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幼年編_ラインハット_その七

「おかえり。リョカ、こんな時間までどこに居たんだ?」
 宿に戻るとパパスが先に戻っていた。
「ただいま。友達が出来て、一緒に遊んでいたんです」
 リョカはヘンリーのことを伏せる。それは父に心配をかけたくないというよりは、ちょっとした秘密を持つことでの子供らしい優越感から。
「そうか。友達ができたのか」
 息子に友達が出来たことについては素直に嬉しいこと。だが、今はただの旅路の寄り道に過ぎず、またすぐに別れる日がくる。例外なのはせいぜいサンタローズに近いアルパカのビアンカぐらい。
「うん。だからこれでラインハットに来る楽しみが増えました」
 父の憂いを知ってなのか、リョカはポジティブに自分の状況を捉える。
「うむ。そうだな……。きっとまた、ラインハットに来ることにはなるだろうからな……」
 そう言うパパスだが、それは「遊びに行く」や「調べ物があるから」などの安易な訪問には見えない。もっと違う、別の次元の用事で……。
「それじゃあおやすみなさい」
 リョカはそう言うとさっさとベッドに入る。
 明日もまた親分に朝から呼び出しを受けているのだ。

**――**

 ラインハット城下町、ヘンリーはリョカを引きつれ闊歩していた。
「ふむ、どうだリョカよ。ラインハットの街は。ここまでの賑わいを見せるのは、世界においてこのラインハットだけであろう?」
 ヘンリーはリョカが各地を旅していたときき、これを自慢してみたかったらしい。もちろん、他国の情勢を子供ながらの視点でありながら、見聞したいという気持ちもありつつだ。
「ええ、賑わいだけなら初めてです」
 リョカは素直にそう答えていたが、当然ヘンリーは渋い顔。「賑わいだけ」と言われたのが面白くないらしく、リョカに詰め寄る。
「おい、賑わいだけとはどういうことだ? 他にこれだけの発展を見せる国があるというのか?」
「いえ、その……、前に父さんと旅をしたサラボナの街はもっとこう、商業のレベルが違うというか……」
 幼いリョカにしてみれば、ラインハット国の情勢は十分目を見張るもの。ただ、世界お経済都市となりつつあるサラボナと比べれば、まだまだ田舎臭さがあり、それはオラクルベリーに比べても感じられることだ。
「うむ。やはりサラボナか。俺もあの街の噂は聞いている。人々の誰もが金持ちで、金粉をまぶしたパンにサラダ、はては便所のそれにも使われているのだろう?」
「そんなことはありませんよ」
 さすがにそれは誇張のされ過ぎとリョカは笑う。
「違うのか? では支払がオンスというのも嘘か?」
「オンス?」
「……重さの単位ですよ。金を量るとき、ラインハットではオンスを使っています」
 デールの解説にようやく理解が追いつくリョカ。もしそれが真実ならば、財布はどれだけ頑丈でなければならないのか?
「それは嘘ですよ。船を買うならともかく……」
 言いかけて思い出すサントフィリップ号の乗船客たち。彼らの会話にはたびたび商船を購入したとか店を新規出店したあり、あながち金塊で取引をしていてもおかしくないのかもしれない。
「そうか……。だが、貴様の目にもサラボナのほうが発展しているといえるのだな?」
「ええ、まあ……」
「なるほどな。ふむ。俺もお前のように世界を見て周ってみたいものだ」
 そういうとヘンリーは考える様子で下を見る。
「兄上はいつも国をどうするか、それを考えております。きっとすばらしい王になるでしょう」
 自慢の兄を心から尊敬しているであろうデールはヘンリーを頼もしい視線で見つめている。リョカも同年代でありながら、王の子として既に政治、経済に興味を示している彼をとても大人びていると思えた。
「さて、そろそろ教師共が来るころだろう。すまないがリョカ、今日も十一時頃にレモネードを頼むぞ。それと少し甘めにな。どうも頭を使うと糖分が恋しくなるんだ」
「はいはい」
 リョカが給仕の真似事を断らないのは、台所でおやつのつまみ食いが出来るから。昨日はバターたっぷりのパンケーキで、今日はなんだろうか? そんな期待を持ちながらヘンリーに続く……と、
「……キャー! 泥棒!」
 屋台の一角で女性の悲鳴が聞こえてきた。
「なに! このラインハットで狼藉を働くとは不届き者め! 我が操鞭術から逃れられると思うな!」
「落ち着いてよ、ヘンリー。この人ごみでは逆に危ないよ」
 ヘンリーが携帯していた鞭を構えるので、慌ててリョカが止める。
「だが、このまま見過ごせというのか?」
 義憤に燃えるヘンリーを止めるつもりはリョカにもない。ただ、人で賑わう街では彼らの携帯する武器は周りに被害をもたらしかねない。
「ねえシドレー、ガロンと一緒にお願いできる?」
「ん? ああ、ええで、いくぞガロン!」
 シドレーはガロンに跨り、とさかの赤い毛に掴まる。
「にゃ~」
 なんとも気の抜ける泣き声のあと、ガロンは人々の足元をすり抜けながら声の方へと走る。
「僕らは先回りをしましょう」
 リョカの言葉にヘンリーは無言で頷き、路地裏を示して走り出した。

 人の流れを不自然に遡る暴漢。突き飛ばされる人々は驚き、たまに罵倒しながらそれを見送る。
「まてや~!」
 そしてそれを追うトカゲを乗せた猫一匹。暴漢は何度か振り返るも、声はすれど姿の見えない追っ手に眉をしかめるのみ。先ほどから路地裏に逃げようとすると、それを先回りしているかのように存在感があり、いまだ人ごみから出られない。
 だが市場もどこまでも続くわけもなく、ようやく人の切れ間が見え始める。そしてとうとう抜けたとき、マントをなびかせる少年が現れる。
「そこまでだ!」
 広場にて鞭を構える少年。ここでならそれを自在に操れるとばかりに、縦横無尽に砂埃を巻き起こす。
「神妙にしろ! この不届き者が!」
「くっ……」
 足元を掠める鞭の先端は見切れるようなものではなく、鋭く抉られた地面にその痛みを想像してしまう。
「ぐ……!」
 男はさして抵抗をせず、盗んだと思しき財布をヘンリーに投げつけると、怯んだ瞬間に逃げ出す。
「待て! 逃げるな!」
 ヘンリーはそれを追おうとするが、手に持った財布からばらばらと小銭がもれる。
「くそ、小銭が……」
 律儀に小銭を拾う内にどんどん男は去っていく。ヘンリーはそれを歯軋りしながら見送り、財布を閉じる。
「あ、ありがとうございます!」
 財布の持ち主であろう女性が彼の前にやってくる。
「なんのこれしき、朝飯前だ。だが、警備の者は何をしているんだ。こんなときこそ出番だろうに……」
 市場の警備に不満を愚痴りながらヘンリーは財布を返す。すると、その手をぐっとつかまれ……、
「なんだ? 離せ……」
 手首を力強く掴まれたことに驚くヘンリー。女に向き直ると、目と目の間にひとさし指を付きたてられる。不意のことにそれを見つめてしまい、
「手をかけさせないでね、腕白王子……、ラリホー」
 強制睡眠魔法の罠に落ちた。
「な、ヘンリー!」
「兄上!」
 ヘンリーが攻撃されたことに気付いたリョカとデールはかけよろうとする。しかし、背後から大きな麻袋を被せられ、声を出そうにももごもごと言葉にならない。
「行くぞ!」
 男の低い声が聞こえたと思うと、次に聞こえたのはいななく馬の声と走りだす車の音だった……。

**――**

「ったく、逃げ足の早いやっちゃ……。つか、リョカ達どこや……」
 逃げた男を追いかけていた二匹はリョカ達と合流すべく市場に戻ってくる。しかし、そこには影も形も無く、また何かがあった痕跡すらなかった。
「ん? 坊主たちどこ行った? 迷子か? ほんまにしょうのない奴らだ……」
 ぶつくさいうシドレーだが、ガロンは地面を嗅ぎながら路地裏へと行く。
「おいどこ行くん。お前まで迷子になったら困るで……って……」
 ふらふらと飛びながらついていくと、その先には緑色のブローチが落ちている。
「これは……あのガキのか?」
 緑の二本線はラインハットの紋章であり、それはヘンリーのマントを肩口で止めていたものと同じものだった。

**――**

 パパスは窓の外を眺めていた。現王、チップ・ラインハルトが病に伏せたことを知らされ、助力を頼まれて来たものの、昨日から側近と名乗る者がかわるがわる顔を見せに来るだけ。せめて王の見舞いにでもと申し出るも、それも断られる。
 軟禁されたというのが正直なところだろう。
 ――ふむ、どうしたものか……。
 パパスは着慣れぬ礼服の袖をまくり、手で仰ぐ。春が遅刻してきたと思ったら夏が駆け足できたかのような最近、どうにも暑くてかなわなかった。
 控えていた部屋のドアがノックされる。きいと扉が開き、兵士が一礼してから用件を述べる。
「パパス殿、王が内密の話があるとのことです。ご同行願えますか」
「うむ」
 パパスは頷くと、兵士の後に続いた。


続く

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