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ラインハット帰還編_その五

 ラインハット侵攻軍、第一野営地にて、指揮官であるトム・エウードはクマのようにうろついていた。
 もともとは国境の見張りであった彼は、兵士としての年季こそあるものの、侵攻の才能はない。手に余る任務もさることながら、人と人が生死を交差させる戦場の雰囲気に及び腰になっていた。
 今日も敵国の情勢を見守るだけという弱気な指示に、部隊の多くは厭戦感を持ち始めていた。
「本国にいって……、いや、そうしたら俺は打ち首か? 今のアルミナ様なら俺の首など庭の花を手折る程度にしか感じないだろう。そうしたら家族は、妹は……」
 トムは答の出そうに無い悩みを抱えながら、今日も簡易の小屋の中で円を描く。
 そこへ……、
「げこ……げこげこ……」
「うひゃ!」
 突然現れたがまがえる。トムは驚いてしりもちを着くと、手近にあったものを適当になげる。しかし、がまがえるはそれに怯まず逆にびょんびょんと近づいてくる。
「だ、誰か、誰か来てくれ! いや、お前は来るな、あっちいけ!」
「まったく、情けないな……」
 ため息交じりの声とドアの開く音。入ってきた兵士はガマガエルを拾い上げると、小屋の外へ放り投げる。外で女の悲鳴が聞こえたが、トムは目の前の脅威がなくなったことに安堵する。
「な、情けないとは無礼だな。まさか貴様のイタズラか!?」
「そうだとしたらどうする気だ?」
「なっ!」
 横柄な態度の兵士にトムは顔を真っ赤にする。もともと信頼の厚い指揮官というわけではなく、本人もそれは自覚しているが、こうあからさまにされては立つ瀬がない。
「無礼な、名前と所属を言え!」
 すると兵士は外を見た後、向き直って言う。
「ヘンリー・ラインハルト……」
「ヘンリーだな……貴様、絶対に……」
 真っ赤になっていた顔がはっとなり、そして緩み始め……。
「ヘンリー? まさか……、そんな……けれど、ライン……」
「しっ!」
 指を立ててその先を制すアルベルト。もう一度外を見た後、ゆっくりとドアを閉める。
「いい加減、カエルぐらい馴れろ……。あれも食えば鶏肉みたいで旨いらしいぞ?」
「あれを食べるなんてとんでもない。というか、へ……、アルベルトのせいですよ……。貴方が私の寝所にカエルを入れたこと、末代まで忘れません」
 どさりと椅子に座り込むトム。手で顔を押さえ口もとをゆがめる。
「まさか、また会えるなんて……」
「まあな……」
「王子が賊に誘拐されたと聞き、私はこの国の行く末に不安を感じました。まあ、今そのまっただか中にいるわけですがね?」
「そうだな……」
「そうだ、デール王にはお会いになられましたか? 今すぐにでもこんなばかげた戦争を……」
「残念だがトム、こちらから攻め立てた以上、そうもいかん」
「ですが、いくらアルベルトでもこの状況下、どうやって盛り返すというのです? 地図の上では確かに我らが圧しています。しかし、現状、エンドールの城を落とすなど……」
 ヘンリーの才能についてはトムも知っている。ラインハット国の政治、経済を司るケイン・マッケインの師事を受け、軍師団長を演習にて互角に戦い抜いたとされる手腕。剣をこなし、魔法を習得する才能の寵児。それがヘンリー第一王子だった。
 彼ならばこの窮地をひっくり返すほどの策があるのだろう。もしくは、和平の道を探るべく、交渉に立ってくれるのでは?
「そうだな。普通はできん」
 そんな期待はすぐに打ち砕かれた。がっくりと肩を落とすトムだが、ヘンリーの余裕の表情を見るに、まだ何かあるかと顔を上げる。
「俺は一度だけエンドールの城に入ったことがある。その時、迷子のふりをして城の中を探索させてもらった。抜け道を知っている。あれだけ大きな城だ、改修などできないだろう。そこでだ……」
「はい……、ふむふむ、なるほど……そんな道があるとは……」
「決行は明日の夜半過ぎ。俺と何人か来い。ほかに準備するのは大工道具と菜種油だ。劣化したもので十分だ。むしろ臭いぐらいがちょうどいい。他の兵は第一野営地で待機。合図を待たせろ」
 おおよそ戦争の道具としてふさわしくない注文だが、ヘンリーに何か考えがあるのだろうとトムは敬礼する。
「はっ!」
 彼はただちに指令を出すため、部屋を出た。

++――++

 日が沈み、辺りに夕闇が訪れた頃、ラインハット第一野営地に明かりが点される。
 他の野営地は小屋を残してテントなど全て撤収されており、傍目には撤退を匂わせていた。
 そんな中、エンドール城下町の南東に位置する武器屋にて、黒装束に身を包む男達が居た。男達は武器屋のドアを破壊し、なだれ込むと店主を縛り上げる。
 急なことに目を白黒させる店主には目もくれず、リーダー格の男が店の一階へと降り、そして……。

 地下を走るラインハット侵攻軍奇襲部隊。
 古びた扉を慎重に破壊し、埃の篭る部屋へ出る。そこには階段があり、何年、いや何十年とその存在が忘れられているのだろう扉を軋ませ、城内へと侵入を果たした。
 その異変に気付いた見張りが槍とランタンを片手に走る。
 漆黒の闇から二匹の蛇が現れたと思うとランタンを持つ手と口に激しい痛みが訪れる。
 その隙に続く黒装束が猿轡を噛ませ、手足を封じ、そのまま地下へと捨てられる。
 黒装束達は手に大工道具という奇襲には不釣合いの獲物を持ち、散り散りになる。

 城内部にある兵舎にて、扉に閂を取り付ける。隙間に尖った木材を詰め込み、劣化した菜種油をしみこませる。火をつけず、その臭いで窮地を理解させる。
 兵士の身動きを封じたアルベルト達は、見張りを残して城門の開錠と王室の占拠を目指した。

 エンドールの城から白い煙が上がる。それを合図にラインハット侵攻軍が正門を目指す。
 本来なら堅く閉ざされている城門だが、なんと内側から開けられ、その侵入を許す。
 民は町が戦場と化すことを心配し、その行方を見守る。

 階下の騒乱を聞き、城門の開放に成功したと察知するアルベルト。それはエンドール側も同じであり、王室を守る近衛兵達が剣を片手に現れる。
「貴様ら、どこから!」
「入り口からに決まっておろう?」
 アルベルトは軽口と共に鞭を走らせる。それは近衛兵の利き手を的確に打つ。しかし、並の兵士とは装備が違う彼らの手はナックルカバーに守られており、多少の痛みに堪えつつ上段を振りかぶる。
 自信故のおごりか、アルベルトはそれを予期できずに兜で受けるはめになる。
 剛剣は兜を破壊するがそれに留まり、突如放たれた真空魔法が近衛兵を吹き飛ばす。
「!?」
 無詠唱の真空魔法に皆の目が丸くなる。黒装束の男達にそのような高尚な魔法技術があるわけでもなく、突風が吹くような場所でもない。
 唯一その原因を知るアルベルトは、その隙に残りの近衛兵に鞭を放つ。今度は手を打つなどと甘いことはせず、しっかりと露出した顔を打つ。そして多勢に無勢のまま押し切った。

++――++

 暫く聞こえた剣戟もすぐに収まる。
 エンドール軍は緒戦のボンモール落城で兵を失っていたものの、野営地にあるラインハット侵攻軍の倍はある。援軍が来たという様子もなく、いくら城門を開かれたとはいえ、制圧されるはずが無い。きっと撃退したに違いない。
 民衆はそう考えていた。
 しかし、城のバルコニーに松明が点され、現れたのはラインハットの三本線が印された鎧を纏う緑髪の男だった。
 民衆はその光景に目を疑った……。

 南東に位置する武器屋は竜の神が存在したころから王家と縁のある老舗。戦乱と遠ざかるうちに地下通路の存在は意義を失われ、ボンモールに併合された時、文書のやり取りの中、見逃されていた。それを発見したのは好奇心溢れるラインハット国のやんちゃ坊主だった。
 彼は隠し通路を通って内側へと忍び込み、兵舎のドアに閂をかけて回った。兵士の大半を封印した状態で城門を開け、官僚、大臣の拘束をした。
 倍以上の戦力とはいえ閉じ込められては振るう矛も無く、向ける先も無い。
 寝室にて佇む王、リック・ボンモルドは現れた黒装束の男を前にして、驚いた様子だった。
 剣を構える黒装束の兵士達。そのリーダー格の男はそれを制し、寝室にて二言三言、話をしたあと、エンドール城もまた、制圧された。

++――++

 兵士達は捕虜となり、ラインハットへと移送される。大臣、閣僚、官僚は今後のエンドールの政務に滞りが無い程度を残し、人員が入れ替わる。
 トムは副官をエンドールに残し、アルベルトと共に戦勝の報告をするため、帰路についた。本来なら指揮官が行う任務ではないが、ヘンリー凱旋を一国も早く伝えたいトムは躍起になっていた。

 道中、日が沈んだところで、フォックスヤード村にて宿を取るトム。かなりの上機嫌で鼻息交じりで風呂へと向かった。
 アルベルトは個室を取り、今後のことを考えていた。
「……まさかもう王位に帰り着くとはね。本当に貴方って王者になるべき存在なのかしら?」
 ふわりと光を眩かせながら、エマが現れる。きっと彼女のことだ、エンドール城侵攻の際も間近で見ていたのだろう。
「いや、まだ早いな……。俺が戻るのは東国を統一してからだ」
「そうなの? ならなんで戻るの? ラインハットには貴方を知ってる人がいるかもしれないのに……」
「問題ない。この傷があるからな……」
 アルベルトはそう言いながら割れた兜を指でくるくる回す。近衛兵に切られた傷は彼の顔に斜めの傷を走らせた。見た目こそ痛々しいものの、皮をやや切り裂いた程度で、化膿することなく、傷跡のみ残した。
「傷ぐらい私のベホイミで消せるわ。それにモシャスも使えるから変装ぐらい……」
「必要ない」
「また……。どうして貴方は私の力を拒むの?」
「この程度、自力で乗り越えられる」
「まあ、そうかもね……」
 ふぅとため息を着くエマ。それは呆れているというものではなく、仲間はずれにされているような疎外感に近い。
「それより、どうして手を貸した?」
「しょうがないでしょ? 私の位置からは貴方が切られたように見えたし」
「俺が死ぬと思ったか?」
「そりゃ思うわよ。っていうより、あと少しでも間合いが近かったら死んでいたのよ?」
「そうだな。また貴様に助けられた」
「そうよ。感謝なさい」
 胸を張るエマに、ヘンリーは静かに目を閉じる。
「……」
「……」
「それで終わり?」
「今回は頼んだ覚えがないからな」
「前だって頼まれてないわ」
「つまり、無償の奉仕というわけか、殊勝なエルフも居たものだ」
「やめてよね。人間のくせに思い上がって……。せいぜい自分の無力さを思い知るといいわ。その時こそ私の僕にしてあげるんだから!」
 そう言うとエマは光を纏い、そしてドアを乱暴に開けると、気配が遠のいていった。
 アルベルトは初めて見るエマの昂ぶる感情に、不思議と笑いがこみ上げてきた……。
 からかいすぎたかもしれない。そう、少し反省した。

続く

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