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幼年編_ラインハット_その六

 リョカ達は焼き鳥やの屋台を離れ、のんびり出来そうな広場に来ていた。
「まったく、坊主はアホか……」
「そうだな。こんなアホ、東国では見たことが無い……」
 少年とシドレーはベンチに深く腰を下ろしながら、何度となく同じことを呟く。
「僕そんなにおかしいかな?」
「いえ、貴方はとても正しいことをしたとおもいますよ」
 そう言ってくれるのは弟のほうぐらい。リョカは頭を掻きながら、シドレーはともかくとして少年が着いてくるのかと悩んでいた。
「ときに貴様、名はなんと言う?」
「えと、リョカ……、リョカ・ハイヴァニアです」
「年は?」
「十二です」
「そうか、俺と同い年か……。だが……」
「まったく世間というもんを知らんやっちゃな……」
「その通りだ……」
 そしてまたこのやりとりに行き着く。
「まあ渡してしまったものはしょうがない。だが、これでは分け前が減るな……」
「え?」
 少年は弟の持つ包みを開けると、ごちゃっとなった焼き鳥の数を数え始める。
「そっちの猫はまあ、一本あれば十分か? だが砂肝はやらんぞ。俺も食べたいのだからな……」
「僕らは別に……」
「俺は言っただろ? 褒美をやると。ふん、貴様のようなバカには過ぎた褒美だが……、そうだな、俺様の子分になるというのなら分けてやるぞ?」
 少年は腿肉を串から抜いてガロンに与えており、ガロンも夢中で頬張っている。
「子分?」
 聞きなれない言葉に首を傾げるリョカ。だが、それを遮るようにシドレーが前に出る。
「なりますなります! 俺ら二匹と一人、あんさんの子分になります!」
「ちょっとシドレー、僕らはそんなに長くは……」
「いいんやて、コイツはそういうの確認しないで俺らを誘ったん。つか、これが世渡りってもんやで?」
 ひそひそ声で言うシドレーはなんとも侘しい処世術を伝授してくれる。
「ふむ、ならばリョカ・ハイヴァニアよ、俺様の子分となった証として、この雛皮とねぎ間をくれてやろう。大事にするがよい」
「ははぁ……」
 大げさに言う少年に対し、リョカもあわせて跪いてそれを受け取る。
「ねね、俺には? 俺には?」
 シドレーは少年の周りを煩く飛び回りながら、意地汚く催促する。
「ふん、ドラゴンニュートなどという下級モンスターの子分などいらん」
「そんな~せっしょうなこといわんと、坊ちゃんさま~!」
「それに俺は坊ちゃんではない。ヘンリー・ラインハルトという立派な名前があるのだ」
「はは~、ヘンリー様、どうか私めにも……」
 反射的に跪くシドレーだが、その名前に「ん?」と気付く。
「「ラインハルト?」」
 それはラインハット王国に一つしかない姓。ラインハット王家の苗字だった……。

**――**

「そうか、坊主兄は王子様か……。あぐあぐ……」
 リョカと同じくねぎ間と雛皮で従属を誓ったはずのシドレーだが、すぐにいつもの通り、男は坊主扱いしだす。
「ふむ、まあお忍びではあるがな……」
「兄上、あまり身分をおいそれと話すようなことは……」
「心配するな、コイツはハイヴァニア……。あのパパス殿の息子だ」
 ヘンリーは確認を取るようにリョカを見るので、彼は二度肯定の頷きを見せる。
「リョカさんはパパスさんの息子さんでしたか……。通りで機転の利く……」
 弟は感心した様子で呟くので、シドレーが「坊主の親父はどんだけ有名なんだ?」とリョカに聞く。とはいえリョカも詳しくは知らず、曖昧に笑うだけ。
「こいつはデール・ラインハルト。俺の弟にして一の子分だ。お前ら、たより無い奴だが敬うように」
「はい、ヘンリー様」
 リョカは別段気にしていないらしく、むしろ新しい友達との変わった遊びという感覚だろう。
「おいおい、ヘンリー様はないだろ、呼ぶのならヘンリー親分だが……なんかしっくりこないな……」
「ガキが親分いうてもな……」
 食べ終わったところで憎まれ口をたたき出すシドレー。ヘンリーは食べ終わった串を投げつけるが、それはへろへろと地面に落ち、ガロンがべろべろと舐め始める。
「リョカよ、このベビーニュートはなんなのだ? 先ほどから人語をしゃべるが……」
「えと、シドレーはベビーニュートじゃないんです。というか、僕も本人もわからなくて、それにこの前まではメラリザードみたいに赤かったし……」
「ほう、奇妙な魔物……というにはその猫ほど威圧感も無しか……。貴様一体なんなのだ?」
 ヘンリーは首を傾げて彼を見る。
「ああ、それは俺も知りたい。つか、俺のこと知ってる奴の話だと、もっと別の……、氷の息とか使えるみたいでな……」
「兄上、前に伝承を記した絵本に竜の神様が居られましたが、もしかしてこの方はその幼態かもしれませんよ?」
 控えめにデールが口をはさむと、三人の反応は様々。
 リョカは光の玉の一件を思い出し、「そういえば……」。
 シドレーは「やっぱ俺様偉いんだろうな」としたり顔。
 ヘンリーは「トカゲが竜の神?」と半信半疑。
「ねえ、その本に光る玉について書いてなかった?」
「光る玉? そういえば伝承によると、天空にある城の原動力は竜の神様の力を封じたオーブとされていました。それのことかもしれません」
「ねえシドレー、もしかして君、本当に竜の神様の関係なの?」
 力強い波動を持つ玉とそれに影響を受ける存在。その二点だけで竜の神と結びつけるのはいささか早急だが、シドレーの正体のてがかりになればと考える。
「ふむ、このバカ面がそうとは思えんがな……」
 ヘンリーは立ち上がると、膝のあたりを軽く払い、リョカを見る。
「さて、もうすぐ退屈な家庭教師が来る時間だ。戻るぞ、デールよ」
「はい、兄上」
「リョカよ。今日はそうだな、もしそのトカゲについて気になるのであれば一緒に来るか? たいした書もないだろうが、暇つぶしにはなるだろう……」
「え? いいの? だってお城でしょ? 僕みたいな恰好で……」
「裏口から入れば小間使いとしか思われないだろう。ついでに十一時になったら台所からレモネードを持ってきてくれ。そうだな、お菓子はスコーンで良いぞ」
「あ、うん。わかったよ」
「よし、それでは向かうか」
 ヘンリーはそう言うと、先頭を切って歩きだした。

**――**

 ラインハット城の裏口から入る一行。リョカはともかくどうしてヘンリー達が正門から入らないのかは、兄弟が城をこっそり抜け出してきたからだ。
 通路に誰も居ないのを見計らい、ヘンリーは像の近くに隠してあった鉤付きの棒を天井に向ける。やや手間取りながらも何かに引っ掛けると、蓋が開き、ばらばらっと縄梯子が落ちる。
「これを上るんだ」
「へぇ……」
 ヘンリーはまずお手本を見せ、するすると登る。次にリョカがガロンを背負いながら上る。その様子を見ながら「不便だね~」とシドレーも上がる。最後にデールが縄梯子に捕まったのを見て、上から一気に引き上げる。
「アイツはまだ小さいから自力で上がれないんだ……」
 ふんと笑うヘンリーは、なかなかの親分気質のようだ。
「さて、家庭教師が来るまでにはしばらくあるだろう。デールよ、そのものらを書庫に案内してやれ……。その前にしっかり口元を拭いておけよ?」
 ヘンリーは笑いながらデールの口元を指さすが、自分の唇も……。

**――**

 デールに案内されながら宮中を行くリョカ達。たまにすれ違う女中は見慣れぬ少年を不思議そうに見ていたが、騒ぎ立てる様子もない。
「そういえば鍵が掛かってたっけ……」
 城の一階の端っこの少し薄暗い通路の先まで来たところで、デールは思い出したように呟く。
「どうしよう。書庫の鍵は大臣が管理してたし、貸してって言って貸してくれるかな……」
「鍵は魔法の鍵なの?」
「んーん、普通の鍵だよ」
「そう。なら大丈夫だと思うよ。案内してよ」
「? 大丈夫?」
 デールは不思議がりながらも先へ行くことにした。

 やや厳かな扉の前に来て、デールはその鍵がしまっていることを確認する。
「やっぱりだめか……。どうしよう……」
「大丈夫だよ。ちょっと離れてて……」
 リョカは印を素早く組むと「アガム」と唱える。すると地面から大地の精霊が集まり、錠が下りる音がした。
「今の魔法? 君、魔法使いなの?」
「これはホビットのおじさんに教えてもらったんだ」
「へぇ……。僕も魔法の練習してるんだけど、あんまり上手く出来なくて……。せめて兄さんみたいに鞭が使えるとかならいいんだけど、運動も駄目だし、さっぱりだよ」
 デールは自嘲気味に笑い、ドアをあける。
「そんなことないよ。デールさんだって練習すればきっと出来るようになる。さっきの魔法は簡単な鍵ぐらいしかあけられないけど、そんなに魔力を集中するものじゃないから練習すればすぐにできるようになるよ」
「でも、僕には無理だよ」
「大丈夫。本当はあんまり人に教えちゃいけないんだけど、デールさんは王子様だし、泥棒をしたりしないよね? だから詠唱を教えてあげる」
 リョカは手で印を組み、デールに真似をさせながらゆっくりと唱える。
「大地に眠る悪戯な精励よ、我は彼の者の戒め破らんと願うなり……、戒めを解け、……アガム……」
 デールも同じようにそれを唱えると、二人の手の間に大地の精霊達が集まり始める。
「わわ、本当だ……。僕が精霊を、魔法を使えるなんて……」
 喜びのあまり集中が途切れてしまい、精霊は好き勝手に消えていく。
「うん。デールさんはまだ練習が必要みたいだけど、でもきっと出来るようになる。だからやる前から諦めないでね」
「う、うん! ありがとうリョカさん!」
 デールは初めて明るい笑顔になると、鼻歌混じりに部屋を行く。
 ヘンリーとの力関係を見るに、デールは常に庇護の対象なのだろう。武術、胆力に優れた兄は意外にも優しい面を持っているのは城を一緒に抜け出しておやつを買いに行くことでわかっている。ただ、そこにどれだけの「侮り」があり、それが弟の克己心を阻害しているかを、二人とも気付いていないのだろう。
 これを機会にデールが自分に自信をもてたならと、リョカは人事ながら思っていた。
「えっと、この本棚の……、これかな……」
 デールは一冊の古い本を手に取り、ぱらぱらと捲る。
「あった、これだ……。竜の神に関する伝承……」

**――**

 本には黄金の竜が描かれていた。大きな玉座に鎮座する竜はシドレーとも似ても似つかない荘厳な存在。その周りには羽根の生えた人が複数おり、天空人とされていた。

 かつてこの世界には地獄の帝王とされるものが居た。
 その存在は長い間眠りについていたが、人間の欲望がそれを呼び起こした。
 竜の神はそれを打ち破るべく、預言の内容を実行したらしい。

 だが、ある魔王の出現が、預言を狂わせた。
 全てを超越したとされる魔王は、やがて竜の神をはるかに越える力を手にした。

 神は焦り、再び預言を実行しようと、勇者を招いた。

 だが……。

**――**

 そこから先は水に濡れており、滲んでいた。
「ん~、これと俺、なんか関係あるん?」
「そうだね。シドレーとは似ても似つかないし……。まさかシドレーも黄金になるの?」
「さあな。そしたらドラゴンキッズに間違われるな……」
 なははと笑うシドレーだが、いい加減間違われることに慣れてきたらしい。
「えと、あと他にも……」
 デールは他のページを捲りだす。
「ほら、ここ……」

**――**

 空に浮かぶ城。天空城に関する謎。
 それは竜の神の力の込められたオーブにより維持されている。
 たとえ竜の神が不在であろうと落下しないのはこのためである。
 また、そのオーブは精霊の王がこの世界にもたらしたとされており、人の手で複製することはかなわないとされている。

**――**

「なんじゃい。どうも胡散臭いな……。竜だと思ったら今度は精霊? 妖精の亜種みたいなもんじゃろ? なんでそないな奴が城浮かべるのにオーブ作るのよ」
「ん~、やっぱり御伽噺なのかな……」
 そういって本を閉じるデール。彼もやはり半信半疑らしく、あまり落胆した様子が無い。
「つか、一体誰が書いてん、こんなアホな絵空事……」
 本の表紙を見ると、やや汚れているが、そこには「レイク……」とあった。
「レイク? もしかしてアニスさんが書いたのかな? ほら、あの人、レイクニアって言ってたし、光るオーブを探してるって……」
「まさか、あのショタコン娘がか? いや、でも、たまたま同じ姓とか……」
 もう一度著者名を調べるシドレー。ごしごしと乱暴にこすると、著者の名前がうっすらと見える。
「いやいや、名前あるで? ほら、ポロ……、ポーロ・レイクなんち

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