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幼年編_ラインハット_最終話

「そこまでですよ……」
 先ほど聞いた声の主が、出口を前にして立ちふさがる。ローブに身を包む魔物は不敵に微笑み、通せんぼする。
 背後には鎧を身にまとった魔物と灰色の馬の魔物がいた。それらはこれまでの雑魚とはみるからに格が違う。
「邪魔をするな!」
 パパスは問答する間もなく剣を振るう。
 ガシーン!
 鋭い金属音が響き、剣戟が受け止められる。
「ぬっ?」
 ナマクラな剣ならば受けることもできずになぎ払われるそれを、鎧の魔物は受けとめる。
「ぐぅ……人間風情が……」
 だが、魔物もそれが限界らしく、一歩下がってやりすごす。
「なんの!」
 パパスは好機とみなして再び切りかかる。
「ぐ、くっ、ぬう!」
 次第に圧されていく鎧の魔物。業物と思しき剣も受け流しが決まらず、刃こぼれと悲鳴を上げる。
「ぶひひィーん!」
 鎧の魔物に加勢しようと、馬の魔物が嘶きをあげて襲いかかる。
「そうはさせるか!」
 リョカはブーメランを馬の魔物の目線ぎりぎりのところに飛ばし、動きを止める。ついでヘンリーの放った鞭がその左腕に逆手で絡みつく。
「ぐふぅ!? ぬぅ、ガキが!」
 子供とはいえ、力の入りにくい恰好で全体重をかけて引っ張られてしまい、引き離せない。
「だぁ!」
 間髪いれずにリョカは鋼の杖で殴りかかり、足止めに専念する。
「ぬぅ、おい、ジャミよ! そんなガキ共に手間取ってないで手伝え!」
 鎧の魔物は不外ない相方に向かって叫ぶ。その間もパパスの攻撃は勢い衰えず、罅の入った剣は次の一撃で折れてしまう。
「ゴンズよ、そうしたいのはやまやまだが、このガキ、考えてやがる!」
 リョカとガロン、シドレーの攻撃を捌きながら、なんとか左腕を解き放ちたいジャミ。しかし、ヘンリーもジャミの行動を制限させるように移動するため、それもできない。
「ぬおおおぉぉぉっ!」
 防戦一方のゴンズを見て、パパスは決着をつけようと両手で剣を振りかぶり、雄たけびと共に振り下ろす。
「ぐぅ!」
 盾をかざしてそれを堪えようとするが、鋭く重い一撃にそれは脆弱すぎ……、
 バリン! ずばしゃ……。
 ゴンズの左肩口からわき腹にかけて剣先が走り、真っ赤な血が舞う。
「ぬぅ……なんと……まさか人間ごときに……」
 盾が犠牲になり威力を殺いだらしく、ゴンズは膝をつくも絶命は免れる。今すぐに戦える状況にもないらしく、折れた剣を着きながらパパスを睨む。
「リョカよ、今ゆくぞ!」
 リョカに足止めをくらっていたジャミはゴンズの敗北を見て焦り始める。
「ぐ、このガキ、離れろ! くそ、くそ! バギマ!」
 ジャミは不自由な左手で中級真空魔法を放つ。だが、この混戦状況、狭い場所で向きも考えずにそれを放てばどうなるか? 荒れ狂う真空刃は自分も巻き込みながら、天井、床を切り刻み、砂埃を巻き上げる。
「ぐわ、前が、ぐふっ、げほ、げは!」
 人間よりも数倍鼻の穴の大きなジャミは巻き起こる砂埃を吸い込み咽ぶ。
「わっ!」
「ヘンリー!」
 鞭の先端が切られたらしく、しりもちを着くヘンリー。リョカは埃を拭いながら彼に向かって回復魔法を唱える。
「ぎゃぁぁーー!!」
 まだ砂埃が舞うというのに、ジャミの悲鳴が上がる。パパスは目を瞑りながらも寸前の状況からジャミを捉えており、胴に一撃をおみまいした。
「ぐう、ぐは……」
 だが、やや踏み込みが浅く、致命傷にはいたらない。
「ほほほ、やりますねえ……。たかが人間ごときに遅れをとるとは……」
 ローブの男はこの状況にも関わらず余裕の高笑い。膝を着くゴンズを蹴飛ばして前に出る。
「なかなかどうして……。そして子供と侮っておりましたよ……。ですが……ギラ!」
 詠唱無しの閃光魔法により、視界が光で見えなくなる。
「これならどうでしょう?」
 視界を奪われながらも身構えるパパス。だが、次の攻撃は来ない。
「ぬっ……」
 ローブの男はリョカを踏みつけ、ヘンリーを抱え、その首に鋭く伸びた爪を当てていた。
 ガロンとシドレーは魔法で眠らされているらしく、険しい表情で床に伏せている。
「貴様……」
「この子達の命がどうなってもよいのでしょうかな?」
 途端に劣勢に追い込まれたパパス。剣を握る手に力は込めたままだが、それを振るう先がない。
「ほら、二人ともさっさと起きなさい」
 傷を癒していたゴンズとジャミはゆっくりと立ち上がり、一転した状況に薄ら笑いを浮かべる。
「さあ、もうわかっていると思いますが……、もし貴方が抵抗なさればこの子達の命はありません」
「……わかった……、従おう」
 息子と友人の子を盾に取られたパパスは考える間もなく武器を捨てると、観念したように目を瞑る。
「ふむ、よい心がけです……。ささ、お前達、先ほどの恨みを十分に晴らすとよいでしょう」
 ローブの男の言葉に二匹の魔物は肩をいからせ、そして……。

**――**

 立ち尽くすパパスに振るわれる暴力の嵐。
 ジャミのこぶしがパパスの鳩尾を抉る。
 ゴンズの折れた剣が背中を切り裂く。
 戯れに唱えられた真空魔法が肌を刻み、燃え盛る炎が傷口を焦がす。
 それでもパパスはじっと耐え忍ぶ。

**――**

「く、もうやめろ! 貴様ら、誇りはないのか! 質を取り、抵抗も出来ない者を弄るとは、たとえ魔物といえど、見下げたものだぞ!」
 首根っこをつかまれたヘンリーだが、まだ心まで屈していないらしく、啖呵を切る。
「ほほう、ここにきてまだ自分の置かれた状況を理解していないとみえますね。私がちょっとでも力を込めれば貴方なんてころっと死んでしまいますよ?」
「ふん、俺が死ねばパパスの枷もなくなる。そうすれば貴様ごと……!」
「ぐわぁ!」
 男は足蹴にしていたリョカを強く踏みつける。
「そうしたら今度はこの虫けらとデールさんに質になってもらいましょうかね?」
「くう、貴様……! パパス殿! こいつは絶対に俺達を助けるつもりはない! せめて貴方だけでも!」
「まったく貴方は困った王子様ですね。それでこそ王者の血筋とでも言いましょうか……、ですが、これを見たらパパス殿も観念するしかありますまい?」
 男は軽く詠唱をすると、空間から大きな黒い鎌を取り出す。それは人骨が散りばめられた見るからに禍々しいものであり、青白い湯気のようなものを出していた。
「死神の鎌といいます。これで首をはねられた者は救われぬ魂となり、死後も永遠に悲しみと冷たい空間に閉じ込められるそうですが……、実験しても確証がなくて困ってるんですよ。だってほら、死んじゃうでしょう? もしよかったらこの子達で試してみましょうと思いまして……」
「ぐぅ、心配なさらずに王子……。私は屈しません。そのうち、このモンスター共のほうが弄り疲れてしまうでしょう……」
 そういって笑うパパスだが、体中至るところから血を流し、たまに見せる回復魔法でも追いつきそうにない。
 その間も攻撃の手が止まることはなく、パパスはがっくりと膝をつき、そのままうつ伏せに倒れる。
「父さん!」
「ふむ、リョカよ……。すまないな……、こんなことになって……。私だけならともかく、お前にまで、こんな辛い思いをさせて……」
「そんなこと、それよりも父さん、僕のことはいいから、早くそいつらをやっつけてよ!」
 地べたに這い蹲りながら交わされる会話に薄ら笑いを浮かべるローブの男。彼はそっと手を掲げ、ジャミとゴンズを控えさせる。
「よく聞いてくれ、お前の母は……生きている。この世界の、どこか、いずれかで、今も、生きている。それを探すため、私は旅をしていた。お前に、お前に母のいる、家族というものを……見せたかった……。が、どうやらもう私も、ここまでらしい……。だが、希望だけは失うな……。私が調べてきた、これまでのこと、妻に関わることだ、きっと、いつか、必ずや……妻を、マー……ぐふぅ!」
「茶番はそこまでで結構です……」
 言い終わるのを待たずにローブの男はパパスの背中に鎌を振るう。鮮血も勢いをなくし、ただだらだらと流れる。
「父さん! 父さん! しっかりしてよ! 僕は、僕はまだ!」
 リョカは激しく身じろぎ、抗おうとする。
「騒がしいのは嫌いです」
 しかし、ローブの男はそんな抵抗も許さず、彼をボールのように蹴り上げると、そのまま壁にぶつけ、さらにヘンリーをゴミでも放るかのように投げつける。
「ぐわあ!」
 二人ともつぶれた蛙のように呻くと、そのまま気を失ったらしく動かなくなる。
「さてと、手間取りましたが……、デール様、お城へ戻っていただけますかね?」
 思い出したように振り返るローブの男。デールは終始震えており、がちがちと歯を鳴らしていた。
「は、はい……」
 恐怖におびえたデールが頷くのは当然のこと。彼にこの現状を覆すような力も知恵もないのだから……。
「ゲマ様、このガキと二匹はどうしましょう?」
 煮え湯を飲まされたジャミとしてはいますぐにでもパパスのあとを追わせたいのだろう、鼻息を荒くしている。
「そうですね……、我らの教団ではまだまだ奴隷が不足しておりますし、連れて帰りましょう。そちらのベビーニュートとベビーパンサーは……、しばらくすればまた野生に戻るでしょうし、そうでなければ死ぬだけです。ほっておきなさい」
「は……」
 ジャミとゴンズは頷くと、二人を抱えて遺跡を出る。
 ゲマは怯えたままのデールの手を引く。
「ささ、行きましょう。貴方にはラインハット国を発展させる責務があります。我らが光の教団のためにも……」
「は……はい……」
 無表情で頷くデールの目に意思はなく、視点も定まらない。
 ――ほほう、もう言いなりになってくれましたか。これなら調教の必要もありませんね……。
 多少の滞りもデールを恐怖で支配するために有益であったと、ゲマは一人ほくそ笑み、光の精霊を集めると、移動呪文を唱えた……。

続く

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