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ラインハット帰還編_その九

 魔法部隊の帰国の知らせを受けたアルベルトは、進軍を開始する。
 急場しのぎの木造砦など近づきさえすれば、火矢で火の砦。これまでは広域魔法にて阻まれてきたが、おごりと猜疑心に昂ぶるブランカ兵がそれを排除した。
< 防衛の要を失ったブランカ国がまともに戦えるはずもなく、また広域魔法の恩恵を受けるべく立地条件仇となり、それに拍車を掛けた。
 砦を越えてレイクバニア――かつてレクイナバとされた商業都市へと騎馬隊が駆ける。
 それが目視できるようになった頃、庁舎に集まったブランカ兵が篭城の構えを見せる。
 グランバニア国魔法部隊が帰国した時点で負けを覚悟した仕官の一人が、秘密裏に民衆を先導していたおかげか、市街地にはほとんど人がいない。
 本来なら民衆の混乱に乗じての乱戦を想定していたアルベルトは、ここで一時膠着に陥った。
 グランバニアの魔法部隊ほどではないが、予測された進路には魔法部隊が配置されており、無人の街へ被害を顧みずに広域魔法を放つ。
 とはいえ、街の一区画ずつを牛の歩みのように確保し、徐々に追い詰める形となる、何れは勝利が約束された戦場である。
「ふむ、敵にも切れ者が残っていたか」
 市街地の一角、制圧したカフェに陣取るアルベルトは予想していなかった抵抗に舌を巻く。斥候の話によれば退去する民衆に混じってレクイナバの将も本国に逃げ出したと聞いていた。
「だが……、無人の街を守る理由などあるのか? 奴らの目的は……」
 アルベルトが敵の真意を測りかねていると、伝令兵が息を切らしてやってくる。
「伝令、ブランカ国、レイクナバ防衛隊、降伏されたし。指揮官を名乗る者が交渉を求めております!」
「なん……だと?」
 篭城戦と兵糧攻め。長期戦を予想していたアルベルトは肩透かしを食らった。

 レイクバニア制圧において、アルベルトはブランカの敗残兵の一人と面会していた。
 本来なら大体の書類を受け取り、本国に送れば残りは官僚間の仕事であり、仕官程度に会う理由も無い。しかし、市街戦の思わぬ展開に、その指揮官と会いたくなり、あえてこの男に会う時間を設けた。
「まるで赤子の手を捻るようなものだったな」
 主権委譲に関する書類に目を通しながら、アルベルトはにやりと笑う。
 対する男は直立不動の鉄面皮、鋭く冷静な視線には、感情が無いかのように見える。
 アルベルトは今でこそ軽口を叩くが、目の前の男が率いたレクイナバでの攻防は予想外であり、物量をもって歩を進めるという不出来な戦果であった。
「冗談だ」
「わかっています」
「ふふ……。ならば重ねて問う。何故にグランバニア国の助力を断った? 木造平屋の砦による防衛など、奴らの魔法部隊があってこそだろうに」
「その質問は不適です。彼らを帰したのは我らではなく、貴方でしょう?」
 その答に感心した様子で彼を見るアルベルト。自分としては周到に行ったつもりだが、この男にはばれていた。おそらくは逃げた将軍の手抜かりが今回の勝因であり、ことこの男に勝てたとは素直にいえない。
「そして意味の解らぬ白旗。勝ちを譲ったつもりか?」
「いえ、レイクナバと民衆を守りきるのが私の目的です。守るべき市民の退避が完了したならば、次は部下を守ります。そのためならば私の御印も差し出しましょう」
 けして冗談に思えぬ断言に、アルベルトはゴクリと唾を飲む。敗残兵に気圧されるのはいささか癪だが、経験と覚悟なら目の前の男のほうが上だろう。自分は搦め手によるこすっからい勝利を重ねているに過ぎないのだ。
「ふむ……。貴様、ラインハットの将兵として働く気は無いか?」
「私はブランカ国の兵です。いかなる理由があろうと、母国に刃は向けられません」
「なるほどな。だがその国もすぐに落ちる。違うか?」
「貴方が本国に向かうというならそうなりましょう。けれど、貴国のアルミナ・ラインハルトに従うことなどできません。奴こそが此度の戦の元凶。けして頭を傅くには値しません」
「ふふ……、ならばその二つを排除したとき、貴様を我がラインハルト国軍に迎え入れることができるということだな?」
「そう……、なりますな……」
 男はようやく表情を崩した。目の前の男、アルベルトが指揮官として優秀なのはわかる。だが、デールはさておきアルミナを排除できるとは思えない。あるとすれば、それはクーデーター……。はっとして頷く男は、もう一つの質問に答える。
「失礼、私の名はオットー・シュテイン。もし貴方がブランカ国を落とした時、私もまたラインハルト地方の平定に協力させてください……」
「ふむ。よろしく頼む」
 彼にはまだ、守るべき家族がいるのを思い出した……。

++――++

 レイクバニア庁舎近くの迎賓館一室で、アルベルトはデッキを切っていた。
 またも蚊帳の外で彼の手腕を見ていたエマは、配られたクラブのジャックに、コールするかを考える。
「人間、猜疑心が働けば、それが強ければ強いほど恐れるものだ」
「そうね」
 一枚目はハートの五。コールをすれば七以上でバーストだが、まだ配られ始めたばかりで可能性は低い。対し、アルベルトはダイヤのキングを見せている。
「後はここを平定し、ブランカ本国を残すのみか……」
 レイクバニア平定においてオットーが尽力を尽くしていた。彼は元官僚の出身の指揮官であり、内政方面に明るく、自国の安定ならばと参加してくれたのだ。
 また、アルベルトの厳しい規律のもと、兵士達の略奪行為を封じることができたのも大きい。中には目を盗み、不当な盗みを働く者も居たが、翌日には背中を大きく割かれた死体となって発見されることが多く、それが兵士達の脅しとなっていた。
「このまま本当にあっという間に統一しそうね……」
「ああ、そのようだな。不服か?」
「ええ」
 そう言ってコールするが結果はバースト。カードを没収され、舌を打つエマ。
「そういえば、貴様の目的は俺を僕にすることだったか? すまんな、その範疇に留まる器じゃなくて……」
「僕じゃなくても王者になれるのであればそれでいいわ」
「ふむ。前から気になっていたが、エルフが人間の王者に何を求める?」
「別に? なんでもいいじゃない」
「何か理由があってだろう? 話してみないか?」
「貴方が王者になれば必然的にそうなるわ」
 取り付く島も見せないエマにアルベルトはふっと笑う。
「俺はお前の特殊な能力……、禁魔法の類だが、それを買っている。素直に理由を話してくれれば、内容如何によっては便宜を図る。それほど悪いことではないと思うがな……」
 アルベルトの一枚目は七。もう一枚がジャックで合計は十七。親の縛りで交換不能だが、エマはその言葉を挑発と取ってか、果敢にコールを挑んでまたもバースト。
「ま、大体予想はつくがな……」
「ふん」
 余裕綽綽のアルベルトは椅子の背もたれ一杯にふんぞり返り、エマはテーブルに差し出された互いのカードを見つめ、前のめりになっていた。

++――++

 レイクバニアを失い、グランバニアの後ろ盾を拒否したブランカ国。ここ一ヶ月の進軍でブランカ国の領土はかつての二割以下となり、民衆の中には国を捨てて逃げ出す者が増え始めた。
 アルベルトはその政情不安を煽る一方で、本国や隣国、占領地に噂を流し始めていた。
 英雄の誕生。東国を平定に導き、大陸を統一。サラボナやテルパドールなどの経済大国に負けぬラインハルト大国を形成する。
 戦乱の世に現れ、勝利で大陸を凱旋する英雄。それがアルベルト・アインス……と。そしてもう一つ、ヘンリー第一王子の帰還の噂。
 アルベルトは既に次の段階に歩を進めるため、動いていた。
 だが、残すところブランカ城下町となり、アルベルトは一気に制圧に動くかと思いきや、ここで再びその手を止める。
 ブランカ国は円環状に城下町を形成しており、城の中枢を攻め落とすには市街地戦を強いられる。民に守られる形の建設に、アルベルトは苛立ちを感じていた。
「で、今度はどうするの? 魔法がどうのとかいうレベルじゃないのは私でもわかるけど……」
 紙袋を持って現れたエマは、揚げたての香ばしいドーナツを食べていた。
「ふむ、美味そうだな」
 アルベルトはひょいと手を伸ばし、それを口にする。
「あ、ちょっと! 誰もあげるなんて!」
 エマが手を伸ばすも既に一口齧られたところ。
「もう、三ゴールドよ」
「ふむ……」
 手を差し出すエマを無視し、アルベルトは何か感慨深そうにそれを見る。
「ちょっと、アルベルト?」
「よし、いいことを考えた。次の作戦はこれだな」
 アルベルトは齧ったわっかを眺めながら、次の作戦を夢想していた。自然と三ゴールドのことは流しつつ……。

 ブランカ城下町陥落作戦「ドーナツ」。
 城下町近くにて簡易の砦郡にて包囲を固め、水面下で重臣の切り崩しを行い、陸路・水路の断絶による兵糧攻め、投降する難民の受け入れなどで吸い上げを行っている。
 ドーナツのように内側を空洞にするというものだった。

??――??

 ラインハルト国へ伝令の任を受けたミハエルは、その馬上で苛立ちを隠せずにいた。
 本来なら東夷隊第一部隊隊長がこなす雑務ではないのだが、その任を解かれた今、下士官的な扱いに甘んじていた。
「く、あの田舎侍が。俺の手柄を横取りしやがって……」
 全てはアルベルトによる搦め手が功を奏したのだが、視野が狭まっていたミハエルがそれに気付くこともない。
「そうは言われましても、アルベルト殿の実力は本物です」
 そう執り成すのは同じく隊長の任を解かれたトム。
「貴公は悔しくないのか? 聞けばエンドールでの戦果も掠め取られたというではないか!」
「ええ、ですが、あの作戦はアルベルトが発案したものでして、私では到底……」
 その剣幕にたじろぐトム。だが、そのあまりに謙虚な姿勢にミハエルの視線が向き……。
「ま、確かにアルベルト殿は王者の片鱗をお持ちのようだからな……。そういえばお主はアルベルトと親しい様子だが、何かあったのかな?」
 そっと水を差し向けられ……、
「ええ。ちょっとイタズラが過ぎるところがありましてね。昔カエルを寝所に入れられて……」
「イタズラ……ねぇ……」
 ふと思い出すのはトムのトラウマの話。彼がどうしてカエルを苦手としているか、そんな瑣末なことをミハエルは思い出していた……。

++――++

 ブランカ国を臨む野営砦「オールドファッション」。あの日エマが買ってきたドーナツの一つだ。アルベルトはその一室でいつものようにウイスキーで晩酌をしていた。
 あの悪夢からおおよそ一年。幸運に助けられつつ、何とかここまで来た。
 かつての友、想い人を懐かしむには丁度よい区切りだが、最近ある噂を耳にしたことで、胸がざわめき始めていた。
 オラクルベリーの陸商隊に腕の立つ護衛が居る。黒髪の青年で名をリョカという。
 東国では聞かない名前に、アルベルトは気になっていた。
「どうしたの? 今日はやけにピッチが早いみたいだけど……」
 すっと扉が開き、遠慮の無い監視者が現れる。
「うむ。気になることがあってな……」
「へえ、貴方でもそんなことがあるんだ。いつも自分中心に物事を進めるくせにね」
「さすがにどうにもできんこともある」
「で? 一体なにがあったのかしら?」
「うむ。リョカが見つかったかもしれん」
「リョカ? ああ、彼が……」
 特に驚く様子もなく、エマは頷く。それは彼の生死に興味が無いという冷たいものでもなく、どうにも引っかかりのある態度に見える。
「今、オラクルベリーで陸商隊の護衛をしているそうだが……、奴の腕をそんなところで腐らせるのは惜しい」
「ちょっとアルベルト……。それは買いかぶりすぎじゃないかしら? 確かに彼にも素質はあるけど、たかが知れているわ」
 各種魔法を教育も無しに覚えたことは確かにエマも認めている。膂力もあの地獄の二年間がかなり鍛え上げただろう。さぼってばかりのアルベルトとは、単純な腕力や魔力で差がついているはずだ。だが、人として、その社会で地位を成すということとは結びつきにくい。アルベルトのような知恵に優れた者こそが彼女の思う王者に相応しく、当時の無責任な博愛主義のリョカでは役に不足していた。
「俺は奴に会いたい。奴には大きな借りがあるからな……」
「会いたいの? なら会いに行けばいいじゃない。貴方ならそんなこと考える暇よりも即行動で示すと思ったんだけど……」
「そうしたいのはやまやまだ。だが、俺がこの砦を長く留守にするわけにはいかない。ドーナツとは別に、もう一つ雲行きを見極める必要があるからな」
「ふうん。でも、そんなこと私に話して……」
 エマがようやく思い至ったところで、アルベルトが彼女に歩み寄り、片膝をつく。
「ちょ、ちょっと辞めてよ。貴方のそんなところ、室内にも関わらず雨が降るわ」
「初めてお前に頭を下げる。俺は奴の生死を確かめたい。どうか、ルーラで導いてくれ……」
「な……、こんなことぐらいで……、貴方ねえ、たかが旧知の人に会うぐらいで軽々しく頭下げないでよ。砦を落とすのとどっちが大変だと思ってるのよ……」
「だが、お前の力を除いて他に方法が無いのだ。俺がこの地を長く離れず、かつ奴の生死を確かめるには、魔法の力を借りねばならない」
「わ、わかったわよ。わかったから頭を上げてよ……」
「そうか……。ありがとう……。ふふ……、だがこれで俺もお前の僕か……」
「なっ……」
「そうだろう? 俺はラインハットの王座に座ることなく貴様に助力を求めたのだ」
「あぁ……、いえ。これはフェアじゃないわ。だから今回は特別に無償で協力してあげる。今回だけだからね」
「? いいのか? こんなチャンス滅多にないぞ?」
「ふふん。貴方が私に跪く様を見れただけでも十分の見返りよ」
 腕を組んで鼻を高くするエマだが、アルベルトは特に気にする様子もない。
「そんなことでよいのならこの軽い頭などいくらでも下げるのだが?」
「やめてよね。貴方は王者なの。だから決してみだりに人に頭を下げては駄目」
「うむ。肝に銘じよう」
「で? 何時行くの? 今からでもいけるわよ?」
「いや、さすがに今日は飲みすぎた。明日、明日にでも頼もうかな?」
「はいはい。それじゃおやすみなさい」
 そう言うとエマは姿を消し、やがてドアがひとりでに開き、バタンと閉じられる。
 アルベルトは彼女がいつもどこで寝ているのか不思議に思いつつ、残りを一気に煽った。

続く

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