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ラインハット帰還編_その八

 アルベルトがレイクバニアに挑み、三週間ほど経った。その間、彼らは見張りと小規模な弓矢、魔法による小競り合いに終始し、これといった戦果を上げることはなかった。
 斥候によって報告されるブランカ国側の状況に、ミハエルはいよいよ敗北、撤退の日が近いと、陣営における散歩の時間が長くなり、既に両の親指を深爪したとのことだ。
 ただ、何か、ラインハット国ではなく、ブランカ国に、変化が訪れていたのも事実で、その伝令は、ミハエルの焦燥した目には映らなかった……。
++――++

 グランバニア国はラインハルト地方に攻め入る準備をしている。
 現状、ブランカに支援をしているのは、その周到なる準備。もともとラインハット国が強行にでた理由も、全てはグランバニア国によるラインハット王家への凶行が理由。
 全ては痩せた土地に喘ぐグランバニア国が、沃土と醸すラインハルト地方を妬み、奪うつもりで仕掛けた策謀。
 そんな噂が流れ始めたのは、ブランカ国の初戦の痛みが喉元を通過した頃。

「私を解任したいと……、そうおっしゃるのですね?」
 栗毛の男は、甘い香りのするブラン・マロンティを啜りながら告げた。
 対峙する短髪、角刈りの男はこけた頬と鋭い細目の冷徹な印象を受ける。
 最近、栗毛の男はレイクバニアの砦にて一人になることができなかった。トイレ、入浴の時でさえブランカ国兵士の気配を感じるほどだった。ブランカ国に流れた噂が原因だろう。
「われわれブランカの民はグランバニアの好意に感謝しています。初戦の敗走を救い、現状の建て直しができたのも、全てはあなた方おかげ。それはいたみいります。けれど、我らもまた主権を持つ国家として、これ以上は……」
 含む物言いをする男に、栗毛の男は頷く。
「私も善意ではないので、貴方達の不安もわかります。その臭みを消せなかった、私が甘かったようですね。このモンブランティのように……」
「ええ、バニアティのような確かな香りに紛れて、ハーブの香りが少し……ね?」
 ふっと笑う男が指を鳴らすと、兵士がティーポットを抱えてやってくる。
「でも嫌いじゃないんです。どうか誤解の無いように……」
 そして二人分注がれ、最後のティータイムが行われた。
「ああ、そうだ。スコーンの作り方、教えていただきたいのですがよろしいですか? 息子がとても喜んでおりましてね。ペドロ殿」
 ペドロは目の前の強面の男、オットー・シュテインが結婚していたことに驚きつつ、子供という言葉に頬が緩んでいた。

++――++

 ブランカ国にて最近広まった噂は、アルベルトによるものだった。彼は斥候とともにグランバニアとの港に潜り込み、兵舎、酒場、井戸端、いたるところでグランバニアの侵攻を醸したてた。
 ラインハット憎しで団結していた両国だが、ブランカ国の情勢安定に伴い、不自然な厚意に疑いが持たれるのは必死。うらぶれた国粋主義者に小金を持たせ、アルコールで懐柔すれば、その不安は至る所で煽ってくれる。
 その結果が前線からのグランバニア魔法部隊の排除。もともと小隊以下の規模であり、彼らがいなくても防衛、反撃は可能という見通しが強かった。

 任務半ばで帰国を余儀なくされたペドロとその一行は、帰国の船を待つ間、酒場にて時間を潰していた。
 本国より派遣された魔法部隊隊員は、ようやくの帰国に胸をなでおろしていた。
 演習で幾度も魔法部隊の威力と有用性は認識しており、魔物ならいざしらず、人間相手に放つことには抵抗があった。魔法反射障壁魔法を唱える者の中には威嚇で済むように角度を調整した者も居た。
 不毛な大地出身の彼らには共生の考えが根強く、今回の派兵には懐疑的であった。
 だが、部隊を預るペドロは違うらしく、馴れないアルコールを飲みながら歯軋りをしていた。
「われわれはブランカ国民だ! ラインハルト地方を治めるのは、聡明で頑強な我らをおいて他に無い。グランバニアの甘言に惑わされ、バタ臭いヤギのミルクを口にしたい腑抜けはいるか!?」
 酒場の隅で始まる国粋主義者の演説。鼻の赤い酔っ払いがどこで手にしたのかわからない小金で聴衆を集めてはグランバニア国の悪口を言うのだ。
 ペドロはそれを苦々しく聞きながら、ふうとため息を着く。
「奴らはこの機会に乗じて我らが愛するブランカ国の大地を乗っ取ろうとしているのだ。レイクバニアはかつて天空に竜の神が居たころから、大商人の知恵と、天女の加護に守られてきた。いわば神に愛された土地なのだ。それを未開の地の蛮族に奪われてなるものか!」
 今日の演説者はいつもの赤鼻ではなく、緑の髪と額に傷を走らせる美青年だった。聴衆の中にはそれをうっとりと見つめる婦人もおり、凛々しいなりに若者の頷く姿が見られる。
 オットーの冗談めいた言葉の裏を読みつつ、ペドロは懐にナイフを二本忍ばせる。
「我らは我らの手でブランカを守る必要がある。そして、この東国を治める天運があるのだ!」
 意気揚々とこぶしを上げる青年に、サクラが呼応し、聴衆も雰囲気に流されて真似をする。
 そんな中、光が空を切る。それも二本。
「むっ! 誰だ!」
 緑の髪の男はかろうじてかわした凶刃に、その放たれた方向を見る。一瞬の出来事に聴衆はしゃがみこみ、サクラは男を守るように取り囲む。
「失礼、線が二本足りないかと思いまして……」
 栗毛の男は明らかに酔っ払いの類ではないその演者に、携帯していた二節の昆を構える。先には鋼の鉄球が仕込まれ、それを結ぶ鎖がじゃらりと音を立てる。
「なんのことかな?」
「レイクバニアではお灸の饐え方が足りなかったようですな? 今一度、悪鬼にはオシオキが必要かと思いまして……」
 携帯用のモーニングスターを構える栗毛の男の異様な殺気に、聴衆達は我先にと逃げ出す。サクラは緑髪の男を守るべきかと悩むが、男の目配せでそれに紛れて酒場から消える。
 放たれた鉄球を寸前でかわす緑髪の男。古くなっていた床板はその一撃で脆くはじけ飛ぶ。
「なるほど、貴様が魔法部隊の指揮官か! 屈辱は忘れていないぞ?」
 緑髪の男、アルベルトも腰に帯びた双頭の鞭を構え、びゅんびゅんと音を立てる。それは先の一撃に比べれば、蚊の鳴くような大人しいものにも聞こえる。だが、放たれた鞭はペドロの足元で破裂し、木片を弾いて威嚇する。それに気を取られていると、もう一つの蛇がモーニングスターの先に絡みつく。
「ほう、噂のラインハルト操鞭術ですか? ですが、この鉄球の生み出す力にはかないますまい?」
「搦め手は乗算、手数は多いほうがいい」
 凝集された力と手数、搦め手。急に始まった綱引き、力比べに興じる二人に視線が集まる。
「ふん、何が魔法部隊だ。その腕力で火球でも投げるというのか?」
 徐々に引き寄せられるアルベルト。力勝負ではペドロに軍配が上がったらしく、さらに騒ぎを聞きつけた魔法部隊が駆けつける。
 刻一刻と不利になる状況だが、アルベルトはそれほど悔しそうになく、一方のペドロは力みとは別に歯軋りをしていた。
 ころあいを見計らい民衆に紛れたサクラが、ナイフをペドロの足元に投げる。彼が怯んだ隙にアルベルトは鞭の途中を切る。反動でずっこけるペドロ。アルベルトはその隙に聴衆へと走り出し、しゃがむサクラの肩に駆け上がり、別の哀れな聴衆の肩を足場に人ごみを飛び越える。
「く、逃げるか!」
「この場の勝利を貴様の手向けにくれてやる。駄賃は本国にてゆっくり聞くがいい!」
 高らかと笑うアルベルトに、ペドロはこぶしを床に叩きつける。
「グランバニアの名軍師、サンチョ・ペドロともあろう者がこれでは噴飯ものですな……。復讐に目が眩みすぎました……、申し訳ありません。旦那様……」
 バニアティに隠れたハーブの香り……。二年前のあの日から忌避してきた香りは、緑の大国原産のもの。旦那様、いや主君の無念と汚名を晴らせず、サンチョはその憤りにしばし肩を震わせた。

続く

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