよ……」
その感謝の気持ちからか、うなだれる父に何かを言わないと気がすまなかったリョカ。
「ああ、私の最後の希望だからな……」
そう言うとようやくパパスは剣の手入れをやめ、焚き火を小さくする。
「明日も早いからな。私も寝るとしよう……」
「はい、おやすみ……」
リョカは静かに目を閉じたが、パパスはしばらく焚き火の向こうに居る息子を眺めて居た……。
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