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ラインハット帰還編_その六

 ラインハットにエンドール城陥落の知らせが届いた。しかし、戦勝の報告にも関わらず、王宮は暗い雰囲気に包まれている。
 その理由は徒に広げた戦火のせい。ブランカ国への侵攻の片手間、西国にまで出兵しており、その維持費を賄えるほどの財源の見通しがない。ボンモール陥落時に得た賠償金なども、もう底が見え始めているのだ。
 ラインハット国の舵はアルミナが執っている。デールはその言葉を大臣、官僚へ伝えるだけの存在。そして、下賜された政務の類は古株の大臣であるケイン・マッケインが担っていた。
 ケインは既に六十を越えており、チップの死後、アルミナの圧政に異を唱え、オラクルベリーで隠居の日々送っていた。しかし、東西各国への侵略にて政務の指揮系統が混乱し、急遽呼び戻されたのだ。
 本人曰く、もう少し早く橋が落とされていればカジノを破産させられたとのこと。
 ともかく、今日も城の一室にて、彼はソロバン片手に実務に追われていた。

 ノックの音がした。
 ケインは時計を見る。定例報告は既に終えており、夕食というには早すぎる時間だった。だから無視した。
 だが、またドアが叩かれる。
「……誰だ? ワシは今忙しいんだ……」
 ラインハット国において彼の邪魔をできるものはいない。もし彼の仕事が滞れば、それはつまりラインハット国の政務の大半が滞ることとなる。たとえアルミナであろうと、それを邪魔することはできないのだ。
 だが……、
「……ふん、死にぞこないが……」
 乱暴な物言いと同時にドアが開く。城内にも関わらずフルフェイスの兜をした兵士は、ずかずかと部屋に入り込み、近くの戸棚からトランプのデッキを二つ持ち出す。
「なんじゃいお前は……、部屋の中なんだから兜ぐらい取ればよいじゃろ。暑苦しい」
「それがそうもいかないんでな……」
 ふいに扉が閉まり、それを見てから兵士は兜を取る。
「お前は……」
 ケインは兜を外した、緑髪の青年の顔を見て絶句する。
 かつての幼さが消え、精悍さを備えた容貌。顔を斜めに走る傷こそ知らないが、野心に燃える青い瞳と力強い太い眉、高い鼻、ニヒルな唇、全てはかつての教え子を思い出させる片鱗がある。
「さすがにこんな傷じゃ師匠の目は誤魔化せないか……」
「ふふ……、長い便所じゃったの」
 かつてケインの授業をサボるとき、よくトイレ休憩を使ったのを思い出す。
 アルベルトは勘弁してくれとばかりに口元をゆがめるが、ケインの瞳には……。

++――++

 ブラックジャックをするときの追加ルール。
 デッキから最初に引いた一枚を示し、より小さい数字を引いたほうが親となる。
 二枚目を引き、勝負開始。勝ったほうは場に出されたカードを全て取り、最終的にその枚数が多いほうが勝ち。
 続く親は勝ったほうが行い、カードがなくなるまで繰り返される。
 コールにも関わらずカードがなくなった場合、その勝負は引き分けとなり、没収される。
 手にしたカードは常に確認することができる。カードの残り枚数を知ることで、勝利への期待値を上げることができる。

 勝てば勝つほど有利になるルールであるが、ケインを相手にするときだけは、それほど意味を持つものではない。なぜなら……。

「爺さん、少しは衰えたと思ったんだがな……」
 最後の一枚を引いたところでバースト。笑いながらケインはカードを全て取り、カードの枚数を楽しそうに数える。
「ふふん、まだまだ負けられんからな……」
 これで三度目の敗北を喫したヘンリー。これまでの勝率も芳しくなく、ケインにブラックジャックで勝てたのは運の絡んだ数回のみだった。
「……にして、何故そんなものを被っているんじゃ? おまけにアルベルト・アインスなどと懐かしい名前を……」
「それはおいといてくれよ。今回ここへ来たのは、爺さんにだけは俺が生きていることを報告しておきたくてな」
「殊勝な心がけじゃな」
「ああ……。爺さんだってわかっているだろう? 父上の死について……」
「ふむ……」
 あごひげを撫でながら目を瞑るケイン。彼はすっと頭を下げる。
「お、おい、爺さん? どうした? 眼鏡ならおでこにあるぞ?」
「誰が眼鏡を探してるか、ボケ。……ワシは……、先王の死を……、そして盟友であるパパス殿に濡れ衣を着せ、いまだにぬくぬくと生に興じている……。そのことを恥ておる。本来、お前にあわせる顔など無いからな……」
「パパス殿を陥れるためにか……。となると、ゆくゆくは……」
 ヘンリーは目を細めると、部屋の壁にある地図を見る。
「そして今もアルミナの愚行を止められずに……」
「止めたところで汚い生首の出来上がりだ。お前を責めるつもりはないさ。それよりも、今この国を踏みとどまらせているのはケイン、お前のおかげだろう。俺は感謝している」
「まあ、そうだがな……」
「今死ぬか? 爺」
「ふふ、相変わらずだな……」
「ああ」
「して……」
「ん?」
「面を上げろとか言わないの? この姿勢きついんだけど……」
 椅子に掛けて面を伏す姿勢。筋張ってきた老体には中々きつく……、
「ああ……、お前が頭を下げるところは珍しいからな。暫く見て目に焼き付けておこうと思ってな……」
 三度の負けの憂さ晴らしか、ヘンリーはそれを楽しそうに見ていた。

++――++

「……今日ここに、アルベルト・アインスを東夷隊第三部隊隊長の任を命ずる。これからもラインハットの為に尽力を尽くすよう、心がけよ……」
「はっ……」
 エンドール陥落の勲功を称える式典は戦中ということもあり簡素なものだった。
 今回の作戦にて大きな役割を果たしたアルベルトは、その功績を認められ、進軍隊の一つを任されることとなる。
 その証として緑の三本線の引かれた鞘と儀礼用の剣が、ケインより下賜される。アルベルトはそれを恭しく受け取り、頭を垂れる。
「して……、その方、何故に式典において兜を脱がぬ? 国王不在とはいえ、礼節を弁えぬのは失礼に当たるぞ?」
「はっ、実は先日の戦にて不覚にも顔に傷を受けました。それを恥じ、戒めるためにもこの兜は取れませぬ」
「ふむ、武人の矜持というものか……。ならばそれもよかろう」
 しばしの沈黙が訪れる。その間、アルベルトは頭を垂れたまま。その心中は、昨日の件の意趣返しに唇を噛むほどだった……。

++――++

「まったくいい気味ね……」
「ふん、あの爺、いつか引導を渡してやる」
 部隊がそろうまでの数日間、アルベルトには当間の部屋をあてがわれた。ドアを閉めると同時にエマが姿を現すが、いつもと違い頭を垂れた様子。先ほどの式典と同じ嫌味にアルベルトは舌を噛む。
「でも、貴方が負けるなんて意外だったわ……。あの老人、何かいかさまをしているようには見えなかったけど……」
「ブラックジャックか? 何のことは無い。あいつは場に出たカードを全て記憶していただけだ。俺はせいぜい自分のカードと絵札ぐらいだ。期待値の信頼度を考えれば、勝率も続けるだけ下がる」
「記憶って、百八枚全部? いくらなんでもそれは……」
 指折り数えるも直ぐに首を振るエマ。あまり細かなことは得意ではないのだろう。
「カードの裏の傷だけで表を当てることもあった。ことブラックジャックに関しては奴に勝てる気がしない」
「へぇ……。貴方でも勝てない人がいるのね……」
「俺は別に完全無敵のパーフェクトではないぞ? 買いかぶりすぎだ」
 そう言ってアルベルトはカードをシャッフルする。エマはそれを見て、彼の対面に座る。
「買いかぶるもなにも、そこまでとは思ってないわ……」
「ふん……」
 ならばどこまでかと聞こうとして、目の前に出されたブラックジャックの手札に舌を鳴らすヘンリー。
「そういえば、貴方の偽名のアルベルト・アインスって何? 懐かしいとか言ってたけど……」
「うむ。これはだな……」
 だが、かつての師に練磨された弟子が遅れをとるはずもなく、徐々にカードの枚数は……。
「俺に勝てたら教えてやろう」
「調子に乗って……!」
 それを挑発と受け取ったエマは、たかがカードゲームに熱くなり始めていた。
 アルベルト・アインス。かつてケインが二人の王子に読み聞かせた英雄譚の主人公の名前でしかない。そんなことよりヘンリーは、エマがムキになる様子を意外そうに見つめていた。

++――++

「全員に告ぐ。我らラインハット侵攻軍、双頭の蛇はこれよりブランカ国へ進軍し、東国平定を行う。これはラインハット地方を安定させ、強国とせしめるための大切な戦だ。目前の過小なる戦果に目をくれず、常に大国となる威風を纏え! 我らの勝利こそが、ラインハットの明日を作るのだ!」
 エンドール平定を終えたアルベルトにブランカへの進軍の命令が下ったのは、あれから三ヵ月後。アルベルトは進軍に当たり、部下を前に激を飛ばしていた。
 部下は全員フルフェイスの兜を脇に持ち、それには緑の三本線とは別に、首が二つに分かれた蛇の印が描かれている。
 エンドールを陥落させたのは、降り注ぐ弓矢にも切り結ばれる剣戟にも退かぬアルベルトの勇気と両手に備えた牙にある。
 実際は闇夜と地下通路を使った奇襲にすぎないが、いつの間にか大群に少数で攻め入り、乱戦の中で陥落させたと筋書きが異なり始め、彼の額に走る傷も英雄譚の一つとして上書きされていた。
 かくしてアルベルト率いる双頭の蛇が、ブランカ陥落を求め、歩を進めることとなった……。

続く

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