FC2ブログ

目次一覧はこちら

ラインハット帰還編_その十

「きっと生きていると信じていたぞ、リョカ……」
 ヘンリーは再び出会えた友にそう告げた。
「よかった。でもヘンリーは一体どこへ行っていたんだい? 鎖が千切れたのを見た時はもう絶望していたんだけど……」
 リョカはあの日の絶望を今も覚えている。鎖を引くその頼りない抵抗、そして断絶されたその先……。
「うむ、どうやら俺の乗ったタルはあまり頑丈でなかったみたいでな。気付いたらポートセルミ近くの浜辺に残骸と一緒に打ち上げられていた」
 そういいながら豪快に笑うヘンリー。
「そうなんだ、それは幸運だね……」
「エマに助けられたみたいだがな」
「エマ? ああ、あのエルフの……」
「手を借りぬと言っておきながら結局助けられてしまったわけだ。俺もまだまだ甘い」
「今は?」
「俺のストーカーといったところか?」
「ストーカー?」
「ああ、ぞっこんらしいからな。はっはっは……」
 ヘンリーが高笑いをしたと思うとその背後に光が集まりだし、白いローブ姿の女性が現れる。
「誰がぞっこんよ」
 エマは透過魔法で隠れていたらしく、ヘンリーの頭を軽く小突く。
「エマさん。よかった、無事だったんですね」
「私は別に教団に捕まっていたわけじゃないわ。むしろ貴方が無事だったことのほうが驚きなんだけどね……」
 腕を組みながら言い放つ彼女は、リョカのように再会を喜ぶ様子はない。
「で、ヘンリー、君は今……」
 リョカは彼の左肩を見ながらそう言う。緑の三本線はラインハット国の紋章であり、その鎧に身を包むということは彼が国に戻ったことの証。問題は最近のラインハット国の噂。ついこないだまではオラクルベリーやアルパカの位置する西国に侵略しており、またリョカの父に不名誉な濡れ衣を着せている。いくらヘンリーが生きていたとして、それはリョカにとっては複雑なところ。
「ああ、実のところ俺は今、ヘンリーではない。アルベルト・アインスを名乗っている」
「アルベルト?」
「偽名だ。当然だろう? あの国の中枢には俺を殺そうとした者がいるのだからな。正体を隠す必要がある」
「でもデールさんは? いくらなんでもわかるんじゃないかい?」
「いや、いくらか男前の顔つきになったおかげで、公式な場所でもこれを被ることが赦されているんだ。まあデールに会うような場に出るほどの機会もないが、保険の意味だな」
 ヘンリーはフルフェイスの兜を指でくるくる回しながら、顔に走る斜めの傷を見せる。
「傷ぐらい消せるって言ったのに残すっていうのよ。この人。顔だってモシャスで変えられるのに、どうして苦労したがるんだか?」
 ふうとため息を漏らすエマ。
「そういうわけにもいかないんだよ」
 ヘンリーも負けじとフンと鼻を鳴らす。おそらくは彼なりのプライドなのかもしれない。
「俺は今、ラインハットの進撃隊の隊長を任されている。最近オラクルベリーに腕のたつ庸兵がいると聞いてな、その容貌がお前にそっくりだからエマに無理を言って送ってもらったのだが、まさか当人だとは思わなかった。リョカ、俺とともに来い」
「来いって、ラインハットにかい?」
「ああ、俺に力を貸してほしい」
 そう言いながら頭を下げるヘンリー。その様子にエマは驚いたように目を見開く。それはリョカも同じで、慌てて彼を制する。
「待ってよ、ヘン……、アルベルト、僕はそんなこと……、それに、君が戦争を起こしているのかい?」
 リョカの戸惑う目にヘンリーは一瞬面食らった様子になる。そして少し考えたあと、頷いてから告げる。
「そうだな、俺が作戦、指揮を執っている」
「じゃあ君がサンタローズを? 父さんに罪を着せて進軍させたのか?」
「それは違う!」
 激昂するリョカにヘンリーは鋭く言う。
「その時は俺もお前もあの地獄に居た」
 ふうと息をつくヘンリー。彼としては母国が友人の父に不名誉を着せ、あまつさえ侵攻の理由にしたことは苦く思っているらしい。リョカもまた、逸る気持ちを抑えようと水を飲む。
「もし……もっと早くに俺が戻っていることができれば、なんとしても止めていた」
「けれど……、サンタローズは……」
「他国に攻め入る理由がほしかったのだ。本来サンタローズ程度の田舎町を取る理由など無いからな……。いや、こんなことを言ったところでラインハットの愚行に代わりはないのだが……」
「君は、人々を幸せにするんじゃないのかい? なんで戦争なんて?」
「東国を安定させるためだ。今の状態では野放図に侵略を行い、共倒れになるのが目に見えている。それならばいっそのこと、強いラインハット国が支配するのが大多数の平穏に繋がる。不幸な民もでるが、それ以上に幸福な民を増やすつもりだ。それが王者として人々の上に立つものの背負う業だ」
「けど……」
「リョカよ、お前の気持ちはわかる。というか、お前の父に国王殺しの汚名を着せた国だ。今も侵略戦争を行っている以上、協力などできないのは当然だ。だが、東国を平定するのは今しかない」
「僕にはそんなこと……、それにもう……」
 リョカの中で固まりかけていた未来。それは小さく、つつましい幸せを直ぐ傍にいるあの人と共に過ごすこと。その一方でマリアはヘンリーの……。
「リョカよ、お前は父の汚名を晴らしたくは無いのか?」
「え?」
 静かな一言がリョカの雑念を払う。
「俺が何を考えているか、わかるか?」
「わからない」
「俺は奪われたものを奪い返すつもりだ。つまり、国を奪い返す」
「ちょっとアルベルト!?」
 エマは驚き声を荒げる。彼女は彼の内に秘めた野望を知ってはいるだろう。そして、それをみだりに口にすべきでないことも。どこに間者がいるかもしれないのだ。
「俺はリョカを信じている」
「けど……もう、本当に貴方ってバカなのかもしれないわ……」
「話を戻すぞ。リョカ、俺は国を取り戻す。その時は必ず貴様の父の不名誉を晴らす。これだけは約束する。しかし、お前はそれでいいのか? お前には力がある。魔法でも単純な戦闘能力でもな。無いとすればそれは汚名を晴らすための機会だろう。それは俺が必ず作る。そうだとして、貴様は本当に何もせずにいられるのか?」
「それは……どういう……」
「リョカよ、お前には父の汚名を晴らすことができるのだ」
「僕が父さんの……汚名を……」
「ああ、ラインハット国先王チップの死はパパス・ハイヴァニアによるものではないと証明するのは、お前の手でこそすべきではないか?」
 父の汚名を晴らしたいということはリョカにとっても否定できない願望である。ヘンリーの提案がどれほど現実的なものかはわからないが、藁にすがるような希望でも、もしあるのであれば掴みたいというのが本音。
 だが、リョカを囲む世界は、今はマリアのみであり、彼女は……?
「誰?」
 エマが扉に駆け寄り、ドアを開ける。それと同時にマリアが倒れこむ。
「貴女、立ち聞きなんて本当に趣味が悪いわね」
「すみません、エマさん……」
 立ち上がるマリアはヘンリーを見て、複雑な表情をしていた。
「マリア……そうか、君も無事だったのか……。よかった……」
 ヘンリーは話も途中にして席を立つと、マリアに駆け寄り、その手を取る。
「マリア、君と離ればなれになって以来、ただの一日として君を想わぬ日はなかった。本当に無事でよかった……」
 その手を振り払おうとするマリア。ヘンリーは衆人の目があるゆえの抵抗と笑い、そのまま抱き寄せ、彼女の顎を上向かせる。
「ヘンリー……だ、だ……め、ん……んふぅ……」
 馴れた手つきでの唇の逢瀬。
 周囲の視線など気にせず、彼の言うとおり、奪われたものを奪い返すかのような、当たり前の動作で、当然のように……。
「ヘンリー、君はやっぱり……」
 リョカはただ、痛む胸と晴れやかな気持ちで視線を逸らした。

続く

彷徨いし者達~目次へ戻る
トップへ戻る

Trackback

Trackback URL
http://13koharu.blog73.fc2.com/tb.php/602-5566eeae

Comment

Comment Form
公開設定

プロフィール

小春十三

Author:小春十三
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ

創作検索ぴあすねっとNAVI
dabundoumei
trt
オンライン小説/ネット小説検索・ランキング-HONなび  
リンク予定


二次元世界の調教師様のサイトです。



無料アクセス解析