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幼年編_ラインハット_その四

 なだらかな山地を越えたあと、大きな川が見えた。アルパカ地方とラインハットを分断する境だ。
 川を渡るには橋を越える必要があり、そのためにはさらに入国許可証を発行してもらう必要がある。今回の旅ではパパスが既にラインハット国の入国許可証を発行されており、さらには「至急」と赤い印を押されていることから優先的に通された。
 地方と国を結ぶ大橋にリョカは目を見開いた。
 幼い頃にもそういうせわしない情景を見た記憶があるが、今こうして改めてみることで、その規模がわかる。
 見たことも無い楽器を抱える楽士や、牛皮で覆われた曲刀を帯刀する剣士、大荷物を抱えながら地図を見る老人、薄い着物でおへそを露出させた若い女性などさまざまだ。
 そのうちに大きな荷車が橋の真ん中を走っていく。目いっぱい載せられた南国のフルーツの一つこぼれたが、気付くはずもない。それをガロンが咥えてくるので、リョカはどうしようかと悩む。
「らっき~、いただきまーす!」
 シドレーは遠慮なくそれを奪うと、ガロンの背中に跨り口いっぱいに頬張り、果汁を飛ばしながらしゃくしゃくと食べる。
「だめだよシドレー。落し物は届けないと……」
「硬いこというなや。ふむ、この味は初めてだ……、あまずっぱ~」
 嬉しそうに言うシドレーに生真面目なリョカは険しい顔をする。
「あれ? シドレー?」
 ふと気付く。ガロンに跨る彼の羽の付け根を見ると、赤い皮膚がはがれて緑の皮膚が見えた。
「ちょっと! 怪我してるんじゃないの? 大丈夫? 痛くない?」
「おれ? え、痛くないけどな……つか、かゆい? ちょっと掻いてくれる?」
 のんきに言うシドレーにリョカは恐る恐る剥がれ掛けた皮膚に触る。するとそれはぺりぺりと剥がれていき、徐々に緑色の皮膚が見え始める。
「もしかして脱皮?」
「なんや、人のことは虫類みたいにいうなや……って、なんか言われたらだんだんかゆくなってきたな……」
 シドレーは芯だけになった果物を川に捨てると、身体を掻き始める。するとどんどん皮が剥がれ、緑の身体となり始める。
「え? もしかしてシドレーってメラリザードじゃなくてドラゴンニュートなの?」
「アホ、そんなんあるかい……。って、なんか気味悪いな……、病気? いやいやいや、いたって健康やし……」
「ね、寒くない? 熱があったりとか……」
「ないない。平気……、いや、まだ頭がかゆい……」
 シドレーが頭を掻くと、最後の皮が捲れて全身緑の羽根トカゲに変わる。
「ん~、なんか変な気分だな……」
 自分のことながら気味悪がるシドレー。ふとリョカが気付く。この前にアンが言っていたことを。
「ねえ、前にアンが言ってなかった? シドレーの色が赤いって……。もしかしてシドレーは成長すると色が変わるんじゃない?」
「なんのために?」
「それはわからないけど、ほら、氷の息が吐けるとかいってたし……」
「氷ねえ……よっしゃ、ためしに……って思ったけど、ここは人が多いな。ま、宿に着いたらちょっと試してみような……」
「うん。そしたら何かシドレーのことについてわかるかもしれないね」
「そうさな……」
 頷くシドレレーはガロンの尻尾を無理に引っ張ると、橋の向こうを目指して駆け出していった。
「待って!」
 リョカがそれに続くと、パパスも早足になった……。

**――**

「氷の息か……、いや、これはそういうんじゃないな……」
 ラインハットの城下町にたどり着いたリョカ達は、宿の手配を終えたあと、さっそくシドレーに何か特殊能力がないかと試していた。
 その結果、リョカとガロンは間抜けな恰好で地べたにへたりこむ。
 シドレーが吐き出した息は氷とは似ても似つかない甘い息だった。リョカとガロンはそれを正面から吸い込み、そのままうとうとと寝息をたててしまったのだ。
「しかし、一体俺は何者なんだ? どうしてこんなことが起きるんだ?」
 他にも何かできないかと試してみると、今度は空間が歪むような焼け付く息が放たれ、さらには草木がしおれる毒の息も出る。
「……なんか俺、ばい菌? いやいやいや、そんなはずないわ……。そうだ、あの玉触ったときから変なんだから、もしかしたら……」
 シドレーは寝たままのリョカの腰から道具袋を取り、例の光る玉を探す。
「おお、あったこれこれ。きっとこれに俺の今回の変調の理由があるんだな……」
 光る玉を両手で掲げるシドレーだが、別段変化はない。あのときは確かに触れた瞬間、何か遠い記憶が呼び起こされるような刺激があったのだが、今は弱い振動がコメカミのあたりにうずくだけだ。
「なんや、電池切れかいな……」
 そういって振ってみるが、何も音を立てない。
「参ったな……、坊主も猫も寝たまんまやし、俺一人じゃ運べんし……。いくら町中とはいえこれじゃ風邪ひくっての……」
 まだ目を覚まそうとしない二人を前にシドレーはため息をつく。
「こういうときこそ、あのショタコン娘の出番だろうに……」
 苛立ち紛れにアニスを思い出すシドレー。彼女なら強制覚醒魔法も使えるだろう。だが、彼女が現れたら眠るリョカに何をしでかすかわからない。むしろその方がリョカの貞操の危機であろうと、シドレーは首を振る。
「ザメハだっけか? 俺にもできっかな……印はたしかこうで、イタズラなる風の精霊よ、我は汝に求める、かの者達におびただしい目覚めの洗礼を……」
 一瞬シドレーの手の間に風の精霊達が渦をなすが、すぐに消えてしまう。
「なんでや! なんで上手くいかんのかな……」
 ぐちるシドレーだが、もう一度気を取り直して印を組む。
「そうじゃないでしょ、詠唱が間違っているのよ。おびただしい目覚めって何よ? 慌しいだってば……、ザメハ……」
 聞き覚えのある声がしたと思うと、風の精霊達がガロンとリョカの周りを舞い始め、眠気を鼻の穴から吸出し、霧散させる。
「あ、あれ? 僕は……、あ、アニスさん?」
「にゃぁ……?」
 目を擦りながらゆっくりと起き上がるリョカ。彼には緑の羽根トカゲと青い髪の魔法使いが見えた。
「お、目覚めたか……。つか、ま、ショタコン娘にしてはフェアやな。どうせリョカの寝込み襲うやろ思ってたけどって、お前だれや?」
「アニスさんじゃない?」
 雰囲気、顔立ちはアニスによく似ているが、背格好、とりわけ目つきが違う。彼女は青い髪を赤いリボンで一つに束ねており、アップさせていた。
「アニスじゃないわ……、そうね、私の名前なんてどうでもいいし……。それよりリョカ、絵をもらうわよ……」
「え? はい……」
 その女は名乗ることもせず、ただ彼のリュックからスケッチブックを漁り、その中から一枚取り出すと、丸めてリボンで結ぶ。
「それじゃ……」
「それじゃってお前、なんか他に言うことあるだろうが! なんや、胸糞悪い!」
「私は二人を起こしてあげたでしょ? その報酬として絵をもらったの。他に何か必要かしら?」
 あからさまに不機嫌な女は、先を急ぎたいらしく半身しか振り返らない。
「名前ぐらい名乗れや。ボケ」
「貴方達だって名乗ってないでしょ? それに私の名前なんてどうでもいいの」
 そう言うと彼女は見慣れない精霊を集め、そしてふわっと浮かぶと直ぐに消えた。
「またルーラか……なんだい、この世界ではルーラは封印されてるんと違うか? なんであないほいほい使える女がいるん……」
「さあ。でも、今の人……アニスさんの知り合いじゃないのかな……」
 リョカは不思議におもいながら、ばらばらと散らかされた絵を拾い集めていた……。

続く

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